夕焼けの声
この世の中クズでゴミで生きる価値なんて存在しない。街は一見華やかに見えるが表と裏が存在している。例えば表だと頭を下げるのが得意な人。だが裏では誰かに怒り頭を下げさせる。逆に表では威張り散らす人が裏では誰かにこき使われていたり。夜の街を爆音を鳴らしながら走るバイクに車。乗っている彼らにももちろん表と裏が存在している。ただ誰かの上に立ちたいがために。学校なんてその1番の例だろう。成績と言う見える評価で誰かより優れていることを表している。そんな世の中で17年も生きてきた。もううんざりだ。早く楽になりたい
そう思って何年経ったのだろうか。毒と言われて買ったのはただの小麦粉。睡眠薬と言われて買ったのはビタミン剤。SNSを頼りにしたこともあったが結局全部上手くいかなかった。だけどそんなくだらない日常も今日で終わる
夕日に照らされたこの町にある1番高い建物から見下ろす。誰も歩いていないことを確認し、フェンスをよじ登る。万が一誰かを巻き込むということもなさそうだ。ああ、やっと自由になれる。さようなら。俺の人生。来世がもしあるならその時頑張れ。来世が来ないことを祈るけどな
「ねぇ、そんな所で何をしているの?」
ふいに聞こえた少女の声。何故こんな場所に人がいる。慌てて声のする場所を見る
「私はね、夕日見ているんだ。ここから見る夕日綺麗だよね。お兄さんは?」
聞いてもないことを話す少女は夕日に照らされ、少し寒いのか頬を赤く染めている。少し幼さがあるが同じくらいの年齢だろう
「死ぬためにここに来た」
名前も知らない少女だからだろうか。素直にそう口にした。口にしたのはいいがどうせ止めろとか言われるのだろう。誰も俺の気持ちなんて分からない。俺自身分からないのだから。だからだろうか。少女が笑っているのに驚いたのは。
ニコリと笑った少女は
「じゃあその命頂戴」
と俺に告げた
「は?」
なんだよそれ。あげれるならあげたい。アホみたいだ。滑稽だよ
フェンスをよじ登り、建物の中に向かう。死ぬ気だったのにやる気がなくなった。別の方法を探そう
「あれ?死なないの?」
「やる気が失せた」
「ふーん。じゃあ私も戻ろうっと。そういやお兄さんは何故病院の屋上を飛び降り自殺に使おうと思ったの?」
「1番高い建物だから」
馴れ馴れしく話してくる少女だ。興味があって聞いている訳ではないだろうに
「ふーん。あ、私はねここに入院しているの」
だから何故聞いてもないことを話す
「そうかい」
それだけ呟いてそそくさと建物の中に向かう。向かう最中に一瞬だけ振り向いて見えた少女の顔は逆光だからだろうか。少しだけ、ほんと少しだけ寂しそうに見えた
こんな些細な出会いが俺、藤原❪フジワラ❫シンゴと少女橘❪タチバナ❫ルカとの不思議な出会いとなったことに気付くのはもう少し後になってからだった
そんなことがあったことも忘れかけていた頃、なぜ学校に通わなければ分からないまま学校に通っていた。空はどんよりと曇っていて今にも雨が降りそうだ。まるで俺の今の気持ちみたいに。ああ、早く死ぬ方法決めないと。もう学校の屋上から飛び降りようか
「ちょっとやめなさい!」
なんだ。喧嘩か
「てめえには関係ないだろ」
なんでこんな場所で…。あぁめんどくさい。そこ通らないと教室に行けない。帰ろうか
「その子から盗ったお金返しなさいよ」
なんだカツアゲか。それを誰かが止めに入っているわけだ。そうやって無駄に優しさ、正義感出しているやつもいるんだな。どうせ評価のためだろうが。無駄なことする人もいるものだ
振り返り帰ろうとした時、たまたま目に入ったのは男2人と
❪じゃあその命頂戴よ❫
そう言っていた少女だった
何しているんだあいつは。ってか何故こんな場所にいる。無駄な正義感振り回して
