14 森を抜ける2
「森を抜けたわ!」
駆け出す一人の凛々しい私は軽やかにくるりと一回転、小走りで着いていくルイスは微笑ましいものを見たように、口角を吊り上げた。
「あんまり走ると転ぶぞ」
「ルイスじゃ有るまいし、そんなこと起こらないわよ」
「発言の所々に刺が隠し込まれているのは俺の気のせいなのか!?」
私達は森を抜けて、大きな大草原、アラル平原に出た。
見渡す限りに地平線が続いているが、ただ一ヶ所に人工物のような建物が遠くに見えた。
「あれがそうかしら?」
そう言って遠くに見える建物に向かい指を指す。
無論、あれとは向かうべきコレット共和国のことで、名称を言わずとも二人の間では意味がちゃんと伝わっていた。
「ああ、あそこがコレット共和国。見ての通り、このかなり離れた距離からでも建物が目に入るくらいに凄い都市がある。あの都市はコレット共和国でも三番目に大きい都市なんだよ」
どこか見惚れる位にその都市から目を離さないルイスは嬉しそうに語らう。
「なら、このまま進めばいずれは到着するってことね」
「まぁ、いずれは……な」
含みを持ったその言葉には、どのような意味が含まれているのか?つまり、その、距離のことだ。
「まだ、遠いのね」
私の問い掛けに、ルイスは同意するように頷く。
「ああ、凄くな」
「でも、見えてきて良かったわ。目標がある方がモチベーションも上がるわね」
かの都市との距離が遠いという事実をを確認するが前に聳え立つ都市の一角をみすえながら、私とルイスは森を歩いていた時よりも、軽やかな足取りがとれている。
今、魔法でスピードバフを付けていれば、恐らくはとてつもない速さで移動を出来るだろう。移動速度過去新記録を更新するほどに。
しかしまぁ、私にスピードバフなる魔法は扱えず、生まれて(女神として)この方強化魔法なんてものを使ったことが無かった。
私の戦闘力の地の部分は四人の女神の中で最高位で、他の女神が魔法で身体能力を上乗せしたところで、赤子の手を捻るかの如くに捩じ伏せたり出来るのだ。
無論それは女神の姿での話で、今の私は多少能力が高い人間程度。生まれ変わると決めたときから少しずつ練習しとけば良かった。
「歩いたらどのくらい時間がかかるかしら?」
「ん~、どうだろう?俺もあそこまで行ったりしたこと無いし、何より行ったりしたところで歩くとか馬鹿なことはしないしなぁ。
多分考えられないくらいにかかると思うよ。でも、サシャがずっと走ってれば案外早く着くんじゃないか?その脚力なら余裕かも」
聞いたが全く当てにならない。
「なら、貴方を置いて行こうかしら? 私一人の方が早く着くと思うの」
小悪魔的な表情でそのようなことを彼に言うと、「勘弁してくれ」と。私は女神だから、小悪魔的な存在では無いけど、これくらいのおふざけは良いわよね?
「あっ、あそこに馬がいる!」
「えっ! どこに居るの? 早く教えて頂戴」
「嘘ぴょーん!! 馬じゃなくて岩でした!」
私がからかえば、仕返しをしてくるのもルイスとのやり取り。この数日で彼との接し方も確立し、一々それに対して噛み付かなくなった。
──お互いに。
「無駄話しないで、足を動かしなさい」
噛み付かないなんていう事実は幻想であった。
「お前はお嬢様か!? 大体仕掛けてきたのはそっちからだ!」
「心外な、私は少し前までお嬢様だったのよ!」
「言い訳お疲れ! 今はお嬢様じゃなくてただの平民だろ。もう少し人のこと考えろよ」
「貴方こそ女性に対して、脚力がどうのと言うのはデリカシーが欠損してるんじゃない?」
ふんぞり返り、腕組をするルイスに対して、サシャも不満をぶつける。
その後も痴話喧嘩が……いや、普通に言い合いが続いた。
大きな平原にポツリと、互いの顔を伺いながら声を上げる二人の人間が歩く光景は、正しく仲の良い冒険者そのものに見えた。(私の自称)
その言い合いを続けている内にルイスは一つの心理に至ることに成功した。
「なあ、サシャ?」
「何かしら?」
「……なんで、こんな不毛な言い合いしてるんだ?」
「貴方がしたいからでしょ」
言葉足らずの私達は、草を掻き分けながら歩みを進め続けた。
「いつから俺はそんなことが好きになったんだよ!」
彼の言葉には、違うという意志が見えた。
「知らないわよ。私は貴方が突っ掛かってくるから、仕方なく相手をしてあげているのよ。感謝して頂戴」と言いながらサシャは構うことなくどんどんと前に進んでいく。
そんな賑やかな会話しながらも、私達は着実にコレット共和国へと歩いていく。
距離としては、まだまだ長いものの、既に目標は確認している二人にとって、その場まで移動することは、別に苦痛でも何でもなかった。
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