信頼を得るには?
フォルカンのお陰で宿と食事、それとゆっくりする時間を手に入れた栗山。しかし、自分が守った少女達は奴隷であった。
フォルカンに銃を譲る事により少女達5人を自分に譲って欲しいと頼み、栗山は5人の奴隷を手に入れた。
だが、栗山の考えは甘く、手にした彼女等は魔法契約により栗山の正式な奴隷となり、彼女等の自由は失われてしまった。
これからどうしたら良いのだろうかと、ベッドで横になっていると、寝息が聞こえてくる。
そう、彼女等も同じ部屋におり、床に敷かれた布団で眠りについているのだ。
先程までフカフカの布団に入って興奮していたのだが、疲れが酷かったのか、暫くしたら全員眠りに就いてしまった。
出来れば名前を聞きたかったのだが、それは明日まで取っておくことにし、全員の布団を掛け直してベッドに腰掛ける。
やっと安心して休める場所に来たのだが、これから先は彼女達を養っていく必要があり、どうすれば良いのか悩めるところだ。
武器についても考えなければならない。警察が持っていた銃を召喚して戦うことができたが、オーガを一撃で仕留める事が出来なかった。と言う事は、あの武器では心許ないと言う事であり、これから先、別の方法も考えなければならない。
では、どうしたら良いのか……。自分も剣を持って戦う……。それも1つの選択肢である。だが、剣を持ったことがない人が簡単に扱える代物とは思えない。
それは拳銃を使った事でより、理解してしまったのだ。
今までの戦闘では、至近距離で銃撃を行い魔物を倒した。それはかなりの恐怖があり、本当に怖かった。
その恐怖を取り除くには経験を積まなければならないが、そう簡単に経験を積むことはできない。何故なら、独りで戦うのは怖いし、接近戦など二度とやりたくないからである。
それに、先ずは異世界という場所に慣れる必要もある。
しかし、そのような悠長なことを言っている隙がないのは、目の前で気持ち良さそうに寝息を起てている彼女達がいるからである。
自問自答を繰り返すが答えが出るはずはない。全て自分で決めなければならないからだ。
日本と異なりバイトで生活が出来るほど甘ったれた世界ではなく、生きるために必死にならなければならない世界なのだ。
先ずは武器だと思い、図鑑を召喚する。暫くして読んでから栗山は眠りについたのだった。
翌朝、アラームが鳴り響き栗山は目を覚ます。
そして、アラームを止めて身体を起こして大きく欠伸をすると、何やら視線を感じて周りを見渡す。
すると、怯えた目をした少女達が栗山を見ており、何故、そんなに怯えているのかと考えてから自分の常識と、彼女等住んでいる世界の違いを思い出す。
この世界にアラームと言うものがない。音のする機械というのが無いのである。
突然、PiPiPi……と室内に鳴り響く異質な物体に恐怖を抱かない方がおかしいだろう。
「あぁ~……これは……その……なんだ、気にするな。気にしないでほしい……かな」
それは無理な話であるのは分かっているが、言わずにはいられない。アラームを袋に仕舞うフリをして召喚解除して、朝の挨拶を行う事にする。既に怖がらせてしまっているのだが……。
「先ずはおはよう。よく眠る事ができたかい?」
5人に向かって言うと、5人は脅えた目をして小刻みに何度か頷いた。
「そうか、それは良かった。で、昨日は聞き逃してしまったのだけれど、君達の名前を教えてくれないか? 何かと必要になってしまうからね」
優しく微笑みかけるように言う。しかし、アラームの件があるのか、彼女たちは名前を名乗る事をせず、脅えた目で栗山を見つめていた。
「はぁ~。これはやらかしてしまったな……。まぁ、いいや。俺の名前は栗山千秋。えっと、君達のご主人様? になるのかな……チアキと呼んでくれて構わないよ。宜しく」
とは言っても、脅えた目をしているのは変わらない。5人は、何をされるのと不安になっているようで、部屋の隅に寄って、肩を寄せ合うようにして震えていた。
どうすりゃ良いのさと考えていると、部屋の扉がノックされ、執事が扉を開ける。
「チアキ様、起きておられますか? 旦那様がお呼びです……」
「わ、分かりました」
ベッドから降り執事と共に部屋を出て行く。5人はホッとして布団のある方へと戻るのだった。