「だったらてめえが渡せ!」
そう言いながら男は拳を振り上げ少女の顔に向かっていく
「や、やめろ」
あぁ、言ってしまった…3人が俺を見る
「女の子を殴るなよ」
あぁ、死にてえ。安い正義感振り回してバカみてぇ
「じゃあてめえが渡せ」
男は標的を俺に変えたようでこっちに向かってくる
「どうせなら死ぬくらい殴ってみろよ」
「そうかよ!」
「お前ら逃げろよ!」
少女とおそらくカツアゲされていた男に告げる。ははは。なんか笑える。表と裏があるからこんな世の中嫌いで死にたいのに今1番嫌いなタイプになっているの俺じゃないか。あぁこのまま死にてえ
目が覚めた場所は保健室だった。なんだ身体中痛いだけで死んでないのか
「あっ、目覚めた?」
「あぁ」
「かっこ良かったよ。お兄さん」
「お兄さんじゃねえしかっこよくもない。藤原シンゴだ」
「私橘ルカ」
そうかよ。相変わらず聞いてもないこと話す少女だ
「橘はなぜここに?」
「私も雄旗高校❪ゆうき❫の生徒だから」
それは見ればわかる。俺が聞きたいのは退院したのか。時間的に放課後なのに何故ここにいるのか色々聞きたいことはあるのだか、なんかもうどうでもいい
「死にてえ」
それだけ呟く
「私さ、身体が弱くて入退院繰り返しているのだけどね」
なんだ突然
「勉強ついていけなくて放課後保健室で勉強しているんだけどね」
だからどうした
「そのネクタイ2年だよね。勉強教えてくれないかな」
勉強?くだらない
「私看護師になるのが夢なんだ」
だからどうした。俺には関係ない
「そうか。頑張れ」
「お願い!教えてよ!」
「断る」
なんでそんなめんどくさい事に首を突っ込まないといけないんだ
「お願い!」
だから断るって言ってるだろう。あぁ、めんどくさい。助けたの間違いだった。いつもそうだ。めんどくさい事に巻き込まれていくのは…
「シンゴ!大丈夫!?」
保健室の扉が勢い良く開き中に入ってくる。
あぁ、そうだ。この女菊地❪キクチ❫ミキに関わり出してからめんどくさい事に巻き込まれていったんだった
はあ、死にてえ
「なんだよ」
「喧嘩して怪我したって聞いたからわざわざ来てあげたのに何なのその態度」
誰も来てくれなんて頼んでない。それどころか来てほしくない
「見た感じ大丈夫そうね……その子は?」
視線だけを橘に移す
「橘ルカです。シンゴさんに助けてもらって」
「シンゴが人助けねぇ」
再び視線を俺に戻す。何が言いたい
「シンゴさんの彼女ですか?」
「違う違う。ただの幼なじみ。菊地ミキ。よろしくね」
こいつが彼女とか最悪だ。橘はどんな見方しているんだ
「そうなんですか。安心しました」
「安心?」
「はい。シンゴさんに勉強教えてもらうことになったので」
まて、誰が教えると言った
「シンゴ無駄に頭良いからね」
無駄とはなんだ無駄とは。まあ、実際無駄だけども。生きていくには必要かも知れないが俺には不必要だ
「菊地先輩もどうですか?」
「え?私も?」
何を言い出す
「はい。その方が安心できるかと」
安心ってなんだ
「確かに見張りは必要かな。うん、私も参加する」
そして何故了承するんだこいつは。だいたい見張りってなんだよ。そして張本人の俺を無視して話を進めるな
「決まりですね」
楽しそうに笑顔で話す2人。何がいったい楽しいんだ
「じゃあシンゴさん。数学からよろしく」
だから教えるとは一言も言ってない。言ってないのに
「あ、私も数学よろしく」
このマイペースといい
「因数分解とかさっぱり」
「私は関数」
人の話を聞かないとこといい
「よろしく先・輩」
「よろしくシンゴ」
人を小馬鹿にした態度といい……あぁ、苦手だ。苦手なタイプが2人に増えた。最悪だ
「死にてえ」
