69 スケット王国突撃2
本日、王国への突撃が開始された。
先鋒、私……隊列を組んだ兵士が後方から付いてくる中、女一人が先導している光景は、中々珍しいものだろう。
しかし、私は女神。
誰よりも強い!
というような自己暗示をかけながら私は一番先頭を駆けていた。
「敵発見、二時の方向!」
私は一人飛び出て進んでいるので、流石に全方向には目が行き届かない。
代わりに注意深く目を凝らしている騎士の一人が私に聞こえるように叫んだ。
そして、指定された方向には確かに帝国の鎧を纏った兵士が二人確認できた。そして、あちらもこちらの存在に気付いており、くるりと反転し王国へと戻ろうとしていた。
「確認できたわ。殲滅してくるから本体はそのまま前進!」
「「「了解!」」」
私はそちらに方向転換し、突撃する部隊と距離を離した。
二人だけ……伏兵もいない。ということは巡回している見張りよね。なら、すぐに潰せば大丈夫。
「ライトニングショット!」
狙いを定めてそう唱えると瞬く間に私の攻撃は敵兵の背を捉えて、命中した。
「ぐはぁ!」
「痛っ!!」
もろに魔法を受けた二人はそのまま倒れ込んだ。
確認のために近付き、様子を窺うと死んではいないが、気を失っているようでピクリとも動かない。
「……うん、これくらいの魔法で無力化できるというのは朗報ね」
最低限の魔力で魔法を放ったつもりだが、殺さないで敵を無力化できる程度の威力。
一人当たりこの程度で済むのならと、少し安心しつつも、先に進んだ部隊に追いつくために王国の方向へと駆けて行った。
急いで部隊に合流。しかし、重装兵が先頭を歩いているためか、然程進軍スピードは速くなかった。
「お疲れ様です、サシャ様。どうでしたか?」
「ええ、どうやら巡回してた兵士みたいだった。殺さずにきっちり無力化してきたわ」
「お見事です!」
話しかけてきた重装の男に丁寧に答えると、大げさなくらいに褒めてきた。
「あれ以降は怪しい影とかは無いかしら?」
「無いですね。もうすぐ王都の入り口に到着します。ですからそろそろ纏まった敵の姿が見えてもおかしくない頃なのですが……」
男はそう答える。
こんなに順調に進めているのは些か不思議でならない。しかし、王城を中心として王国の軍は帝国の軍に囲まれている。
そちらに戦力を削いで、辺りの警戒を薄めにしていればこの状況にも納得がいく。
「そう……ねえ貴方。この調子だと周辺に敵は全くいないということになるんだけど、この場合だと敵の本軍は何処に駐留していると思う?」
そう聞くと男は歩くペースを維持しながらも首を捻り、やがて絞り出したように口を開いた。
「……多分、王城を攻撃しているか、我が部隊が入ろうとしている入り口とは反対側に位置取っている可能性が高いですね」
「そうよね……」
もし敵の主力が王城周辺を取り囲んでいるのだとしたら、後方から奇襲することになり、いいダメージを与えられる。
反対側に位置取っていたとしても、私達は容易に王国の軍に合流することができる。
「これは運が良いわね」
この独り言に男も肯定的な態度を見せた。
この後もちらほらと敵兵はいたものの、明らかに戦闘を得意とした格好をした者はいなかった。
そんな感じで進み、特に危険なこともないままに王国の入り口にたどり着いてしまった。
「一度ここで、小休憩にします。サーちゃん、それから部隊長は集まって。少し話し合いをするわ」
随分あっさりとここまで来てしまったからか、一同はかなり困惑していた。そして、指揮系統として一番道中を警戒していたであろうシーオフェリアも拍子抜けしたような顔だった。
もっと苦戦するかと思ったのだが、ここまですんなり進めると流石にこの陣形にした意味が無くなってしまう。
一度、入り口の付近に陣取り、隊列の再編成を考える。
この再編成の話し合いは長引かせることもないので、シーオフェリア、私、騎士達が五、六人程度で行われた。
先頭を密集陣形の大盾を備え付けた重装兵で固めると進軍スピードが低下する。
敵が少ない以上、こんな陣形に意味はないということで、重装兵は大盾を無くし、装備の重量を軽減。
大盾の処理だが、私に全て丸投げされたのだった。
取り敢えず盾は私が収納魔法で回収。
進軍はスピード重視。
さっきまでは騎士達に耐久力を上げる魔法バフをかけていたが、それを移動速度上昇系のものへと変えることになった。
余談だが、この魔法を騎士達にかけていたのは私ではなく、シーオフェリアだ。
編成を確定させると、シーオフェリアはすぐさま指示を飛ばして、瞬く間に編成を作り変えていた。
「じゃ、進みましょうか」
ささっと済ませて、再び進軍が開始されたのは、話し合いの僅か十分後のことだった。
「では、気を引き締めて……前進!」
拠点から進軍開始より数時間後、スケット王国に侵入。
一応伏兵がいるかもと警戒していた。しかし、街並みは静かなもので、物音一つしなかった。
その静けさとは裏腹にその光景には気分を害するものが多かった。
割れた窓、建物にぶつかって、破壊された馬車、塗りたくったようにそこら中に飛び散った真っ赤な液体。
その場で起こった悲劇が目に浮かぶようだった。
「酷い……」
「最悪ですな」
「そんな、こんなことって……」
「許さない!」
騎士達もその光景を見て怒りを覚えたようだ。
私も、この光景には流石に気分を害した。
「バルギア……ちょっと、本気で懲らしめないといけないようね」
少し冷静さを失いそうになった。しかし、すぐに冷静になることができた。
後方からとんでもない殺気が感じられたからだ。
自身より冷静じゃない者がいると、自然と冷静になるものだと、この時実感できた。
シーオフェリアの禍々しいオーラに恐らくルイス辺りが困っていることだろう。
「はぁ……リア姉は重症ね」
シーオフェリアを含め、ピリピリした雰囲気を醸し出したこの人達は恐らく、ここから先にいる敵に怯むこともない。そして、決して負けないだろう。
実際、彼らの奮闘は目を見張るものがあった。
王城に近づくにつれてだんだんと帝国の人間がちらほら姿を現しはじめた。その敵をあろうことか完膚無きまでにボコボコに打ち取っていったのだ。
勿論先頭は私なので、ある程度は私が処理した。
しかし、撃ち零しというものは必ずある。
その撃ち零した敵が酷い仕打ちを受けたのだ。
私は最低限の攻撃で殺さないようにしていたが、後方にいる方々はそんな気は全くないらしい。
明らかにオーバーキル。惨殺していた……。
「ふぅ、これくらいで勘弁してやるか」
「クソが! この国に来たことを後悔しろ!」
「死ね! ……はぁ、はぁ、自業自得だ」
「サーちゃ〜ん! 私も前に出ていい〜?」
この人達やばいでしょ!
後ろにいる騎士、女神の巨大な闇を感じる……。
……というか、王子も陣形の中央から騎士達に「やれやれ!」って指示出してるし……。
それまでいがみ合っていたシーオフェリアとハロルダ王子の気持ちが綺麗に重なった瞬間であった。もっとも、王子は国民に危害を加えられたことに対しての怒りで、シーオフェリアのバルギア個人に対する私怨とは別物であったが……。
もうすぐ王城に着くのに……これじゃあどっちが悪者か分からないくらい酷いわ。
いつも見てくれてありがとう。
引き続き、これからもよろしくお願いします。




