55 王国までの道中2
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ドンッ! という音が響き渡り、馬車の中に残っていた一同はびくりと体を震わせて、緊迫した空気感を出した。
恐ろしいことに車体の音がした部分からは鋭い剣が突き抜けていた。シーオフェリアの目と鼻の先……ちょうど数センチ手前にひょっこり出てきたのだ。
これには馬車内に居た騎士とルイス、ミーナちゃんは驚いていた。そう、文字通り、私とシーオフェリア以外は……。
「ちょっと、今のって……」
「そうそう、サーちゃんの御察しとおりかなぁ。……アレの手下よね、外は皆やられちゃったのかも」
呑気に話している彼女だが、馬車の方は凄い状況になっている。グラグラと縦揺れ横揺れをしているのだ。おまけにミシリと嫌な音も立てている。
ふと疑問に思った。刃先が顔に向いていて、なんで少しも躱すそぶりをみせないのかと。
「それにしても、リア姉は怖くないの?」
それとなく聞くと「ああ、これねぇ」とシーオフェリアはいつもの軽々した声で答える。怖くないのか……まあ、女神の中でも一番年長者の彼女だものね。一応大人な感じであるのは、シーオフェリアが長女であるからなのかもしれ──。
「まあ、もし私の綺麗な顔に傷一つでも付けたら、こいつらの家族や関係者を末代まで祟って、祖国ごと滅ぼすからぁ、ふふっ」
違った、違った。
長女がなんちゃらなんてことは既に無くなっちゃったようだ。もう女神というより破壊神よ。
主に私が怖くなってきちゃったわ。色んな意味で……。
「おいおい、俺たちも外に出るか?」
私がシーオフェリアに恐怖を感じていると、馬車の入り口の方に居座っていた騎士たちの話し声が聞こえてきた。
「駄目、私達は彼女達を馬車の内部で護衛すること。王子から受けた命令をわすれたの?」
「でも、こんな狭い場所で籠城してたらいずれジリ貧だ」
「……そうだけど、でも」
馬車内に残っていた騎士の二人は、そう言い争っているみたいだ。男の方は外に出て戦闘する派、女性って騎士の方は車内に立て籠もる派、といった感じか。
「サシャ」
その光景をまじまじと眺めていると、ルイスから不意に声を掛けられた。
「何? これからどうするかって聞きたいの?」
ルイスは首を縦に振って私の回答をじっと待っている。
「勿論、外に出てちょっと暴れたいけど……ルイスはミーナちゃんを守っていてくれるかしら?」
「そうだと思ったよ。俺は足手纏いだから、大人しくミーナちゃんを守っとく」
両手を上に掲げて気の抜けたジェスチャーをしている分、ルイスの精神状態は大丈夫そうね。
ミーナちゃんも至って落ち着いている。
「サシャお姉ちゃん、頑張って!」
「……ミーナちゃんの為に全て撲滅してくるわ」
「おい、お前ミーナちゃんにデレすぎだ」
ミーナちゃんからの応援、それはやる気に繋がる。
ミーナちゃんにデレすぎだって? ルイスは何を言っているのかしら? そんな今更なことを言われても反応に困るだけよ。
これは少しルイスに教授しなくてはならないわね。
「ルイス……一つ良いことを教えてあげる」
「な、なんだよ」
戸惑ったようにこちらの表情を窺うルイス。
大方何を言われても面倒だなぁ、とかって思っているのだろう。
彼の注意を引くために、軽く咳払いをして、人差し指を突き立てた。
「いい? 癒し、可愛い、それらの類のものが絶対的な正解なのよ。つまりこの場合、ミーナちゃんが全て。私はミーナちゃんが応援してくれるのであれば、例え火の中、水の中、薄汚れた社会のゴミが襲ってきている中、どんな状況であっても決して負けないの」
自信満々な感じでルイスに伝える。反応はどうか? チョロリと視線を向けると彼が目を細めて「お、おう……」って言うのが見えた。
目線が偶然交差すると、彼は何か哀れんだような感じに目を逸らす。
それから彼は、両手の平をこちらに向け、少し落ち着けといった感じに突き出してきた。
「まあ、意味分かんないけど、取り敢えずやる気になったのは分かった。凄く分かった」
ルイスとの議論に終止符が打たれたのを確認したミーナちゃんは再度「頑張って」と激励の言葉を投げかけてくれた。
シーオフェリアと視線で確認し合い、そのまま立ち上がる。
「リア姉、行くわよ」
「はぁーい。じゃ、サーちゃんのお友達の二人はくつろいでいていいからねぇ」
シーオフェリアはルイスとミーナちゃんに軽く手を振ると、入り口付近にいた騎士の二人を押し退けて外へと出て行った。
「ギャァァァァッ!」
「く、くるな! ひぃ、ごめんなさ……アァァァァァ!」
悲鳴を聞く限り、地獄絵図が広がっていそうな感じ。……シーオフェリアは外で何してるんだろうか? 悲鳴からとんでもなく恐ろしいことをしていると理解できるけどさ……。
ルイスが恐る恐る口籠もりながらも訊ねてくる。
「なぁ、お前のお姉さんって何者?」
反応に困る質問なので、数秒間の間を開けてから、深い溜め息をつく。多分彼も同じようなこと考えているのだろうと思いつつも彼の目を見た。
「まあ、この騒ぎが終わったら、色々と話すわよ」
今の私にはこうとしか言えなかった。
長めの髪は邪魔になるので、軽く束ねて、私も馬車の外……いわゆる戦場へとくりだしていった。
「気をつけろよー」
「いってらっしゃーい!」
ルイスとミーナちゃんから少し大きめの声を背に受けながら──。
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