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007 役目

 全身の水分を総入れ替えするには一体どのくらいの時間が必要なのだろう?

 人体の6、7割が水分なのだからメリュジーヌの次の実験までにどうにかできるとも思えない。プラティナの目線の高さが私と大差ないから身長は167cm程度だとして体重も私と同じくらいなら54kgといったところだと思う。最低でも6割がメリュジーヌの生成した水分だとして32ℓ以上はある。1日に2ℓ摂取したとしても全て吸収されて体内の水分と入れ替わるとも思えないから少なく見積もっても18日くらい。どんなに早く処置出来たとしても2度は実験に付き合う必要がある。催眠状態にして麻酔効果を与えられてるのなら彼女の影響下にある水分量が減れば効果が薄まってしまうのではないかという懸念もあるけれど、いつまでも人体実験に付き合い続けるなど正気の沙汰ではない。大した成果が得られないからとエスカレートるすのが目に見えていた。

 今後の立ち回りについて思索していて、ふと気になることが脳裏に浮かぶ。ここをただの夢ではなく、少なからず現実的な物事が自身の身体に起こると考えるなら当然のことに今まさに直面していた。それを確かめるためオリブルに質問を投げかける。


「ねぇ、オリブル。ちょっとというか、とても気になることがあるんだけど」

「なんでございましょうか?」

「私が眠ってる間の食事と。そのなんて言ったらいいのかな。飲食をしていれば当然の生理現象というか」

「あぁ、なにも心配されることはありません。プラティナさまはベッドを汚すようなことはなさっていませんから」

「そう。それならいいんだけど」

「それと回復のために眠っておられる間の食事に関しましては呪いの効果なのでしょうか、なにも摂取せずとも痩せ細ることも衰弱なさるようなこともありませんでした」

「それなのに起きている間は食事を必要としていたの?」

「竜化の呪いによる身体再生時のみの効果ではないかとメリュジーヌ様は仰っていましたよ」

「そういうことね」


 そこまで情報収集してさすがに我慢するのもキツくなって来た。


「ごめん、オリブル。御手洗いの場所を教えて」

「すぐにお連れします」


 言うなりオリブルは私を抱え上げ、扉の前に来て立ち止まった。


「申し訳ありません。また同じ間違いを」

「大丈夫、大丈夫。私が開けるから」


 両手の塞がったオリブルの代わりに扉を開け、部屋を出る。そうして連れてこられたのは小さな個室にぽつんとイス式の便器とトイレットペーパーの代わりに折り畳まれた布切れが積み置かれた場所で、便器の下には底が見えないほどの深い穴が開いていた。水洗ではなく、汲み取り式というやつなのだろうけれど臭気はほぼ感じられなかった。

 色々と気になることはあったけれど、漏らしたりなどしては目も当てられないと用を済ませてからオリブルを個室内に呼ぶ。


「オリブル、この穴の下はどうなってるの」

「メリュジーヌ様がルノーさんを造り出す過程で生成されたスライムが投棄されております」

「ルノーって屋敷の清掃を一任されてるって言ってた、あの?」

「はい。スライムは雑食性でどんなものも選り好みせず食して体内で分解する性質を持っていまして汚物処理には有効ですので」

「食べてるの、その……」

「お気持ちは、お察ししますが他に処理方法もございませんので」

「あ、うん」

「さ、部屋に戻りましょう」

「ごめん、お願いね」


 部屋へと運ばれながら生活する上で困りそうなことを考え、次に浮かんだのは入浴に関することだった。魔術で生成した水しか使用出来ないという制限もあるので入浴のために大量の水を用意出来るとも思えないし、眠っていた2日間は入浴していないのは確実なのだからと私は自身のにおいを嗅いでみたけれどわからない。髪に触れてみるけれど皮脂でベタついているような感じはなかった。


「どうされました?」

「2日も寝てたわけだから汗で臭ったりするんじゃないかと思って」

「どうなのでしょう。私には臭いを嗅ぐことが出来ませんのでわかりませんが、眠っている間のプラティナさまの清潔を保つために身体を拭いてはおりましたが」

「オリブルには本当になにからなにまで面倒見てもらってるのね」

「それが私の生き甲斐ですので」


 そんなオリブルの言葉を聞いて、そのためだけにメリュジーヌによって造られたのではないかと思うとなんとも言えない気分だった。トイレの底に投棄されているスライムと役目は全く違うけれど似たようなものであることには代わりない。そんなオリブルに同情したくもなるし、気に病むけれど彼女の献身を利用しようするのをやめる気はなかった。


「そう。それじゃ部屋に戻ったら身体を拭いてもらえる?」

「お任せください」


 自分にとって有益になるのら使えるものは使わなせればメリュジーヌに捕らわれた今の状況は打破出来ない。部屋に戻り、ベッドに下されてから「服を脱いでお待ちください」と告げたオリブルの言葉に従い身につけていた服を四苦八苦しながら脱いで全身の肌をさらす。そして自身の裸身に再生後も赤く残された数々の傷痕らしきものを目の当たりにして顔をしかめた。


 そして今になって気付く。きっとプラティナもメリュジーヌにとってはオリブルと同様の存在で呪いを解くために利用しているだけなのだと。

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