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62 王国までの道中9

「「悪の魔神バルギア」」


 たまたまだが、私とシーオフェリアの声は上手く重なり合った。


 シーオフェリアからこんな報告を聞くとは思いもしなかった。肩が左下がりに若干傾く程度には、驚いたわ、ええ。


「でも、それって本当のこと?」


 悪の魔神が関わってくるなら、色々と面倒である。だから私は、シーオフェリアに再度の確認を求めた。

 勿論、返ってきた答えは変わりのないもので、その時のシーオフェリアは、なんだか寂しげ……いや、何かを考えるように漆黒の夜空に顔を向けていた。


「ねぇ、サーちゃん。バルギアについては知っているわよね?」

「ええ」

「私とあいつとの関係も分かるわよね?」

「ええ」

「……どうすれば良いと思う?」


 どうすれば……か。


 思えば魔神と女神の対立……これは、シーオフェリアとバルギアが揉めたところから始まったのだっけ?

 確かバルギアが魔力を暴走させて、今は亡き小国を滅ぼしたことがあった。それにシーオフェリアが怒り、その結果、私を含める他の女神と魔神の全面的な対立に発展したんだっけ……。


「バルギアがあんなことを仕出かす前までは、こんな対立なかったわよね」

「そうね、サーちゃん」

「なら、リア姉があの時の決着をちゃんとつけなきゃ……って、私は思うのだけど」


 あの時シーオフェリアが彼に制裁を完璧にこなせていれば、きっとこんなに拗れることはなかった。だから、この機会にそれをすれば良いと素直に私は思った。


 どっちにしても、バルギアが王国を脅かしている魔神ならば、撃破すべき敵。倒すのは必然ということ。シーオフェリアもそれを理解しているが、私にこんなことを聞いてきたということは、


「……でも、出来るかしら?」


 リア姉には、彼を倒すか倒すまいか迷いがある。

 あの時もそう。シーオフェリアは最後まで迷っていたから彼に致命打を打てなかった。


「……無理そうなら、私がやるけど?」

「それは、駄目。サーちゃんには協力して貰っているのだから、押し付けたりはしたくないわ」


 彼女にそう言わせるのは責任感からなのかもしれない。


「そう……」


 私は彼女の言葉を受け止め、短く返事を返す。するとシーオフェリアは、髪を弄りながらはにかんだ笑顔を見せた。


「ありがとう。バルギアの取り巻きとかで厄介なのが出てきたら、その時はよろしくね!」


 私はもう一度「ええ」と短い返事をしてシーオフェリアとの会話を切り上げようとしたが、ふと喉元に突っ掛かった疑問がそれを阻害するようにその返事を留めた。


「……ねぇ、リア姉。主犯格はバルギアでいいとして、その他の魔神が協力してる可能性。それってあるのかしら?」

「他の魔神……」


 私の問い掛けに少し思案して、やがてかぶりを振った。


「それは……無いと思う」

「その根拠は?」


 コホンと軽く咳払いをしてからシーオフェリアは、もっともらしい説明を始めた。


「まず、魔神ルイヴィース」

「ルイスがそうだから無いわね」

「うん。次に死の魔神スミェルチ、あれは論外ね。魔力不足でまだアズリア連邦の地中に眠っているわ」


 死の魔神……眠っているのね。知らなかった。……ていうか私が王国にいる間に何があったのよ。


「……参考までに聞くけど、どうして魔力不足になったの?」


 背を伸ばしてこちらに顔を近づけて来るシーオフェリア。ちょっと動揺してしまった。


「聞きたい?」

「いえ、やっぱりいいわ。また今度聞く」


 反射的にそう答えてしまったが、あれは女神がしちゃいけない顔をしたシーオフェリアが悪い。きっと彼女が何かしたのだろう。……本当にバルギア以外には遠慮がないことで。


「じゃあ、次ね」


 話の本筋を戻して、シーオフェリアは微笑を浮かべる。


「問題。憎悪の魔神ハスは、今何をしているでしょう?」

「なんで、いきなり出題形式なのよ……分からないわ」


 戸惑いつつも、ちゃんと考えた。その結果分からないという結論に至ったのだけど、シーオフェリアはご不満なご様子。


「えー、もっと考えてよ!」

「王国にずっといて、一々魔神の動向とか知りようがないわよ」

「ぶー、それはそうだけど……まあ、いいや。……正解は、愛しの妹、リーちゃんが東の果てにて、現在進行形で殺り合ってくれてる、でした!」


 いや、そんなの分からないわよ! 

 ていうかリーベ姉さんは、何やっているのよ! それに憎悪の魔神ハスは、何したのよ?


 リーベ姉さん怒らせるとかそうとうやらかしたわね。

 そして、リーベ姉さんを怒らせた理由が凄く気になる。 


「リーベ姉さんが戦っているのは分かったけど、なんでそんなことに?」

「んー、私もよく分かんない」


 はぁ、興味あったのに。


 でもこれで、状況がよく理解できた。

 死の魔神、及び憎悪の魔神は、現在王国で起こっている問題には介入出来ない。

 ルイスはある意味こっち側なので、実質バルギア単独の犯行になる。


 そして、戦力的には、力の女神である私、正義の女神シーオフェリア、力の魔神ルイヴィースこの三柱がバルギア単体を倒そうとしている、ということになる。


 私の表情は、口元が僅かに微笑んでいるようになっているだろう。


「どう? 戦力的には問題ないでしょ?」


 シーオフェリアも親指を突き立てながら、大丈夫アピールを前面に押し出している。その場には、私しかいないが……。


「そうね、これなら勝てるかも」

「でも、油断しちゃ駄目よ。相手は悪の魔神バルギア。何をしてくるか分からないわ」


 シーオフェリアの釘を刺すようなその忠告に頷く。

 確かに、それもそうね。


「リア姉の言う通りね」

「うん。じゃあ、時間も遅いし、そろそろ休みましょ。王子に襲われたら私に報告してね。即行で殺すから」


 私を気遣ってか、話を切り上げ、更にボディーガードも請け負ってくれそうなことを言う。


「えっと……じゃあ、おやすみなさい」

「うん、おやすみー」


 ただ、ちょっと愛が重いと言うか……まあ、シーオフェリアなりに私のことを大切に思ってくれているということか。


 ハロルダ王子が殺されないことを祈りつつも、私はルイス、ミーナちゃんが寝息を立てて眠っている馬車の中へと戻り、自分用の毛布に包まった。


 ウトウトし始めて、漸く夢落ちしそうな頃に外から凄い物音があったが、多分なんでもないことだろう。



 

 ……大丈夫よね?



 

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