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27.雨宿り

 空は急激に天気を変え、雨が降り始める。栗山は「うわぁ……超ウゼー……」と呟き傘を袋から取りだすように召喚して5人に渡す。

 渡された5人はそれが何なのか分からず首を傾げ、栗山は使い方を説明した。

 バサッと音をさせ傘を開き、空から降ってくる雨から身体を防ぐ。傘という物を使うのが初めだった5人は感動し、声を上げた。

 雨が降ったら傘を使うのは当たり前の栗山。日本では平安時代の時からあったのだから、異世界でも当たり前にある物だと思っていた。


「おいおい、雨が降ったら今までどうしてたんだよ」


「雨が降ったら出掛けません。出掛けるときは雨具を被り、畑に行くとか……」


 畑……。雨具……。どうやら、片手が使用できなくなるというのは困るため、傘というアイデアが浮かばなかったか、却下されてしまったのかも知れない。


「ふ~ん。あっそ……」


 取り敢えず畑という単語を聞かなかったことにして話を終わらせ先へ進んでいくが、街道はアスファルトではなく、土でできている。ベチャベチャと音をさせ、泥が跳びはねて服を汚す。真面目な話、凄く鬱陶しい。

 5人は前を歩きながら気にした様子もなく話しているが、その足はビショ濡れになっていて、ジャージの色も泥で変色している。そして、自分の足も同じ状態だ。そして、雨が降り続くことによって身体の体温が下がっていき彼女等が病気になる可能性が高くなる。頭の中でこれからどうするか考えた。

 歩くのを止め、空を見上げて見るが、空は真っ黒な雲に覆われており、雨が止むような気配は見せない。

 栗山が立ち止まったことに気が付いた5人は、歩くのを止め振り返るように栗山を見る。


「どうしたんですか?」


 コレットが少し心配そうに聞いてくる。


「もう……うんざりだ」


「は?」


「靴の中がグチョグチョなんだよ! 足が臭くなるだろ! だから雨の日に外へ出るのは嫌なんだよ!!」


 叫ぶように栗山が言い、全員が驚いた顔をする。こうやって大声を出すのは宿屋の前で置いて行かれたとき以来で、栗山はそんなに感情を表に出すような人ではなかった。それなのに雨で靴が濡れ、水浸しに鳴った程度で怒るなど誰も予想しておらず、5人は笑うことしかできなかった。


「で、ですが、今の状態で休む場所を探したり作ったりするのは……無理じゃないですか?」


 笑いながら言うコレット。だが、確かに栗山が言うように、この雨で皆の靴も濡れてしまっている。そして、道にできた水溜まりに入ったりしているため、水が靴の中に入って靴下まで濡れてしまっており、歩く度にグシュグシュ音を立てている。雨は止む気配はなく、先ほどよりも強く降っており、このままではジャージのズボンもズブ濡れになってしまうかも知れない。笑ってはいたが、確かに気持ち悪い思いをしていた。


「もう嫌だ! できる限りは歩いて行こうと思ったけど、これ以上は我慢できない!!」


 袋に手を突っ込み、何かを取り出すような動きを見せる。その仕草は不思議な道具を取り出す仕草。4人は今までのことを思いだし、どのような不思議道具を取り出すのかと期待してしまう。

 出てきた(召喚した)のはキャンピングカーで、5人はその大きさに驚いた顔をする。


「俺はこれに乗って移動する。お前等はどうする?」


 そんな事、聞かなくても分かるだろ。全員はそう思ったが、何と言って良いのか分からず車を見つめる。それに、自分達の立場を考えると、自ら乗りたいとは言えないのである。

 栗山は扉を開き、「早く乗り込め」と言うと、5人は嬉しそうな顔してキャンピングカーに乗り込み、その中身に驚きの声を上げる。


「靴のままで入るなよ……」


「ば、馬車の中に部屋がある……」

「椅子だってあるわ……」

「奥にはベッドもあるよ!」

「便所もある……」

「み、水が……出る……」


 初めて見る物ばかりで5人はその場から動けなくなってしまう。それもそのはず、乗車定員10人就寝定員8人である。それだけ巨大な物を召喚したのだ。因みに、トイレにはシャワーも付いているため、身体も洗える優れもの。だが、5人はシャワーなど見たことがないので気が付くはずがないのである。


