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「菊の花園」をヴァルク遺跡の入口に待機させ僕たちは遺跡内へと入った。探索は4時間と決めてあるのでそれを過ぎても帰ってこなければ救援と偵察をしてもらう手筈となっている。つまり僕たちの後ろは彼らにかかっているのだ……彼らが後ろにいることが不安だ。とち狂って襲ってきたりしないかな。まあ、その時は先にジークが犠牲になるので大丈夫だろう。
「おい、アルク貴様今よからぬ事を考えたな?」
ちっ、鋭い。
「いえ、あのオカマ2人がとち狂ったらどうしようかなと」
「流石に奴らもそこまで阿呆ではあるまい」
「まあ、そしたらジークが最初に襲われるから大丈夫かなって」
「おい!全然大丈夫じゃないぞ!まさか貴様ら端からそのつもりで……」
「ふふ、気付いたとしてももう遅い」
「くっ、魔術師アルク見事なり……」
「君たちうるさい!ぶん殴るぞ!!」
「「ごめんなさい」」
暇だったのでちょっとジークと策士ごっこに興じていたらカリアに怒られた。嬉しい……
「俺の横で鼻息荒くするな」
ジークが気持ち悪そうに僕から距離をとった。
「うーん、まあ特に今のところ魔物の気配もしないし暇なのは確かだね」
「まあ、ここはE~Dランクの冒険者が探索する遺跡だ。魔物の数も多くないしギルドが安全マージンをとるのは分かるがこれなら俺たちだけでもいけたな」
ガルクが頭をぽりぽりと掻きながら欠伸をした。
「ちっ、ヴァルク遺跡の時点で察してはいたがこれじゃつまらなすぎるぜ。もっとランクの高いダンジョンに行きてぇ!」
絶賛荒ぶり中なのは治癒士のテナだ。テナは戦闘体勢になると一気にはじける。もう戦いをこよなく愛する狂戦士と化す。
「おっふ、テナが荒ぶってる……かわゆい」
テナの隣ではシルヴィアも荒ぶっていた。遺跡の中だというのに誰一人緊張感を持っていない。まあこんな低ランクの遺跡じゃ仕方ないけど……
「ん?」
「うん?どうしたのアルク?」
「索敵魔法に反応、もう少し先に行ったら小部屋があってそこに魔物が数匹いるみたい」
反応は大きくないので低ランクの魔物だろう。僕の言葉を聞いてすぐに全員が気を引き締めた。いくら低ランクと言っても魔物の前で油断する馬鹿はここにはいない。
「やっとか!よっしゃ暴れてやるぜ!魔物に血をみせてやる」
テナが拳を鳴らしながら笑った。
「ぶふっ!」
隣ではシルヴィアが鼻血を噴いていた。魔物の前にシルヴィアが血を見てるぞ。ちなみに魔物の前で油断はしないが阿呆はやります。
「よし、先頭は僕とルーク、シルヴィアで敵を牽制する。その間にテナとジークが仕留めるんだ。アルクは索敵を続行、ガルクとテランはアルクの護衛だ」
「「「「「「了解!!」」」」」」
「行くぞ!」
カリアの掛け声で一斉に敵に向かって走る。低ランクとはいえ手は抜かない。先制を取って一瞬で仕留める。どんな時でも最良の選択を取ることが冒険者にとって大切なのだ。
小部屋に居たのは7体のスケルトンソルジャーだった。ランクはDでこの遺跡では一番ランクの高い魔物になる。スケルトンソルジャーの横の壁には大きな穴が空いていた。恐らくそこが新しく見つかったという通路だろう。
戦闘は一瞬で終わった。カリアとルーク、シルヴィアが飛び出しそれぞれ前の3体を両断した。突然の出来事に怯んだスケルトンソルジャーたちにテナとジークが横から飛びかかり拳と大剣で粉砕していった。ていうかジークの大剣よりもテナの拳で殴られたスケルトンソルジャーの方が粉々なんですけど……流石治癒士兼バーサーカー、治癒士のスキルである聖属性を拳に纏わして殴るのでアンデットなどの死霊系には効果抜群だ。
「ふん、雑魚が」
テナが首を軽く鳴らしながら吐き捨てた。テナは戦闘力はここいる誰よりも高い。「英雄の導」で特攻を担当している。ちなみにカリアが遊撃でテランが殲滅役だ。脳筋ばっかりや……
「ぶふっ…テナがかっこいい」
シルヴィアにも効果抜群だ。さっきから鼻血噴きまくってる。そろそろ失血でやばいことになりそうだ。あ、ルークがシルヴィアに増血ポーション飲ましてる。
「さて、ここが入り口だな」
「思ったよりも狭いね」
