21 悲劇から ハロルダ王子視点
サシャが居なくなって数週間が過ぎた。
初めの頃は、彼女の手掛りを懸命に探し、漸く彼女の魔法の痕跡を発見。
そんなことで喜んで、俺はまた愚かなことをしていたのかもしれない。
彼女の魔法の痕跡があった場所で野営をし、次の日から再び捜索を再開しようと目を閉じた。
しかし、あの時。それは起こってしまった。
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次の日、目が覚めてみれば、外からは啜り泣く声が聴こえてくるではないか。
何事かと思い、テントから出てみると、それは正に地獄絵図と相違無い光が目に突き刺さった。
破れた無数のテントからは、血痕がそこらじゅうにべっとりと付着し、骨や肉が引き裂かれて、その辺りに散らばっていた。
見ているだけで吐き気を催してくる。
「おい、これはいったいどういうことだ!」
啜り泣く顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにした太った騎士に事情を尋ねる。しかし、その男はうんともすんとも言わず、ひたすらに泣き、首を振って状況の把握が出来ていないと伝えてきた。
既に生き残っている者とすれば、襲われていないテントに眠っている騎士達だけだろうか。
それにしても、どうしてこのような大惨事に対して悠長に眠っていられたのだろうか。
理由は、簡単だった。
「ハロルダ王子! ご報告申し上げます」
「何だ?」
「あの惨事、何故みすみす見逃していたのかと疑問に思い周辺を調査したところ。昏睡薬の原料となる花が自生しておりました。
丁度この頃花粉が飛び交うような時期かと。それが偶々今日だったという訳です。
花粉を吸い込んだ人間は、滅多に目覚めることの無い、深い眠りにつくと言われています。しかし、ここらの野性動物はその抗体があるようで、つまり、私達は眠ってしまおうとも、動物は活動を継続できる。
眠った私達を通り掛かった動物が襲撃したということです」
一通りの解説を織り混ぜて状況を把握させてくれた騎士は、やがてその顔を伏せて、歯噛みした表情に変わった。
「申し訳ありません。私達がそのような調査を事前に行わなかったばかりに、このような損害を生み出してしまいました」
「いや、お前の責任ではない。全てが指揮を取っていた私の責任だ。捜索は中断。生き残った人員を集めて帰還する」
「了解しました。準備を整えます」
その言葉を後にして、目の前から早々に姿を消した。
準備を整えて、帰還に備えた者は、昨日の凡そ三分の一程度、騎士団は大損害を被って、大人しく撤退を余儀無くした。
これも彼女を失ったこの国に降りかかる悲劇なのだろうか。
そのような問いに、答える者も答えられる者もその場には居ない。
「なんで、なんでこんなことに……」
王宮に戻った俺は、この悲劇の連続に戦慄した。
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まさか、このようなことになるとは……。
そうして今のこの時まで、俺は何もすることが出来ないままに日にちだけが無情に飛び去った。
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