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30.病気の時は静かにしてね

 ついに宿屋を発見した栗山。

 店内に入って受け付けを済ませ部屋に案内されようやく身体を休める事ができた。

 部屋割りは1人一部屋で泊まるため、かなり贅沢な宿……と言う訳ではない。やはり商業区域と言うだけあって、部屋がかなり安い。とは言っても、前の町と金額は少し高めで1人銅貨50枚である。

 だが、今までなかったサービスがある! それは食事! 食事が付いてくるので作る必要は無い。しかも部屋に持ってきてくれる。これぞ競争社会が生んだサービス! この事により1人だけの時間を手に入れる事ができ、ゆっくりと休む事ができるのであった。

 しかし、食事が必要なのは5人だけで、栗山には必要が無いため断りを入れてある。なので、本当に1人だけの空間が与えられた事になったのだ。


 ようやくベッドに倒れ込む事ができて、そのまま意識を失うように眠りにつく。目を覚ましたときは外が真っ暗になっており、時間を見ると深夜3時。しかも身体が怠くて動くのが困難状態。


「ヤベェ……完全に風邪を引いた……」


 風邪薬を召喚して薬を飲み、頭には冷却シートを頭に張ってから布団に潜り込んだ。取り敢えず寝る事が大事なのだ……。


 翌朝になり、カミュは目を覚まして、運ばれてきた朝食を食べる。普段食べている食事とは事なり、あまり美味しいとは思えず、自分の舌がおかしくなってしまったのだろうかと思ってしまう。だが、奴隷になる前に食べていたときよりもご馳走に近い食事……美味しくないはずがない。首を傾げながらカミュは食べるのだった。

 その後は暇なので栗山の部屋へ行くと、普段であれば起きている栗山が眠ったままで、起きる気配がない。

 町に着いたらこれだよ。普段確りしている奴ほど気を緩ませると、怠け者になってしまう。

 カミュはそう思いながら栗山の側に行くと、少し様子がおかしい事に気が付く。


「あれ? 息遣いが荒い……」


 頭に張られている変な物を剥がし、おでこを触ってみると、かなり高熱が出ており、カミュは後ろへ飛び跳ねてしまう。


「び、病気だ……! ご、ご主人様が病気になっている!!」


 目を泳がせながらどうしたら良いのか考える。しかし、カミュの知識では熱が出たときは頭を冷やし、身体を温めると言う事だけであるが、氷は高額な物で、カミュの持っているお金では購入する事ができない。もちろん、コレットが持っているお金を合わせても買える額ではない。氷魔法を使える魔道士が生成し、問屋に卸している物で、科学的に氷を作る技術が無い世界なのである。

 魔法という物は凄い物である代わりに、科学の発展を遅らせ妨げている物にもなっている。また、魔道士の数は少ない。何故なら、魔法を使うには身体の中にある魔力を必要とし、使える人間が限られていると言われている。

 また、皆が文字を読める訳でもないし、書ける訳でもない。魔導書が読めないという人が多いのと、魔導書が高くて購入する事が困難なのである。

 しかし、魔法は習う事で覚える事はできる。が、教えて貰うにもお金が掛かる。そのため、誰それが魔法を簡単に使えるという訳ではないのである。


「た、大変だ! ど、どうしよう!! あわわ……!」


 カミュが部屋の中をバタバタ動くため、栗山は目を覚ます。


「う、うるせぇ……。し、静かに寝かせろ……」


「ご、ご主人様!! だ、大丈夫……」


「そ、そう思うのなら……寝かせてくれないか……」


 ゆっくりと寝る事も許されないので泣きそうになるのを我慢する。


「だ、だけど……」


「そ、そんな事より、今日はお前等だけで狩りに行ってくれ……。お前等が稼いでくるのを期待しているぞ……。あ、あと、ギルドの場所も調べてくれよ……」


 息を荒くし、頭を触る。頭に張ってあった冷却シートがないことに気が付き、カミュの手を見る。その手には冷却シートが握られており、コイツが剥がしたのかと息を吐く。溜め息なのか、何なのかもわからない吐息。医者がいれば風邪なのか何なのか分かるが、無い物ねだりをしても仕方が無い。取り敢えず解熱剤と頭痛薬を飲んで休みしかないため、薬を召喚してスポーツドリンクで水分を吸収する。


