37.魔法には種類と属性がある
昼食が終わり、カミュは嬉しそうに出掛ける準備をして栗山の腕に掴まる。チヒやエルミは既に買い物に出掛けており、家に残っているのはカミュと栗山の2人だけ。
「ご主人様、準備が出来ましたよ!」
「はいはい……。じゃあ、出掛けるか」
家を出て栗山が鍵を閉める。この時、初めてカミュは鍵を渡された意味を理解し、4人は家の中に入ることが出来るのか不安になった。しかし、入ることが出来なければ家の前で待っていれば良い。直ぐに考えを切り替え幸せ一杯に出掛けていく。
「何処へ行かれるのです?」
カミュの口調が女の子のため違和感を抱いて仕方が無い栗山。
「なぁ、その喋り方を止めてくれないか?」
「だって、2人の時は……」
頬を膨らませながらカミュは言う。普段はこう言う喋り方をしていたと言うことなのだろうか? しかし、普段コレットは何も言わないで黙っているところを見ると、こちらの喋り方がおかしいのかも知れない。
「カミュ、無理に女の子を演じる必要は無いよ。俺は普段通りが良い」
「……分かった。じゃあ、普段通りにする。嫌いにならないでね!」
腕を放してくるりと回り、笑顔で言うカミュ。栗山は何も言わずにその頭を撫で、商業区域へ向かうのだった。
商業区域に到着し、周りを見渡すと結構視線が痛い。それは2人が着ている服が珍しいからである。
「ねぇ、ご主人様……」
「チアキだ」
「……チアキ……様……」
「チアキ」
「ち、チアキ……さん」
「何だ? カミュ」
「ど、何処に……いくの?」
「魔導書が売っている場所と考えていたんだけど……これでは目立ってしょうが無いようだな。先ずは服を見に行くことにしよう」
「買うの?」とカミュが聞いてくるので「買わない。見るだけ」と言って服屋を探して街を彷徨く。暫くして服屋が見つかり中へ入ると、布の服などが沢山売られており、ハッキリ言ってダサすぎる。このままの服装でも構わないかと思ったのだが、カミュが目を輝かせながら店内に飾られている服を見ており、深い溜め息を吐く。
「周りに合わせる必要があるし……適当に合わせるようにしておくか」
男の服というのは簡単に選ぶことが出来る。簡単に言うと、長い丈のある服にベルトを巻けば良いだけのようだし、その上にロングジャケットを着込めば問題ない。
しかし、女性はアジア風の民族衣装みたいな奴で、簡単に言えばトーガと言えば良いのだろうか。ジョージア国の民族衣装にも似ている。
「カミュ、俺が選んだ物に文句がないなら……それを出してやるぞ」
「ほ、本当に!?」
まさかの話にカミュは嬉しそうにして栗山の腕を掴み、外へ出ていく。栗山は腕を引っ張られながら外へ連れ出されると、建物の隙間へ連れて行かれた。
「す、直ぐに着る! だから今すぐに出して!」
「ちょ、ちょっと待て! ここは路地裏だからって、人が見ていないと言えないだろ!」
「大丈夫だって! だから早く出してよ!」
「ば、馬鹿! 脱がなくてもこれを羽織れば問題ないだろ!」
脱ぎ始めるカミュを止め、慌ててクラシック風の上着を召喚してカミュに羽織らせると、カミュは手を止めて上着を確認する。
「俺達は冒険者だ、この様な物を着ていればおかしくないだろ! 帰ったら似たような服を出してやるから、今はそれで我慢しろよ」
ジャージの下は肌着だったらしく、カミュの肌が露わになることはなかった。だが、それを見て少しだけ残念に思ってしまったのは男の性だろう。
上着を手にしてカミュは嬉しそうな顔をし、栗山に飛びついて「ありがとう!! 愛してる!」と言って頬にキスをする。「止めろ」「離れろ」と引き剥がそうとするのが、その腕に力は込められておらず、なすがままにキスをされるのであった。やはり男の性という物なのだろう。
ようやく解放された栗山。自分もクラシック風の上着を召喚して羽織ると、カミュが目をキラキラ輝かせている。
「似合うじゃん! 格好良いよ!」
「元が良いんだよ」
「そうだったね」とカミュは笑いながら言い、ようやく路地裏から出ると、周りからジロジロと見られることはなくなり、街に溶け込むことが出来たのだった。
それから魔導書が売っている店に行き、魔導書というのがどういう物なのか確認する。と言っても、中身を見せてもらえる訳ではなく、表紙と背表紙だけしか見せてもらえない。一冊だけ購入しようとしたのだが、簡単な火魔法でも銀貨5枚と高く、購入を断念した。
「魔法を覚えるの?」
「そりゃ……あれば多少楽になるだろ?」
「そうだけどさ……。チアキ……さん、の属性って何なの?」
「属性?」
カミュは頷き、自分が知っている限りの説明をしてくれる。
「私が知っている限りの話だけど、魔法にはエレ……なんとかと言う奴があって、基本的に4つ分類されているって言われてる。何が基本と言われても魔法を使う事ができない獣人族に聞かれても困るからツッコまないでね」
カミュが曖昧な説明をするので、聴いていた店の店員が呆れた声で説明をしてくれた。
『あのなぁ……。そんな説明では分からないだろ? 魔法は【火・水・土・風】の4つが基本魔法となっているんだ。魔導書の殆どは基本魔法のみ、その他の【氷・雷・光・闇・時】などがあるが、それを使える者は限られているし、その魔導書は魔法都市と呼ばれる場所にしか売られていないと言われている。まぁ、その魔法都市が何処にあるのかすら分からないから、本当に存在しているのか分からないがな。だが、基本魔法以外の魔法を使える者がいるのは確かだ』