「なんでそんなに死にたいの?」
思わず呟いた言葉に珍しく反応される
「生きている意味が分からない。世の中の表裏についていけない」
「ふーん。それが楽しいと思うけどなぁ」
「考え方の違いだろ」
「確かにね。だから生きているって楽しいよね」
「そうかい」
やっぱりこの女橘ルカは苦手だ
あぁ、死にてえ
空はうっすらと光を射していた
俺の意思とは関係なく勉強会は始まってしまった。俺が学校に行かなかったり橘の体調不良で休んだりしたりするから週に1、2回程度で開かれて1ヶ月程経過した
「ねぇ、シンゴ」
「なんだよ」
この日も橘の体調不良の為勉強会はなし。なしなのに何故か菊地と一緒に帰るはめになってしまった。最悪だ。雨も降っているし
「ルカ大丈夫かな」
「さあな」
心配なら連絡すればいい
「心配じゃないの?」
「心配したって意味ないだろ」
心配して身体が良くなるなら心配するかも知れないが、無意味だ
「相変わらずだね」
「相変わらずもなにも」
そういう考え方しか持てないのだから仕方ない
「お見舞い行く?」
「行かない」
行っても意味ないだろうし
「じゃあ私だけ行ってくる」
「そうかい」
菊地に別れを告げる。あぁ、やっと1人になれる。帰ったら楽に死ねる方法探そう
雨がだんだん強くなってきたし、早く帰ろう
そういえばいつの間に橘の家を知ったのだろうか
「ケーキ買ってきたよ」
「ありがとうございます」
私、菊地ミキはルカの家にお邪魔している。部屋にはぬいぐるみがたくさんあり、いたって普通の部屋に見える
「体調大丈夫?」
「実は明日からまた入院で」
「そうなんだ」
そういえば何の病気か聞いたこと無かったな。でも、聞いても良いものだろうか
「あっ、ただの検査入院なので心配しなくても大丈夫ですよ」
「そう。でもお見舞いには行くね」
「シンゴさん来てくれますかね」
「来てほしい?」
「えっと…少しだけ」
そういえばこっちの問題もあったな
「ルカさぁ、シンゴのこと好きでしょ」
「えっ……えっと」
あっ、顔真っ赤になってる
「でもそれは菊地先輩もですよね」
「もってことは」
「好きっていうのは私には難しくて良く分からないですが異性として気になっているのは事実です」
「あげないよ?」
「それはシンゴさんが決めることですよね」
「確かにね」
でもあんな奴のどこに惚れる要素あるのだろう。別にイケメンってわけでもないし、死にたがりだし。まぁ、そんな奴のこと好きになった私が言えたものじゃないけど
「今日は帰るね」
「はい。ありがとうございました」
部屋から出るとルカのお母さんが立っていた
「あら?もう帰るの?」
「はい。お邪魔しました」
「あの子が友達連れてくるなんて初めてなの」
「そうなんですか?」
それは意外だ。友好的なイメージがあった
「ええ。今生きているのも奇跡だから」
……え
「それってどういうことですか」
初めて出会った時は不思議な男の子だと思った。あまり笑っている姿も見ることがなかった。気になり出したのは小学生になってから。ふと見せた優しさを今でも思い出す
好きと確信したのは中学生になってから。死のうとしていた彼を助けたのがきっかけ。彼の涙を初めて見たあの日から勝手に、ほんと勝手に守ってあげたいと思った
それ以来なるべく同じ時間を歩もうと思った。彼といる時間がとても貴重で、何でもない日常が楽しい。私がいれば彼が死ぬことはないと思う程、好きになっていた。だから誰かの所に行くなんて考えたことはないし、これからも考えることはない
だって彼の幸せを1番願っているのは私なのだから
初めて出会った時は悲しい人だと思った。今を生きるという難しさ、楽しさを知らない悲しい人。そしてイライラする人
