13 森を抜ける1
移動して数日が経過した。
結局馬車で高速移動計画は、馬が居ないという致命的な問題から断念。
素直に歩いての移動だった。
歩かないという選択肢は無いので、ひたすらに休憩と移動を繰り返していた。
変わらない風景、木々が鬱蒼と生い茂る。
「ん、木が無くなる」
そう溢したのは文字通り、道の先に木々のトンネルが終わりを告げるのが分かったから。
「ああ、やっと森を抜けたな。お疲れ」
ルイスは疲れた声ながらも、労いの言葉を投げてくれた。
「貴方もね、散々疲れたとか、もう無理、死んでしまう、お前の体力は無尽蔵かとか言っていた癖に。よく私に付いてこられたわね。おめでとう」
「ああ、ありがとう。皮肉を言われてるのはよく分かった」
微妙な表情のまま私の言葉を受け流すように、適当な感じで返答するルイスは、こちらに視線を移すこと無く前を向いたまま。
歩く速度を少し速めて、距離を離されたので、こちらもそれに従うようにペースを上げた。
「怒ってる?」
聞いても反応が無い。
不貞腐れている程度かな?
そこで、ふと気になったことが頭に浮かんだ。それとなくルイスに聞いてみた。
「……ねぇ、ルイス。貴方は何で家を追われたの?」
そう聞くと、彼の耳が動くのが見えた。
「なんでそんなこと聞こうと思ったんだ?」
「ただの興味本意、私も追われた身だから……」
すると彼の歩く速度が著しく落ちるのが感じられた。
そして、ポツリと言葉を漏らした。
「実は追い出されてなんかいないんだ。本当は、家に居られなくなったから……襲われたんだ。村ごと変な奴らに……」
その声は真剣にその者達に向けての憎悪を含んでいた気がする。
「いや、逃げて良かったと思ってるよ、でも、俺だけ王国に行かなくて、コレット共和国を目指してきたんだよ。俺だけ別の国を目指して……」
悔恨の念が彼の言葉を重々しい物へと変えていた。空気も自然と淀みだす。
「一応忠告はしたんだよ。王国にはなんか嫌な雰囲気があったから、王国に行くのは止めて、共和国の方にしないかって、でも、母さんと妹はそんなに体力が残ってなくて、仕方なく、俺だけ共和国に行って、皆を迎えに来るってことになって……」
止めどなく話した彼は一呼吸置いてから、再び口を開く。
でも、そんなの出来るか分からない。彼はきっとそう言いたかったのだと思う。
彼は言葉を続けた。
「一人で共和国に向けて歩いていた。そんな時にお前を偶然見つけた。最初はなんであんなところに寝ているのか訳分かんないって気持ちだったけど、所々破れたお前の服を見て、なんか親近感が湧いたんだよ。んで、見とれてたらお前がむくりと起き上がったから慌てて木陰に隠れた。でもまさか、気が付かれるなんて思わなかったから、声をかけられた時は凄く動揺したよ。まあ、それからはお前と一緒にここまで来た、今まで通りの感じ。なんてこと無い俺の身寄りの話だよ……」
話すべきことを話して、スッキリしたような顔のルイス、それでも、家族と一緒に行けなかったことは案外選びたくなかった選択だったのかもしれない。それでも、彼は何かを感じて王国に行かなかった。
……え、罪悪感すごいんだけど。
私のせいですか?
取り敢えず、私は彼に対して悪いことをしたかもしれない。私が国を護っていれば、こんなことにならなかったのかもしれないのだから。
今更何か出来ることなど私には少ない。
今の私が彼にしてあげられることは、
「……お疲れ様。大変だったわね」
そのひと言を彼に対して与えるだけ。
私に出来ることなど、その程度のことだけ、彼の行動を認めてあげることで、少なくとも、彼の心は救われるかもしれないから。
「ふっ、慰めるなんて似合わないな」
「うるさい、黙ってれば優しく接してあげてたのに。さっさと行くわよ」
ルイスの笑った顔は、それはそれは空元気にも見える。
「ねぇ、私の話も聞いてくれるかしら?」
返事は首を縦に振った静かなものだった。
私は彼に対しての、今までにあったことを全て話した。
無論、女神であることだけは伝えてないが……。
人に何かを話すことで、気持ちが楽になるというのは、本当らしい。
抱えてた問題を肩代わりしてくれるみたいで。
それが同様な体験をしている人なら尚更で、本当に心が浮くようなものだった。
──いつか、彼の家族に手を差し伸べよう。私はそう心に誓った。
身寄り話を彼にし終えると、丁度森の木々が途切れる所まで到達していた。
森を抜けると、今までの日光よりも一段と光が強く感じられる。地平線、空と地の境目には、一筋の線が走る。
大きな木々がほとんど無い、広大な草原が見渡す限り広がっていた。
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