細かいとは言わないが、魔法について教えてくれる。しかし、どうやって自分の属性を調べるのかまでは教えてくれなかった。教えてくれない理由は、魔導書を購入しないから……らしい。
魔導書の金額や魔法について少しだけ理解を深めた事で取り敢えず良しとしておくことにし、栗山とカミュは家へと帰っていく。カミュは貰った服が気に入っているのか、ずっと嬉しそうな顔をして歩いている。
カミュは獣人族だが、真面目に可愛い子だ。着ている物が周りに合わせているということは、次は別な意味で目立ち始める。
すれ違う男達の目線はカミュを見ており、1人で街を歩かせたりすると面倒になる可能性が考えられる。だが、それはカミュだけではない。他の4人も同様である。
面倒になる前に何かしらの対策を打つ必要があるのだが、本人等は全く気にしている様子はない。
「カミュ、質問するんだけど……奴隷って主人の元を勝手に離れるとどうなるんだ?」
「……死にます」
「は?」
「死ぬと言ったんです。奴隷は魔法で契約をされているんです。私達の心臓には刃が向けられており、逃げたりすると、魔法が発動する事になっているんです。もちろん、主人を殺した場合も同じです」
主人を殺した場合の話は理解していたのだが、逃げると魔法が発動するというのは知らなかった。いや、聞いたのかもしれないが、忘れていたのか、頭に入っていなかっただけかもしれない。
「さ、逆らった場合は……どうなるんだ?」
「そこまでは分かりません。ですが、あの男は言ってました。奴隷が主人を傷つけてしまった場合、それ相応の契約が発動する……と」
あの男とはボグマの事だろう。先程まで笑顔だったカミュの顔が険しくなり、歩みを止める。
「でも、チアキさんが好きだから逃げたりしないし、傷つけたりもしないよ。安心してね」
奴隷というのはどういう事をされるのだろう。この様な魔法契約があると言うことは、過去に奴隷が主人を殺した事や傷つけた事があると言うことだ。
カミュは服の袖を掴み歩き始める。だが、その表情を見ることは出来きなかった。
家に着くとコレット達が玄関前でしゃがんでおり、カミュは「やっぱり……」と呟く。何がやっぱりなのか分からない栗山。カミュは2人の側へ行き何かを話していると、カミュが鍵を開ける。それを見た2人は、少し驚いた顔をしてカミュと再び話を始める。いったい何に驚いているのか、いったい何を話しているのだろうか……栗山は首を傾げるしかなかった。
部屋でゆっくりしていると、扉がノックされたので返事をする。すると、チヒが頬を引き攣らせながら部屋の扉を開けた。
「どうした?」
「チアキさん、ちょっと来てくれますか……」
「なんかあったの?」
「服のことで……2人が揉めてるんです……」
もう嫌だと言った表情をしてチヒは答える。服で揉める意味が分からない栗山。チヒに連れられてリビングに降りてみると、エミルとカミュが揉めていた。
「何を揉めてるの?」
「エミルが……カミュが着ている服が欲しいと言って、カミュに譲って欲しいって言ったんです」
「そしたらカミュが嫌がった?」
「はい……一応、止めはしたんですけど……」」
残念そうな顔をするチヒ。なぜ自分が巻き込まれているのだろうと小さく呟き、溜め息を吐く。溜め息を吐きたいのはこちらだと言いたいのを我慢し2人に近寄ると、エミルが気が付き睨み付けてきた。
「ちょっと、どういう事よ! なんでカミュにばっかり物を与えるの! 私だって欲しいのに!」
「チアキさんは関係ないだろ! お前が勝手に買い物へ出掛けて服を買ってきたんじゃんか! 自分が悪いんだろ! ダサい服を買ってきたお前が悪いんだ!!」
「なんだと! この獣女!」
何故、この2人は仲が悪いのだろう……。
「おいおい、何を揉めているんだ。服がどうしたって言うんだよ」
「何がじゃないでしょ! 何でカミュばかり優遇するのよ! 確かにカミュはアンタの愛玩かも知れない、だけど、私達だってアンタの物なんでしょ! カミュばかり!」
「イヤイヤ、俺は欲しいものがあれば言えって言っただろ……。カミュは服が欲しいと言ったから服を与えただけだぞ。お前は何も言わなかったじゃないか」
「確かに……」と、後ろでチヒが相槌を打ちながら呟く。栗山の後ろにチヒは立っているので、エミルにはそれが見えている状態になる。カミュは本当に怒っている様子でエミルを睨んでおり、今にも殴りかかりそうな状態であった。
「で、もう一度聞くけど……何を揉めているんだ? カミュを優遇していると言ったが、何処をどう優遇しているんだ? それに、カミュは愛玩じゃない。お前、何か勘違いしてないか?」
栗山の言ったことを思い出したのかエミルは顔を引き攣らせ、ゆっくりと振り返る。そこには怒り狂った顔をしてカミュが立っており、エミルは後退る。
「エミル、カミュに謝れよ。今なら、カミュだって許してくれるはずだ。忘れてたんだろ?」
コクコクと首を振るエミルだが、カミュはゆっくりと首を横に振り近寄る。
「な、何をするの……か、カミュ……」
「これでも食らえ!!」
カミュは袋の中からスタンガンを取りだしエミルの身体に押しつける。すると、エミルは身体をビクンッと跳ねらせ床に沈むのだった。
結局、エミルはカミュに謝ることはなく、怨恨を残す形となってしまうのだった。




