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016 染色

 オリブルに私が権限を与えたことでメリュジーヌの定める制限に引っかかる行動をさせてしまい処分されてしまったのではないかと気になって仕方がなかった。今日の外出の件など処分する理由として最たる原因になり得そうなだけに責任を感じる。そんな不安に駆られながら厨房へと足早にたどり着くと、そこには無事なオリブルの姿があり、懸念していたようなことにはなっていなかった。

 オリブルは調理台の上に食材を並べて、それらを前に腕を組んで考え込んでいる様子だった。


「オリブル?」

「プラティナさま、どうされました? すこし顔色が悪いように見受けられますが、日中の外出で体調を崩されたのでしょうか」

「ううん、身体は大丈夫。ここに来たのは夕飯時を過ぎてもオリブルが姿を見せないからなにかあったんじゃないかって気になってさ」

「……そんなに時間が過ぎてしまっているのでしょうか」

「うん。外はもう真っ暗だよ」

「申し訳ございません」

「無事だったならいいんだ。でもオリブルが仕事に穴を開けちゃうなんて、どうしたの? なにか問題があったのなら手伝うよ」

「いえ、そういうわけではないのです。ただプラティナさまに喜んでいただける料理を用意しようとメニューを考え込んでいたら時間だけが過ぎ去ってしまっていたようで」

「なんかごめん。私、無責任なこと言っちゃってたかな。好きにメニュー決めていいよなんて言われても困るよね」

「プラティナさまが謝ることはありませんよ。つくりたいものがたくさんあり過ぎて決めかねていた優柔不断な私の責任ですので」

「なんだか話が進まないからお互いに責任があったってことで、今後の方針を決めましょうか」

「はい、それでプラティナさまはどのようになさるつもりなのですか?」

「オリブルがつくってみたかった料理を順番にいくつか教えてくれないかな」

「それでしたら」


 とオリブルが上げていく料理名を聞きながらどんな料理なのだろうかと想像する。彼女が7つほど名を上げたところで口を挟む。


「それじゃ、一番最初に名前を出したものから順番に一度の食事につき一品ずつつくっていってもらおうかな。2日後の夜にまた同じようにしてメニューを決めましょう。こんな感じでいいかな?」

「では、そのように」

「うん、お願い。そういえば、そろそろ水瓶の水なくなっちゃうよね。今のうちに補充しておくね」


 前回よりも少し強く念じて魔術で水を生成し、水瓶から溢れんばかりに注ぎ込んだ。


「ありがとうございます、プラティナさま」

「なにか手伝おうか?」

「いえ、部屋でお待ちください。初めての試みで不恰好な調理過程をお見せするのは気恥ずかしいものですから出来れば完成した料理を最初に披露させていただきたいのです。手前勝手なことだとは思いますが、よろしいでしょうか?」

「オリブルが望むのなら私はそれに従うよ。部屋で楽しみに待ってるね」

「すぐにお持ちしますので」

「ゆっくりでいいよ。まだお腹空いてなかったし、オリブルの料理を堪能出来るようにお腹を空かせておくからさ」

「はい」


 やる気に満ち溢れたオリブルと別れ、私は暗がりの中を静かに部屋へと戻る。途中、ルノーを見かけたが彼は私に視線を送ってくるだけで前回同様に素通りしていく。なにか意思疎通を図るべきだろうかとも思ったけれど、掃除に専念しているらしい彼を引き止めるのは躊躇われたので「お疲れさま」とだけ告げるに留めた。


 部屋に戻った私は試験管の様子を見る。水位は少なからず下がっているので蒸発するなり、花が水を吸い上げるなりしたのは間違いない。試しに花が私の魔術の影響を受けるのか確かめるために花弁が白色が変わるように念じてみる。すると薄っすらとだけれど色が白む。その変化が一番顕著だったのは私の生成した水と土を投与したもので、メリュジーヌの生成した水と外で採取してきた土を投与したものは全くと言っていいほど変化しなかった。

 花が変化させられるのなら水が浸透している土はどうなのだろうかと試験管の底に沈殿しているものに対して丸くなるように念じてみるとメリュジーヌの水が注がれた試験管のもの以外は綺麗なひとつの球体へと形を変えた。

 魔力で生成した水が浸透したことによる影響は思っていた以上に大きく、私がメリュジーヌに施された枷は一朝一夕で解除出来ないことはより明白になったけれど、時間さえかければどうにか出来るのだと知ることが出来たのは大きな収穫だった。

 検証を終えた花々を日当たりのよい出窓へと置き、カーテンを閉める。

 ふと私は思い付いたことを試すために掴んだままだったカーテンの一部を魔術で生成した水で濡らし、その箇所に対して色が変わるように念じてみる。結果は想像通りで念じた通りに鮮やかに発色した。それをすぐに元の色に戻し、カーテンを濡らしたまま放置する。乾くのをじっと待っていると部屋の扉がノックされた。

 私は少し迷ったけれど濡らしたカーテンは半ば乾いていたので水を消去することなく、オリブルを部屋へと招き入れた。

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