70 そして三人目の女神
応援してくれている優しい読書の方々のお陰で70話まで到達できました。
ありがとうございます。
あっさりと敵の包囲網を乱し、堂々と友軍と合流した我が部隊……。
王国に残っていた兵士は最初、こちらを白い目で見ていた。しかし、ハロルダ王子の姿を確認するやいなや、自然と大歓迎ムードへと手のひら返しをした。
敵を探して、目をギラギラさせていた部隊の兵士も今ではその喜びの輪に入ってはしゃいでいる始末。
まあ、辺りの敵は一掃したし、私の負担も彼らが頑張ってくれたおかげでかなり軽くなったからそこは良いんだけど……。
ちょっと危機感無さすぎじゃないですか!?
と、ハロルダ王子が王国に帰還したことを喜んでいる光景に白い目を向ける。
シーオフェリアは既に敵を倒し終えて、早々に安全な所へと行ってしまった。
鬼気迫った表情で敵をなぎ倒していたのが嘘みたいにだ。
で、残された私はこのなんとも言えない光景を見せられるのだった。
ルイスはミーナちゃんと共に「先に行ってるよ」なんて言ってシーオフェリアの後追っちゃうし……付いていけば良かった……。
ちょっぴり後悔している私は、この後に起こることを全く予想できていなかった。
「はぁ……最悪」
安全地帯の入り口で盛り上がっているので、そこを抜けることが出来ないと気がついたのは、ルイス達が行った数分後のことだった。
そして、私は一人……ん!?
「ガウッ?」
おのれ、ルイス。
こんな茶番劇場に取り残しただけでなく、熊のお守りまで押し付けるなんて……なにより、なんでミーナちゃんを連れて行っちゃったのよ! 私のためにミーナちゃんを残しなさいよ!
本当に……後で覚えてなさいよ!
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ルイスside
ついついミーナちゃんだけを連れてこっちに来ちゃったんだけど……オフェリアさんは何処に向かっているんだろうか?
俺は王都へと入っていた。
ここには父、母、それから妹がいるはず。いち早く見つけたいという気持ちが俺をここに呼び込んだ。
だが……
「ルイスお兄ちゃん何処行くの?」
「オフェリアさんに付いててってるだけだよ」
ミーナちゃんは俺がオフェリアさんの後を歩いているのがさも気になるようだ。
当たり障りもない。あやふやな答えをミーナちゃんにしたが……これは断じて嘘ではない。
確かにオフェリアさんがフラフラと何処に行くのか、と何気なく気になる自分はいる。
しかし、それ以前に俺は……
王都がどんな場所か知らない!
成り行きでこんなとこまで来ちゃったけど実際に此処に来たのは初めてだ。道が分からない!
はぁ……無理にでもサシャを連れてくるんだった。
「ルイスお兄ちゃん。サシャお姉ちゃんは?」
ミーナちゃんも置いてきたことに疑問を抱いている。因みにサシャを置いてきたことに意味はない。
若干離れた何処にいたからなんとなくだ。
あのまま残っていたら俺達があのお花畑なバカ騒ぎに巻き込まれていたかもしれない。
百歩譲って俺は良いとしても、あんな所にミーナちゃんを晒すわけにいかないのだ。
結論。
つまり、サシャの犠牲は仕方がない!
「ミーナちゃん……サシャもいずれ来ると思うから。取り敢えずはオフェリアさんに付いていくよ」
「うん、分かった」
サシャがこちらに来ることよりも、取り敢えずはオフェリアさんに付いていくことを優先する。
道が分からないというのは致命的だ。
……それにしても俺は後々、サシャに殺されやしないか?
まあ、サシャは、あのハッピーな雰囲気を虫を見るような目で見てそうだしな……。雰囲気には飲まれないだろう。
あいつ冷たい部分あるからなぁ……っと、オフェリアさんが曲がり角に……。
「……!?」
「どうしたのルイス君?」
曲がり角を曲がったオフェリアさんを急いで追ったら待ち伏せされていた。
何気ない感じで付いていったけど、……気付かれてていたとは。俺はすぐさま頭を下げた。
「す、すいません! 何処に行くんだろうって気になっちゃって……」
しかし、オフェリアさんは特に怒る様子もなく、逆に苦笑いを浮かべていた。
「良いのよ。怒鳴るとミーナちゃんに嫌われちゃうし、そもそも怒ってないし。ねぇ、それより貴方。王国の街並みとか知らないでしょ」
……図星である。
「なんで分かったんですか?」
「顔に全部書いてあるの。なんなら多少は案内するわよ。と言っても、私が行こうとしてる所だけだけど」
現在、現地民であるサシャはいない。というか置いてきてしまった。
加えてオフェリアさんはこの辺の土地に詳しそう……。
「……じゃあ、よろしくお願いします」
俺はオフェリアさんのご厚意に甘えることにした。
「そう、じゃあ付いてきて」
「はい。じゃあミーナちゃん、行こうか」
「うん」
こうして、オフェリアさんに王都の街並みを案内して貰うことになった。
まあ……とはいえ、こんな状況だ。
営業している飲食店はなく、閉店の文字がズラリと並んでいる。
「みんな閉まってるね」
ミーナちゃんが不安そうにそう言った。
「そうだね。どの店も……やってないな」
「まあ、こんな状況だし、無理もないわよ」