次に会ったときは本当に驚いた。まさか人助けする様な人と思っていなかったから。私とは真逆な性格。だからだろうか。彼のことをもっと知りたいと意識しだしたのは
勉強を教えてもらうこと度、真面目さに惹かれていき彼に生きる喜びを知ってほしい。できれば私と共に……なんてことを考えてしまう。考える度、胸がドキドキする。これが恋というものだろうか。こんな私が人を好きになっていいのだろうか
外はまだ雨が降っていた
「お見舞い行くよ」
「なんで俺まで…」
それにしても久しぶりに病院に来たな。初めて橘と出逢って以来か
「病室聞いているから行くよ」
「はいはい」
あぁ、めんどくさい
病室に入ると橘はいなかった。代わりに
「あぁ、ミキちゃん」
多分橘の母親と思われる人がいた
「そっちの男の子は藤原シンゴくんね」
「はあ」
何故か俺のことを知っていた
「ルカなら屋上よ」
「シンゴ行ってきなよ」
なんで俺が
「私、ルカのお母さんと話しているから」
いつの間にそんな仲になったんだ。まあ、屋上行くくらいなら良いか。ついでに飛び降りようか
部屋から出る際
「それでルカはあとどれくらい生きることが出来るのですか?」
そんな不思議な会話が聞こえてきた
屋上に行くと車イスに乗った橘が夕日に照らされている。なんか懐かしい
「私ねここから見る夕焼けが大好きなの」
俺の存在に気付いたみたいだ。橘は話を続ける
「辛い時も苦しい時もこの夕焼けが励ましてくれている気がしてさ、頑張ろう。頑張って生きよう。1日でも長く生きようって思えるの」
振り向き、俺を見た目には涙が溢れていて、いつもの笑顔は無かった
「ねぇ、シンゴさん。1日でも長く生きたいよ」
❪どれくらい生きることが出来るのですか?❫
❪1日でも長く生きたいよ❫
まさか……
「橘…お前…」
「シンゴさん死にたいんでしょ?その命頂戴よ…私は生きていたいの」
生きているのが嫌で、何度も何度も自殺未遂を繰り返す日々。本当はどうしたいんだ。本当に死にたいのか俺は
「出来れば……一緒に……」
「橘…」
「戻ろうか」
そこに涙は無く、いつもの笑顔に戻っていた
「あぁ…」
俺はそれしか言えなかった
「なぁ」
病院から出た俺たちは会話もなく歩いていた。歩くスピードはいつもより遅く、なにより足取りが重かった
「なに?」
「橘は死ぬのか?」
「…誰から聞いたの?」
菊地の目から怒りが見えた
「なんとなく」
「元々10歳くらいまでしか生きられない身体なんだって。でもルカは6年も長く生きている。生きているからこそいつ身体、心臓が止まってもおかしくない状態で」
「何故……」
「何が?」
「何故話してくれなかったんだよ!」
あいつは俺なんかと違って将来に夢や希望を持っているって言うのに…いつ死んでもおかしくない状態だって……そんなの、そんなの間違っている
「話したら何か変わった?自分の命でもあげる?死にたがりだから丁度良い?残された人の事を考えた事ないシンゴに何ができるの?」
何も言い返す言葉が思い付かない。俺はどうしたらいい。橘の為に死ぬ?それをして橘は喜ぶのか。俺は……何も出来ない…橘の為に何も出来ない
それから1週間が経過した。あれ以来お見舞いには行っていない。菊地は毎日行っているみたいだが自分こ中で整理がつかなかった。行ってもいいものなのだろうか。こんな俺に何が出来るか分からない。橘はどんどん死に向かっているというのに…何も出来ない。橘の夢を応援することも代わりに死ぬことも出来ない。橘にどんな顔して会えばいいのかさえ分からない
分からないのにいつの間にか病院の前まで来てしまっていた。笑って病室にいけばいいのか、あいつの為に何が出来るか分からないまま……帰ろう
「あっ、シンゴさん」
後ろから聞き覚えのある声がする
