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平凡な冒険者  作者: 番犬
3/5

3

 変態パーティーも一段落し僕たちは馬車でヴァルク遺跡に向かうことにした。ほんとは一日中エレナさんに罵ってもらいたかったが生活もあるので泣く泣くクエストに行く。クエスト終わったら罵ってくれるかなぁ……。もし失敗とかしちゃったりしたらそれはもう口汚く罵ってくれるだろう。生活費が懸かっているのでそんなことは出来ないのが悔しい。

けどそんな自由に出来ないもどかしさに興奮する……


馬車はギルドが用意してくれたもので2つのパーティが乗れるものを2台借りた。同乗者はもちろん「英雄の導」だ。到着にはしばらく時間がかかるので僕は最近お気に入りの小説を読むことにした。タイトルは「女王と豚男の無双」だ。タイトルを見た瞬間即買いした。内容も想像以上のもので凄く興奮する。ただの小説なのに興奮出来るなんてこの作者は神か何かだろう。


他のメンバーも思い思いに過ごしている。テナはポーションの数を整理している。その隣にはシルヴィアがいるのだがテナは聖魔法のセイントシールドでシルヴィアの接近を防いでいた。シルヴィアは何とかテナに触れようとシールドに張り付き引っ掻いたり叩いたりしてるが徒労に終わっている。


「テナぁ……フヒヒ、そんな冷たいところも可愛いぞぅ。でもやっぱり触れたいんだぁ、魔法を解いてくれぇ」


「うるさい」


普段は優しくて温厚なテナが真顔でシルヴィアの懇願を一刀両断にした。こんなことされているのにそれでも友達として付き合っているのはテナの心の広さが窺える。


「おい、ルーク。テナが困ってるだろ。リーダーなんだからあのド変態を止めろ」


「うーん、愛の形は十人十色だからね。人の愛を否定しちゃいけないよ」


「いや、あれはおかしい。僕の知っている愛じゃない。あれはもはや狂気だよ」


「シルヴィアもいい顔してるじゃないか」


「鼻息荒いしニヤニヤしながら涎垂らしてるぞ」


「……いい顔じゃないか」


「おい、今目を逸らしただろ」


「それよりもカリアは美人だね。どう?僕と付き合わない?」


「にゃにゃにゃ!?きちゃまにゃにをにゅってるんだ!はにゃちをそりゃそうにゃんてそんにゃてにはのりゃないぞ!!」


「あはは、可愛いなぁ」


「~///!!」


あ、照れすぎてカリアがパンクした。顔を真っ赤にして頭から湯気が上ってる。ルークの作戦勝ち……いや、単純にカリアがチョロすぎるだけか。


「この前彼女の誕生日に手編みのマフラーをプレゼントしたんだがおぞましいものを見るような目をされてな。そのまま別れてしまった…」


「それはドンマイだテラン。ちなみにどんなマフラーを編んだんだ?」


「赤い毛糸で編んでな、ピンクの毛糸で真ん中に大きなハートマークを施した物だ」


「なるほど……女の子は露骨な物は嫌がる。マフラーの端に小さいハートマークを編んだ方が良かったのでは?」


「なるほど……それは盲点だった。次からは間違えないように気を付けよう」


いや、そもそもハートマーク自体間違いだからな?なんならムキムキハゲ親父が手編みのマフラーを編んでプレゼントすること自体狂気の沙汰だから。諸悪の根源はお前たちの似合わなさすぎる趣味だから。


しかしそんなことは露にも思っていない乙女なハゲ親父2人はどんな手編みが良いのかを話し合い始めた。


「「おい、今ハゲとか思ったな?」」


「イエ、ソンナマサカ」


流石に2人分の本気の殺気は興奮出来ない。普通に死の恐怖を感じる……あれ?なんかぞくぞくしてきたな。おっさんに罵られても興奮してしまう自分のドM体質がやばい。けどいい……ハアハア……。


「おい、アルクまでニヤニヤし始めたぞ!」


「良いことがあったんだよ」


「良いことってガルクとテランに殺気向けられてただろ!?」


「アルクにとっては良いことなんだよ」


「くっ、相変わらずどいつもこいつも変態ばっかりだ!」


「いやぁ、照れるなぁ」


「褒めてない!」


「カリアも美人だよ」


「にゃーー!!??」


ルークとカリアは未だに夫婦漫才をしている。だいたいカリアがルークに突っかかってルークがのらりくらりと躱し向きになったカリアをルークが口説きカリアがテンパる。いつものテンプレートだ。


「テナぁ……そこまで無視されると流石に寂しいぞ……」


「うるさいですよこの変態ロリコン騎士」


「くっ……テナが冷たい。けどツンツンしたテナも可愛いなぁ」


シルヴィアが未だに魔法障壁に張り付いてテナに絡んでいるがテナは冷たい目でシルヴィアを罵倒した後そのまま無視して自分の作業に没頭し始めた。シルヴィアめ、あんな冷たい目を向けられるなんてなんて羨ましいっ。


馬車の中ではカリアが顔を真っ赤にしながら笑うルークに突っかかり、シルヴィアはテナに冷たくあしらわれ、そんなシルヴィアを羨ましそうに見る僕、隅ではガルクとテランが毛糸を取り出してマフラーを編み始めていた。


うん、何も変わらないいつもの普通の光景だ。あ、またシルヴィアが冷たい目で見られた。いいないいな!





