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1 prologue


 婚約破棄とは、どのような時にされるものだろうか?

 汚職? 浮気? 病? いや、現実はもっと残酷なもの、冤罪によって婚約破棄される者も存在する。



 私、サシャ・フリークは婚約者であるハロルダ王子に婚約破棄をされた──。


 理由は私が他の令嬢に対して嫌がらせをしていたから……。


 しかし、そんな事実はどこにも無いし、実際私は誰にも嫌がらせをしたこともない。

 私がそのような不利益になりうることをするわけがない。我が身は愚か者ではないと信じている。


 けれども、ここではやったか、やってないかは然程重要なことではなく、相手がどう捉えるかがもっとも重要なことだった。

 説得力の差、それらによって、無罪は有罪に、有罪は無罪へと早変わりする。


 

 私の場合、それは冤罪以外の何ものでもなかった。しかし、私は完全に悪役に仕立てられ、ハロルダ王子から「極悪令嬢」と、そう呼ばれるようになったのだった。


 ハロルダ王子は文字通り一国の次期国王候補の一人。その発言の影響力は大衆を動かすほど、私がこの国中から悪く言われるのも時間の問題。彼は正しくこの王国でのインフルエンサーなのだ。


 それによって居場所は更に無くなることになるだろう。

 勘弁して欲しいわ……。

 

 窓越しに外に目をやる。


「……さて、どうしたものかしら」


 ポツリと呟いた掠れるような声の独り言には、誰も反応せず、反応をする人もこの場には存在しない。

 誰も居ない一人だけの小さな一室で、疲れを含んだため息をついた。


 悪評がそこらじゅうに広がると、父は私の悪評が家名を傷付けるという理由から、私を勘当。身一つで屋敷から放り出された。

 母もまた、私を庇うことはせずに、目を伏せるようにして黙認していた。


 無駄に庇ったりしなかった母の判断は賢明なものだと、そう評価できた。


 父に関しては……これはもう責めようが無い。むしろ感謝している。

 何故なら全て私の望んだことをしてくれただけだから──。

 お母様との仲が拗れなければいいのだけど……。

 軽く両親の仲を心配しつつも、木造の壁に空いた隙間から吹き付ける風に身を震わせる。


「……ここは、寒いわね」


 今居る場所は今にも朽ち果てそうなボロボロの空き家で、人も寄り付かないような少し高い丘の上にあり、自然と吹き付ける風も冷たいものだった。


 王国にもスラム街のような場所があるのだが、此処はそれとは違い人も居ない。ただの捨てられた過去の遺物。


 既に体は冷え、真っ白だった足は、土で汚れて、装飾の剥がれかけたドレスは所々破れている。

 艶々だった自慢の碧髪も、いまではボサボサになってしまった。


 風によって軋むボロ屋の天井を見上げ、再び踞って、そうして眠った。











~~~~~~~~



 翌朝、目が覚めるとすぐ上にはボロボロの天井。埃が空気中に舞っているのが確認出来る。そうだ、もう屋敷ではないのだ……と、再度認識してむくりと体を起こす。

 軽く自身の碧眼を指で擦って、のそのそと立ち上がり、私は何気無しに呟いた。

 

「そろそろかしらね」


 割れた窓越しに都の方に目を移すと、何やら町には大火災が起きていた。

 

 ぐらりと床が揺れて気持ち悪い。地震だろう。今にも崩れそうなこんなボロ屋が更に崩れそうだからそれは止して欲しいと感じる。


 外は既に地獄のように変貌している。

 屋敷から持ち出した一日分の水分を体に流し込んでから、殆んどない荷物を纏める。


「……影響が出始めているわね。私が加護を解いたとたんにこれって……まだこの国は呪われているのね。流石にここまで年数も経てば呪いも無くなっているかなと思ったのだけれど」


 悠長に欠伸を一つ、それから服についた埃を軽く払い、おんぼろの扉に手をかけて、ドアノブを回す。錆び付いているからか、開けるのに少し苦労した。


 鈍い音を立てながら、ゆっくりと扉は開く。

 そして、目の前にはうっそうと茂った腰の高さにまで成長した雑草が立ちはだかる。

 

「避けなさい……アボイド」


 投げやりな感じにそう発すると、そこにあった雑草はみるみる横に避けて、一本のほっそりとした道を作り出した。


 開拓の魔法。基本的な術式だが、私の使ったくらいの効果範囲を出すには、かなりの修練が必要になるはずである。しかし、それは人間に限る話。私は、違うから。


 何事も無かったかのように、ドレスの裾を軽く摘まんで私は拓けた道に向かって歩き出した。


 歩みの速度を少し上げながら、足早に森の方へとずんずん進んでいく。


「さて、この国はもう終わりかしらね? これからどこに行こうかしら?」


 冷ややかに放たれたその言葉には、既に情などは微塵も含んでいない。どこまでも事務的な声色でそう言い放った。

 少しだけ嘲笑うかのように都に一瞬目を向けた後、直ぐに目をそこから離す。


 もう、未練は既に断ち切った。


 ──私はこの国から手を引く。


 私の名前はサシャ・フリークいや、それも過去の話。私は今、家名のないただのサシャとなった。


 私は公爵令嬢として生を受けた。


 父にも母にも産んでくれたことにはとっても感謝している。

 しかし、勘当をされた今では、今後、両親に会いに行くことはないのだろうと思う。


 結論から言ってしまえば、私は捨てられたことになる。公爵家の娘としての地位を全て失った。まあ、勘当の件に関しては、本当に色々と手を回していたが……。それでも私には十分に国から出ていく理由が出来た。

 

 だから私がこの国を捨てたところで、誰も文句は無いわよね?


 例え私が、この国の守り神であったサレーシャの生まれ変わりだったとしても──。

 



 私が去ったその日から、その国には不運な出来事が更に頻発して起こるようになった。

 

 国は大混乱に陥り、王国は衰退の一途を辿る未来も見えてくる、ただ、そのようになるのはきっと、大分先になることだろう。


 公爵家の者には全く被害が出ないという不可解な現象、これもサシャの力によるものである。


 

 サシャ・フリーク


 フリーク公爵家の令嬢。

 ハロルダ王子に婚約破棄をされて、その汚点から家から勘当される。

 女神なので、特に堪えない。

 王国に掛けていた加護を解除した。



 ハロルダ王子

 

 王国の第一王子。

 男爵令嬢の言葉に踊らされて、サシャに婚約破棄を叩き付けた。

 サシャのことは然程好きでは無かったが、不幸が続くために、彼女を国に引き戻したいと考えるようになる。



 フリーク公爵


 サシャを勘当し、彼女を追い出したフリーク家の主。

 娘を溺愛していたはずなのだが、追い出すには何か理由が?

 不幸の連鎖が始まったが、公爵家には全く不幸が訪れない。

 



面白い、続きが気になるって思って頂けたら、ブクマ、評価、感想などの応援をよろしくお願いします。

 

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