ルークの言うとおりで、通路は2つのパーティが並んで歩くのには少し狭い。
「作戦を変えて少し人数を減らすか」
話し合った結果、通路を進むのは軽装のカリアとルーク、治癒士兼バーサーカーのテナ、索敵魔法が使える僕と壁役でガルクとなり、待機はジーク、シルヴィア、テランとなった。特にシルヴィアはテナと一緒にいるとお荷物になる。シルヴィアは待機の間の分のテナ成分補充じゃーとか叫んでテナに飛びかかり拳で沈められていた。聖属性が付与されてるにのなんでシルヴィアは浄化されないのか不思議だ。
「行くぞ」
カリアとルークを戦闘に中衛が僕とテナ、後衛をガルクとして狭い通路を進んでいく。
「そういえばここの通路ってどうやって見つけたの?」
「他の冒険者パーティがさっきの小部屋で戦闘したときにぶつかって崩れたそうだぜ」
「どこの?」
「「神の大槌」だったな」
「ああ、あの」
あのパーティはメンバー全員の装備が大槌というこれまた頭のおかしいパーティである。そのくせ魔法や回復もできるマルチタイプなのだ。ランクはこの前Cに上がったっけな。
「この通路を見つけたこととガイアリザードを討伐したことで上がったらしいな」
「今度祝いの言葉でもかけとくか」
でもあんまり関わりたくないんだよな。何かと大槌を持たせようとしてくるから。
それから30分ほど歩き続けただろうか緩やかな降板になっており地下に進んでいるのは分かるのだが何せ魔物が一匹もいない。索敵魔法にも全然反応がないのだ。
「……カリア」
「なんだ?」
「どう思う?」
「……もう30分以上真っ直ぐ下っている。恐らく遺跡の外に出たのは間違いない。地下だがな」
「どうする?」
「進むしかないだろ。それに魔物がいないのも気になるがそれよりもこの壁の構造だ。遺跡の物とは年月が違う。恐らく後から作られた物だぞ」
「……」
ルークもこの状況に難しい顔をしている。魔物がいることや罠が沢山あることよりも何もないことが怖い。なぜなら遺跡というものは大抵何かが起こるものなのだから。
すると索敵魔法に反応があった。さっき探知したスケルトンソルジャーなんて比べものにならないほど強い反応だ。
「ルーク」
「どうしたの?」
「索敵魔法に反応」
「!?」
「さっきのスケルトンソルジャーとは比べものならないほど強い反応だ。恐らくAランクの魔物とみていい」
「……どうしようか?」
「……」
流石にAランクと言われればテナもカリアも突っ込もうとは言えなかった。
「これならシルヴィアとテランも連れて来るべきだったな」
「いや、人数が増えてもこの狭さじゃかえって行動を制限される。この編成が最善だよ」
「Aランクでもどれくらいだ?」
「そんなに強くはない。多分このメンバーでも何とかなるかも」
「……よし、とりあえず一当てしよう。ダメそうなら天井を壊して撤退だ。何がいるにせよ確認しないとクエスト失敗になる。もしAランクを超える化け物なら他のギルドに救援を要請しないといけなくなる」
「手遅れになるわけにはいかないか……それで行こう」
「殿は俺に任せろ」
ガルクが大きな胸板をドンと叩いた。こういう時に防御力の高いガルクは頼りになる。
「アルク、距離は?」
「ここから1キロ位かな」
「そこそこあるね、慎重に進もう」
全員が装備を構え戦闘体勢のまま進んでいく。ひりつくような緊張感が冷や汗を流させる。
少し歩くと扉があった。
「ここ?」
「うん」
ルークが皆の顔を見渡してから頷いた。
「合図したら一斉に行くよ……3…2…1…Go!!」
合図と共にガルクが扉を破壊してルーク、カリア、テナ、僕の順番で飛び込む。飛び込むと共に一番強力な魔法を唱えようとした。
「っ!?」
しかし部屋に入った瞬間体が動かなくなった。見渡すと全員が同様に飛び込んだ姿勢のまま固まっていた。そして部屋の奥にそいつはいた。
黒いローブを身に纏った骸骨、目の奥が赤く光りその身体からは圧倒的な魔力を放っていた。リッチ、それも恐らくSランクのエルダーリッチだ。以前戦ったことのあるリッチとは比較にならないほど強力な魔力を放っていた。僕たちが来るのを察知して事前に力を抑えていたのだろう。
動けない僕たちの元にエルダーリッチがするすると近付いてきた。絶体絶命、一欠片も助かる道が見えなかった……