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41.別れの旅立ち

 エミルを縛っていた固定具を外し、コレットとカルミは頭から毛布を掛ける。何時までもこの様な格好をさせている訳にも行かないからだ。

 カミュはゆっくりとエミルの側に寄り、毛布からエミルの顔を出し確認する。


「エ……エミル……ごめん……ごめんなさい……」


 エミルの頭を抱きしめカミュは謝る。1人にしてしまいごめんなさい……遅くなってごめんなさいと……。全てを終わらせ、栗山もエミルの側による。カミュは泣きながら何度も謝罪の言葉を並べる。その言葉はエミルに届いているのか分からない。


「遅くなってごめん。さぁ、帰ろう……俺達の家に」


 グッタリしているエミルに話し掛け、カミュの肩に手を置く。


「カミュ、エミルをこんな場所に何時までもいさせたら可哀想だ……家に連れて帰ろう」


 カミュは頷き、召喚した担架にエミルを乗せ、カミュ等3人は地下室からエミルを運び出していく。チヒはサレスト伯爵だった肉の塊をエミルが繋がれていた場所へ運び蹴りを入れる。何度も、何度も蹴りを入れる。それは痛がることも、喚くこともない肉の塊。

 栗山はチヒの肩に手を置き、この場所から出る事を告げると、チヒは栗山に抱き付き、大声を上げて泣き叫んだ。

 先にチヒを外に出し、栗山は地下室に時限式のダイナマイトをサレスト伯爵だった肉の塊に括り付け、火薬を肉の塊に降りかけてから地下室から出て行く。

 外にいた冒険者達には、大量の油に火が引火しそうだから逃げるようにと騒ぎ起て、近寄らないようにさせた。それから5分後に地下室は大爆発を起こして崩れ去り、跡形もなく地下室は消滅するのだった。


 エミルを家に連れ帰り、身体を綺麗に洗い、ファッション雑誌の一部に折れ目が付いてあった服を着せてあげた。

 埋葬するとき、下民街の長が一緒に弔わせて欲しいと言い、下民街に住む者全員がエミルを埋葬に参列して彼女の冥福を祈ってくれた。

 葬儀が終わり、家に帰ってきた栗山達。町の人々は古代竜が倒されたと言うことでお祭り騒ぎになっているが、下民街だけはそれに参加することはなかった。

 町を古代竜から救ったのは栗山だが、栗山を傷つけたのは町である。直接下民街には関係ない話だが、街の井戸は栗山の手によって新しく作り替えられ、使いやすくなったのだ。

 しかもそれは無償で行われ、貴族に壊されても、嫌な顔せずに直してくれている。自分達にメリットはないのに……。

 だが、それは栗山の自己満足である。けれども、その自己満足に生活が少しでも楽になったことは変わりなく、下民街の人々は変わり者だと言うが、感謝はしていた。

 街の生活を楽にし、町を救ってくれた英雄的存在である栗山に、町は何をしたのか……。

 償うことのできない罪を犯し、大切な物を一つ奪い取ったのだ。

 それを知っている者は栗山達5人だけであるが、下民街の人々は栗山の仲間が死んだと言うことを知っている。街の恩人である英雄が喜べないのに自分達が喜んで良いはずがない。

 数日間、街は喪に服し、再びいつものように戻っていく。


 皆が泣く中、栗山は悲しみに暮れることなく1人淡々と作業を進める。カミュ達は少し冷たいのではないかと思うが「エミルが見たら怒るぞ! いつまでもクヨクヨするんじゃない! エミルの分まで生きていこう。いつかエミルに会ったとき、あの後どんなことが起きたか教えてやろうじゃんか!」と、4人に言う。


 確かにそうだと4人は思い、エミルの分まで頑張って生きることを誓い、普段通りの生活を行うよう心がけた。だが、エミルの部屋はそのままで、カミュはエミルの部屋を片付けたいと言うと、「俺がやるから良い」と言ってエミルの部屋に籠もる。