フォルカンの居る場所へ案内されると、そこは昨日と同じ食堂であり、フォルカンは椅子に座って食事をしていたが、栗山に気が付き手を止める。
「おはようございます、チアキ様。良く眠れましたかな?」
「えぇ、ありがとうございます」
「では、朝食を摂られると良いでしょう」
フォルカンが言うと、メイドは食事を運んできてテーブルに並べる。執事は椅子を引き、栗山に座るよう促す。
「あ、ありがとうございます……」
椅子に座り、朝食を取り始めると、フォルカンが質問をしてくる。
「チアキ様、貴方はこれからどうされるのですか?」
どうされるのかと言われても、困ってしまう。正直に言って、この世界に来てまだ3日目であり、全くこの世界が分からないのだから……。
「と、取り敢えず……ギルドへ行って、オーガを換金しようかと思います」
「そうですか。奴隷も冒険者登録をすることが可能ですしね……」
それは初耳である。冒険者登録ができるというのであれば、自分と一緒に行動させ、スキルなど覚えさせることが可能だということだ。
「そ、そうですね。俺も冒険者だし……彼女達にも手伝ってもらおうかな……」
それ以上フォルカンは喋る事無く食事を続け、栗山も黙って食事をするのだった。
食事が終わり、これ以上甘える訳にはいかないと思い、フォルカンに旅立つ事を告げる。少し残念そうな表情をしたが、こちらが冒険者なので縛る事ができない。それを理解しているので引き留めるような事はしなかった。
5人の少女達と屋敷をあとにして、ギルドがあると思われる中心地へ移動を開始する。フォルカンの屋敷は町の外れにあり、少し歩く必要がある。少女達の足取りはおぼつかないように見え立ち止まると、少女達はビクッとして立ち止まり距離を置く。質が悪いというのは、こういうことも含まれている可能性があるのだろう。栗山の頭に一瞬だけそう過ぎるのだが、それでも彼女等は自我を持った人である。物や道具ではないのだ……自分は何を考えているかと首を横に振り、思いを改める。
「お前達はちゃんと食事を摂ったのか?」
自分は屋敷で食事を摂った。だが、自分の常識で話を進める訳にはいかない。先ずは色々と知る必要があり、彼女等とコミュニケーションを取ってお互いを知らなければならい。
だが、彼女たちは答えようとしない。5人はお互いに身を寄せ合いながら震えるようにしており、栗山は少し困ってしまう。どうやったら話してくれるのだろう。昨夜から一言も言葉を発してくれないのでどうする事もできない。まさか言葉が喋る事ができないのかとも思ってしまう。
「言葉がしゃべられないの?」と質問をすると、5人とも首を横に振る。やはりただ単に脅えているだけのようである。5人ともの身なりは薄い生地だけを羽織って、肌が透けて見えている。正直に言って、これで町中を歩くのは可哀想だ。栗山は袋から服を取りだすフリをしてレディース用スポーツウェアを召喚する。
「屋敷から少し離れたし、これを着たら良いよ」
手渡そうとして近寄るのだが、どう見ても怖がっており、スポーツウェアを受け取ろうとはしない。
これは困ったと思いながら、誰か渡しやすそうな人はいないかと目をやると、1人だけ好奇心に満ちたような目と、恐怖心が入り混じった目をした少女に気が付く。そう、オーガとの戦闘時に栗山に助けてと呟いたように見えた獣耳の少女だ。
「そこの君、これを受け取って着るんだ。これは命令だ……分かったかい」
小刻みに頷き、震える手でスポーツウェアを受け取る少女。その生地は自分が着ている物とは全く異なっており、今まで触った事のない肌触りで小さく声を上げる。
「それを着るんだ。着方は分かるか?」
「……は、はい……」
やっと返事をしてくれた。心の底からホッとし、脱力感に襲われる。
恐る恐る獣耳の少女がスポーツウェアを着ると、他の4人は羨ましそうな目で少女を見つめる。ウェアを着た少女は動きやすさなど確認し、嬉しそうな表情をしていた。
「まだあるから大丈夫だよ。ほら、これを着ると良い」
袋から取り出すように召喚する。それを少女の一人が受け取り、慌てて着始める。再び召喚をしてもう1人、もう1人と渡し、5人は嬉しそうにしていた。
