51 始まりの始まり3
今年最後の投稿です。
ここまでありがとうございます!
現在、私はとっても困惑している。同じ建物に居る一人の女性のせいだ。
よく、「空気を読みなさい」だとか、「それくらい察して」だとか、形の無いものを読み取りなさいと言われることがある。
私はサシャ・フリークに生まれ変わり、毎回毎回そういうことを言われ続けてきた。公爵家の一人娘として、そういうところはしっかりしないと駄目だって……。
私からしたら、こんなの必要無いじゃない。そう感じていた時期があった。
今の私は、「察して、空気読んで」って言われる側から、言いたい側にジョブチェンジしたのかもしれない。
「えっ何? サシャ? そんなに考え込むなんて……ひょっとして、さっきの大男をもっと懲らしめたかったとかか?」
今私は物凄く言いたい。
「ルイス、少しは空気を読んで黙ってなさい」って、そう言いたい。
フードの女性と視線が交差する。
間違いなくこちらの正体を看破しているような目付き……。おまけに私の真名も知ってそうだ。
「ルイス……ミーナちゃんがトイレから出てきたら、直ぐに宿に帰りなさい」
「え? どういうこと?」
私のガチトーンの声に不信感を抱いたルイスは教えろと言わんばかりの視線を向けてくる。
「別に……私だって一人になりたい時くらいあるのよ。兎に角、直ぐに帰りなさい。それから、私が帰るまで宿から出ないで……色々と話したいこともあるから」
彼が何を思ったのかは、知らないが、事情があるのだと理解してくれた。そのまま何も聞かずにトイレから出てきたミーナちゃんを連れてそのままギルドから退出した。
因みに、ミーナちゃんはさっきの騒動を知らないため、ざわついていた此処の状況に困惑していた。あの顔……可愛かったわね。なんてことを心の隅で思いつつ、私はフードの女性へと近付いた。
「ねぇ、すこぉしだけ……お話。良いかしら?」
彼女との距離が三メートルくらいというところで、あちらから話掛けてきた。本当はこっちから話を振るつもりだったので好都合であった。
「ええ、私も色々と聞きたいことがあったから、丁度良いわ」
「じゃあ、立ち話もなんですし、少し歩きながらにしません?」
扉の方にちょいちょいと指を向けてジェスチャーをしてくるので、頷いて肯定の意を示した。
「ふふっ、じゃあ、行きましょうか」
「ええ、そうね……」
ギルドを出て、近場にあったお洒落な飲食店へと、入ることになった。
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店の中は、落ち着いた白と茶色を基調とした装飾て統一されており、注文した飲み物も、これまたお洒落なカップに入っていた。
共和国産の茶葉を使ったというこの紅茶。
ふわりと立っている湯気に乗って、とても心地のよい香りが鼻を擽る。
一口だけ、それに口を付け、それから私は件の女性に向き直った。
「それで? 私に何か御用かしら?」
本人は未だにフードを被っていて、顔を晒していない。
私から話掛けてきたきたのが意外だったのか、クスリと微笑して、持っていたカップを机の上に置いてから話し始めた。
「ちょっと気になっちゃってぇ……ねぇ、サーちゃん」
「──! なるほど……そういうこと」
フードをゆっくりと外して、こちらに目を向けてくる。
吸い込むようなその黒い瞳、それから特徴的なその紫掛かった髪、私が知っていて、尚且つ私の真の正体を知っている人物。この条件の者は一人しか居ない。
「……シーオフェリア」
呟くようにそう言うと、彼女の微笑は、満面の笑みへと変化した。
「そ、覚えててくれてお姉ちゃん嬉しいなぁ。昔みたいにリア姉って呼んでくれても良いのよ?」
「御託は結構よ。いったい何が目的なの?」
彼女の意図が分からない。
正義の女神シーオフェリア、最も早くに生れた女神。
私は四人女神がいる中での三番目なので、シーオフェリア、彼女は私の姉というポジションになる。
私としては、女神の中で一番対応に困る人物だ。
