37 情報収集3
遅れて申し訳ないです!!
「すいません、少し良いですか?」
声を掛けると、先程まで神妙な面持ちで話していたのに此方の様子を見ると直ぐににこやかな笑顔を浮かべた。
どうやらいい人っぽい。
「ああ、構わないけど、見ない顔だね。もしかして旅人さんかい?」
そう尋ねてきたのは、先に気付いた男の方で、健康的な肌色で、色々と奇怪な物を持っているところを見ると、商人のような風貌。
ルイスも笑顔でそちらに向き、私も愛想笑いを作り出す。
「いえ、最近こちらで冒険者になった者です」
「そうかい、冒険者か……大変だろう」
「ええ」
「はい、それなりに大変ですね」
そうかい、そうかいと相槌を打って、その男は頷く。
それを見ていると、もう一人の小太りの話し相手だった男がゆっくりとしたテンポで尋ねてきた。
「それで? 何か聞きたいことがあるんだろう? なんでも聞いてくれ」
「ああ、俺達で良ければなんでもな!」
二人してそのような反応をしてくるのだし、悪い顔をしていない所を窺うと、なんでも答えてくれそうだ。見返りとか求められなくて良かった。
そんな風に私が感じていると、ルイスが私の代わりに口を開く。
「それでは、お言葉に甘えまして──。あの、王国の話をしていたようですが……何かあったんですか?」
一瞬二人が動揺したように見えた。
て言うか、ルイスさん? 直球過ぎませんか? もっと少し会話の流れでそちらに流れ着くとか無かったのかしら……。
「っ──、聞いていたのかい?」
健康的な方の男がそのように言葉を発した。
確信。何か良くないことがあったのが垣間見えた。
「その様子だと何かあることで間違い無いかしら?」
「ああ、そこのお嬢ちゃんの言う通りだ」
あっさりとそのことについて認めて、再び先程まで話していたような暗い顔になる。その顔は怯えているような、恐れているような感じであった。
「何があったんですか……?」
ルイスが尋ねると、空を見上げながら、思い更けたように語り始めた。
「実はな、まぁ、行商人から俺達も聞いたからなぁ」
「あぁ、確かかは分かんないけどな」
うん、なんか焦らしてくる!
「それで? 内容は何かしら?」
私が少し低めの声で催促をすると、ビクリと二人の肩が震えたのは気のせいだろうか? いや、気のせいかな。
確かにルイスも怯えたような感じだけど、ミーナちゃんは怖がることなくじっと私の服の裾を摘まんでいるもの。
ミーナちゃんが正義よ!
「えっと、最近何かと不幸が続いていて、それが王国の守り神で女神のサレーシャが王国を見捨てたって話でして」
その言葉を聞いたとたんに、私はまるで石のように固まった。
いやいやいや! 見捨てたって言うか、私としては、まぁ……その、少し外の世界に遊びに行きたかったとか、そういうのもあって……いや、私が王国を離れたら自然とそういうことになるって分かっていたけど! でも、でも! これだけは言わせてほしい。
そもそも婚約破棄したのはあっちの方だから! それで私が国を見捨てたとか、被害妄想が過ぎるから! ……ていうか、私が女神って、よく探しに来なかったわね……。
いや、今から探しているのかも……。
「そんなことが……」
「めがみさま……」
驚きの表情を見せているルイス、ああ、罪悪感が……私が女神なんですが……気付いてませんよねー。加えてミーナちゃんのその悲しそうな顔が尚私に問い掛けてくる。
女神として失格なのでは? と。
「驚きね……」
一応同意しておく。
いや、決して罪悪感で自白とか無いから。
無いからね! (念押し)
私のそんな葛藤とは別に、ルイスの顔色はだんだんと曇っていくのが横目から推察できた。
一瞬私が女神なのがばれたのかと心配になったが……。
「そんな筈は無い!! 王国の呪いは……あっ」
しかし、私の考えていたルイスの反応とは違ったものを見せてきた。もっと、そうなのか……なんて感じに呆けたままでいるかと思っていたが、それを確定で否定するような口調であった。
まるで何かを知っているかのように。
やっぱり私が女神って分かってる? それとも女神が離れていないと何らかの信じるべきことがあるのか? 前者の場合は、私が女神って知ってたらここまで無礼な態度を取り続けないかな。うん。
消去法で後者かな? 選択肢、今の考察で二つしか提示しなかったけど。
「ルイスお兄ちゃん?」
ミーナちゃんは急に大きな声を出したルイスのことを心配そうな目で見つめている。
「おいおい、一体どうしたんだよ兄ちゃん。血相を変えてよ?」
「ああ、驚いたぜ……」
ルイスの気迫には、二人の男に心配の面持ちを隠しきれない。
私としては、暫く色々と考えを巡らせていたために、そこまでの状況把握を出来ていなかった。
さて、私も周りに同調しますか……。
「ルイス? 貴方何か知っているの?」
「いや、なんでもない……忘れてくれ、すまん」
安直にそう聞いたが、やはり何かが引っ掛かるような返事だった。同調したつもりが、返って私まで気になる結果となった。
「まぁ、いいか。お前たちも王国に行くことがあれば気を付けろよ。もしかしたら不幸が訪れるかもってな」
商人の小賢しい探り合いはご法度。
そのようなことわざがあるように、健康的な肌色の男は、それ以上ルイスの言葉に続きを求めてこなかった。
それから、少し雑談を織り交ぜながら、私達は彼らと話を終えたのだった。
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「今日は楽しかったぜ。また何か聞きたいことがあれば聞いてくれよ」
「ええ、ありがとうございます」
「おじちゃん、ありがとう!」
「……………」
会釈をしながら、私とミーナちゃんは二人に対して別れの挨拶を告げたのだが、ルイスは口を開こうとしない。
「じゃ、またな」
「はい」
それを最後に、二人は行商が盛んな市場の方へと歩みを進めていった。
それを見送りながら、私は思う。
ルイスは何を感じて、何を知っているのかと──。
情報収集は、結局これっきりで断念した。