 エミルの部屋にあるものは殆どが栗山が召喚した物で、皆に召喚解除を見られないようにするためだと思い、部屋から離れていく。

 しかし、昼になっても栗山は部屋から出てくることがなく、カミュは心配になってエミルの部屋を見に行く。すると、部屋は全く片付いておらず、栗山はエミルが最後に着ていたボロボロの服を手に持って、ずっと謝罪の言葉を述べながら涙を流していた。

 栗山が犯したミス。異世界での奴隷を理解しているつもりだった事である。サレスト伯爵邸に5人を連れて行かなければこのような事は起きなかった。

 以前、異世界での奴隷は人として扱われないと言われていたにも関わらず、大丈夫だと思い込んでいたこと。

 異世界は人に優しくない。解っているようで解っておらず、大切な人を無くし大切な人達を傷付けた。

 召喚能力が万能で、何でもできると思い込んでいた自分の過ち。自分の判断が彼女等の生死を別けるなんて考えているつもりでいた事。

 調子に乗り過ぎていた自分の過ち。


 泣きじゃくる栗山の背中に、カミュは優しく抱き着く。


「エミルは幸せだったと思います……。ご主人様に買われたんですから……」


「――どこが幸せだよ!! 死んじまったら意味が無いだろ!!」


「そんな事ありません……。私達は売られた時からこの様な事になると思ってますから……。だから、エミルは掴まってもご主人様の事を話したりせず、黙って死を受け入れたのだと……私は思います」


「だ、だからって……それは悲しすぎる!!」


「そうかも知れません。でも、こうして悲しんでくれていると言うことは……自分を優遇してくれていたと言うことを……エミルも分かってくれているはずです」


 『優遇』エミルがよく使っていた言葉である。何かある度にエミルは誰々を優遇して! と、文句を言っていた。その事を思い出し、栗山は自分に恩恵を与えてくれた『あの子』に、エミルが生まれ変わったら幸せにして欲しいと心で願うのだった。


「ご主人様が居た場所は本当に平和だったんだろうね。ご主人様は優しすぎるよ。でも、それは悪い事じゃないって私は思う。そのおかげで私達は人並みの生活を送る事が出来ているのだから。けれども、ここはご主人様がいた世界とは異なる場所……慣れろとは言わないけど、この理不尽差を受け入れなければ生きて行けない」


「お前等はそれで良いのかよ!!」


「既に私達は受け入れていますよ。生を受けたときからずっと……。もう慣れちゃいました。私達はご主人様のために生きています。クリヤマチアキと名乗るご主人様が私達の生きる希望なんです。まだ、買われてから一ヶ月も経っていませんがご主人様の優しさは理解しています。その優しさだけで充分幸せなんですよ」


 その言葉を聞いて、エミルも同じ事を思っていてくれたのだろうか。彼女の生きる希望になっていたのだろうかと考える。カミュは心を読んだかのように「なっていましたよ……きっと」と、全てを包み込むように言い、栗山は涙するのだった。


 それからカミュと共に部屋を片付け、エミルが使っていた部屋に新しいベッドやタンスを設置し、エミルが使っていた面影はなくなった。暫くしてコレット達が戻り、何もなくなったエミルの部屋を見て別れを告げ、前を向いて生きていくことを誓う。


