40.巨大トカゲの襲撃
夕食時になってもエミルは帰って来ない。カミュに聞いても商業区域内で別れたと言う事しか分からない。
「エミルの装備は分かるか?」
「えっと……電撃とショート・ソード……だけ」
2つとも栗山が護身用として持たせたものだが、銃は持って行かなかったようだった。
4人には先に食べるよう指示し、栗山は帰ってくるのを待つ。
「魔法契約がありますから、逃げる事は無いはず……ですけど……」
4人も心配らしく、リビングに残ったまま。しかし、エミルが帰ってくることはなく、時間は悪戯に過ぎて行く。
時間は夜10時を過ぎ、先に寝るよう4人言うが、言うことを聞くはずもなく、リビングに残る。だが、一日の疲れは襲って来る。4人は徐々に船を漕ぎ始めたので、部屋で休むように命令すると、カミュを残し3人は部屋に戻っていく。
「…………ごめんなさい」
沈黙の中、カミュが口を開く。
「わ、私が……エミルと一緒にいれば……こんな事に……」
「言っても仕方がないだろ。過ぎた時間は戻って来ない。次は気を付けるんだ。あと、早く寝ろ。今夜戻ってこなければ、明日は探しに行く。疲れた身体では探しに行けないだろ」
「う、うん……分かった……」
俯き、沈んだ様子でカミュは立ち上がり部屋に戻っていく。栗山はエミルがいつ戻ってくるのか判らないためリビングで一夜を過ごした。
翌朝になってもエミルは戻ってくることはなく、二手に別れて探しに行く事にした。一組は栗山とカミュの2人、もう一組はコレット、チヒ、カルミの3人でエミルを捜索する。
万が一を備え、3人には銃を携帯させ、襲われたら撃つように言うが、3人は戸惑う。
「足や腕に当てれば相手を無力化にできる。殺さなくても大丈夫だよ」と言うと、3人は納得して銃を持って出かけた。
しかし、いくら町の中を探してもエミルを見つけることは出来ず、時間だけが過ぎて行く。奴隷が逃げることは出来ないし、逆らうことも出来ない。カミュは探しながら何度も栗山に言う。
夕方になり、一度家に戻ってみるが、やはりエミルは家に戻ってきてはいなかった。再び探しに行くというカミュ達を止め、帰ってくることを祈るかのように家で待つ。
「明日は町の外を探してみよう。もしかしたら、皆を見返すため魔物や動物を狩っているのかも知れない」
そうかも知れない……4人は力なき声でそう答えるが、どう考えても臆病なエミルがそういう事をするはずがない。心のどこかでそうあって欲しいと願いながら時間が過ぎていった。だが、町の外にもエミルはいなかった。
それから数日が過ぎたが、エミルは一向に戻ってくることはなく、カミュは毎日エミルを探しに出掛ける。1人だと危険だと言うことで、必ず誰かしら一緒に付いて行く。
エミルがいなくなり一週間が過ぎた頃、突如上空に巨大な生物が現れ、町はパニックになる。
「あ、あれはなんだ!」
上空に現れたのは角と翼がある巨大トカゲ……神話に出てくるようなドラゴンである。幾ら異世界などのファンタジー物を知らない栗山でも知っている生物。分かりやすく身体を言うのであれば、ウェールズの国旗に描かれているアレである。
「あ、あれは……こ、古代……竜……」
コレットの口からこぼれた言葉。
「わ、私も話でしか聞いたことがない……だけど、言われていた姿にそっくり……なんです……」
逃げ惑う人々。古代竜は口から炎を吐き出し町を焼いていく。そして、逃げ惑う人々を襲い、それを餌にして食べていた。体長は約20メーターは有るのではないかと思われ、その牙は鋭く尖って人々を襲う。
「に、逃げないと!!」
チヒが叫びながら栗山の腕を掴んで引っ張る。今すぐここから逃げないと危ない。チヒだけではなく、コレットもカルミも同じ事を言って栗山の腕を引っ張って逃げようとする。
「ちょ、ちょっと待てよ! まだエミルが見つかってないんだぞ……」
その言葉に4人は動きを止める。
「だ、だけど……あれからどれだけ時間が経っていると思っているんですか!!エミルは……もう死んでいるかも知れないんですよ!」
コレットが悲痛な声で言う。
「けど、俺はその死骸を見つけていない!」
「じゃあ、どうするんですか! このままだと私達は死んじゃいますよ! エミルを探すどころじゃ無くなっちゃいます!!」
