その質問に答えはあるのか?
むかしあるところに僕の友人でFという男がいた。彼は実直でルックスも良くいいやつではあったが、いくらか面白味に欠けるやつだった。
Fには彼女がいた。それなりに美人でそれなりに胸の大きなスレンダーな女の子。Fには申し分のない彼女であった。ただひとつの欠点はヘビースモーカーであること。でもFは彼女のことを真剣に愛していた。
その日彼女はいつものように神経質そうにタバコを吸いながらFにこう質問してきた。
『私がいなくなったらどうする?』
「それは困るなぁ」
「それだけ?」
う~ん
「僕もいなくなる。」
Fがそう答えると、彼女はあきらめたようになにも言わずFを見つめていた。
そして、「おでんが食べたい。」
と言って立ち上がった。
「この真夏におでん?」
とFが言うと、
「真夏におでんを食べたら駄目だって誰が決めたの?」と目を細めFに向き合った。
もちろん、真夏でもおでん屋は営業していた。
おでんを食べ、二人で部屋に帰り、いつものように二人でベットに入り、いつものように眠りについた。遺跡のような深い眠りだった。
翌朝Fが目覚めると、彼女の姿はなかった。彼女の洋服も下着も歯ブラシも、彼女を連想させるものはなにもなかった。なぜか唯一白いキャミソールだけが残されていた。
Fは彼女の白いキャミソールをリビングのテーブルに広げ、途方にくれた。
そして考えた。
あの時もっと気の効く答をしていたら彼女はいなくならなかったのだろうかと。
その質問に答えはあったのだろうか。