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平凡な冒険者  作者: 番犬
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神秘の探索を終えた翌日、僕は約束通り昼頃に冒険者ギルドに向かった。しっかりと準備を整えたし英気も養った。やる気もばっちりだ。


(あのモフモフの尻尾とピコピコ動く耳が堪らなかったなぁ~。おさわりなしなんて生殺しかと思ってたけどありだったらモフモフを求めて戦争が起きてたな)


アルクはケモミミ戦争について考えていた。クエスト前だというのに脳内はピンク一色であった。


くだらない事を考えながら自宅から10分ほどで冒険者ギルドについた。酒場に向かうと既にテーブルには今回の調査クエストに参加するであろう冒険者パーティがいくつか集まっていた。


「こっちだよアルク」


奥のテーブルでルークが手を振っていた。そこにはガルクとシルヴィアも各々の装備を着て待っていた。


「おっす、ごめん待たせた?」


「問題ないぜ。俺たちも少し前に来たばかりだ」


ガルクが今日も重戦士にふさわしい鈍く輝く鎧とハ…丸坊主を光らせてサムズアップした。キランと歯と丸坊…ハゲが輝いたような気がした。


「おいてめえ、今ハゲとか思ったな?」


「ハッハッハ、ソンナマサカ」


くそぅ、相変わらず頭に関してはアホとは思えないほど勘が鋭い奴め。パーティの仲間に本気の殺気をぶつけるなよ、興奮するだろぉ!


隣ではシルヴィアがトンカチを磨いていた。シルヴィアの趣味である壁採集のために使う愛用品だ。これからクエストなんだから普通は腰に差してあるレイピアを磨くもんだろ……なんでトンカチなんだ…とは思うけど突っ込まない。突っ込むだけ時間の無駄だとこの8年近く付き合っているので分かっている。シルヴィアの趣味はこの世界で十指に入るであろう無意味な趣味だと思う。


「~♪」


……まあ、本人は上機嫌なので良いんだけどね。周りが何してるだこいつみたいな目で見てるから恥ずかしい。


「遺跡調査なのに参加するパーティは少ないね」


「まあヴァルク遺跡は既に攻略済みだし今回見つかったところも規模はそんなに大きくないらしいから4つのパーティしか声がかかってないんだ」


「僕たち以外は?」


「今回は僕らと「英雄の導」とC級パーティが2つかな」


「げっ、「英雄の導」も来るの」


「英雄の導」とはこの僕たちの住むタンナの街にいるB級冒険者パーティの一つでこの街にはB級冒険者パーティは2つしかいないのでおのずとライバルになっている。まあぶっちゃけライバルだと意識してるのは向こうのリーダーだけなんだけどね。


「おい、げっとはなんだ。失礼な奴だな」


噂をすれば何とか、声のする方を振り返ると銀髪に青い目をした美しい女性が立っていた。カリア・シルバー、「英雄の導」のリーダーで魔法剣士だ。特徴をあげるなら負けず嫌いで照れ屋さんだ。


「ふん、今回は君たちも参加するのか。せいぜい僕たちの足を引っ張らないでくれよ」


早速カリアが上から目線で喧嘩を売る。


「うん、よろしく」


ルークはそれに対して笑顔で握手を求める。


「あ、うん、よろしく」


カリアは礼儀正しく手を握り返した。あ、頬が少し赤い、照れてるぞ。


「って、違う!これから競い合うのになんでよろしくなんだ!」


「ええ~だって調査なんだから協力しないと」


「むむむ、僕たちなんて眼中にないって言うのか!」


「いやぁ、むしろありまくりかな?綺麗な女の子とは仲良くしたいし」


「にゃにゃにゃ、にゃにをにゅってるんだこにょばかもにょが!?」


おおー面白いくらいに動揺してもの凄い巻き舌になってる。ルークとカリアのコントを眺めていると「英雄の導」の他のメンバーもやって来た。


「おうガルク、久しぶりだな」


「む?テランか、久しぶりだ」


やって来たのは2人、まずガルクに話しかけたのは「英雄の導」でガルクと同じ重戦士をやっているテラン・ラズベリーだ。ガルクと結構似ていて丸坊主に筋肉質の大柄、可愛いファミリーネームに趣味はなんと裁縫と何かの陰謀を疑うほど似ている。違いはガルクの武器がハンマーに対してテランはハルバードだ。