「なら……あの、巨大トカゲ野郎を倒すしかないだろ!」
そう叫び栗山は駆け出していく。栗山が逃げないのであれば、自分達も逃げることは出来ない。仕方なく追いかけていく。
走りながらドラゴンに向かって銃を撃つのだが、相手にダメージを与えているようには思えない。
「ち、チアキさん! 竜族の皮膚は鋼よりも硬いと言われています! 剣で斬ることは困難と……」
後ろを追いかけてくるコレットが教えてくれる。ならばと、パンツァーファウスト3を召喚し構える。
「俺の後ろに立つなよ!!」
後ろに人がいないことを確認し、トリガーを引く。勢いよく発射された弾は古代竜目掛けて飛んでいく。だが、着弾を確認している暇はなく、栗山は次々とパンツァーファウスト3を召喚して打ち続けた。
魔法攻撃ではない科学による武器での攻撃。古代竜は知識が高く、魔法による攻撃にも対応する術を持っているのだが、栗山が繰り出した武器は、長い間生きてきた中で見たこともなく、ただの投擲程度にしか思っていなかった。
しかし、その威力は鋼鉄で出来た戦車すら破壊する程の武器であり、映画等でも使用されている。
翼に直撃する弾頭。飛び散る肉片。古代竜はまさかの威力に驚き、身体を捩らせる。失った翼を確認するかのように身体を動かすのだが、次々と弾着し古代竜の身体は爆炎に包まれる。叫び声すら上げることなく身体を地面に打ち付け、動くことはなかった。
栗山の冒険者カードにはエンシェントドラゴンと記載されており、古代竜が死んだ事を現していたのだった。
貴族街はかなりの打撃を受け、多くの建物が倒壊していた。貴族街は町の中心部付近にあり、エンシェントドラゴンは丁度そこへ降りてしまったのだった。
もちろん、倒壊した建物の中にはサレスト伯爵邸も含まれている。
貴族は命令のみで自分らで何かができる者は少ない。そのため、ギルドは冒険者達に貴族の救出を依頼する。これは町にいる全ての冒険者に配付され、栗山等も依頼を受けた。
「何故、依頼を受けたのさ……エミルを探す方が先でしょ」
ボロボロになった建物の瓦礫を退けながらカミュ達は言う。
「この騒ぎだ……エミルはこの様な状況を放っておける奴じゃない。戦闘には参加しないが、人を助けることはする奴だよ」
「そうかも知れないけどさ……」と、納得が出来ない顔をしながら4人は瓦礫を運んでいく。4人の気持ちも理解できるが、今は皆が困っているのだから、協力してあげるべきだろう。
退けた瓦礫から人の手が見えると、声を上げて仲間を呼び瓦礫を退けていくが、既に事切れていた。やるせない気持ちになりながらも栗山等は瓦礫を退けていくと、どの貴族か分からない屋敷跡から地下室の入り口が見つかる。
「これは……地下室か? もしかしたら……ここに誰かが逃げ込んでいる可能性もあるな……」
地下室の入り口を開け、懐中電灯を召喚して「誰かいますかー!!」と、声を上げて慎重に階段を下っていく。階段を降りきると、鉄製の扉があったので開けようとするが、扉が歪んでいるのか開く気配が見られない。仕方が無いのでバールのような物を召喚し、カミュ等の力を借りて扉をこじ開け中へ入った。
更に奥へ進んでいくと、そこは拷問部屋だったらしく、拷問に使用する器具が置かれており、栗山は目を細めながら器具に近寄る。
「うはぁ……。拷問器具かよ……」
「貴族様の屋敷だからね……有ってもおかしくないよ……」
カルミが顔を歪め、周りを見渡しながら言う。お仕置き部屋ということなのだろう。更に奥へ進んでいくと、扉を叩く音が聞こえ、栗山等は駆け寄った。
『だ、誰か! 誰かいないのか!!』
ここの扉も歪んでいるらしく、開けることができないようで、扉を必死に叩き助けを乞う声が聞こえている。だが、どこかで聞いたことのある声で、一瞬だけ躊躇してしまう。しかし、助けない訳には行かない。
「助けに来ました! 今、扉をこじ開けますので下がってください!!」
そう言うと、叩いていた音が鳴り止み、栗山達は扉をこじ開ける。そして、懐中電灯で中を照らすと、数人の人影が見え、カミュ達が毛布を持って側に駆け寄る。だが、途中で動きが止まった。
「どうした? 誰か怪我でもしているのか?」
