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011 地図

「おはよう、オリブル。昨日は、ありがとう」


 目を覚まして開口一番に感謝を告げる。結局、オリブルは私の側に一晩中ついてくれていた。


「いいんですよ。私はプラティナさまのために存在しているんですから」

「うん」

「朝食はどうされますか」

「お願い出来る?」

「もちろんですよ。なにか食べやすいものを用意しますね」


 食事の準備のために彼女が部屋から出て行き、扉が静かな閉まる。私はベッドサイドテーブルに置かれていたカップに水を入れ、カラカラになっていた喉を潤した。そして足の具合を手で触れて確かめてみる。内部に鈍い痛みと生え変わった境目に違和感を感じる程度で昨日から変化はあまりなかった。


 オリブルには空になった食器は厨房に持って行くからと告げ、朝食をひとりで食べながら昨晩造ったスマホで球体カメラを操作して屋敷の周辺を空撮していた。なかなか街が見つからないので少し撮影範囲を広げるために縮小操作を何度か繰り返す。球体カメラはかなりの高度まで上がり、広範囲を映し出したことで私は自分が閉じ込められている場所がどんな土地か理解した。

 屋敷を中心に据えて数㎞四方に広がる緑地を外から隔離するように深く幅の広い天然とは思えない堀が掘られていて断崖絶壁と化している。それに加えて堀を隔てて数十メートル近い高低差があるため完全に陸の孤島と化していた。

 いくら巫女の住まう聖地だからといって一切他人が近付くことがないのは妙だとは思っていたけれど物理的に阻まれていたらしい。興味本位で訪れる人間くらいいるんじゃないだろうかと思っていただけに困った。高低差だけでも厄介なのに堀の幅は十数メートル以上あり、橋の一本もないため簡単には渡れそうもなかった。

 球体カメラの高度を落として堀の中を調べてみると緑色の液体で満たされ、湯気が上がっている場所もあった。

 温泉が湧いているのなら近くに火山でもあるのかもしれないが、それにしては周りに緑が溢れているのが不思議だった。

 球体カメラの高度を戻し、更に遠くを調べて行くがなかなか街が見つからない。堀から10㎞くらい離れても見当たらなかった。調査する方角が悪かったのか、ようやく街が見つかったのは30〜40㎞程行った場所でかなり栄えていた。もしかしたら見落としただけで途中にちいさな集落があった可能性はなくはないと改めて精査しようと思ったが、球体カメラの存在値の減り具合から時間的に厳しかった。

 すぐに球体カメラを回収すべく部屋にまで戻しながら操作のしにくさに自動でスマホのある位置にまで帰還する機能を追加しようと決めた。

 新たな機能を追加して再度球体カメラを送り出して屋敷の遥か上空へと移動させる。広域を収めた状態で写真を撮って、早速新機能を使って帰還させる。撮影した写真を元に地図をつくり、スマホのある地点を赤い点で表示されるようにした。今日はもう充分だと存在値を補填してから引き出しに片付ける。

 周辺の地形を見る限り、ここを脱出すること自体は高低差を利用して降るだけでいいので無理ではなさそうだったが街までの道中がなんとも言えなかった。簡単なマップアプリをつくったので鬱蒼とした森の中を彷徨うことはないだろうけれど、どんな動物が生息しているかわからない。獰猛な肉食獣が棲み着いていればひとたまりもなく、大型の獣がいなかったとしても毒虫の類がいないとも限らなかった。

 近くに川でもあれば硫化水素の影響でまともに生物が生息出来ずに餌を求める肉食動物も寄ってこないのではないかとも思ったけれど、そもそも植物が平然と繁茂しているので野生動物も問題なく暮らしているような気がした。

 周辺の生態系に関しては午後からのオリブルの授業で教わることになっているので、そこからヒントを得ようと決めて別の作業に移ることにした。

 あと問題になってくるのは食料やお金だろうと考えて普段メリュジーヌはどこから食料を調達しているのかと気になった。発見した大きな街とは最低でも30㎞は離れていて、外部とは完全に隔絶された屋敷に届けて貰うこと自体が困難なのだ。

 空輸でもされてるのだろうか? と考えながら冷めてしまった食事を口に運んでいて別の可能性が脳裏に浮かぶ。

 魔術で生成していたのは水だけではなく口にするもの全てだったのではないかと。厳密には違うのかもしれないけれど私も魔術によって自身の足を生成したようなものなのだから可能な気がした。

 それを確かめるために私は念じてパンをつくり出してみると、実際にそれらしいものはつくれた。しかし、つくれはしたのだが口にしてみると味もなにもなく、スカスカのスポンジでも食べている気分になった。

 どうにも水とは違うらしい。私には出来なかったけれどメリュジーヌはどうなのだろう?

 スライムのルノーやオリブルを造っているくらいなのだから出来なくはなさそうだけれど必要な労力とは見合うとは思えなかった。食べかけのパンもどきを消し去り、私は食事を終えて空になった食器を手に部屋を後にした。

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