話すは離す
「ありがとうございました。ご気分はいかがですか?」
スタッフさんが淡々と言う。
気がつくと他のグループの利用者までも中河内さんの話を聞きいていた。
みんなと意見が合わない、片付けができないなんて誰にでもある事だろう。
でももしそれが自分も気づいていないだけの障害だったら?
いつの間にか周りの人を傷つけて、家族や友達が誰もいなくなってしまっていたら?
子供の障害を疑い検査に付き添ったところ、親にも発達障害の可能性があるとわかることもあるらしい。
発達障害と診断されなくとも、グレーゾーンの人はたくさんいるそうだ。
「大丈夫です。話した方が楽になる時もありますし。」
「そうですね。『話す』は『離す』自分の悩みや弱みを口に出す事で誰かから助言をもらえますし、1人で悶々と悩むよりもスッキリできます。グループトークでは人の意見を否定せず、共感する事に重きを置いているので、話したくなったら話してくださいね。
重たい話題になってしまったので、どなたか今度は明るい話題を提供してくださる方いらっしゃいますか?」
「次、僕話しますよ。明るいかは自信ありませんが…」
銀山さんが遠慮がちに話し始める。
「過食症の治療兼ダイエットの為に合気道を始めました。
相手の勢いを自分の力にするので、あまり力のない女性の護身術にも活用されているスポーツです。」
「へー空手みたいなやつ? 見てみたいかも。」
(血の気の多い)桜屋敷さんが食いついた。
「いやぁ…女性に手を出すのはちょっと…。」
戦争は免れた。
「えー残念…。 あ、じゃあ行方さん。」
「な、なんすか?」
「一発、身体貸してくれないかしら?」
「絶対イヤっすよ!!」
そりゃそうだ。
「…わかりました。僕が引き受けましょう。」
「「「「?!」」」」
突然、道免さんが名乗りを上げる。
「そんなのダメ! 道免さんがそこまで身体を張る必要ないわ!」
「そうです! 道免さんだと僕もちょっとやりにくいし…。」
桜屋敷さんと銀山さんが止めに入る。
「みなさん…お役に立てずすみません。」
細身の道免さんの男気に胸を打たれたシーンだった。
「ねぇ、俺は?」
行方さんを除いて。
その後どうなったかというと、銀山さんが怪我の無いように(←重要)護身術を桜屋敷さんに教え、行方さんは難を逃れたのでした。