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5人の少女

 喋る気配を見せない5人。幾ら待っても仕方が無いと思い、これからの話をする事にした。一方的になってしまうかも知れないが、喋ってくれなければ仕方が無い。


「これからについて聞いてくれるかい?」


 喋る事をしない5人は戸惑いを見せていたが、頷き栗山の瞳を見つめる。5人一斉に見つめられるというのは意外と緊張してしまうのと、質が悪いと言われているだけで顔は綺麗で可愛い。獣耳の少女が2人に、見た目が普通の子が3人。栗山に訴え掛けるような目で見ていた少女の髪は栗色で少し癖っ毛のショート、もう1人は大人しめで髪の色は赤毛のショートである。あとの3人は髪の色が黒でロングヘヤーだ。


「えっと、これから町に戻ってギルドに向かう。そこで昨日倒したオーガを換金し、君達は冒険者になって貰う」


「え?」

「は?」

「嘘……」

「い?」

「はぁ?」


 ギルドに向かい、オーガを換金するまでは普通にしていたが、冒険者になって貰うといった瞬間、5人はそれぞれ驚きの声と戸惑いの声をあげる。


「ぼ、冒険……者?」


 癖っ毛の獣耳少女が呟く。


「うん。冒険者」


「わ、私達……武器なんて持った事無いよ……」


 黒髪の少女が戸惑いながら聞き返すように言う。


「問題ない。全て俺に任せろ」


 5人は顔を引き攣らせながら栗山を見つめ、暫く動く事ができずにいた。


「冒険者に……なれる?」


 癖っ毛の獣耳少女が表情を綻ばせながら聞いてくる。


「なれるよ。いや、なってもらう。俺の手伝いをしてもらう」


 5人はバラバラな表情をしており、それは望まない者もいれば、嬉しそうにしている者もいた。望まない顔をしているのを見て思うのは、やはり接近戦は怖いと言うことなのだろう。


「じゃあ、これからギルドに移動するよ」


 栗山は立ち上がり、移動をしようとすると、癖っ毛の少女が腕にしがみつく。


「ほ、本当になれるのか! 冒険者に!!」


「なれるよ。君は俺に助けてって言ったろ? 今度は俺を助けてくれないか?」


 うん! と、嬉しそうに返事をして立ち上がる。それほど冒険者に憧れていたのだろうか……。

 癖っ毛少女は直ぐに行こうと囃し立て、腕を引っ張るようにして歩き始める。残りの4人は戸惑いながら栗山と癖っ毛少女のあとを付いてくるのだった。


 町に戻り、周りをキョロキョロしながらギルドを探す癖っ毛少女。4人は呆れた目で少女を見ており、まるで約束が違うじゃないと言いたげであった。


「そんなに冒険者になりたいのか? お前……」


「なりたい! 私は力が欲しい!」


「力ねぇ……」


 力があっても上手くいくはずはない。それは歴史が物語っている。必要なのは力と知識、それに洞察力と判断力である。それがあればお金を手に入れる事は簡単で、上手に立ち回る事ができる。しかし、一番大事なのは信用と信頼だ。

