32.勝負は一瞬。決め手はチョキ
正直に言って、6人で移動する意味はないと思い、5人に話をしてみる。
「俺を除く5人は狩りに行ってきても構わないけど……どうする?」
5人は顔を見合わせ、アイコンタクトで何かを打ち合わせている。そして、コレットが「付いて行きます」と答えたので、6人で家を見に行くことになった。
コレット曰く、栗山は世間を知らないので心配だから……だそうだ。
不動産が用意した馬車に乗り込み、移動を開始する。
馬車は6人乗りのため、誰かしら留守番をする必要があり、5人は出鼻をくじかれる事となった。
「私は兄ちゃんと一緒に観に行く!! これは譲れない!」
カミュが力強く宣言する。本来であれば、カミュは栗山の愛玩としてその権利がある(4人はそう思っている)のだが、こればかりは4人とも譲ることが出来ない。
「勝負よ! 誰が付いて行くのか……」
コレットが言うと、4人は頷く。しかし……。
「なぁ、1人だけ待たせるのは可哀想だから、2人が残るようにしてくれ。と言うか、残った2人は狩りに行くように」
これは命令ね。と、最後に付け足し、緊迫した空気が流れる。だが、彼女等には1つ問題があった。
それは、勝負の着け方が分からないのである。今まで勝負という物をやった事がな5人。睨み合いが続く。
「なら、ジャンケンで決めろよ。負けた奴が居残り」
栗山がジャンケンのやり方を説明し、5人は再び睨み合い、勝負を始める……。
最初に案内されるのは貴族街であった。
貴族街は基本的に買い取りとなっているらしく、貴族はよく住む場所を変えるらしい。まぁ、貴族なのだから当たり前かも知れないし、見栄を張りたいのかも知れない。
貴族街には侯爵始め、男爵までが住んでいるらしく、ランクによって建物の大きさが異なっているようである。
建物は屋敷と言ってもおかしくない大きさで、チヒは「すっごく大きい……」と口を開けて眺めている。
ジャンケンの結果だが、負けたのはカミュとコレットの獣人コンビで、勝負は一瞬で決まった。
カミュとコレットは「パー」を出し、残り3人は「チョキ」を出した。
負けが決まった瞬間、カミュは膝から崩れるように座り込んで放心状態になり、コレットは苦笑いをするしかなかった。
マガジンをコレットに渡し、栗山等は馬車に乗り込む。馬車はブレークと言われる物で、3人は手を振って2人に一時の別れを告げるのであった。
屋敷の前には警備兵が立っており、貴族の安全を守っているように見える。しかし、店員の話だと、あれは貴族が雇った用心棒らしく、位の高い人しか雇っていないらしい。
3人は憧れの眼差しで屋敷を観ており、「あの屋敷が素敵」「あれなんか、どうかしら?」と、好き勝手話をしている。その様な金が何処にあるというのだろうか。
「基本的に、家賃の一部は王国に支払われます。その分配金が、貴族様へ行くことになっております。同じ位の貴族様でも、上下関係という物があり、それに従って分配される額が異なっているのです」と、店員は説明してくれるのだが、自分達には全くと言って良いほど関係の無い話である。
次に案内されたのは住宅街。見たところ中世ヨーロッパの家が並んでいるように思える。多少、異なるのだろうが、基本的には変わりが無いだろう。そう思いながら家を観ていると、馬車が止まり店員が降りて建物の説明を始めた。
こういった家も買い取ることが出来るらしいのだが、その額は金貨数枚となるらしく、相当な金持ちしか購入することが出来ないようだ。
建物を案内され、説明を細かく受ける。建物は2階建ての3LDLで、6人で住むには窮屈そうに感じるが、3人は問題なさそうに話している。
家賃は銀貨15枚するらしく、かなりの額であることが分かる。と言うか、そんな大金が有る訳が無い。なので、この家を借りることはできないのである。