「橘…」
「全然お見舞い来てくれないんだから」
車イスに乗っている橘はいつものように笑っていた
「あ…」
体調は大丈夫なのか。外に出て平気なのか。色々聞きたい事があるのに俺が聞いてもいいものなのだろうか
「明日、退院決まったの。シンゴさん何かしてくれる?」
「俺に出来ることなら」
「海行こっ」
「それくらいなら」
「やったね!明日行こっ」
急な話だが別に問題はない
「わかった」
「約束だよ」
橘の明るさ、笑顔に少し安堵する。こんな明るいやつが死ぬなんて間違いであってほしい。本来なら勇気付けるのは俺のすることなのに、逆に勇気付けられてしまった
翌日、病院まで橘を迎えにいく
空は快晴で雲1つない。まるで最後の時を見届けるかのように
「シンゴさん」
「よう」
橘はまだ車イスに乗っている
「実は足が思うように動かなくてさぁ」
少しおちゃらけたように話す。あぁ、いつもの橘だ
「かまわない」
車イスの後ろに立ち、橘の母親に別れを告げ、ゆっくりと車イスを動かす
「なんか変な感じ」
「何がだよ」
「シンゴさんとデートするなんて思ってもなかったからかな」
デートって
「ただ海行くだけだろ」
「そうだけど、私には貴重な初デートなの」
最初は苦手なタイプだった。それがいつの間にか苦手意識がなくなり、それどころか死にたいと思う気持ちさえなくなった。全ては橘のおかげで
海に着いた時には既に夕暮れになっていた
「海からみる夕焼けも綺麗」
「そうだな」
いつもの屋上から見る景色とはまた違った良さがそこに広がっていた。何故今まで気付かなかったのだろうか
「ねぇシンゴさん」
「ん?」
「1つだけわがままいいかな」
「なに?」
「こっち来て」
言われた通り橘の前に向かう
「少ししゃがんで」
しゃがんだ時に
柔らかい唇が重なる
「へへっ。ファーストキスいただき」
「もう思い残すことないくらい幸せ。大好きな人と一緒にいれて、夕焼けも見れて本当に幸せ」
「バカ…看護師になるんだろ」
自然と涙がこぼれ落ち顔を濡らす。バカ野郎。もっと長く生きてくれよ。それで菊地と2人で俺を振り回してくれよ
「死にたく…ないよ…怖いよ」
「バカ野郎。死なねえよ」
涙ぐんだまま必死に声を出す
そのまま目が真っ赤になるまで泣きじゃくった。そしてその日が橘…ルカの涙を見る最後の日となった
「おかえりなさい」
海から戻った俺たちをで迎えてくれたのは菊地だった
「ただいま」
「ルカは?」
「疲れて寝てる」
「そう」
3人でゆっくりとルカの家に向かう
「ねぇ、シンゴ」
「なんだよ?」
「まだ死にたい?」
「いや……頑張って生きようと思う」
ルカの分も生きないと申し訳ない。せっかく生きる楽しさを教えてくれたのだから
「ルカは凄いなぁ。私が何年もかけてやめさせようとしていたことをこんな短期間でやめさすなんて」
「菊地…」
「ルカに負けちゃったなぁ」
「そんなことない。もちろんルカが居たからってのはあるが菊地がいなかったら生きようと思わなかった。ありがとう」
こんな俺の側にずっと居てくれた。菊地がいたからこそ死ななかった
「やけに素直ね」
「そんな日もある」
「じゃあ質問です。ルカの事好き?」
「ああ」
「私は?」
「好きだ」
「なにそれ、二股宣言?」
「そういうのじゃないだろ」
2人がいたからこそ生きるという素晴らしさに気付けた。2人がいなかったら何も変わることなく死を選んだだろう
「私はね、シンゴのことがこの世の中で1番好きだよ。好きだからちゃんと伝えるよ。ルカを最後まで楽しませてあげて」
「分かっている」
そう遠くない日までルカと一緒にいよう。もちろん菊地も一緒に。3人で楽しもう。それがこの世を嘆いた俺を新しい世界に導いてくれたルカに対しての最大の感謝だろう
