63 王国までの道中10
私、サシャの起床はそれなりに早いものであった。
昨日の物音がかなり気になり、一度は意識を飛ばせたものの、山陰から日が昇る頃に目が覚めた。
ルイスもミーナちゃんもまだ寝ている。というか、ルイスの毛布がミーナちゃんに取られてるんだけど……。
私の毛布を掛けてあげるか……。どうせ、目が覚めてしまったし、なんか寒そうだし。
「んんっ……」
ルイスにそっと毛布を掛けてあげると、ごろりと寝返りをうった。
顔が反対側に向いたので、表情は分からないが、多分幾分かは穏やかなものに変わっているだろう。
ああ、いいことしたわ!
……さて、ルイスに毛布も掛けてあげて、二度寝をする気にもならない。というか二度寝出来ないし……。
少し散歩でもしようかしらね?
「よいしょっと」
馬車の硬い床で寝たからいつもより少しだけ腰に痛みがある。気分転換も兼ねて私は、馬車から降りた。
外には見張りの騎士であろう人達が二、三人、ウトウトしながら焚き火のところにたむろしていた。他には特に誰も起きていない様子だ。
早朝だからなのか、辺りは霧が濃く、遠くまで見通すことができない。これじゃあ、見張りの意味があるのか甚だ疑問である。
そんなことを考えながらも、私はただただ、周囲を歩き、他の人達が起き上がってくるまで時間をつぶすのだった。
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「じゃあ、新たに編成した通りにちゃんと動いてね。共和国から兵は出せないらしいし、負傷した王国の騎士達は共和国に送還した。つまり人数が少ないって分かるわよね?」
場を取り仕切るシーオフェリアは、周りに聞こえるように大きめの声でそう語る。
集まっていた誰もが無言で頷いていた。
この集会には、ハロルダ王子の姿も見えた。それは、それは騎士たちに体調とか気遣われていたけど、昨日の感じからして大丈夫だと私は知っている。
……あと、心なしかハロルダ王子の頬が赤く腫れているのは、私の見間違いだろうか……いや、きっと見間違いよね。
「ハロルダ王子もそれで良いかな?」
「え、あっ! そ、それで、よろしいです!!」
「「「……?」」」
シーオフェリアがハロルダ王子に指を指してそのように確認をとる。
それに一瞬戸惑いながらもかなり張り詰めた声で返事をしたハロルダ王子。彼がビクビクしているのには、誰もが気付いているが、その理由を知る者はおらず、頭上にクエスチョンマークがちらほら見える気がする。
そして、ハロルダ王子の返事にニコニコとした変わらない表情を浮かべるシーオフェリア。
……確実に彼女が何かしてるわね。
大方昨日の物音に答えがあると、私はなんとなく理解できるが、何があったのかを見ていないので、昨日の夜にどんなことがあったのかは、シーオフェリアとハロルダ王子にしか分からない。
シーンと静まり返ってしまった集会で、シーオフェリアもニコニコして、口から言葉を溢すことがない。
沈黙して、お通夜みたいになってしまったこのどうしようもない雰囲気を打開したのは、無精髭が目立つ騎士の一人だった。
「えー、一つ良いかね?」
「構わないわ」
彼は、シーオフェリアの返答に頭を下げてから、口を開いた。
「俺は、レンジという。王国に向かう前に確認しておきたいんだが……この編成だと、索敵重視の軽装が増える。つまり、戦闘員が少なくなるのだが、その辺の安全性についてどう考えている?」
もっともな考えだと私は思う。
さて、レンジさんという騎士のおじさんが思った疑問について、シーオフェリアさんのお答えは如何になるのでしょうか? なんてことを目配せしながら、それとなくアピールすると、一瞬こちらに視線だけ向けたシーオフェリアは、小首を傾げた後、深く息を吸い込んだ。
「それなら心配ないわ。今この場には……三柱の神がいるのだから!」
そして、まさかの爆弾発言。
ちょっとおぉぉぉぉ!!
いきなり何話しちゃってんの!?
私はバレてるから良いけど、貴方と主にルから始まってスで終わる名前を持つ黒髪の……私の冒険者仲間が窮地に立たされるじゃないのよ!
それとなく睨み付けると、それに気が付いたシーオフェリアは、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべる。
「そ、それはどういう?」
「言葉のままだよ。冒険者で、元貴方達の王国で公爵家の令嬢だったサーちゃんは文字通り、力の女神サレーシャ」
「ああ、それは知ってる」
まあ、そうよね。
「そして、この私。絶世の美女にして、天才戦略家のオフェリアさんは……正義の女神シーオフェリア!!」
「「「…………」」」
彼女が言葉をいい終わる少し前から、場には沈黙が流れた。唖然としている者、理解が追いつかない者、声にならない喜びを噛み締めている者。
……そして、全私が目を背けた。
痛い! 我が姉ながら、こんな恥ずかしいことを言っちゃうシーオフェリアが痛い! 妹として、こんな姉は見てられないわ、ええ。
「あっ、サーちゃん失礼なこと考えたでしょ?」
「そんなこと、ないわよ……」
ちょっとばかし、そのようなことを考えただけで、シーオフェリアは察知してくる。残念な性格だが、こういうところが厄介ね。
私とシーオフェリアの砕けたやり取りで、毒気を抜かれた面々は、我に帰ることが出来たようで、既に気分を新たにしていた。
「それで、あともう御一方の神っていうのは……」
レンジさんの問い掛けにシーオフェリアは、口を開いた。
「ああ、もう一人はね……」
終わりだ……さらば、ルイス。骨だけは拾ってあげるから。
「それは、王国に着いてからのお楽しみ〜♪」
「「「はっ!?」」」
鼻歌が聞こえてきそうな声でシーオフェリアは答えた。
うん、ちょっと何言っているのか分からないわ……気を遣ってくれたのは、有り難いけど、王国に着いたらって……。
納得がいかない顔を皆しているが、ただ一人、胸をなで下ろすように安堵している黒髪の青年を私は視界に捉えていた。
はぁ、私までハラハラしたわ……。
「じゃ、質問コーナー終わりね。他の質問は中継地点に着いてからってことで……解散!」
本日もまた、私はシーオフェリアに踊らされ、そして、物凄い精神的疲れを植え付けれるのだった。
最後に……朝から疲れるのは勘弁して欲しかった。