カミュ達の奥にいる人達を照らしてみると、それはサレスト伯爵で、使用人や用心棒らしき人が立っていたのだった。
「さ、サレスト……伯爵……」
栗山が名前を呼ぶと、サレスト伯爵は少し後退りする。何か不味い物でも見られたかのように。いったいそこには何があるのだろうか。
「き、貴様が救助に来たのか……。そ、そうか、良い行いをしているな。この間のことは不問にしてやろう……」
戸惑いなどを隠すようにサレスト伯爵は言う。だが、カミュ達3人の目線はサレスト伯爵達ではなく、その奥を見ていた。
「ち、チアキ……さん……ぜ、全体を……照らせますか……」
声を震わせながらカミュが言う。
「問題ないが……何かあるのか?」
「い、良いからは早く!! 早く照らして!!」
珍しくカミュが怒鳴るように叫び、気圧されるようにバルーン型の投光器を召喚し、電源を入れる。投光器は直ぐに明るくなり、室内全体が見渡せるようになる。すると、奥に1人の女性が壁から出ている鎖に両手を繋がらされ、足には鉄球のような物を付けられ、逃げることが許されない状態で掴まっていた。
女性の服はビリビリに破かれており、身体には無数の痣。そして性的に乱暴もされたらしく言葉には言い表せない状態になっていた。
髪は黒く、破れた服はどこかで見たことのある模様や色。そして部屋の隅に置かれているのはスタンガンにショート・ソード。他にもファッション雑誌やペットボトル、服などが置かれている。ショート・ソードを除けば地球で手に入る物ばかりの品だ。
「ちょ、ちょっ……ちょっと待てよ……。な、何で『それ』がそこにあるんだよ……」
そう、ここは地球ではなく異世界だ。先ほどだって古代竜と戦ったばかりで、目の前に獣耳娘が立っている。科学が発達していない世界でスタンガンやペットボトル、雑誌等があるのは考えられない。あるとしたら……栗山が召喚して渡した物だけである。
カルミとコレットはゆっくりと歩いて鎖に繋がれている女性の側に近寄って行く。その目は信じられない物を見ているかのようで、冗談であって欲しいと祈るかのように……。
「じょ、冗談……だよね……? そ、そんな冗談ばかりやっていると……こ、今度こそ……ち、チアキさんに便所掃除をやらされちゃうよ? ね……ねぇってばぁ!」
コレットが鎖に繋がれた女性の肩に手を置き、揺さぶるが返事はない。カルミは震える手で女性の首に指を当て、顔を近付ける。そしてコレットの方を見て首を横に振った。
「う、嘘……だよね? カルミィ……嘘だよね? だ、だって、エミル……だよ?」
茫然と見つめる栗山とカミュとチヒの3人。今、ここで何が起きているのか理解ができず、全てが冗談にしか聞こえない。サレスト伯爵等はゆっくりと、気が付かれないように扉の方へ歩いて行くが、これに反応したのはカミュだった。
「は、伯爵様……これはどういう事でしょうか……」
カミュは振り向き、サレスト伯爵に問いかける。
「ど、奴隷の分際で何を言っている! そ、そいつが喋らないから悪いんだ!!」
「――はぁ? 悪い? 喋らないって……何を聞いていたんですか? 私の仲間に……」
「ふ、フンッ……! クリヤマという男の素性を聞いていたのだよ。だが、全く喋らなかったのでお仕置きをしたら動かなくなった……ただそれだけだろ。別に、お前等奴隷がどううなっても構わん話だろ。所詮、虫けら以下の存在なのだから」
強がって喋っているのが分かる。声が上擦っているからだ。
「ま、まぁ、お前の所有物を壊してしまったことに対しては弁償してやろう。新しいのを買うと良い。次はもっと質の良い奴を買ったらどう――」
サレスト伯爵が喋っている途中だが、それを遮るかのように銃声が鳴り響く。弾丸はサレスト伯爵の頬を掠めるように外れ、サレスト伯爵は腰を抜かしてしまう。
「あんた、何を言ってんの? 人の命が金で買えると思ってんの?」
銃を撃ったのは栗山で、構えながらゆっくりとサレスト伯爵の側へ寄っていく。だが、側には用心棒が立っており、剣を抜いて栗山に遅い掛かって来る。
しかし、剣の間合いは半径1.5メートル前後であり、届くまでに弾速は300m/sを超えている。栗山は躊躇いもなく弾丸を脳天に撃ち込み、用心棒の剣は栗山に届くことなく、剣と共に床に落ちるのだった。




