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019 残香

 大体の部屋を見て回り、一番見晴らしのいい部屋を選んで借りることにした。

 昼食の準備のためにオリブルが厨房に行ってしまったので、ひとりきりになった私は持ち込んだ衣類を片付けてベッドに浅く腰掛けてスマホを操作する。一昨日撮影した屋敷周辺の空撮画像を表示して昨日花を摘んだ場所までどの程度の距離があったのかを確認すると1㎞も離れていないようだった。

 帰り道も体感通りの距離ではなかったところを見ると多少の回り道をしていたらしい。徹底して脱出することを阻んでいるようなのにメリオールはメリュジーヌ対策をいろいろと講じている上に外部との行き来が出来ていたのになぜわざわざ屋敷に戻ってきていたのだろう。メリュジーヌはメリオールがプラティナを溺愛していたと言っていたけれど、それだけが理由とは思えない。それを知るにはオリブルの言っていた彼女が魔導具を保管している部屋を探すのが手っ取り早いが、部屋選びの際にほぼ全ての部屋を見て回ったけれど手がかりは一切なかった。

 考えるのに疲れてベッドに身体を預けて天井を見上げていると昨日の疲れが抜けきっていなかったのか次第に瞼が重くなり、うつらうつらとしているうちにいつの間にやら眠り込んでいた。


 目を覚ますと既に日が暮れていて部屋に夕陽が射し込んでいた。オリブルは私の隣に腰掛けて起こすことなく目覚めるのを待ってくれていたらしい。


「ごめん、熟睡してたみたい」

「最近きちんと眠れていらっしゃらなかったので安心しました」

「起こさないでくれてたのね。なんだかオリブルには心配かけてばかりだね」

「いいんですよ」


 と彼女は私の手に軽くとんとんと触れて安心させてくれる。


「お食事はどうされますか?」

「食べるよ。せっかくオリブルがつくってくれたんだもの」


 そう答えてテーブルの方へと目をやるとすっかり冷めてしまった料理が置かれていた。私はテーブルに近付くと何気なしに温まるように念じてみると料理は即座に湯気を立たせ始める。私が魔術で生成した水が使われていたので電子レンジと似た効果を発揮出来たらしい。


「あ、この料理って温かくして食べるものなのかな? オリブルがつくってくれたものをなるべく出来立てに近い状態で食べたいって思ったら料理が温まっちゃったけど」

「はい。出来立てはそうですよ」

「よかった。余計なことしちゃったかと思って焦っちゃったよ」

「プラティナさまのために用意したものですから余計などということはありませんよ」

「でも、出来ればオリブルが望んだ状態のものを食べたいから」

「そう言っていただけて私は幸せ者ですね」

「それは私だよ」


 と応えながら椅子に腰を下ろして温かい料理でお腹を満たした。


「ごちそうさま。この料理もとても美味しかったよ。きっと夕飯に出て来る予定だったメニューも美味しかったんだろうね」

「喜んでいただけてなによりです。次も楽しみにしててくださいね」

「うん、楽しみにしてるよ」


 満面の笑みで応えて明日の朝に今日の夕飯として予定されていたメニューを用意してくれるよう頼もうとして思いとどまる。この後、メリュジーヌが定期検診と称する実験が待っているのだ。肉体の再生に時間のかかるようなことをされれば数日は眠り続けることになってしまう。それを考えると急に気分が悪くなってきた。


「プラティナさま」


 私の変化からなにかを察したらしいオリブルが後ろからそっと腕を回して「大丈夫ですよ」と耳元で優しく囁いた。


「ありがと、オリブル」

「プラティナさまが目覚めを快適に迎えられるよう誠心誠意尽くさせてもらいますね」

「うん、うん」


 言葉にならない返事をしてから彼女手をとんとんと軽く叩いて「もう大丈夫だよ。たがら待っててね」と告げる。オリブルは「はい」と短く応えてから躊躇いがちに私から離れると空になった食器を片付けるために部屋を後にした。


 メリュジーヌの元に赴く前に懐に入れていたスマホの存在値を最大まで補充し、長期間目覚めることがなかった場合に存在値切れで消失しないように対処してから私が念じることでしか開けることの出来ないスマホ専用の小箱を魔術で創り出して格納する。それをベッドの裏に隠し、準備は万端だと別館から本館へと向かった。


 本館に一歩踏み込み、私はメリュジーヌの元を訪れる前にプラティナの部屋を目指す。残したままになっている試験管類を処分するだったけれど予想外にも部屋には先客が居た。

 先客であるメリュジーヌはどういうわけか出窓のカーテンを掴んで匂いを嗅いでいた。


「姉様、なにをしてらっしゃるのですか」

「あぁ、プラティナやっと来てくれたのね。なかなか姿を見せてくれないから忘れ物を取りに貴女の部屋に立ち寄ってるんじゃないかと思って様子を見に来ていたの」


 私の問いに関する答えはどこかズレていてなにかを誤魔化されているように感じる。彼女が匂いを嗅いでいた箇所は昨日魔力で生成した水を浸透させて放置したところだっただけに気になって仕方がない。その理由を確かめるように言葉を改めて問い直す。


「カーテンが気になるのですか? 匂いを嗅いでおられたようですが」

「ここに貴女の匂いが強く残されていたものだからついね」


 とメリュジーヌは蕩けた表情で私に熱い眼差しを向けて来た。

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