 町の復興は思うように進んでおらず難航している。その理由は貴族達の我が儘である。自分の住む屋敷を先に修繕しろと言い、大工達を困らせているのであった。

 そんな中、僅か数日で小さな屋敷を作り上げた者がいると商業区域内で噂があり、貴族達はその男を探せと使いの者に命令する。

 もちろん、数日で家を作り上げたのは栗山であり、貴族の使いは直ぐに下民街へ行き着く。栗山宅のチャイムを鳴らし、カミュがいつもの笑顔で対応する。

 ここ最近、下民街の人が栗山宅を訪れ差し入れなどをしてくれており、カミュはそれだと勘違いしてドアを開けた。


『ここに、僅か数日で屋敷を建てたものが住んでいると聞いたのだが……』


 服装と態度から見て下民街の人ではないことに気が付き、カミュの顔は不機嫌と変わる。


「我が主に何か?」


『エルマンド子爵の屋敷を作って頂きたく窺った。主を出してくれないか』


「我が主は冒険者です。町の大工ではありません」


『しかし……屋敷を数日で作ったと……』


 「ですが!」とカミュが強めに断りを入れようとした時、栗山がカミュの肩を叩き交代を告げると、カミュは納得がいかないのか、眉間に皺を寄せ一歩後ろに下がり様子を窺う。


「俺がこの家の主です。で、話は何でしょうか?」


『我が主が屋敷を作って欲しいと申され、貴殿にお願いをしたく窺いました』


「屋敷……ですか? 俺は屋敷なんて作った事がない。作ったのはこの家だけですよ。噂が独り歩きしたのではないですか? この家を屋敷と呼ぶには……小さ過ぎるでしょう」


 「確かに……」と、使いの者は呟いてから少し離れて建物を確認し「主に確認して参ります」と言い、頭を下げて栗山の家を後にした。使いの者が見えなくなってから栗山達は商業区域にあるギルドへ向かう。エミルが死んだ事を報告し、冒険者カードを返却するためち、貴族について相談するためである。

 ギルドの店員に話しかけエミルの死を告げると、店員は「ご冥福を……」と言い、カードを受け取る。カードはギルドの方で供養するらしい。

 そして、貴族について相談すると、店員は難しい顔して、栗山達を別室へ案内するのだった。


 案内された部屋は書類だらけで事務作業が追い付いていないように見受けられる。そして、机には「副ギルド長」と書かれた札が建てられていた。


「その者達は?」


『はい、最近こちらへ越して来たばかりの冒険者で、クリヤマチアキと名乗るものです』


「冒険者? 冒険者が何用なのか? まさか、不適切な事して問題を起こしたのか?」


『いえ、彼等は先日起きた古代竜の関係者……と言うよりも、討伐した者達です』


 その言葉に手を止め、顔を上げて栗山を見る。


「ほぉう……。古代竜を倒した者……か。先日の宴には参加していないと聞いていたが?」


 店員は自分から話して良いのか迷い、栗山の顔を見る。


「仲間が死んだんですよ。大事な仲間がね。だから参加しなかったんです」


「なるほどね……」


 栗山の言葉に納得する副ギルド長。あれ程の竜を相手に無傷だという方がおかしいかと呟き椅子を用意するよう店員に指示する。


「で、その竜殺しの英雄が、副ギルド長に如何様なのかな?」


「貴族について相談したいんですよ」


「フム……貴族……ね。あまり相談に乗れないかも知れないが、話してみると良い」


 柔らかな笑みを浮かべ、副ギルド長は言う。栗山は自分の能力や素性、サレスト伯爵を消した事を除き、この町で行ったことを含め全て話すと、副ギルド長は難しい顔をする。


「では、君が下民街の井戸を改良した人物なのか……確かに、我がギルドにも貴族から井戸の改良をしてくれと依頼ある。だが、我々はその構造や技術、生産者を知らないし、調べる事はしなかった。そう言う依頼を受けていなかったからな。なるほどね……。数日で小屋敷を作り、井戸の改良を行い、古代竜をも倒したのが君か……。そして、貴族に付き纏われてしまって、仲間……と言うか、奴隷を死なせてしまった……か」


「はい……」


「分かった。貴族の方はギルドに任せてもらおう。だが、近々君には王都へ行ってもらう事になる」


「――王都へ? 何故ですか?」


 貴族をどうにかして欲しいとお願いをしたのに、王都へ行けと言われるとは思っていなかった。

 副ギルド長は口元を釣り上げるように笑い栗山に言う。


 「分からないのかい? それは、君が古代竜を討伐したからだよ」と……。

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