56 王国までの道中3
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シーオフェリアに続いて勢い良く馬車から飛び出した私だったが、地面に足をつけて僅か二秒、いきなり斬りかかられるという破茶滅茶イベントに巻き込まれた。
「おらーー!!」
スッ……。
「ちっ、躱しやがって!」
寸前で軽く躱すが、それ以上に周りの光景は本当に絶望的だった。
「ん……数が多すぎるわね」
「なら、諦めて降伏しろ」
こちらに剣先を構えたまま男が話しかける。声色は至極冷徹なもの。
「ごめんなさいね。降伏するほど落ちぶれていないの」
「そうかい、大人しく降伏してくれれば、こちらも仕事が省けて楽なのに……たく、気の強い女だな」
一応強気に言ったものの、それでも不利なのに変わりはない。
視界に入ってくる人数だけでも、二、三十程は確認できる。統一された湾曲している短剣を腰に下げて、真っ黒な衣服を身に纏っている。
こちら側の騎士の大半は怪我を負っていて、傷の浅い騎士が前線で鎮圧を図っている。しかし、このまま被害が拡大するのなら、王国に辿り着けるかどうか……取り敢えず、この状況を打破して、脱出しなければ。
「それで、貴方達は何者? 何が目的?」
問い掛けた先には先程斬りかかってきた男、その後ろにも沢山待機している。
「我らは絶対神の命によって、ハロルダ王子及びその護衛を排除することを目的に動いている」
「そう……その絶対神って誰なのかしら?」
「機密事項のため、漏らすなと命令されている。まあ、貴様はもうすぐ死ぬのだがな」
話は通じるのだが、それで戦闘を回避できる訳ではないらしい。言い終わると一斉に臨戦態勢に入っている。
魔導師が離れた場所に数人、馬車の付近に斬り込んでいるのは、物理戦に特化している鈍器や刃物を持った奴らだけ。
ふと辺りを見回すと、既にシーオフェリアの参戦で戦況は順調に良くなってきている。もう一押し必要なのだが、遠くから魔導師が狙撃をしてきているため、彼女も本領を発揮できていない。
「なるほど……つまり、貴方達の生命線は後ろからの援護……それがなくなればリア姉に潰される」
「なっ!?」
図星、とまではいかないが、魔導師の後方支援はだいぶ重要らしい。シーオフェリアの活躍次第……それから、後方から高みの見物をしている魔導師の対処をどうするか。
軽く後ろに下がり、助走をつけて敵地の真っ只中に突っ込む。
「ふっ、貴方達の生命線を潰してあげるわ」
「……っ護衛隊! 一人女が向かった、殺せ!」
跳躍である程度の敵は跳び越えることが出来たが、彼らも馬鹿ではない。ちゃんと魔導師の方にも護衛を付けてる。でも……。
「数はそこまでじゃないわね!」
「それはどうかな?」
護衛という名目での役割。攻めに転じている分、魔導師を守っている人数は少ない。しかし、その護衛達は余裕の顔つきである。
「アイススピアー!」
ヒュッ! ……カキンッ。
「なんで!?」
魔法は正常に発動し、相手に向かっていったが、魔導師の対抗魔法によって相殺される。障壁だろう……威力はこちらの方が上なのだが、相手には人数の利がある。私もそれほど真面目に魔法を撃った訳ではないので、簡単に弾かれてしまった。
舐めてたわ。ちょっと本気で魔法を撃たないといけないかしら?
「おいおい、どうした? その程度で終わりかよ?」
「女一人、全員で掛からなくても余裕じゃね?」
「おい、任務中だ。気を抜くな」
敵方はこちらを甘く見ている。
数の利があるから余裕なのだろう。こちらの騎士は必死に馬車を防衛しているため、援護には期待できない。つまり、現在魔導師に攻撃を加えられるのは私だけ、護衛と魔導師の二層を突破するのは些か辛いが……。
「甘く見ていると、痛い目に遭うわよ。まあ、どっちみち貴方達は退けるつもりだったけど」
高圧的にそう告げると、相手の数名から舌打ちが聞こえてくる。
挑発が気に食わなかったのだろう。だんだんと雰囲気がイライラしたものに変わっていくのが感じられる。
「……直ぐ楽にしてやる。大人しく死ね」
後方では魔導師が空気を読んで魔法の詠唱、私に詰め寄ってくる騎士に合わせている。
「アイススピアー!」
今度はそれなりの魔力を込め、数も多めに生産したけど……大丈夫かしら?
「魔導師隊、展開しろ!」
ヒュッ!
再びアイススピアーを飛ばす。
同じように障壁が展開され、アイススピアーの攻撃を無力化しようとしているが……。
「なっ!? 馬鹿な!」
「障壁が……」
障壁と正面からぶつかったはずなのに、すり抜けるようにアイススピアーは敵方に向かい続ける。そして、
グサッ!
「あがっ……痛い……血……が」
非常に鈍い音を立てて、一人の黒服を貫いた。
中に鉄板でも入れていたのか、鉄がギリギリと音を立てていた。まあ、それも貫いたようで、その人物からは、血がダラダラ垂れている。
「貴様……何者だ!」
「あら、私はただのか弱い女性ですよ?」
そう、私はか弱い女神様。いや、多分か弱い? え? それは嘘? そんなこと言わないでほしい。
脳内で否定されたか弱い件に関して、納得のいかない表情になるが、今はそんなどうでもいいことを考えている時ではない。
早めに黒服の男達を仕留めようと意識を戻したが、既に腰が抜けている者、気絶している者、その他にも逃げ出している者もいる。
「あらぁ、サーちゃん。いいとこ取っちゃった? ごめんなさいね。怒ってる?」
間違いない。この状況を作ったのは私ではなくシーオフェリアだ。
「何をしたの?」
「あぁ、サーちゃんがそこの羽虫の遠距離攻撃を阻害してくれてたからあっちを全滅させられたの。勿論、力技で無理矢理だったけど……それで、こっちも殺っちゃおうかなぁって、加勢に来たのよ」
なるほど、道理で顔が歪んでいる人が……。
「ぐっ、畜生。こんな強い奴がいるなんて、聞いてない。それも二人も……」
シーオフェリアによって転じた戦況。
間違いなく、二人には私も加えられている。
女神が二柱、それで勝てるなど、同じ神がもう二柱必要だろう。そんなことはきっと滅多にない。
「リア姉、彼らを尋問して魔神の正体を吐かせる?」
「ううん、もう吐かせたから大丈夫よ。ちょーっと、痛い目に遭わせたらあっさりと……ね」
いや、もう恐怖の象徴でしかない。
正義の女神シーオフェリア。信者が彼女を見たら多分信じないだろう。
「さ、馬車に戻ろっか?」
馬車の方に体を向けて、私の手を引いてくる。
「この人達は?」
「ほっといて大丈夫よ。どうせまともに動けないのだし、無闇な殺傷は駄目なのよ」
既に血だらけになった服装で言われても説得力がないわね。
「分かった。じゃあ戻りましょ、被害状況の確認もしたいし」
ここでシーオフェリアに対して、「無駄な殺傷してるじゃない」なんてことを言及しない辺り、私も成長したものね。
「はっくしょん! なんか不名誉なこと想像されてる気がするんですけどぉ?」
「気のせいよ」
冗談めかした感じにそう言うと、シーオフェリアは調子が狂ったように投げやりに「はいはい」と手をヒラヒラしていた。
馬車の方に戻ると、戦闘によって、馬車はボロボロ。戦ってくれた騎士の面々も疲労困憊。直ぐに出発するには、不都合なことがたんまりとそこに存在していた。
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