せめて大銅貨数枚で済む建物でないと困ってしまうのだ。
「いやぁ~。素敵な建物ですが、支払いが厳しいですね……。我々は貧乏冒険者なんです。出来たら……銀貨1枚以下の物件が……」
「えー!」っと不満な声を出す3人。お前等がしっかり働いてくれたら、もっと稼ぐことが出来ただろうし、あの町でもう少し稼ぐことが出来たはずである。自分達がやってきたことを忘れいるのだろうか……。
「ぎ、銀貨……1枚以下ですか? そうなりますと、低民街での生活も難しいですから……下民街になってしまいます。それであれば、宿屋にお住まいになった方が安いのではないでしょうか?」
「いえ、ここの町を活動拠点にしたいと思っているので……」
店員は少し考え「分かりました。では……馬車にお乗り下さい」と言って、外に出て行く。まぁ、こちらは客だから、一応話は聞くと言った事だろう。
馬車に乗り込むと、馬は走り出す。そして低民街へと辿り着く。たしかに住民街に比べ、建物が古いし、劣化度が高い。これで銀貨数枚と言うのも高い気がするが、それでも中はしっかりしているのだろう。
馬車は低民街を過ぎていき、下民街の入り口付近に辿り着く。すると馬車は止まり栗山等は降りるように言われ、その指示に従い馬車を降りる。下民街の入り口には警備兵が立っており、住民街と低民街との差を表しているかのようだった。
下民街は見て分かる通り、本当に下の人が生活するためだけの建物であり、低民街の家なんて目ではない家ばかりが並んでいる。簡単に言えば戦後、家が焼けてしまったから仮設住宅代わりに住んでいたバラック住宅によく似ている……と言うか、その物だろう。もしくは、浮浪者が住んでいるよな建物を想像して貰えば良い。
「これは……凄いな……」
一瞬だけ宿屋にしてしまおうかと考えてしまう栗山。しかし……。
「あぁ、やっぱり村の家と同じような場所に住む事になるんだ……」
エミルが呟くと、カルミとチヒは苦笑いする。
5人が住んでいた家とは、この様なバラックだったらしく、本当に彼女たちは貧しい生活を送っていたのが分かる。
「これでも住みますか?」と店員が聞いてくるので、「値段を教えてくれますか?」と、聞くだけ聞くことにすると、店員は頬をヒクつかせながら下民街を歩き始める。
「ここは見ての通りです。馬車で入ると襲われてしまう可能性がある場所なんです……」
別に脅している訳ではないだろうが、説明が必要だと思い話しているのだろう。店員が言うように住民の質は本当に劣悪を極めており、こちらをジロジロと睨んでくる者ばかりで、馬車で入ってきたら襲われるというのも頷ける。
また、ここは環境が悪いためスリなどが横行しており、人が住むにはそれ相応の人だけだろうと店員は言い、値段に関しては建物を見て分かる通り、大銅貨で支払える値段であるが、基本的に土地代のみだとい言う。
案内されたのは平屋の2DKのバラック小屋で、どう見ても天井は劣化しており、雨漏りが酷い。そして、水道なんて物はない。
「水に関しては集合井戸を使用して頂く事となり、洗濯に関しては町の外にある川で行って頂きます」
「町の外に川があるんですか?」
「はい。この下民街から町の外へ行くことは可能です。ですが、そこに警備兵は立っておりません。この意味を重々理解して頂けるとありがたいですね」
下民街の者は人として扱っていないと言いたげな顔して店員は言う。それだったら町から追い出してしまえば良いのにと考えるていると、カルミが肘打ちをして店員が言った言葉の意味を教えてくれる。
「彼が言っているのは、下民を捨てられない事情があるの。簡単に言えば私達奴隷……。下民の子を安い額で買い取り奴隷にする。それを貴族様が購入して、売春奴隷として資金を得たりする。もしくは愛玩奴隷として手元に置いたするとか色々とある。他には、下民しかできない仕事をお願いすることだってある。だからこの様な集落が存在するのよ」
