59 王国までの道中6
ルイスside
オフェリアさんの「神」という言葉に終始動揺していた俺なのだが、それならそれで納得も同時にした。
この世界において、神というものは大まかに二つ、魔神、女神、この二択にしぼられる。性別では、男性が魔神、女性が女神。となるとオフェリアさんは……
「つまり、オフェリアさんは、本当に女神なんですね……?」
「そうよ。こう見えて私は、正義の女神シーオフェリア。女神の中では最も古参なの」
まあ、流石に悪戯だと思いたいので、確認してみたが、まあ……そうですよね。真面目な顔で、嘘とか付いているようには見えなかった。
「そうですか……」
俺は視線をサシャが居るであろう場所の方へと移した。
オフェリアさんは、女神シーオフェリア。なら、サシャは──。
「ルイスくん、どうしたの?」
「あ、いえ……オフェリアさんが女神なら、サシャも女神ってこともあるのかなぁ〜……なんて」
そう訊ねると、何を聞いているのかという反応のオフェリアさん。
「当たり前でしょ? サーちゃんは、力の女神サレーシャよ?」
……うわぁぁぁ! やっぱり、やっぱりそうなのか!
もしやと思ってはいたが、そういうこと……しかも、サレーシャって、あのサレーシャか!?
俺は人間になる以前、女神としての彼女と出会っている。
『私が戦ったなかで貴方が一番強かったから』
そんなことを言われ、不覚にも彼女に惚れてしまった。
力を奪われて、人間に転生させられて、それでも俺は内心とっても嬉しくて人生を三回経験してもなお、それを思い出しては転げ回っていた。
浮かれていた頃の黒歴史を思い出してしまった。
あれはヤバイ! あれは重い! ていうか、女神に惚れちゃう魔神なんて、可笑しいだろうが。
だいたい、女神サレーシャは、きっと俺のことなんか眼中にないのに。
一人で盛り上がっていた。
「あれれ? ルイスくんの顔が赤くなっていくよぉ?」
茶化すようにその宝石のような瞳で見つめてくるオフェリアさん。
「別になんでもないですよ……それよりも、良いんですか? 俺が魔神ルイヴィースなんて知ったらサシャは怒りそうじゃないですか? 『魔神と一緒に居たなんて……ミーナちゃんに近づかないで! 汚れが移るわ!』って」
俺がサシャの口調、テンポに似せて話すと、オフェリアさんは口に手をやりながら吹き出した。
「ふっ、地味にサーちゃんと似てる! でも、確かにルイスくんが魔神ルイヴィースだって分かったら怒るかもね……多分私が怒られる側なんだけど……」
「え? なんでオフェリアさんが怒られるんですか?」
「そ・れ・は、秘密よ。話しちゃったら面白くないし……あ、でも! サーちゃんには魔神ってことをちゃんと話すこと! 決戦の前に揉めたりしたら困るからね」
サシャにこのことを話したら即刻揉めて、なんなら消し炭にされるまである。……と思ったが、オフェリアさんの緊張感のない態度に毒気を抜かれた。
まあ、大丈夫か……知らないけど。
「じゃあ、話も済んだことですし、戻ります?」
俺が軽い感じに提案すると、オフェリアさんは、首を振った。
「もう一つ。サーちゃんのこと……ちゃんと守ってあげて、あの子は……」
そこまで言ったのに口を噤んでしまう。
「サシャがなんですか? だいたい、サシャが女神なら守ってもらう必要とかないでしょ。実際滅茶苦茶強いし、なんなら俺が百人居ても勝てないだろうし」
「そうじゃないのよ。……まあ、いいか。いずれ気付くわよね」
独り言のようにそう言葉を繰り返している彼女は、はらりと艶やかな髪をたなびかせて、俺に背を見せた。
「えっと「戻りましょ。皆んな心配するかも」
「……はい」
彼女が何を言いたかったのか?
俺はそれを聞けないまま、話を中断されてしまった。
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サシャside
あー、暇だわ。
ミーナちゃんの寝顔を見ているだけで、心は満たされていくのだけど……なんか、こう、面白いってことがない。
私の膝に頭を乗せたミーナちゃんの髪を優しく撫でる。
「ああ、暇だわ……」
勿論、その言葉を聞く者は居ないし、なんなら寝ているミーナちゃんと二人きり。
仲良くなった騎士の二人も忙しく働いている。その証拠に馬車の中にいても、騎士たちが動くことによって、鎧の音がよく聞こえてくる。
暇すぎて、ハロルダ王子と話でもしようか……そんな血迷った考えも除外した。彼は、襲撃を受けたショックで気を失っている。そう聞いた。
それこそ、なんでこんな辺鄙な場所に来たのか疑問に思ってしまう。
ハロルダ王子が目を覚まし次第、出発らしいけど、いつ起きるのやら……色々と考えると疲れてくる。私もミーナちゃんと共に夢の世界に羽ばたこう! そんなことを考えていると……。
「ただいま、あれ? ミーナちゃん寝てるの?」
遅いわよ……。どれだけ退屈したと思っているのよ。
シーオフェリアと話をしていたルイスが馬車の入り口から顔を覗かせた。
「ルイス、リア姉と何を話していたの?」
「ああ、そのことで少し話がしたい」
彼が深刻な顔をしているのを見ると、シーオフェリアに何か言われたのだろう。
退屈だったのと、その話に興味が沸いたことから、私は彼のその要望に頷いて肯定した。
まさか、あんなことを言われるとは思っていなかったが──。
明日も一日がんばるぞい!