 だが、それを彼女に伝えたところで理解してくれるのかは難しい。それ以前に信頼されていない状態だから話をしても無駄であろう。

 しかし、それは後々教えていけば良い話だ。先ずはこの様に嬉しそうな表情をしてくれているのだから、良しとしておくべきだと栗山は思うのだった。


 暫くして町を歩いていと、ギルドと書かれた看板を発見する。しかし、癖っ毛少女は気が付いていないようで、素通りしてしまう。


「おい、ギルドを素通りしてどうするんだよ?」


「ふぇ? あ、ごめ~ん」


 何故だろう、この癖っ毛少女に対して少しだけイヤな予感がするのは……。何か危険な香りがする……。

 残り4人に目を向けると、4人は一斉に目を背ける。どういう事だと思いながらギルドに入っていくが、それを忘れさせてくれる程の注目を浴びる事になる。


「な、なんだ……いったい……」


 戸惑いながら周りを見渡す。しかし、周りの人は目線を合わせようとしないと言うか、ギルド内にいた人達の視線は、彼女達を見ているものだった。

 別に可愛いから見ているというのでは無く、異物を見るような目で見つめる。

 何故そのような視線を浴びせるのだろうと考えた結果、彼女等が着ている服にあるようだった。

 考えてみればこの世界にスポーツウェア等は無い。そして、癖っ毛少女が触り心地を楽しんでいた事を思い出し、素材の違いと言うのにも気が付いた。

 皆が着ている服だが、どう見てもくたびれた布に、革の何かを羽織っていたり、鎧のような物を着込んだりしている。

 彼女等が着ている新品のスポーツウェアは高級品で、が輝いているようにしか見えない。

 だから皆が注目するのだ。これは町中を歩いていても同じで、ただ単に、栗山が気が付いていなかっただけである。

 変な意味で目立ってしまった栗山等。癖っ毛少女以外は恥ずかしそうにしており、栗山を盾にするかのように隠れる。


「皆どうしたの?」


 全く気にしていない癖っ毛少女。意外と神経が図太い事を教えてくれる一幕であった。

 カウンターで冒険者登録の話をすると、店員は書類を持って来て5人の前に差し出す。癖っ毛少女達5人は、書類に目を通しているのかと思いながら店員にオーガを換金したいと話し、換金するために場所を移動する。

 少女達は書類と睨めっこしているのを見て、何故だか不安が頭を過ぎる。


 暫くして換金が終わり、少女等の元へ戻るのだが、少女等の書類は白紙の状態で、全員が困った顔をしていたのだった。


「ど、どうしたんだよ……」


「あ、あのさぁ……」


「今さら嫌だとは言わせないぞ」


 そう、嫌だと言われても困る。自分の分は自分で稼いでもらうのが好ましいから。


「そうじゃなくて、字が書けないんだよ……私ら」


 情けない顔をする5人に対し、栗山は呆れた目をするしたかない。店員に代筆は可能かと質問すると、血判をすれば問題ないとの事で、仕方なく栗山が書く事になった。


「文字が書けないという事は、読む事もできないんだろ?」


「うん、もちろん!」


 堂々と、自慢するかのように胸を張るのだが、それは胸を張るところでも、自慢するところでもない。この5人に勉強も教えてやらねばならい事が分かり、項垂れたい気分を我慢して書いてある事を5人に説明する。


「俺に教えるのは嫌かも知れないが、名前を書かなければならない。偽名は不可……偽名というのは、嘘の名前を書いてはいけないという事だ。生まれた場所、もしくは育った場所を書く必要もあるし、年齢も必要だ」


「ふ~ん。えっと、名前はカミュ・エリエット、育った村はイニ村。歳は生まれから数えて16だよ」


 前に聞いたときは全く答えなかったくせに、書類に書くときは素直に答える。コイツ、ふざけているのかと言いたい気持ちになるが、それをグッと堪え、言われたとおりに書いていく。


「じゃあ、これに血判を押して、あの人に渡して。次……」


「コレット……ミルサレル……。あとはカミュと一緒……」


「はいはい、コレットね……。じゃあ、これに血判を押してあの人に渡して。次……」


「エミル・チカル、サラエ村、17歳」


「エミル……と、次……」


 流れ作業の要領で書類を書いて各自に渡し、血判を押して店員に渡していく。栗山は5人分の銅貨を支払い、カードを受け取る。書かれている内容は栗山と略一緒だが、名前の後ろに括弧書きで奴隷と書かれてある。書類にはそこまで書いていなかったのだが、魔法契約によりカードにも書かれると言う事が分かった。


 各自にカードを渡すと、カミュは嬉しそうにカードを見つめており、他の4人は思い思いの表情をしていた。


「じゃあ、今日の仕事をしに行く前に、宿の手配をしに行くぞ」


 「オー!」と掛け声を上げるのはカミュだけで、他の4人は、そさくさと店から出て行く。

 4人の後ろを付いていくように店を出ていくと、4人は早足で人目に付かないところへ移動し蹲る。


「なんであの子はノリノリなのよ!!」


 頭を抱えながら悶えるようにカミル・ガレリン(ヒューマン)が叫ぶ。気持ちはなんとなく理解できるし、察しも付く。栗山は傍からそれを見ており、なんとなく同情したくなる気分だったが、カミュに関しては気にした様子はなく「何してんの? みんな」と首を傾げる。脳天気で単細胞な奴ほど羨ましい事はない。獣人が皆同じような性格なのかと思ったが、もう1人の獣人、コレットも頭を抱えているのを見て、「あ、カミュだけが特別なんだ」と理解した。


「おい、そんなところで蹲っていたら、時間が勿体ないだろ。早く宿を手配して練習をしに行くぞ」


 4人に向かって栗山が言う。練習と聞いてカミュは嬉しそうに目を輝かせるが、チヒ・イレイリ(ヒューマン)が振り返り「れんしゅう?」と不思議そうな顔して聞き返す。


「お前等は武器を使った事がないんだろ? この様子だと包丁の一つも持った事がなさそうだし……」


 深い溜め息を吐き、自分がコイツ等の食事を作らなければならいのと、勉強を教えなければいけない事に項垂れたい気分になる。

 4人は小さく返事をしてカミュと栗山の後ろに付いてくる。カミュはうるさいと言いたくなる程どのような武器を持つのだと聞いてくると、見えない剣を振り回すかのようにして楽しんでいた。