「おい見てくれガルク、久しぶりに結構可愛いハンカチが縫えたんだ」


テランが懐からピンク色の小さいハンカチを取り出した。端には花のアップリケが刺繍されている。


「おお!奇遇だな。俺も昨日ハンカチを縫ったんだよ」


そう言うとガルクも懐から水色のハンカチを取り出した。こちらには猫のアップリケが刺繍されている。


「おいおい、なかなか可愛いじゃねぇか。猫の顔が少し傾いてるのがまた良いじゃねぇか」


「お前こそピンク色のハンカチに赤い花のアップリケは似合ってて可愛いぞ」


なんだこの絵面は…2人のムキムキハゲ親父が肩を寄せ合いながら手作りのハンカチを褒め合ってるぞ。


その隣ではシルヴィアに小柄な女の子が挨拶していた。


「シルヴィアさんお久しぶりです」


話しかけているのはテナ・ケルシー、「英雄の導」で治癒士を担当している。ピンク色のショートヘアで20歳ながら小柄で幼い顔立ちをしている。


「ん?……テナか!」


シルヴィアが顔を上げてテナを認識するとがばっと立ち上がった。


「んふーテナ、久しぶりだな。元気だったか?アメちゃんあげるからお姉さんのお膝にお座り?」


シルヴィアが鼻息荒くテナににじり寄る。言ってなかったがシルヴィアは小さい女の子に興奮する変態さんだ。


「ひぃいいい!!」


テナが顔を真っ青にして後ずさる。馬鹿だなぁ、シルヴィアに近寄ればこうなるのに律儀な彼女は会うと必ず皆に挨拶する。苦手であるシルヴィアにもちゃんと挨拶してそれに興奮したシルヴィアに襲い掛かられる一連の流れとなっている。


「オヒヒ、テナァ…こっちにおいでぇ?ジュルッ」


「こ、来ないでくださいぃいい!!」


美人のシルヴィアもこうなれば見るに耐えない。鼻息荒く涎をすすりながら下卑た顔つきをして小さな女の子ににじり寄る。シルヴィアこそこの「蒼風の翼」におけるキングオブ変態さんなのだ……言ってて悲しくなるわ!


ルークとカリアが夫婦漫才をし、ガルクとテランがお互いのハンカチの良いところを褒め合い、シルヴィアが興奮しながらテナににじり寄る。カオスな空間が出来上がっていた。周りの冒険者パーティは僕たちは割と有名なので驚きはしていないが明らかに明後日の方向を向き関わらないようにしていた。


「ちょっとアルクさん?他の方に迷惑なんでこの変態共を黙らして下さい」


そう僕に話しかけてきたのはこの冒険者ギルドの受付嬢であるエレナさんだ。黒髪のロングヘアーに黒目でクールな大人の印象を与える美人さんでこの冒険者ギルドのアイドル的ポジションの方だ。


「いや、僕リーダーじゃないんで」


こんな変態共を普通の人間である僕がどうにかできるわけがない。


「何言ってるんですか?頼んでるんじゃないんですよ。やれって言ってるんです」


「え?いや、でも……」


「でも?男のくせに言い訳するんですか?みっともない。これだから能無しアルクさんは…良いですか?貴方みたいなアホは言われた事をやれば良いんですよ。私が黙らして下さいと言ったら返事はハイのみ、なんでそれが分からないんですか?あ、分からないからアホなんですね」


「………」


別名毒舌女王、エレナさんはドSなんだ。ゴミを見るような目で僕を上から見下ろすエレナさん……堪んねぇぜおい!クエスト前からこんなご褒美をいただけるなんて今日はついてる。俄然やる気が出てきたぜおいぃいい!


「すみませんでした!でも僕にはこの変態共の相手は重荷なんですぅうう!」


ヘレンさんにジャンピング土下座をかます。もちろん頭はエレナさんが踏みやすいようにちゃんとポジショニングしている。ドMの僕に死角はない!


「はあ?出来る出来ないんじゃないんですよ。私がやれって言ったらやるんです。靴を舐めろと言えば舐め死ねと言われれば死ぬ、貴方みたいなドMのくそ野郎には私にひれ伏すのが生き甲斐でしょ?」


「はいぃいい!ナマ言ってすみませんでしたぁ!」


「罵倒されて喜ぶだなんてとんだ変態ね。生きてる価値あるの?」


僕のお望み通りエレナさんは僕の頭を踏みつけグリグリと踏みにじる。フオオオオ!!


変態がプラスされより酷くなった酒場で普通に過ごす他の冒険者たち。彼らもこの風景は見慣れているので動じない。むしろ僕を羨む視線を向ける冒険者の方が多い。このギルドはエレナさん目的で割とドMたちが集まっている。どうしようもねぇなこいつら。



今日も平凡な僕たちの一日は通常運転です。ああ、エレナさん!そこはもっと強めにお願いします!



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