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025 搬入

 単独の魔術で無理なのなら複数に分割した上で常時魔力を供給する要素を設けてやればいい。


 電車って架線から電力を供給されて動いてるわけだし、あれと似たような感じにしてやればどうにかなりそうだよね。


 それに加えて魔力供給路をそのまま線路としても使ってやれば誘導も楽になる。


 ということで私は手始めに長いロープを魔術で創り出しながらオリブルに尋ねる。


「搬入先の部屋ってどこにあるのかな」


「こちらになります」


 オリブルはひょいっと重さを感じさせない様子で重たい木箱をふたつ抱え上げると、すたすたと本館へと歩いていく。


 私は魔術製のロープを伸ばし続け、同時に魔術で生成した水でロープを浸しながらオリブルの後を追った。


 やがて到着した食糧庫の片隅にはオリブルが抱えているものと同じ木箱が数箱積み上げられていた。


 オリブルは木箱が積み上げられているのとは逆側のがらんとしたスペースに抱えていた木箱を下ろす。


 ロープをここまで廊下の中央よりやや左側に位置取るように敷いて来た私は、オリブルの背中に向けて「オリブルはここで待ってて」と声を掛け、彼女の返事を待たずに手にしているロープをそのまま延長し続けて荷物が置かれた場所まで駆け戻った。


 魔術供給路用のロープの始点にまで戻ったところでロープの延長を止めて終端を輪っかにして腕に括り付けた。


 これで下準備は整ったので、私は改めて1m四方の絨毯を創り出す。


 ただし今回は絨毯裏の中央に位置する場所からちょろりと長さ10㎝くらいの太い糸を垂らさせ、魔術供給路として用意したロープに接触させた状態で浮かせた。


 問題なく絨毯が浮いているのを確認してから私は、ロープに魔力を供給しながら絨毯の上に木箱を積載限界だった4箱目まで積み上げた。


 準備は万端となり、早速ロープを通じて指示を飛ばすと私の意思を反映するように絨毯は綱渡りでもするように、ロープに沿って移動を開始した。


 運搬用魔術の成功に私はひとまず安心し、ひとつため息を吐いてから新たな絨毯を創り出して箱を積み上げながらオリブルの元に木箱が届くのを待った。


 ロープの中間点に差し掛かったところで食糧庫へと送り出した絨毯を停止させる。


 すると数十秒と待たずに供給していた魔力の消費量が大幅に減ったことで木箱が絨毯の上から下されたのだと判ぜられた。


 そのまま用済みとなった絨毯を消失させてもよかったけれど、そのままロープを伝せて手元に戻ってくるように指示を出す。


 またそれに併せて新たに木箱を積んだ絨毯を送り出した。


 同時にふたつの絨毯を運用しても問題なく運搬可能なようなので、もう一枚絨毯を用意して次の準備を進めた。


 そこからは3枚の絨毯を用いて順繰りに木箱をテンポよく運搬させていった。


 想像以上の成果を出せたことに頰が緩む。


 これを利用すればメリュジーヌの手によって魔術が施された森も迷うことなく抜けることが出来るのではないかと思えた。


 空を飛ばしていた球体カメラは森などお構いなしに街まで行き着かせられたのである。


 それなら球体カメラにロープを繋いで堀の向こうまで運ばせれば、それを伝って森に惑わされることなく脱出するのも可能なはず。


 あとは私を陰ながら支配している体内に取り込まされたメリュジーヌの魔力を抜き去ってしまえばいい。


 脱出への目処が立ち、私の胸の内には喜びが満ちていく。


 念のため真夜中にロープを堀まで誘導させられるか実験しておく必要はあるが、十中八九成功するという確信があった。




 この後、手早く食糧の搬入を済ませられたことをオリブルに深く感謝され、メリュジーヌの実験材料の搬入も手伝おうかと申し出たが、やんわりと断られた。


 まだメリュジーヌは眠っているらしく、今はまだ搬入可能な状態でなかったというのも理由としてあったようだけれど、なるべく私がメリュジーヌと接点を持ってしまう可能性のあることをさせぬよう気を遣ってくれたようだった。


 そんなこんなで搬入作業もひと段落ついたということで昼食を摂る運びとなり、今日運び込まれたばかりの新鮮な食材を使ったオリブルの料理に舌鼓を打った。


 昼食を終えるとオリブルは慌てたように私に別館へと戻るよう急かして来たのでどうやらメリュジーヌが目覚めたらしいと察し、彼女の言葉に従って私は足早に自室へと戻る。


 部屋に戻る途中の廊下でスライムのルノーを見かけたので、私はルノーのたったひとつの眼球に向けて会釈しながら「お疲れさま」とだけ告げてすれ違う。


 その際、ルノーはこれまでと違い動きを止めて感情の分からぬ眼球で私の姿をじっと見据えているような気がした。


 強い視線を背中に感じるけれど振り向くことはせず、私は足を止めるようなこともしなかった。


 夕食までかなり時間があったので窓から庭を見下ろすと、オリブルがメリュジーヌの実験材料を本館に運び込んでいるのが目に入った。


 しばらくオリブルが搬入作業に掛り切りになる様子だったので、私は今のうちについさっき思い付いた魔術で脱出可能か検証する実験の準備に取り掛かることにした。


 その第一歩として闇夜で目立たなそうな暗い色をした細く強靭な糸を魔術で紡いでいった。

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