49 始まりの始まり1
さ~て、いい加減にしてほしいのだけど……。
本日もいつも通りに二、三個の依頼を冒険者ギルドで受注して、たんまりと成功報酬を貰っていく。その過程で色々と大変なことは多いのだが、それでもこの地での生活がしていけそうだと感じ始めた。
気分よく依頼料を戴いて帰ろうとしたとき……ギルドの扉を塞ぐようにしてそいつらは立っていた。
はぁ、とんだ邪魔が……。
「おいおい、そこの嬢ちゃん。えらく別嬪さんじゃないか? そんな弱々しい男なんて放っておいて、俺達と一緒に新たな国を作らないか? あっ、受けようが、断ろうが勿論、ここを通るなら手数料は取るけどな! がははははっ!!」
目線の先には、よく喋っている背の高い饒舌な男、取り巻きみたいなのが五人ほど後でニヤニヤとしている。
服装は汚らしくて、とても冒険者とは思えない。ごろつきかそれに準ずる類のやつらだろうか?
「おい! 聞いてんのか? コラ!」
「煩いわね。冒険者ギルドという公共の場所でその汚らしい声を響かせないでくれるかしら、汚れが移るわ。あと、その獣じみた目で私を見ないでくれる? 止めないならその残念な脳みそを焼却してあげてもいいのよ?」
静かに冷静にそう言い返せば、一瞬何を言われたのか分からないのか、動きを止めたそいつらは、理解が追い付いてくると、途端に怒りだし、先程よりも大きな声で吠えた。
だいたい、私の言っていることは間違っていない。そもそも「新たな国を作らないか?」なんて口説き文句、頭の弱い子としか思えないわ。ほんとに意味が分からない。
それから、なんで先頭の男は髪が一本も無いわけ? そういうファッションなの? ちょっとどころか全面的にお断りよ!
彼らのその行動全てに吐き気を覚える。反射的にシッシッと手を振って帰れアピールをしていた。
「ちょっ……流石にあの人数は不味くね? サシャ、なんで挑発しちゃうんだよ。あいつら馬鹿そうだからきっと直ぐに斬りかかってきたりするぞ?」
ルイスは、私を咎めるかのようにそう小声で伝えてくるが、言葉の中に本音がちゃんと混じっている。ルイス、貴方も同罪よ。
さて、そういえば、最近は私ばかりが活躍していて、ミーナちゃんの株も私ばかりが上昇していて、ルイスはあんまりって感じなのよね。
よし、ここは気を利かせてあげようかしらね!
「ルイス……貴方の方が格好良いというところを見せてあげなさい」
「は? どういう──」
と彼が言い終わる前にだんだんと陰におおわれて、付近を照らしていた照明の光などが失われていく。中々突撃狂よね。既に顔を真っ赤にしてこっちまで接近しているのだもの。
そう、さっきの髪の毛が無い大男がすぐ後ろまで接近していたのだ。
……趣味の悪い斧を持って。
「おぉい!! 何をブツブツ言ってやがる! てめぇ、女だから下手に出てやってたのによぉ! そこのクソ男と一緒に殺してやるよ!」
よくある荒くれ者が言うセリフをさっさと告げて、重そうな斧を最大限に振りかぶっている。
仰角最大傾斜、振り下ろします! なんて声がどこからともなく聴こえてきそうだわ……。ルイスならそんなセリフ言いそうね。
勝手にそんなことを思っていると、ルイスが服を引っ張っている。
恐らく、あれが振り下ろされる位置から私を逃がそうとしての行動なのだが、なんでだろうか、ルイス……一目散に男の攻撃範囲外に避難するとは……臆病すぎでしょ!
折角ルイスが活躍出来る場面を作ってあげたのに……しかも、それだけの俊敏性があるのなら、男、六人くらい簡単に倒せるのにね。
そう、考えていれば、ギラリと斧が反射しているのが見えた。
男は既に臨戦態勢に入って、此方を殺すことを躊躇していない顔つき。
「死ねえぇぇぇぇ!」
「サシャ! ……あんま、やり過ぎるなよ」
私が男と殺り合うつもりなのを察したルイスは、諦めともとれる溜め息をついて、服の裾から手をパッと離した。
ルイスの最初の方の言葉はきっと周りにも聞こえるくらいの声量だったが、後半部分のは、声が小さく、まるで斧を振り下ろしている男のことを案じているかのような口調だった。
当然、私がこんなのに負ける訳ない。
ルイスもそれを察していた。
「分かってるわ……」
軽く返事をした直後に、斧は振り下ろされた。
ガギッ!!
斧はそのままギルドの綺麗なフローリングに大きな傷をつけた!
文字通り、ギルドの床に当たった。
……それだけだった。
「は!?」
まあ、男の方は現在起こった出来事が理解できていないだろう。
何故なら間違いなく私の頭に斧を振り下ろしていて、きっと飛び散る赤い鮮血を予想していたのだから。でも、私がそんな薄鈍い攻撃、当たってあげる訳ないじゃない。
「何処を見ているのかしら?脳だけじゃなくて、目まで腐ってしまいましたの?」
わざとらしく丁寧な言葉遣いで挑発すると、信じられないといった表情でこちらを向いてくる。
私は先程の位置から横に数メートル離れた場所に立っている。
「な、なんで……あの間合いなら確実に仕留められるはず……貴様! 何をしやがった!」
うん。確かに、普通ならあの間合いで十分対象に攻撃をぶつけることが出来るだろうが……魔法によって、身体強化をして、彼の斧が私に至るまでの時間をほんの少し遅らせる魔法も併用した。
最後に短距離高速移動の魔法を使用すれば、簡単に攻撃なんてかわすことが出来る。まあ、魔法が使えることが最低限の条件ではあるが……。
「そこまで驚くことでもないでしょ。私と貴方では、能力の差は大きいのだから。私が貴方の攻撃を簡単に避けられるのも当然なことでしょ?」
なんて、言ったとしても、彼は受け入れないのでしょうけど……。
私の思った通り、彼は細かいことを気にしないようにしたようだ。直ぐに迷いなき目が据わっていた。
床に食い込んだ斧を抜き、再び大男はこちらにその刃先を突き出してくる。
対峙する双方を見ながら、ギルドにいた人々は、大男に対し、皆して慈悲の目線を向けて思った。
また一人、また一人とひそひそ話を始め、大男の取巻きの人達も困惑した感じだ。
「「「御愁傷様だな……」」」
息ピッタリのその呟き、彼らの発した声は、微かに私の耳にも届いていた。
その御愁傷様……私に向けてじゃないのが気に食わないわ。私、一応女性なのだけど……相手、頭は寂しいけど、筋肉質の大男なのだけど?
矛盾している。そう思いながらも、私もまた大男に対して手の平を見せる。
「じゃあ、続き……しましょうか」
私の普段の声音と同じトーンで発した一言により、この空間一帯の雰囲気が殺伐としたものへと豹変する。正に一騎討ちの構図が出来上がった。
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