「先ずは着替えだ。俺はあっちに行っているから、その間に着替えてくれ。それと、いい加減に靴は脱げ! 足下を掃除しろ!!」


 そう言い残して栗山は運転席の方へ入って行き、カーテンを閉める。5人はイソイソと服を脱ぎ捨て、フカフカのバスタオルで身体を拭き新しい服に着替える。そして、室内を探検するように至るところを開けたり閉めたりし始めた。

 カーテンの向こう側が騒がしくなったことで着替え終わったことを知る。終わったのなら教えろよと思い溜め息を吐いて自分の着替えを済ませ、カーテンを開けて奥へと入る。

 5人は秘密基地を見つけたようにはしゃいでおり、脱いだ物は脱ぎっぱなしと、だらしなさ全開で童心に戻ったかのように遊んでいた。

 再び溜め息を吐いて彼女たちが脱ぎ散らかした服を回収し、袋の中へ仕舞う。そして、2点ユニットの中に入って行く。それをカミュとコレットが気が付いたらしく、中を覗き込んできた。

 栗山は何も言わずにシャワーを取りだし足にかけ始めると、2人は目を丸くして驚く。


「な、何だそれは!!」

「便所で足が洗えるなんて……」


「お前等も足を洗っておけよ。あと、靴は俺が回収するから」


 そう言ってタオルで足を拭くと、狭い中2人が当たり前のように中に入ってくる。「邪魔だから退け」と言っても、言うことを聞かない2人。押しのけるかのようにして外へ出て、5人が脱ぎっぱなしにしている靴を回収し、新しい靴に交換する。

 「何故、俺がこの様なことをせにゃならんのだ……」と小さく呟きながら車内に取り付けられている時計を見る。時間は14時を過ぎており、雨が降っていたため休憩することなく歩き続けていたのを思い出す。


 正直、出来る事なら彼女達のために休ませてあげたいと思っていたのだが、雨は止むことなく降り続け、しかも休憩できそうな場所すら見当たらない。

 彼女等の足はズブ濡れで、風に吹き付けられ濡れ始めてきている。

 そして、お腹が空いているのに何も言わないで歩き続けると言うのは、この雨だから仕方ないと思っているのであろう。

 だが、栗山はなんとかできる方法を知っているし、それを実行に移すことだって出来る。

 口が悪く意地っ張りだが、変なところで自分達の立場を思い出すお姫様。自分よりも若く、生まれ持った不幸を背負い、なりたくってなった奴隷ではないはずだ。

 そんな奴等に対し、栗山は何かをしてやらないと気が済まない。

 キッチンスペースで野菜を切り始め、油をフライパンに敷き肉を入れて火を通す。そして、野菜を入れて暫く炒め、野菜炒めが完成し皿に移し、チヒを呼んで野菜炒めを運ばせる。

 栗山がまともに料理を作ったことに、5人は驚いた顔をし、この中で料理が出来る人はいるのか確認し合う。

 だが、栗山が予想したように、この中で料理ができる奴は1人もおらず、暫くは栗山が料理をする事が決定した瞬間であった。

 米を炊くには時間が掛かり過ぎるのと、食べ難さを考え食パンを焼き、再びチヒに運ばせる。

 そして、レトルトの味噌汁をお椀に入れお湯を注ぎ、運んで食べるように言うと、5人はソファーが有るのに、何故か床に座る。


「おい、何故、ソファー有るのに座らん」


 5人は気不味そうに顔を見合わせ、言葉を探す。


「ソファーに座って食べるんだ。床に座って食べることは許さん。俺は動物に餌を出したんじゃない、5人が食べる食事を作ったんだ」


 その言葉に5人はどうして良いのか迷った素振りで顔を見合わせ、栗山の顔色を窺う。


「ソファーに座らないのなら、食べるな。食べたいのなら、ちゃんと座って食べろ。分かったな!」


 そう言って栗山は運転席側に移動し、カーテンを閉めて携帯食を食し、助手席に足を伸ばして一息つく。耳を澄ませ、向こう側の動きを音で確認すると、モソモソ動く音がしたあと、食べている音が聞こえ始めたのでホッとし、身体が少し重だるい気がするので、横になり休むことにした。


