15 平原での戦闘1
平原をコレット共和国に向けて歩いている時にそれは起こった。
「なぁ、そろそろ暗くなってきたし、休まないか? 丁度もう少し行ったところに目立つ木もあるし、あそこで休もうぜ」
くたびれた声が右の耳を撫でた。
「だらしないわね。でもそろそろ頃合いかなと思っていたし、良いけれど」
「よっしゃっ!!」
彼は一度ガッツポーズを決め込み、落ち着いたと思ったら今度は目線の先にある木まで走っていってしまった。
その分の体力が残っているのなら、先に進めるのに……。なんてことを思いながらも、私は後ろから落ち着いた面持ちで着いていく。
「この木で良いの?」
「これだよ! はぁ~、やっと休憩が出来るよ! 半日歩きっぱなしは流石に愚の骨頂だったわぁ」
「そんなに疲れないはずだけど……」
「それは人間ではない!」
馬鹿なことを言いつつも寝転がり、彼は一時の休息に酔いしれる。
私も仕方なくといった感じに彼に習って腰を落とした。
ここから見える景色としては、ひたすらに草原といった感じだ。草だけ。
唯一例外が遠くに見えるコレット共和国の高い建物。それだけだ。
もし、その目印が無かったとしたら、こんなに広大な草原に居る人間は発狂する人も出てきそうだ。例えば横の男とか……。
女神である私としては、そのようなことは気にならない。
普通はここから一生抜け出せないのでは?なんてことを考えたりするかもしれないが、それはあくまで人間の物差しで測られたもの。
女神からしたら、何時かは抜け出せるものだし、そこまで怖くもない。歩き続ければ抜けられるなんてことは、数千年の長い経験で学習済み。
だから、女神の私は特に何も感じない。
彼の言っていた「人間ではない!」も、強ち間違っていない。
特に考えることも無かったからか、そのような要らない意見を脳内で自己完結し、変わらず辺りを見回した。
辺り一面に草原が広がる。
草、草、草、草、草、草、草、草、草、草、草、獣……。
……獣?
「ルイス、前方に何か居るわ。多分動物。食べられちゃうかも」
そう言うと、寝ていた筈のルイスは華麗に飛び起きて、遠くをじっと見詰めた。
「えっ? それはどこ?」
「貴方が見ている方向に三頭居るわ。多分肉食の恐ろしい獣だと思う」
「大きさは?」
「遠すぎてよく分からないけど、私達の二倍はあるかしら? あと、こっちに既に気が付いてるみたい」
腕を使ってその大きさがいかほどかとジェスチャーすると、彼は再びその方向を見据えた。
「どうする? この木に登る?」
そう言うと上方にある太く、高い木を指差す。
そのまま、登ろうかと言うようにがしりと幹に抱きつく。
「貴方は登っても良いけど……私は下に居たいわ」
「高所恐怖症ってやつ?」
「動けないところに居るのは落ち着かないの」
「そうですか……」
私が登らない意思を伝えると、彼は手をかけていた木の幹から手を離し、こちらに戻ってきた。
「何? 登らないの?」
「男が木に登って怯えて、女に戦わせるとか流石に恥ずかしい」
「良いじゃない、多分私の方が貴方より強いし」
実際そうなのだが、やはりプライドというのが、彼にもあるのだろう。
それを認めながらも手頃な木の枝を拾って剣を持つかのように構えた。
「それじゃあ、足手まといにならないでね」
「そっちこそ、俺の後ろに隠れても良いんだよ?」
遠慮するという意で手を振ると、彼はお茶目に首を傾げながら苦笑い。
鈍い振動が地面を揺らしはじめて、意識をそちらに注ぎ込んだ。
「さて、やるわよルイス。そしてそれを今日の晩御飯にするわよ。お腹が空いて死にそうだわ」
「あっ、目的それかぁ~、なんか今逃げなかったこと後悔したわぁ」
惚けたことを言っている場合ではない。本当にそう思う。
何故なら既にその動物は彼の視界でも捉えられる位に近付いて来ているのだから。
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拙い文と感じてはいますが、修正とか入れていくのでよろしくお願いします。
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