「ふふっ、相変わらず素直じゃないなぁ、もっと再会を喜んでくれても良いのに。ま、私的にもサーちゃんに会えて嬉しいのだけど、喜びを噛み締めてる時間が無いのよねぇ」
未だに笑顔を崩さないが、彼女がそういう風に取り繕いながら言うときには、必ず困ったことがある。伊達に長い期間共に居たわけではない。
「……何かあったの?」
「ふっ、知ってる癖に~………スケット王国のことだよ」
それとなく揺さぶってくる彼女に、最大限動揺しないように見せているが、彼女にとっては、意味が無いことなのかもしれない。
私の視線を感じたのか、笑いながら「別に責めてる訳じゃないのよぉ」と、宥めるように言葉を付け足していた。
「なら、私にどんな用事かしら?」
本題に入ることを表すように、少しだけ彼女の口元から微笑みが消えた。
「スケット王国に降りかかる災い。以前はサーちゃんが護っていたから影響を受けていなかったのよね、サーちゃんの加護が解けたからスケット王国に災いが再来した。でも、問題の本質はそこじゃないの。その災い……魔神ルイヴィースの呪いから来るものでは無いのよ」
彼女が発した、その言葉の意味を理解するのに、私は少し時間が掛かった。
魔神……ルイヴィースの……呪いじゃない?
「それは……」
「それは本当なのか? そう聞きたいんでしょ」
彼女は何処までもこちらの考えていることを見透してくる。
私が顔で答えを急かすと、ゆっくりと口を開いた。
「そうねぇ、これは本当の話よ。魔神ルイヴィースの呪い……あれとは本質的に違う。私には分かるのよ。今回のは、魔神ルイヴィースのではない……別の魔神の仕業よ」
彼女の言葉は、別の魔神の介入を示していた。
「それはつまり、ルイヴィースの呪いは消えていて、他の魔神が王国に目を付けたってことで良いのかしら?」
どうやらそれで正解らしい。
こくりと頷いて、「話を続けるわ」と言い、カップの飲み物を一杯煽ってから少し前屈みになった。
「問題は、スケット王国だけでなく、コレット共和国にも、その魔神の手が伸びているということ。この意味が分かるわよね? 私はこの国の守り神、だからその魔神が居ると不都合なのよね」
「だから、私に手を貸してほしい……と?」
こくこくと今度は大きく頷いた。
「そ、得体のしれない魔神を叩きのめして、世界を平和にしたいの。だから協力して!」
いや、なんで私が……。
「あっ、今なんで私が……って思ったでしょ?」
「……心を読まないでくれる?」
「ああ、協力してくれた暁には、共和国での生活とか保証してあげるわよ」
はぁ、本当にこの人は……遠慮が無いから本当に苦手だ。
それから、女神シーオフェリアとの話を続けるうち、話題はどうやって王国に戻るのかという話になった。
彼女も冒険者として、此処で生活しているらしい。私と同じ、なので、馬車とかもなく、此処から歩いてまた王国に戻るとか、考えただけでも嫌になってくる。
「……それで、どうやって、王国に行くのかしら?」
少し椅子をずらして彼女は立ち上がった。ズリズリと椅子の足が擦れる音に意識を向けながら、彼女の言葉を待った。
「その辺の心配は不要だから、心配しないで。じゃ、一週間後のこの時間に冒険者ギルドで待ってるから」
何が大丈夫なのか分からないが、彼女はそのまま代金を置いて帰ってしまった。
仕方がない、此処で問題が起きるのは、困る。
彼女との話のなかで、この地での安住を約束してくれると言われたので、それに釣られた。まあ、別にさっさとその魔神を倒してくれば良いだけ。それであの王国との縁は綺麗さっぱり切ることが出来る。
そんな風に考えていた私は、彼女に協力し、王国に再度戻ることを決意した。
それから一つ不満を言うなら、彼女の置いていった代金、全然足りないわ……。
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来年もどうぞよろしくお願いしますm(__)m
それでは、よいお年をお過ごし下さい。