 食事を終え、5人は無言になる。

 考えてみれば、自分達ができるのは魔物を倒すことだけで、主人である栗山を助けることは何一つしていない。それどころか町にいた時、ギルドでは冒険者達と勝負させる原因を作り、宿屋では危険な目に遭わせ助けるどころか助けられしまう。

 自分達が未熟だからと言ってしまえばそれでお終いだが、せめて料理の一つでもできれば話は違うかもしれない。

 しかし、先程わかったことだが、誰も食事を作ることはできず、主人に作らせてしまう有様で、どちらが主人なのかさっぱり分からない状態である。


「ねぇ……さっきのって……怒ったのかぁ……」


 心配そうな声でチヒが呟く。

 別に怒ったからと言って、食事を取り上げる訳ではないことにホッとした5人。だが、それで安心して、何もしないのなら、自分達は本当にろくでなしになってしまう。

 言葉や態度は素っ気無いでいるが、身の回りについては全て栗山がやってくれている。自分達は甘えているのだと言うことは自覚しており、何かしてあげなければと思うのだが、案が浮かぶ事はなく、5人は項垂れる。

 そして、チヒが呟いた台詞は愚問である。怒っているのであれば、食事抜きと言って引き上げる様な事をするはずなのだが、それをしないというのは、怒った素振りを見せているだけで、別に怒っている訳ではない。


「カミュ、アイツが何してるのか確認してきなさいよ」


「な、なんで私が……」


 エミルの言葉にカミュが戸惑いながら返す。


「アンタ、アイツの事が気に入ってるんでしょ。早く確認してきなさいよ」


 気に入っていると言われ違うとは言い返せないカミュ。別に隠す必要もないし、独り占め出来るのであれば独り占めしたい。だけれど、直で言われると恥ずかしい。

 だが、カミュがいくら栗山の気を引こうとしても、一向に靡くような素振りをみせず、皆と同じ様に扱われるだけ。ただ、一度だけ除いて……。

 「早く確認しに行きなさいよ」と、エミルが催促するものだからカミュは渋々確認しに行く素振りを見せる……が、その顔は態度とは裏腹に嬉しそうにしており、4人は深い溜め息を吐いた。

 緊張する手でカーテンをそっと開け、「兄ちゃん、怒ってる?」と声をかける。しかし、栗山から返事がなく、カミュは首を傾げながら栗山の顔を覗き込む。


「兄ちゃん?」


 すると、栗山は目を開けてギロリと睨み、カミュは一瞬だけ恐怖に包まれ起こし少しだけ後退る。


「何だ……飯は食い終わったのか?」


「う、うん……食べ終わった。ありがとう……」


「別に……。捨てたら勿体ないだろ。……ヨイショッと……」


 少しだけ疲れたような顔をしているが、いつもと変わらない顔をしている栗山。先ほど見たのは寝起きだったからかもと思いつつ、笑いかけてみると「そこ、邪魔なんだけど」と言われ、頬を膨らませて後ろに下がった。


 運転席からでて、食器を片し始めると、カミュは「手伝う」と言って、栗山の隣に立つ。それを見て4人は「健気だなぁ」と思い、微笑ましい気分で2人の後ろ姿を見ていた……が、どう見てもカミュが邪魔しているようにか見えず、苦笑いに変わってしまう。


「ありがとう。カミュ……助かったよ」


 本当にそう思っているのだろうか。4人はそう思いながら話を聞いており、苦笑いをする。


「取り敢えず、このまま今日は移動するから……お前達は横になって休んでて良いよ」


 そう言って運転席の方へ向かおうとすると、コレットが呼び止める。


「あ、あの……」


「ん?」


「や、休むと言っても……後ろくらいしか休める場所がないのですが……」


 コレットの言葉に栗山は小さく息を吐き、後ろのスペースを指差して「あそこに2人、その下にある扉を開けば2人、運転席の上に2人、そのテーブルを退けてソファーをスライド……動かせば2人寝られる。後は好きにしてくれ」と言って、運転席へ戻っていく。

 その態度は少し冷たいように感じ、5人は落ち込んだように下を向いた。

 車のエンジンが掛かり、動き出す。5人はそれぞれの場所へ移動し、横になって栗山が言うように身体を休ませるのであった。

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