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25 嘘と涙 ハロルダ王子視点

 禁書庫では有力な情報がイマイチ手に入らず、外からの新たな情報も届いていない。

 渦中の彼女は一体どうしているのか?サシャのことを考えてしまう。俺があの時、王子として彼女のことを……。

 考えてもすでに後の祭り、真相を確かめるべく、俺は二人付き添いの従者を連れて、ある家に出向いた。

 そう、彼女を……サシャに嫌がらせを受けたという男爵令嬢のライナ・ククルの元にだ。

 彼女がサシャをこの場から居なくした元凶の一つであり、俺と同じ罪を背負う者。彼女には色々聞きたいことがある。


 そうして俺は、ククル男爵家の家の門を叩いた。


「突然の訪問で申し訳ない」

「あ、いえ……それは大丈夫ですが、どうかされましたかハロルダ王子。確か、公爵令嬢のサシャ様を探しているとか」


 家の主であるククル男爵が出迎えてくれた。ほっそりとした体つきに高身長、やや目尻に隈が出来ていることから、最近は苦労していると伺える。

それに、この様子を見る限りでは、娘から何も話を聞かされていないようだった。


「その、娘のライナさんは在宅中か?」

「はい、居ますよ。ですが、この頃は不幸の連続でライナは部屋に引きこもってしまって……」

「そうですか……」


 どうやら彼女の元にも不幸な出来事が起こってしまったらしい。

 さて、どうしたものか。彼女には色々聞きたいことがあるのだ。だから俺は、


「すいません、娘さんのところまで案内してください」


 そう言うと、少し戸惑ったように目の焦点が合わなくなっていたが、それでも渋ることなく了承してくれた。(二つ返事とはためらうことなくすぐに了承すること)







~~~~~~~~~~~



「ライナ、王子がお見えだ。部屋に入るぞ」

「…………」


 ククル男爵がそう扉に向かって呼び掛けるが、返事は無く、そのまま合鍵で男爵は扉を開けた。


ガチャリ


 鍵を捻ると、金属が外れたような音と共に、ドアノブが回るようになる。非礼を承知で、その扉の先に足を踏み入れた。


「ライナ嬢……少し話を──」

「分かってるわよ!! 私が悪いのよ!!」

「おい、ライナ」

「私が全て悪いのよ!! もう放って置いてよぉ!!」


 話し掛けた瞬間に鼓膜が危うく破けてしまいそうなくらいの大声を上げて、ライナ嬢はベッドの毛布を頭から被った。

 ヒステリックなその声に病的なこの部屋の淀んだ空気、こんなところに引きこもっているなんて、彼女のことがかなり心配だ。

 ベッドに近寄ると、足音に反応して、「来ないで!」と言われる始末。

 これは末期だな……。

 そう思ってしまうが、やはり聞かなければならない。


「なぁ、ライナ嬢。正直に答えてくれ。彼女は、サシャは本当に君に対して嫌がらせをしたのか?」

「…………」

「もう一度聞くぞ、あの時の言葉に嘘偽りは無いのか?」


 毛布の中からは啜り泣くようなそんな音が密かに聞こえてきて、彼女は溢すように語り出した。


「あの時……私は彼女が邪魔だった。……私は王子が好きで……だから、嘘をついた。彼女に嫌がらせ……、でも……今は後悔してる。私は死んだ彼女に呪われたのよきっと。私は殺されてしまうんだわ」


「いや、それは違う」

「えっ?」


 俺のその話への否定を耳に通した途端に彼女は毛布を床に落し、涙で赤くなった顔を現した。

 その顔には俺に対しての希望を含んだ表情が少なからず伺うことが出来た。

 しかし、俺も彼女に伝えなくてはならない。

 俺が否定したのは、別に希望的なことでも何でもなく。別の不幸だということを──。


「実はサシャは、女神サレーシャの生まれ変わりの可能性が高いんだ」


 先程までの、彼女の顔が再び歪んだように見えた。

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