35.自分の部屋
銃を構え、獲物を狙うカミュ。狙うは鶏雉である。まだカミュの存在に気が付いておらず、のそのそ歩いて獲物を探している。
鶏雉は雑食である。野ウサギや人、魔物まで襲って食べる恐ろしい動物。まるでメリーさんのように背後へ近付き、鋭い嘴で相手を襲う。しかし、共食いはしない。そして、仲間意識が強く、仲間が襲われているときは助けに向かう動物なのである。見た目はただの鶏を巨大化させただけなのに……。
狙いを定め、カミュは引き金を引く。すると、鶏雉は横に倒れ、カミュは小さくガッツポーズをする。後ろと横を見張っていたのはチヒで、「やったね! カミュ」と言って勝利を分かち合っていた。
家を作り始めて4日目。
朝起きたら「今日はお前等全員で狩りに行ってくれ」と言われ、カミュ達は狩りに来ている。だが、素直にカミュが言うことを聞くはずがない。初めは「嫌だ!」と言って、栗山の側から離れようとしなかったのだが、「お前が手伝えることはないぞ? もし残るというのなら、勉強でもするか? 俺はかまってあげられないけど」と言い、渋々狩りに行くことになったのだ。
そのため、獲物を仕留めたとしても、仕留めた時だけガッツポーズをするが、その後は直ぐに不貞腐れた顔に戻る。
そのため、チヒはカミュの機嫌を取りながら狩りをしているので、早く時間が過ぎて欲しいと祈りながら狩りをしているのだった。
コレット達は魔物退治の依頼を受けており、林の中を歩いている。目的の魔物はグルルベアを3匹仕留めてくれと言う内容だ。コレットが耳をすませながら歩き、2人が周辺に鶏雉が居ないか確認して進む。林の中でも鶏雉は現れ、冒険者などを襲うのである。
夕方になり5人は疲れた顔して家に戻る。家の外装なども出来上がり、行き交う人は足を止めて見上げてしまう。6LDKなので、それなりというか結構大きい家なのだが、それよりも場所と建物の作りがこの世界では異なっており、この世界の住人には珍しい作りなのだろう。また、窓はガラスで出来ているので中が見える。しかし、カーテンがあるので中は見えそうで見えない。宿屋にもカーテンらしき布が設置されていたので、カーテンと言う物は存在しているはずである。ただ、網戸という物は存在していない可能性がある。
電気設備に関しては全てオール電化で、外には太陽光発電システムが組まれている。そして、蓄電システムも万端で夜も明かりが付けることが可能。
何よりもお風呂が設置された事が喜ばしい話だろう。これで頭の痒い生活とは、おさらばする事が出来るし、ミストシャワーも完備してある。
床も傷が付き難いフローリングが貼られており美しく思われる。壁に関しては、壁紙を張ろうと思ったのだが、直ぐに傷つけられそうなため、防音壁の上にウッドパネルを設置してある。これならいつでも張替えが可能。
キッチンはシステムキッチンを設置しており、使いやすさ抜群で、冷蔵庫や洗濯機、乾燥機や電子レンジにオーブンまで付いている。
トイレは2つあり両方共蓋が開き、温水洗浄便座が設置されている。
この家はまさに栗山にとって普通の家よりも豪華な設備が付いている家なのである。
各部屋にはタンスと机、ベッドに高級羽毛布団とカーテンを設置。これで文句は言言わせない。
そのような状態になっているなんて知るはずもない5人。外装は前日に出来上がっていたため特に変わり映えしている様には見えず、当たり前のように玄関ドアを開ける。
「そう言えば……靴はゲタバコとか言う所に入れるんだっけ?」
玄関入って直ぐに下駄箱があり、それを見ながらカルミが言うと、皆は苦笑いをして頷き靴を脱ぎ始める。
今朝出かけるときには敷かれていなかった玄関マットが敷かれており、5人は思い思いにマットを避けながら中へ入っていく。玄関マットと言うものを知らないため、大切な生地を置き忘れているのではないかと思ったようだ。
通路を通ると引き戸があり、先陣切手カミュが開ける。すると、リビングにはテーブルを囲むようにフカフカのソファーが置かれており、カミュは声を上げる。しかもリビングは昼間のように明るい。
「な、なんだ……これは……」
カミュの後ろにいたコレットが、横から覗くようにして中を見て声を上げ、気になった3人はカミュを押しのけて中へ入っていく。
「な、何なの……この部屋は……。今朝は何もなかったはずなのに……」
隣にはダイニングがあるが、やはりテーブルと6脚の椅子が置かれている。5人は探検をするかのように家の中を調べていく。そして、5人が見たことのない物ばかりが家の中に設置されており、驚きと戸惑いの声を上げることしか出来なかった。
作業を終え、2階から栗山が降りてくると、5人は栗山を囲んで説明を求める。あの道具はどうやって使うのか、あの道具は一体何なのだと……。
「1から順に説明するから待ってろよ。と言うか、カミュは離れろ! 動き難いだろ」
「嬉しい癖に〜」
使い方の説明もそうだが、栗山に会えたことが嬉しいカミュ。分け目も振らず栗山の腕にぶら下がり甘え始めていた。
玄関から説明を始めると、玄関マットを踏んで良いことが分かりエミルが不満そうな声を上げる。
「コレの意味がわかんない」
「分からなくて結構。知って欲しいとも思っていないよ。それで……これが明かりだ。これを押すと……明かりがつくようになる。電気の無駄遣いは避けるため、必ず消してくれ」