 一連の流れをカミュが見ているがお構いなしにやってしまい、カミュは驚いた顔をしていた。

  カミュがいる事を思い出し、横目で見る。数度見られているし、他の奴にこの事を話している様子はない。今更取り繕っても無駄だと思い、何も言わずに黙ることにした。


「だ、大丈夫……か?」


「一応、換えの弾はここに置いておくから、それを使ってウサギと鶏雉を沢山捕まえて来い……。今日は動く事ができない。昼は弁当を作ってくれるらしい。それを持って行くんだぞ」


 そう言って布団に潜り再び眠りにつく。カミュは何も言わずにマガジンを手にして部屋から出ていき、栗山は深く息を吐いた。


 それからどれほど時間が過ぎたのか分からない。栗山が目を覚まし、体温計を召喚して熱を測る。誰もいるはずがないと思い、横を向くと、カミュがベッドを枕にして寝ており、栗山は熱が上がるのではないかという気分に襲われる。

 仕方なく毛布をカミュに掛け、スポーツドリンクを口にする。失われた水分を補給することは大事である。

 頭痛は治まっており、身体もかなり楽になっている。あとは熱が出ていない事だけであるが、ピピピッと音がして体温計を手にする。その音に気がついたのか、カミュがゆっくりと頭を上げ、起き上がる。

 熱は平熱まで下がっており、この様子であれば明日には動けるようになるだろう。


「ご、ご主人様……お加減は如何ですか……」


 心配そうな目で見つめてくる。


「明日には動けるよ。それよりも、お前は何でここに居るんだよ」


「そ、それは……」


 言葉に詰まるという事は、我が儘でも言ったのかもしれないし、命令違反を咎められるとでも思っているのだろう。


「まぁ、心配させたようだし、コレット達が残れとでも言ったんだろうな……」


 そう言うと、カミュは『パァッ』と嬉しそうな顔をして飛び付いてくる。


「うわぁ! お、おい! こっちはまだ治って無いんだぞ……」


「命令違反は謝ります……暫く……本当に少しで良いの……こうさせて下さい……」


 既にしているくせにと言いたかったが、心配させてしまったのは確かなので我が儘を聞くことにし、カミュを抱きしめ頭を撫でる。


「迷惑かけて悪かったな」


 そう言うと、カミュは首を横に振り鼻を啜る。


 暫くカミュの温もりを感じ、お腹が空いたので食事の準備を始める。カミュは昼を食べていなかったようで、机の上に弁当が置いてあった。


「カミュ、一緒に食べよう」


 カミュに弁当を渡し、栗山は鍋焼きうどんを召喚する。


「ご、ご主人様……その力は……」


「今さら隠しても仕方が無いか……。これは俺に与えられた恩恵。召喚能力だ。世界でこれを使えるのは俺だけだろうな。お金と生き物以外は召喚できるらしい」


「お、おん……けい?」


 初めて聞く言葉らしく、カミュは戸惑った顔をする。


「恩恵。恵みや情けを与えて貰ったんだ。元々俺はこの世界で生まれた人間じゃない。俺は別の世界で生活をしていたんだが・ まぁ、色々あってね。そしたらこの世界に来た訳。その時に、この力を手に入れたんだよ」


