50 始まりの始まり2
50話まで、来ました。ありがとうございます!
対峙している大男との距離はおよそ数メートルである。
間合いは縮んだり開いたりと一進一退の攻防になっているわ……って私が言ったら聞こえが良いかしら?
実際はまあ、男がびびって詰めて来られないから私が半歩踏み出して、大男が少し後ろに後退りしているだけ。明らかに私が悪役みたいな立ち回りになっている。
いや、私じゃなくて相手が悪役なのだけどね。
それから、周りから私に対して「やっちゃえ」ってコールが止めどなく聴こえてくる。どんだけストレス溜まってるのよ! なんかの試合みたいになっちゃってるわよ、これ! この国には娯楽が無いのかしら?
私はこんな下らないことを考えている余裕があるが、実際、相手の男は気が気でないだろう。
魔法が使えて、体術もかなり高いと理解した。ギルドに来ている人々の期待の視線から、私の実力も分かったようだ。
足りない頭だとは思っていたが、それだけ怯えることが出来ていればギリギリ及第点くらいかしら?
さて、私としては、このまま逃げ出してくれると色々と都合がいい。魔法を使うと疲れるのよね。
「ねぇ、このまま帰ってくれれば、手荒な真似はしなくて済むのだけど……どうかしら?」
「ちっ、今更引けるわけねぇだろ」
いや、ごもっとも。
威勢の良いことを言った後におめおめと逃げ帰ってはプライドに傷が付くというやつなのだろうか。
そんなプライド──。
「そんなプライド、へし折ってあげるわ」
大男は私の言葉に対して返事をすることなく、代わりにズリッと足を前に踏み込んでくる。どうやら漸く覚悟が決まったらしい。
その光景にギルドにいる人々は大歓声を上げる。
こいつら……この大男が何者なのか? とか、何しにやって来たのか? とか、その辺どうでもいいんでしょ!? 試合観戦気分なんでしょ!?
純粋に楽しんでいるその面々を見渡す。
こんな状況でもこうして楽観視できているのは彼らの多くが、冒険者として数多くの死地を潜り抜けてきたからだろう。それから、この冒険者ギルドの中でも、私のことは何故か「突如として現れた期待の新人」ってことで通っているので、そこら辺の信頼もあるのかもしれない。
まあ、こんな状況は直ぐに収束される。
ほら、さっきまで熱狂してた冒険者とか静まり返ってるもの。後ろから受付嬢の子がどす黒いオーラ醸し出しながら来てるもの。
「あの、貴方たちは此処が冒険者ギルドと分かっていて暴れようとしているのですか?」
うわぁ……戦闘面で強いかは別として、貫禄が凄い……。
というか何気に私も咎められる感じかしら? 嫌だわ……あの子と言い合うと決着が着かないのよね。
男の方もその大きめの声と彼女の覇気によって驚きを隠せない様子。
「な、なんだよ……」
男から出てきたのは、腑抜けたような言葉。
私はそんな男の挙動につい吹き出してしまいそうになったが、これは好機。ダークホース受付嬢の登場によって、注目は完全に私から逸れた。
「隙あり!!」
ドスンッ!
難攻不落とは程遠い……メンタル軟らかな巨大要塞が陥落した。
その場は沈み返り、受付嬢の方もまた、呆けた顔をしている。
その場に居た全員が皆、意表を突かれたこの展開に対して、動きを止めて、まるで時間までもが止まっているかのように指ひとつ動かさない。倒れた大男も微動だにしない。
まあ、まともに拳が男の胴体を直撃したのだ。無理もない。魔法で筋力強化していたら、きっと更に凄いことになるのだが、流石にそこまでやってから打撃を入れると私が人殺しになってしまう。
「自業自得よ」
クールにそう言ったのだが、内心ではちょっと力が入りすぎたわ! みたいな感じにかなり焦っていた。
大丈夫、周りには悟られてない、うん! 大丈夫。
「…………ぷっ」
私がそう思っていれば、何処からか吹き出す声が聴こえた。
それは、ルイスかと思いきや違う。
辺りを見回せば、その人物は簡単に見つかった。
誰もが動きを止めるなか、一人だけ肩を小刻みに揺らしている。
フードを深く被っていて、顔を視認することは叶わないが、隠しきれない紫掛かった髪、声色から、女性であることも推察出来る。
そして、漂う強者の風格。
人間とは思えない程に凄い……漂ってくるのは、神が持っている独特のオーラ──。
……ん!?
ちょっと待って!
なんで神にしか纏うことが出来ないオーラを纏った人間が此処に居るの!?
まあ、間違いないか……あれは私と同業者ということね。
「「「「「ひ、ひぃぃぃ~~!」」」」」
そちらに目を向けていれば、やっと状況を理解した大男の取巻き達は、大男を置いて一目散に逃げようと出口の方へと向かっていく。腰が抜けているのだろう。五人とも四つん這いで必死に前進している。
しかし、彼らが向かった先には、フードの女性が居た。
「駄目よ~、勝手に逃げちゃ……シャックレス」
彼女のその声に、私は鳥肌を覚えた。
心なしか、彼女が男たちに向ける視線がとても冷たいものに感じられた。
シャックレス(束縛)の魔法をかけられた男達は、見えない何かに体の自由を奪われ、たちまち身動きがとれなくなっていた。
「ぼ、冒険者の皆さん! 突撃ー!」
それを見ていた受付嬢さんのその一言によって、男達は冒険者の面々に取り押さえられ、この突然始まった騒ぎは完全に解決された。
「冒険者の皆さん、その六人の身柄は、共和国治安局に引き渡します。事態の収束に動いてくれた皆様、ありがとうございます!」
そうして、不足の事態は収束した……私以外の人達にとっては……。
「はぁ、良かったな、無事に終わって。でも、やり過ぎるなって言ったのに……あのパンチ結構な威力で打っただろ?」
「…………」
ルイスも駆け寄って来て、終わった感を出しているが……。
「ん? どうしたんだ?」
ルイスは、私の様子が可笑しいことを察して、そう訊ねてきた。
私がルイスの言葉に同意出来なかったのは、私としては、これで終わりではないから。
あの女性……きっとこれからあの人関係で面倒な事態が起こりそうだと、私の勘が珍しく警報を鳴らしていた。
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