「あと、これを履いた方が良いかな」
そう言って5足のスニーカーを取り出したかのように召喚し、5人に渡す。初めて見るスニーカーに5人は首を傾げる。最初にウェアを着た少女を座らせ、栗山が履かせてあげる。少女は立ち上がり「足が痛くない!」と嬉しそうに飛び跳ねていた。
次は私もと言って4人はその場に座り、栗山が履かせていく。履き終わった少女達は嬉しそうに飛び跳ねたりしてはしゃいでいた。
「もう一度聞くけど、お腹空いてないか? 大丈夫か?」
服や靴を手に入れ、これ以上無い喜びを見せていた少女達は動きを止め、栗山を見る。どう答えたら良いのか迷っているように見え、顔を見合わせていた。
それを見た栗山はギルドへ行くのを止め、先ずは食事を取らせる事にする。だが、栗山の所持金は銅貨60枚のみ。ここでの食費がどのくらいするのか分からないため、召喚した物を食べさせるしかない。だが、町の中で、しかもフォルカンの屋敷側で食べさせる訳にはいかないため、町の外に出る事にする。それに、試したい事があり、それを実行する良い機会だと思うのだった。
「じゃあ、先ずは町の外に出よう。大丈夫、俺を信じてくれ」
少女達は顔を見合わせ小さく頷き、栗山と共に町の外に出て行く。時折、後ろの方でお腹を押さえている少女の姿が見え、やはりお腹が空いているのが分かる。町から少し離れ、人目に付かない場所へ移動し、栗山は腰を下ろす。5人は不安そうな顔をして立っており、栗山は座るように指示すると、5人は栗山から少し距離を取りつつ座り、少しだけ栗山は傷付いた。
「信頼という物が全く無いんだな……。まぁ、仕方が無いか……」
独り言を言いながらレーションを召喚して水を注ぐ、これは昨日の昼に食べた物と同じで、自衛隊の戦闘糧食Ⅱ型である。いきなりカップ麺を食べさせるのは難しいと判断したため、食事っぽい物を出したという事である。
袋が膨らみ穴から水蒸気が吹き出す。その様な物を見るのは始めてな5人。これを怖がらず何を怖がるというのか。膨らむ袋を見て破裂するのではないかと心配し、5人は身を寄せ合い震えていた。
暫くすると蒸気が止まり、栗山は器を袋から出したフリをして召喚する。その器にレーションを乗せて少女達に配る。
渡された物は美味しそうな匂いがして食欲がそそられるらしく、唾を飲み込んでいるのが分かる。だが、それと同時に毒か何かが入っていたらという気持ちもあるらしく、5人はレーションに手を付けようとはしない。
「熱いうちに食べた方が良いよ。毒なんて入ってないから……大丈夫だよ」
毒味をするかのように栗山が口にする。それを見た獣耳の少女が恐る恐る一口食べる。すると、「美味しい……」と小さい声で呟き、誰にも取られないようにと勢いよく食べ始めた。他の少女等はそれを見て、自分達も口にし、小さい声で美味しいと呟き食べ始める。
それを見て、なんとか生活ができるかも知れないと栗山は思いつつ、彼女等の飲み物を用意し、食べ終わるのを待つ。
随分とお腹が空いていたのだろう。アッと言う間に食べ終わり、用意した水を一気に飲み干してしまう。最後の1滴も無駄にしてはいけないと思っているのか、口を開けて水滴が垂れてくるのを待っていたり、コップを軽く叩き水滴が溜まるのを待っていたりしていた。
「おかわりの水や食べ物はあるよ。ほら、コップを出して……」
栗山が2リットルのペットボトルを召喚すると、少女等は勢いよく差し出す。喉も渇いていたのだと言う事が分かり、気が付いてやれなかった事に申し訳なさを感じる。
水を注ぐと、少女等は何度も勢いよく飲み干していく。5回ほど水を注ぐと、ようやくお代わりを要求する事はなく、落ち着きを取り戻しホッとした表情を浮かべていた。
「満腹になったかい?」
栗山が聞くと、少女等は顔を見合わせてから小さく頷く。
「それは良かった。じゃあ、もう言う一度自己紹介をしよう。俺は栗山千秋。君達のご主人様だ。宜しく……。で、君達の名前を教えてくれるかい? 名前が分からなければ俺は困ってしまう」
優しい口調で言うと、5人は口をモゴモゴし、恥ずかしそうな表情になる。まだまだ名前は教えて貰うには時間が掛かると思いながら大きく息を吐き、空を見上げ、ゆっくりと仲を深めていけば良いだろうと思うのだった。