 暫く歩き、宿屋を発見する。前に聞いた話では、この町は宿屋が何軒かあり、全ての部屋が埋まるような事はそうそうないらしいが、チェックインしてみないとなんとも言えない。うるさいカミュを放っておきながら、栗山は店の中へと入る。そして、受け付けで6人泊まれるかと話をすると、同じ部屋で良いのなら泊まれると言われた。もちろん金額は6人分必要。


「同じ部屋って……そんなに大きい部屋があるんですか?」


 外見からしてその様には見えない。


「いや、そんな大きい部屋ではない。本来は3人しか泊まる事ができないが、それでも良ければと言う話だ」


「マジかよ……」


 改めてこの世界は優しくないと思う。しかも6人分代金が必要とは馬鹿にしている。


「多分、この辺りで泊まるとしたら、数日は我慢せにゃならんだろう」


「え? 何故ですか?」


 後ろではカミュがキャンキャン騒いでおり、他の4人が呆れた表情でそれを見ている。ハッキリ言って、黙らせろと命令をしたいが、今まで我慢していたかも知れないのだから、もう暫く我慢することにし、話を続ける。


「実はな、この辺りに出てくるホブゴブリンの群れを退治する冒険者が集まっているんだよ。だから宿は何処も一杯って訳さ」


 ホブゴブリンというのがどういう奴なのか分からないが、群れているというのなら面倒な話なのだろう。それに、オーガの時に分かったのだが、この辺にいる冒険者はそれ程強い訳ではないようだ。なので、沢山の人が集まって狩りを行う必要があるのだろう。


「隣町……えっと、ルルブルクの町ではないは何日くらい掛かりますか?」


「アルミドスの町だったら4日ほどだな。だが、向こうに行くにつれ、魔物は強くなるぞ」


「え? 強くなるんですか? そりゃ、参ったな……」


「お前さん、他所から来たのか? アルミドスの町と言っても砦なんだよ。あの先は魔物が沢山生息していて、更に強い魔物がいると言う話だ。まぁ、レベル20前後の冒険者しか相手ができないと言われているくらいだしな」


 深い溜め息を吐きたくなる。何故この世界はこんなにも優しくないのだろう。


「ルルブルクの町から、数日歩いた所にシラスリの町がある。それからさらに先へ行くとボリサラットの町がある。そっちのほうがここよりも安全だ。安全を考えるのであれば、そっちへ行くと良い。だが、安全という事は、それなりの報酬や依頼しかないということを肝に銘じるんだな。お前さんは随分と食費が嵩むようだし……」


 栗山の後ろで騒いでいる少女達に目を向け、少しだけ同情ににた目で見られる。

 報酬額が下がることは死活問題に直結する訳ではない。それに、既に一度は野宿をしているのだ。だったら余計な金を使わずに、野宿でもして稼いだほうが良いかも知れない。

 答えが出ずに、受け付けに居るのは迷惑になるため、一度店を出ることにし、5人は栗山の後に付いていく。

 外で少し考えていると、カミュが裾を引っ張ってきた。


「なぁ、宿に泊まるんじゃないのか?」


「部屋が無いんだとさ。しかも、暫くは満室に近い状態らしい」


「なら、別の町に行くのか? 私は別に構わんぞ。兄ちゃんの奴隷だしな。何処でも、何処までも付いていくぞ。飯も食わせてくれたし」


 ニシシッ……。と笑いながらカミュは言う。他の4人を見ると、仕方が無いという表情をして栗山を見ていた。


「そうか、じゃあ……他の町を探してみるか」


 カミュは元気よく返事をして、4人は小さく息を吐いた。それを見て、少し申し訳ない気分になったが、自分等が休める場所を探すにはそれしかないし、このままだと暫くの間は野宿になってしまう。その野宿だって、いつまで続くのか分からないのであれば、移動した方が休めそうな場所が見つかるかも知れない。

 4人に説明すると、チヒが「私達は旦那様の奴隷ですから、言われたとおりに致します」と、少し悲しそうな声で言う。

 3人も同意見だったようで、少し俯き、頷くのだった。

 宿屋の中に入り、泊まらないことを話すと、「他の方角へ進めば違う町がある。そこらの情報は無いが、行くだけの価値はあるかもな」と言う。


「じゃあ、戦闘の練習をしながら休めそうな町を探そうか」


 栗山の言葉にカミュだけが元気に返事をして、4人は項垂れながら付いてくるのだった。

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