 街を出て一時間ほどでヴァルク遺跡に着いた僕たちは早速パーティ同士で作戦会議をすることになった。今回参加するのは「蒼風の翼」と「英雄の導」、C級の冒険者パーティ「菊の花園」と「小鳥の旋律」だ。


「んふふー、今回はルークちゃんたちとカリアちゃんたちが遺跡に入る感じかしら?」


そう切り出したのは丸坊主でガルクやテランよりもムッキムキな大男ゴンザレスだ。しかも趣味は裁縫ともはや世界を巻き込む陰謀の1つかというくらいムキムキ男の趣味が裁縫となっている。

しかし似てるのはそこまで。ゴンザレスはフリフリの女物のドレスを来て化粧をしている。そう、ゴンザレスはオカマなのだ。


「あらぁ、てことは私たちは待機かしら?それは心配ねぇ。もしルークちゃんやアルクちゃんのお尻に何かあったら大変よぉ」


何故かお尻限定で心配しているのはゴンザレスそっくりのオカマ野郎、アントニオだ。ゴンザレスとアントニオは双子の兄弟で2人ともオカマなのだ。そして好きなタイプはイケメンとショタという僕たちの天敵だ。


「いや、是非とも君たちは待機しておいてくれ。いや、待機していろ」


いつもはニコニコ顔のルークも流石に天敵を前にすれば真顔になる。この2人と行動すれば薄暗い遺跡内で襲われること間違いなし。絶対に連れて行くわけにはいかない。


「んもう、ルークちゃんは冷たいわねぇ。まあいいわ、お尻を狙うきか、一緒に探索できる機会はいつでもあるものね」


「君たちは一生ここで待機で」


この化け物2人を野放しにするギルドが理解出来ない。遺跡調査よりもまずこいつらの討伐が優先だろ。


「ふん、では俺様は見つかったという新しい通路の前で退路を確保しておこう」


んで、この偉そうなやつが「小鳥の旋律」のジークだ。黒髪でルークに負けず劣らずのイケメンで黒一色の装備を身にまとっている。「小鳥の旋律」はジーク1人だけなのだが1人でC級まで来ているので結構強い。まあ他のパーティメンバーがいない理由はこの偉そうな態度が原因なのだが。だが、偉そうなくせに結構な寂しがり屋さんなのだ。あと、何故パーティ名がそんな可愛い名前なのかはスルーでお願いします。


「あらぁ、ジークちゃんが通路前待機なら私も一緒にいようかしら」


「クネクネしながらこっちに寄るな!寒気がするわ!」


「でも遺跡内は薄暗いわよ?」


「む?」


「私たちも一緒にいれば身も心も暖かくなるわよぉ」


「それならば…ってなるわけ無かろうが馬鹿者が!どうせ隙あらば襲うつもりだろうが!」


「ちっ」


寂しがり屋のジークでも流石にオカマ2人とは一緒にはいたくないらしい。


「君たちはまともに話をするつもりがないのか!?」


全然話が前に進まないのでカリアがキレた。結局遺跡内の調査は「蒼風の翼」と「英雄の導」、通路前で退路確保が「小鳥の旋律」、遺跡前でテントを張り待機するのが「菊の花園」となった。


「よし、じゃあテント設営はゴンザレスたちに任せて僕たちは早速調査に行こう」


「了解、カリアは僕がしっかり守ってあげるからね」


「馬鹿にしているのか!?お前なんぞになんで守ってもらわなければならないんだ!」


「可愛い女性が怪我をしたら大変じゃないか」


「かかか、かわかわ、可愛いとかわたちを馬鹿にしてりゅのか!?」


もう7年以上の付き合いなんだからいい加減カリアもルークの安易な口説き文句くらいで動揺するなよ…。面白いけどいっこうに前に進まないからルークも自重してくれ。


「「じゃあ頑張ってねルークちゃんたち。終わったらご褒美あげるわよぉ」」


「「「おぞましいわ!!」」」


やる気を早速喪失した僕たちはヴァルク遺跡へと入っていった。

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