それから毎日ルカの家に遊びに行くようになった。最初こそショッピングモールに行ったりしていたが、徐々にルカの身体は言うことを利かなくなりベッドで過ごす日々が増えた
それでも俺はなるべく楽しい話をルカにした。たまに菊地の手を借りながら
ルカの反応が鈍くなってきたある日事態は急変した。ルカの意識がなくなり、病院に運ばれたと連絡があった
慌てて病院に走った。走って、走って、走って、走り続けた。ルカの最後の1秒を一緒に迎えるために
「ルカ!」
病室に着くなり大声で叫ぶ
ルカの身体は管が何本も刺さり、生きているのがギリギリな状態だった
「シンゴ…………さん」
かすかに聞こえるルカの声
「私ね……最後まで……幸せ」
「……まだ幸せになれるさ」
「大好きな人……できて……」
「あぁ…」
「シンゴ……さん……生きて…ね」
「あぁ…」
声にならない声を必死に出しながら頷く
「約束……だ………よ」
「あぁ…約束だ」
笑った表情のままルカの目は静かに閉じていった
「ルカ………ルカ……ルカ!!」
夕焼けの空に光り輝く星が浮かび上がる頃ルカは静かに眠りについた
ルカへ
そっちの世界はどうだ。ルカの事だから明るく暮らしているだろうな。ひょっとしたら既に生まれ変わっているのかもな
初めてルカに出逢った時は不思議な少女だって思った。いきなり命頂戴だからな。びっくりしたしあげたかった。次に会った時も不思議としか思わなかった。男に立ち向かっていたのだから。だけどその時のルカは楽しそうに見えたよ。少し羨ましかった
勉強を教える様になって笑った表情にドキッとしだした頃、ルカの事が好きだって意識しだした。そしてその頃ルカの命が残りわずがだって聞かされた
死にたがりの俺は何が出来るのか。出来るなら代わりたいと思った。だけどミキに言われたよ。それじゃあ意味がないって。なら俺は何が出来るか…凄く悩んだよ。そして出した決断を俺は間違っていないと思う。最後までルカの笑顔が見れたのだから
今でもたまに死にたいって思う時はある。でもそういう時ルカの笑顔を思い出して頑張ろうって思う。高校も卒業して医学部に進学したよ。あの頃無駄だと思っていた知識が誰かの役に立てる様勉学に勤しんでいる。これも全てルカのおかげだ。最後まで言えなかったけどルカ、ありがとう
ルカへ
こういう時、なんて言えばいいのかな。元気?もおかしいよね。ルカがいなくなった後、シンゴ凄かったよ。ルカの事だから見てたかも知れないけど、いきなり医学部に進学するって言い出すし。私からしたら嬉しいことだけど、同じ大学に行くのが目標だったから勉強が凄く大変でさぁ、今ではルカの夢と同じ看護師になるのが目標になったよ
そうそうルカ。シンゴのファーストキス奪ったでしょ。この前初めて聞かされたよ。告白して、付き合う様になったのはいいけどまさかルカに先越されているなんて思わなかった
ねぇ、ルカ。ルカは怒っているかな。それとも応援してくれるかな。ルカのしたかったことして、ルカの夢と同じ道を進んでいる私をどう思うかな。ルカともっと話したかった。ルカとシンゴの奪い合いしたかった。ルカともっと遊びたかった
はは。ごめんね。弱気になって。またルカに心配かけちゃうね
ルカ、ありがとう。今でもルカの事大好きだよ
「シンゴ、今日はどうするの?」
「ミキの家いくよ」
「了解。あ、手紙書いた?」
「ああ。ミキは?」
「書いたよ」
「明日命日か…」
「綺麗な花買っていこうね」
「そうだな」
「ねぇ、先生」
「ん?」
「先生はなんで先生になったの?」
「そうだな…恩人との約束だからかな」
今日も街は綺麗な夕日に包まれている
夕焼けの声が街に響き渡るように
ルカ。今日も俺は生きているよ