カルミが説明してくれている間、チヒとエルミが店員の相手をしてくれており、2人が会話していることは店員には聞こえていない。
「どうしますか? ここにしますか? チアキさん」
それとも宿屋が良いか? と、聞きたそうな顔してカルミは見つめている。
「すいません、ここの修繕は……」
「それはご自身でお願いします。先程もお話しましたが、基本的に土地代となっております。この建物を壊そうが、直そうが、それはお客様自身の負担となります。まぁ、このような場所に住まれる方が、商業区の工務店に修繕を依頼してくることはありませんがね」
苦笑しながら店員は答える。今の話で分かる事は、貸し出しだけでは無く修繕でも収益を出しているという事だろう。
「カルミ、ここを借りたら……カミュやコレットは怒ると思うか?」
溜め息を吐きながらカルミは言う。
「チアキさんが決めた事に文句を言うのは、エミルしかいないわ。聞くだけ愚問だと思いますよ」
「私も文句を言わない。元々この様な生活をしていたんですから」と、カルミは言葉を付け足し優しく微笑む。
「ありがとう」と栗山は言う、そして店員にこの場所を借りることを告げると、カルミが言うようにエルミが「絶対に反対!」と叫ぶのだが、チヒが羽交い締めしにして栗山の元から離す。
「本当に宜しいのですか?」と店員が聞くので「もちろん」と答え、契約は成立したのだった。
夕方になり、チヒとカルミの二人が宿屋へ向かう。そこには疲れた顔したカミュとコレットが入り口側でしゃがんでおり、誰かを待っているようだった。
「おーい、迎えに来たよ〜」
チヒが手を振りながらカミュ達のそばへ近寄っていくと、2人は気が付き立ち上がる。カミュはキョロキョロと周りを見渡し誰かを探すような素振りを見せ、チヒとカルミは苦笑するのだった。
「チアキさんが迎えに行ってくれと言ったから……チアキさんは新しい家で待ってるわ」
「あ、あた、新しい……家?」
コレットは驚いた顔をしてチヒを見ると、チヒは「まぁ……何を見ても驚かないでね」と、苦笑いをしながら言うと、コレットは何かを察知したかのように苦笑いをした。だが、カミュはそうではなく、目を輝かせながら喜んでいた。
40分かけてカミュとコレットが新しい家に到着し、コレットは「や、やっぱり……」とガックリ項垂れ、カミュは「うぉ! やった!」と正反対の反応を示す。
それを見たチヒとカルミは「やっぱりね……」と2人の反応を見て笑うしかなかった。何故なら、エミルが予測していた通りの反応だからである。
家の中では栗山がキッチンなどを見ながら何かブツブツ言っている。エミルはそれを無視しながらブツブツと呪いに近い言葉を吐きながら掃除をしていた。
4人は中に入り、カミュは急いで栗山の側に寄り分からない話に相槌をうち、栗山と同じ空間に入り込もうとして、コレット達はそんなカミュを微笑ましく見ながら掃除に取り掛かるのだった。
コレット達が合流したことで掃除がアッという間に終わり、そろそろ明かりが欲しくなる頃、栗山が室内を見渡し説明を始めた。
「我が儘を通して悪かった。だが、この生活も直ぐに終わらせよう。しっかりとした家に住むため、力を貸してほしい」
「もちろんだ!」とカミュが言う。しかし、力を貸せと言われても、どうやって力を貸せば良いのか分からない。
「力を貸せと言われても、私達は何もできないわ。どうするのよ?」
エミルが睨みながら言う。
「大丈夫、お前達は既に出来ていることだ。それが出来れば問題ない」
エミルの言葉に栗山が答えるが、4人は訳がわからないため首を傾げる事しか出来なかった……。