「べ、別の……世界……」


「誰にも言うなよ? 俺とお前の秘密だ」


「わ、分かりました……私事、カミュ・エリエット、ご主人様の秘密を永遠に喋りません……」


 膝をつき、まるで映画に出てくる騎士のように頭を下げる。


 「別にそこまでしなくても良いよ。5人もいるんだ、いつか誰かにバレてしまうだろうと思っていたし……まぁ、お前にバレたのなら、それはそれで良かったのかも知れない」


「ど、どういう意味……ですか?」


「どうだって良いだろ? それに、お前は俺の物なんだから、俺の言うことをしっかりと聞けよ」


「は、はい!!」


 嬉しそうに返事をし、カミュは弁当の蓋を開けると、焼かれた肉と切り刻まれた野菜が入っているだけで、これが弁当なのかと栗山は思ってしまう。


「ご馳走ですよ! この店の宿屋は赤字覚悟なのでしょうか……」


 それの何処がご馳走なのか教えて欲しいと思いながらアルミの冷凍鍋焼きうどんを作り、卵を入れる。箸を召喚して鍋を突っつこうかとしたところ、視線を感じ横を見る。


「ご、ご主人様……そ、それは……何と言う物でしょう……」


「こ、これか? これは鍋焼きうどんという奴だよ。身体の調子が悪いときはこれが良いんだ。消化が良くて食べやすい」


「び、病気にならなければ……た、食べられないのでしょうか……」


「そんな事は無いけど……一口食べるか?」


「宜しいのですか!!」


「あ、あぁ……」


 そう言うと、カミュは奪い取るようにして鍋焼きうどんを食べ始めると、栗山が食べる分まで食い尽くしてしまい、気が付いた時はスープまで飲み干していた。


「ぷはぁ~……。あっ……」


 どうやら本人も気が付いたようで、ゆっくりと栗山を見る。


「た、食べます?」


 どう見ても不味そうな弁当を栗山に見せ「これで許して」と言った顔をする。栗山が深い溜め息を吐いて、食べたのは言うまでもない。


「なぁ、カミュ」


「何でしょう?」


「その喋り方だけど……」


「私はご主人様の奴隷です。本来はこの様に喋るのが当たり前かと……」


「そうかも知れないが……」


「前にも言いましたが、私はご主人様の奴隷です。ですので、2人の時は……女らしくさせてくれませんか」


 女らしく……その意味は違うと思うが、カミュがそうしたいというのなら、そうすれば良いだけである。


「良く意味が分からないが、疲れないのであればそうすれば良い。俺はもう一眠りするから、カミュもゆっくり休んでいてくれよ」


「はい……」


 ニコリと笑うが、絶対にその場から動くことはないだろうと思いつつ、薬を飲んで再び眠りにつく。目を覚ましたときには4人が帰ってきており、部屋の中が騒がしくなっていた。


「お、お前等……病人だぞ俺は……」


「何が病人よ……。貧弱なんじゃないの? アンタ」

「一番何もしていないくせに、よく言えるわね」


 エミルとカルミが仁王立ちで言う。お前等だけには言われたくない一言である。


「で、ギルドの場所は分かったのか?」


「もちろんよ! 私を誰だと思っているの」


 ションベン漏らしのエミル様。


「換金も済ませてきましたよ。聞いたところによると、あの鶏雉は背を向けているとき獲物に向かってくるらしいです。その動きは獣人の耳でも捉えることが事ができないとか……」


 コレットが少し悔しそうに言う。それもそのはず、自分達の武器が使えないのであれば、腹が立つのも仕方が無い。


「それに、鶏雉の厄介なところは、夜な夜な畑を荒らすと言うことと、旅人を襲うと言うことらしく、バイリードッグよりは報酬が少ないですが、かなり良い報酬が貰えます。肉はかなり美味しいという話ですよ」


 手に入れた情報をコレットが教えてくれる。以外と情報収集をしてくれているのに驚くが、この面子をまとめる役としては最適かも知れない。


「助かるよ、ありがとうコレット。そうだ、疲れただろ、これでも食べてゆっくりしてくれ」


 栗山は缶に入ったクッキーを出して5人に食べるように言う。


「そうだ、そう言えばカミュは確りと看病したの?」


「し、したに決まっているだろ! 何を言うんだよ……コレット」


 頬を膨らませるカミュ。信用していないコレットは栗山の方を見て本当なのかと質問してくる。ここは本当のことを言わなければならないだろう。


「俺の昼飯を食べやがったぞ。そして、お詫びとして自分の弁当を俺に渡した」


 あぁ~、カミュならやりそうだよね。皆が声を揃えてそう言うと、カミュは顔を真っ赤にして泣きべそを掻くのであった。


「でも、あの弁当は美味しかったね。ご馳走だったわ」


 コレットは何を言っているのだろう。栗山は頬を流れる嫌な汗を拭う。


「この店が潰れないか心配になっちゃうね」


 カルミの言葉で戦慄を覚える。コイツ等、安い肉の価格を知らないのだろう。そして、今までどのような暮らしをしていたのかが知りたくなる。


「し、質問だが……お前等はどのような食事をしていたんだ?」


 聞いてはいけない。心のどこかでそう思っていたのだが……栗山はついに聞いてしまうのだった……。

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