スイッチを入れると電気が点き、5人は驚きの声を上げる。手元にあるボタンで明かりが点いたり消えたりするなど考えられることではない。いったい、どのような魔法を使ったのだと声を上げていた。
次々に道具の使い方を説明していくと、「あり得ない」「嘘でしょ」「びっくり箱だ!」など5人は言う。そして、最後に驚いたのは、自分達に部屋が与えられていることであった。まさか自分達が好きに出来る空間を与えられるとは思ってもいなかったことだし、そしてフワフワでフッカフカの布団が目の前には敷かれている。窓にはヒラヒラの布とは違う物が設置されており、風が入ってきたら柔らかく素敵に靡くのではないかと思わせた。
「こ、これ……本当に私達が使って良いのですか……」
驚きと戸惑い、そして歓喜を爆発させそうな声でコレットが聞いてくるので「もちろんだよ。自由に使ってくれ」と言うと、5人は抱き合いながら喜ぶのだった。だが、誰がどの部屋になるのかは決まっていない。窓が二つある部屋か、一つしか無い部屋……それを手に入れるため、お互いが牽制を始める。
「因みに俺はこの部屋を使わせて貰おうかと思っている」
指差す先には一番人気が無いと思われる真ん中の部屋で、5人は文句なしに了承した。とは言っても、栗山が建てた家なので、嫌だとは言わせない。
5人は改めて部屋を確認し、自分が住みたい部屋を述べていく。
「決まったら教えてくれよ。俺は飯の準備を始めるから」
そう言って栗山は下へ降りていき、5人は睨み合うかのように見つめている。
「私はこの部屋が良い!」
最初に動いたのはカミュだった。栗山が使用する部屋の隣を指差す。
どうせそう言うだろうと思っていた4人。しかし、栗山の隣は窓一つで人気がない部屋と、角部屋で窓が二つある部屋があり、カミュは角部屋の方を選んだ。
「カミュ、貴女の気持ちは分かる。でもね、それを許される世界ではないの……貴女が住んで良い部屋はここよ!!」
珍しくコレットがカミュに対して意見をもの申す。コレットは窓が一つしか無い部屋を指差し、お前の我が儘が許される部屋はそこしかないと言い、カミュが納得したら残りは窓が二つある角部屋のみとなる。カミュは息を飲んで自分の状況を確認し、最善の方法を模索する。
「も、もし……断ったら?」
「ジャンケンよ……」
ゴクリと息を飲むカミュ。どちらにせよ最後に負けた者はその部屋になってしまうが、中途半端に負けてしまうと離れた角部屋と栗山の隣の二つになる。
しかし、考えてみても悪い話ではない。自分の意見が通らなければその部屋を選べば良いだけなのだ。
「コレット、私はジャンケンを選ぶ!」
ニヤリとカミュは笑い、4人は頷く。そして、戦いの火蓋は切って落とされたのであった……。
階段を降りてきた5人。何故だかカミュが凹んだ顔をしている。
「どうしたんだ?」
「この子が馬鹿なだけ」
エミルが呆れた声を出してカミュを指差す。
5人が行ったジャンケンだが、カミュの1人負けであり、全員が希望した部屋へ住むこととなった。初めは栗山の隣部屋で窓が二つある角部屋を狙っていたが、それはコレットが勝ったことにより断念せざる得なかった。だが、まだ望みは一つだけ残っているし、皆が選ばない場所だと思い込んでいた。次に勝ったのはエミルで、皆が想像していた通りの角部屋を選ぶ。
どうせ負けても隣の部屋は自分だと思い込んでいたカミュ。最後のジャンケンをする意味がないと思い、カルミに選ばせて上げると言うと、カルミは窓が一つしか無い部屋を選び、カミュは時間が止まったように固まる。
「な、何で……その部屋を?」
戸惑いながらカミュが質問すると、カルミは笑いながら「だって、夕日が入ってくるんだもん」と、予想外の言葉を吐きやがったのだった。
そうなのである。皆が嫌がっていたのは夕日が入ってくる角部屋。夕日が差し込むと室内はかなり暑くなる。しかも窓が2つあり、直射日光が当たるならば更にキツイ。従って、皆が選ばないとされている部屋は夕日が差し込む角部屋だったのだ。
窓が2つある角部屋が素敵と言っていた。確かにその通りである。カミュ自身もそう思っていたのだが、栗山の隣になる事しか考えていなかったため、そこまで頭が回らなかったのである。
欲を出さずにコレットが言った部屋にすればと後悔をするのだが、時は既に遅い。
「ふ〜ん。俺が住んでいた場所では、二兎追うものは一兎をも得ずと言う言葉がある。これは、2つの物を追い掛けると、どちらも手に入らないと言う諺だ。これはカミュに当てはまるね」
「聞いたこともない言い伝えね。まぁ、確かに堅実を選べば問題なかった事だし、こちらは譲歩もしたからね」
食事をしながらエミルが答える。家が出来上がった事で、栗山はサーロインステーキを焼いたので、カミュを除き皆はご満悦の状態だった。
「あぁ、忘れてた。これは家の鍵だ。これが無ければ家に入ることが出来ないから無くさないようにしてくれよ。シリンダーを交換しなければならないからな」
もちろん、召喚も解除するのだが、万が一を備え、シリンダー交換をする。ここの街は治安が宜しくないから。
しかし、5人は鍵を見るのが初めてで、使い方が分からない。受け取った鍵を翳すようにして見ており、どうやって使うのか想像していた。
「何か分からない事があったら言ってくれ」
栗山はそう言うのだが、分からない事だらけで何を聞いて良いのかサッパリ分からないのだった。




