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31 宿での一波乱

遅れてしまって申し訳無いです。

今後も忙しいので、毎日出せないと思いますがご了承下さい。

 宿に泊まることに成功した私達なのだが、当然ながら私とルイスは性別が男と女で違う。今までは、野宿だったので、然程気にならなかったのだが、宿となるとそれはそれは気になるのが部屋割り。

 一部屋で二人泊まるのか、二部屋で一人ずつ泊まるのか。

 私としては、一人ずつでいきたいのだが、作り出した貨幣が一部屋分しか無くて、次に作成出来るまでクールタイムが掛かる。その時間およそ六時間。


 貨幣と言う至極重宝する物はそうそう簡単に沢山作成出来るわけでは無かったのだ。制限付きなのはお約束なのだ。

 大体、無制限に貨幣を作ることが出来たなら、私は一人でもたくましく生きていけるし、なんなら事業でも立ち上げて、一攫千金とかも狙える。

 それが出来ないからこそ、この世界は良く出来ている。


「ルイス、今顔を向けてきたら即魔法を撃ち込むわよ。分かっているわね?」

「わ、分かってるから、物騒なこと言わないでくれ!」


 指をビシリとそちらに向けると、ルイスは、おめおめと弱気な声を出す。


「かなり真面目な話なのだけれど……」


 結局のところ、私達は同じ部屋に泊まることになった。

 現在、私が着替えをしていて、ルイスが逆の方向を向いている状態。振り向いたら殺すという意味を含んだ言葉は、私的に本気の言葉だった。


 ルイスの顔が赤くなっているのには気が付いており、私の方も多少は顔を赤くしているのだろう。宿ならではのイベントだが、この場合のイベントでは、ルイスが振り向いた瞬間にバッドエンド、死亡エンドなので、お約束などというものは有りはしない。


 空気感が若干怪しめになってきたところで、堪え切れなくなったルイスは無理矢理な感じに「なぁ」と語りかけてきた。


「それより、明日からはどうするんだ? 取り敢えずは冒険者になった訳だから。クエストとか行くのか?」

「 そうね、お金も稼いでいかないと生きていけないものね。あっ、もうこっち向いても良いわよ」


 さらりと碧髪を靡かせながら、ぶっきらぼうにそう言う。


 嬉しいような、残念なような複雑な面持ちのルイスは、私の方へ恐る恐る向き直る。

 着替えが終わり、寝巻き姿の私が彼の目に入ったのか。瞬間にルイスは更に真っ赤になって、視線を床に落とす。

 

 何がしたいのか? と疑問に思っていると、ルイスはその気不味い空気を払拭しようと急にバッと顔を上げた。


 うん。まだ顔が赤いわね。


「えっと、じゃあ、明日からクエストの受注をしよう。簡単なのなら俺達でもやれると思うし、それで良い?」

「そうね」


 もはやたじたじなルイスの声に、何の疑問も持たなかった私は、ただ素っ気ない返事を返して、ベッドの上に腰を下ろした。

 二人が眠れる位に大きなダブルベッド、枕元には枕がちゃんと二つ用意されている。


「そろそろ、寝ましょうか。明日も早くなりそうだし」

「そ、そうだね。……え? 俺もベッドで寝て良いの?」


 いや、私だけ寝るなんてどんな傲慢貴族のお嬢様よ! むしろ、私的に床とかで寝られるほうが罪悪感に蝕まれる。いや、元々令嬢ではあったけれど……。


 取り敢えず、私は酷い女ではないので、目の焦点が合っていないルイスにちゃんと説明を施す。


「いいわよ。私だけなんて不公平じゃない」


 ぽんぽんとベッドのシーツを叩くようにすると、ごくりと唾を飲み込むルイス。

 一応念をおすけれども……


「言っておくけど、おかしなことはしないでよ。うっかり殺っちゃうかもしれないから」

「またさらっと、恐ろしいこと言うし……ベッドで寝づらいよ」


 顔を隠すようにルイスは毛布に包まる。


 そんなやり取りをしながらも、私も疲れていたからなのだろう。毛布の中にほんの少しだけ潜った瞬間に睡魔が意識を掻き消そうとし、あっという間に眠りこけてしまった。


 灯したままの蝋燭(ろうそく)も、やがて全て溶けて、糸のような煙を最後に掻き消え、共和国初日はゆっくりと幕を閉じた。

 

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