俺がミーナちゃんの言葉に同意するとオフェリアさんも頷いていた。
「バルギアのせいですか?」
「多分ね。……さ、急ぎましょう」
そして、オフェリアさんもやることが色々とあるのだろう。
唯一営業していた宿にオフェリアさんは予約をしに行き、それから早足で噴水広場へと案内してくれた。
オフェリアさん曰く、待ち合わせの場所としてよく使うのだという。
もちろんこの言葉も伏線であった。
噴水広場には、人はあまり居なかった。
しかし、妙に目立つ金髪の女性が一人ベンチに腰掛けている。
その人物に目を向けるとオフェリアさんは若干歩幅を広げてそちらへと歩み寄って行った。
「彼女は?」
オフェリアさんの後ろを歩きながら、ベンチの女性について問いかけると驚いたような顔をした。
「あれ、分かんない? 彼女も私たちと同類なんだけど……」
「え、また女神……」
「ええ、サーちゃんは知らないけどね」
そんなやりとりをしている間にその女性(女神)の前まで来ていた。
金髪の女神……か。
「レイヤちゃん! 会いたかったー!!」
金髪の子が気付いていないことをいいことにいきなりオフェリアさんは、その女性に後ろから抱き着いた。
「きゃっ! って、オフェリアお姉様!?」
「うふふっ、相変わらず立派なものをお持ちだことで!」
「ちょっ、どこ触ってるんですかぁ……!?」
強引にオフェリアさんを引き剥がそうと必死になっているレイヤという女性。
……ああ、レイヤって生命の女神様だっけか。
生命の女神。
文字通りこの世の生命を司る女神。
正義、力の女神みたいに馬鹿げた戦闘力は備わっていないが、代わりに優れた癒しの力を持っている。
なるほど、生命の女神だから身体の成長も早……いやいや、何考えてるんだよ!?
完全にオフェリアさん側の暗黒面に落ちてしまうとこだった。
取り敢えず、この混沌とした惨状をどうにかしなければ……。
俺はかなり困り顔の女神レイヤに助け舟を出すべく、オフェリアさんに話しかけた。
「あの、オフェリアさん?」
「何、ルイス君?」
「そろそろ、詳しい事情説明とか……欲しいかなーって、思うんですが……」
「えー、もう少し楽園の感触を堪能してたいんだけど」
「発言がいかがわしいです! ミーナちゃんのいないところでやってください!」
わざとらしいオフェリアさんの態度につい突っ込みを入れてしまった。
この人、なんかサシャだけじゃなくて俺やミーナちゃんの前でも取り繕わなくなってるなぁ……。
正直扱いづらい!
サシャがいれば多少は躱せるんだろうが……あいにく俺はそんなスキルを持ち合わせていない。
俺の斜め下に向けた視線を微笑しながら眺めているオフェリアさんは、正しく確信犯の表装である。
「ふふ、じゃあ。そろそろ茶番は終わりにして……」
オフェリアさんはそのままレイヤさんの方に手を向けた。
「この子はレイヤちゃん。私の可愛い妹の一人で、生命の女神でもあるの」
オフェリアさんがそう紹介するとレイヤさんは頭を下げた。
「レイヤです。よろしくお願いします」
「あ、こちらこそ……」
すんなりと頭を下げてきたことに少し驚きつつも、挨拶を返すと、レイヤさんはニコリと笑った。
「ふふ、お姉様から聞いています。魔神ルイヴィースさん、なんですってね。お姉様がいい子だって言っていて、最初は半信半疑だったんですけど……確かにお姉様より遥かにまともそうです!」
「ちょっと!? 私は? 私はまともじゃないの!?」
レイヤさんはオフェリアさんの突っ込みも涼しい顔で受け流して、それを見てつい笑みが溢れた。
「俺が魔神って分かっているのに、敬遠とかしないんですね」
「ええ、サシャお姉様が好きな方だと聞いていましたから、それなら大丈夫かなって」
「……!?」
え……サシャが好きな人?
何、言ってるのこの女神様?
サシャが俺を……いやいや、勘違い。勘違いだ!
というか何でそんな話が……まさか……。
「……オフェリアさん」
「何、ルイス君?」
そんな話が伝わっているとしたらこの人しかいないだろ。
「誤解を招くような嘘垂れ流さないで下さい……」
俺がそう言うと、オフェリアさんはいかにも白々しく口元に手をやった。
「えー、だってサーちゃん、絶対にルイス君に気があるわよ」
「なっ!?」
「それに、ミーナちゃんとかもう二人の娘ポジションじゃない」
何言ってんですか、この人は!?
オフェリアさんの衝撃発言に思考を乱されていると、レイヤさんは相槌を打ちながら、さらに爆弾を投下した。
「え? そこの子ってお姉様がルイスさんとサシャお姉様の娘って言ってませんでしたか? 娘ポジションって、どういうこと?」
……この姉はなんてことを吹聴してんだよ!!
この後、ルイスは誤解を解消するために女神レイヤに対して数十分に渡る激しい弁解の末……。ようやく誤解を解くことに成功したのだった。
一人疲れるルイス。
その光景をケラケラ笑いながら眺めていたシーオフェリア。
ある意味サシャを置いてきた罰が当たったような感じとなったルイス。
補足として、サシャが罰を与えたのではなく。
偶然このような結果となった。
この頃ようやくサシャは馬鹿騒ぎの現場から小さくした熊を連れて脱出したのであった。




