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長い道のり

 小型ドローンを渡すとき、栗山は充分に念を押す。


「コレット、貸してあげるけど約束するんだ。林の中を飛ばさない、あまり高く飛ばさない、拾える範囲で飛ばす事。それは、皆の目が届く場所って事だからな!」


「分かってますって」


 絶対に分かっているように思えない。


「もし、無くしてしまったとしても、絶対探しに行かない! 約束できるか!」


「分かってますって」


 笑みを崩さず、差し出した両手を引っ込めることなくコレットは言う。本当に心配になる。


「チヒ、今の話を聞いていただろ。コレットを見張っていてくれるか? 何かあったら絶対に呼ぶこと!! 分かったか!」」


「え、えぇ……。別に構わないけど……」


 戸惑いながらチヒは答えるのだが、何故だか信用することができない。しかし、コレットは両手を差し出したまま笑みを崩さず待っているため、深い溜め息と共に新しく召喚した小型ドローンを渡し、操縦の仕方を説明する。だが、コレットは話を聞いている様子はなく、新しい玩具を手に入れた子供のように、適当にレバーを動かしていた。


「だ、大丈夫かな……」


 少し離れた場所からコレットを見ていると、カミュが心配そうな声で話し掛けてきた。


「ねぇ、私がコレットに注意しようか?」


 同族であり、同じ村出身だからなのか、カミュに頼めば言うことを聞いてくれそうに思える。何故なのだろう、珍しくカミュが頼もしく見えるのは……。


「別に……大丈夫だよ。チヒが一緒にいるし、俺は作業を進めるよ」


 「作業? 見てても良いか?」


 「構わないよ」と言って、ドローンを新しく召喚して、起動させる。そして、カメラを起動させて空高く舞い上がらせていくと、カミュは口をポカ~ンと開けたままドローンの行方を見守っており、栗山はリモコンに映る画面を確認しながら撮影をしていく。次の町へ進むには、かなり曲がりくねった道を進むことになると言うことが分かる。更に先へ進むと橋があり、その橋が壊れているらしく、大工のような人達が修理をしているのと、冒険者らしき人達が警護していた。

 他に道はないのかと思いカメラを動かしていると、離れた場所に橋があるのが分かる。しかし、その橋までかなり歩くようで、結局、車や違う乗り物で移動した方が良いのかも知れない。

 曲がりくねった道が多く、時速40キロで車を走らせて5時間くらいで、歩いて行くと8日から10日は掛かってしまうのではないだろうか。

 更に、橋を修理しているので車で通ることはできない。従って、遠回りする必要があるので更に時間が掛かるはず。

 ある程度の計算ができ、ドローンを戻そうと操縦していると、遠くに何かが見えた気がして再び上昇させる。すると、黒い何かの集団らしき物が見えるが、それが何か分からないのと、町までかなり距離があるので放って置いても問題ないように感じる。

 ドローンを戻し、メモリーカードを取り出して袋に仕舞う。カミュはそれを黙って見つめており、声を出さないでいてくれた事に感謝して頭を撫でた。


「くすぐったいぞ。兄ちゃん」


 頬を赤らめながら嬉しそうに撫でられるカミュ。


「さて、大体の道のりは理解できた。どうやって行くか……だな」


 コレットはドローンを飛ばして遊んでおり、冒険者達に酷いことをされかけた事を忘れたように見える。しかし、人はそんな簡単に嫌な事を忘れることはできないはずである。


「大丈夫だよ、兄ちゃん。私達は奴隷になった時からあの様な事は覚悟していたから。ただ、自分達の主人を守る事が出来ない事が情けないだけ。守れなくて……ごめん」


 意外にも、カミュが気を遣っていることに驚きを隠せないが、嫌な思いをさせたのは栗山であり、本来は栗山が謝るべきなのである。


「気にするな、お前達に嫌な思いをさせて悪かったな」


「ううん。私は兄ちゃんの物だから……好きに使ってくれて良いんだよ……」


 少し顔を赤らめながらカミュが言う。


「自分を大切にしとけよ。馬鹿なことを考えずにさ」


 頭をポンポンと叩き、コレット達の方へ向かう。少し口を尖らせながら「バカ……」と、カミュは呟くのであった。


 5人を呼んでこれから先の説明を始める。


「何で歩いて行く必要があるのよ? この間みたいに、あの箱で移動したら良いじゃん。わざわざ疲れる必要ないと思うんだけど、皆はどう思うの?」


 説明が終わった瞬間、エミルが言い出し皆に意見を求める。ここ数日で理解したのだろう、栗山が皆の意見に尊重した行動を取っていると言う事を……


「確かに……エミルの言う事は一理あるわね。8日以上かかるのであれば、無理せず早く移動できて、安全な場所へ辿り着いた方が良いかも知れない」


 先程までドローンで遊んでいたコレットがエミルの意見に賛同する。因みに、コレットを呼びに行った際、丁度充電が切れたらしくドローンは墜落してしまった。それは声をかけたときだったので、コレットは慌てて目の前で墜ちたドローンを回収し、「動け! 動いてよ!」と、手で叩き始める。流石に充電が切れたのに対して殴って回復する訳がなく、栗山は苦笑いする。チヒに関しては栗山が来てくれたことにホッとしているようで、いないときに墜落したらと考えていたようだった。

 そして、声をかけると、コレットは絶望に満ちた目で栗山を見て、「わ、私のせいじゃない!」と言い、「分かってるよ」と答えていても、自分が弄っていて墜ちたので責任を感じているようだった。やはり落ち込むのはデフォルトなのだと理解したのであった。


「だけどさ、お金を稼ぐ必要があるじゃん? 町に到着してもお金がなければ宿屋に泊まることができないしさ」


 宿屋に泊まるにはお金が必要とカミュは主張し、時間は掛かるだろうが、歩いて行く必要があるのではないかと言う。

 しかし、エミルとカルミは慌ててその意見に反論し、車で移動することを強調する。この時点で栗山が徒歩で移動すると言った意味を3人は理解することとなり、コレットとチヒは深い溜め息を吐いた。


「エミル、カルミ……これは決定事項だと思う。諦めなさい……」


「ちょ、ちょっとコレット! 貴女さっきと言っていることが……」


「あの箱で移動する事ができないのは貴女達2人に原因があるの。できればあの箱で移動する方が良いというのはチアキさんも思っているわ」


 残念そうな顔してコレットが言うと、エミルとカルミが吃驚した顔をする。


「な、何で私達が原因なのよ……」


「だって、貴女達……まだ1匹も仕留めてないし、先日の魔物だって竦んで動けなかったじゃない。このままだと、貴女達2人は生活することができないわ。本当にそれで良いの? それに、この武器は本当に強いわ。当たったら大抵の魔物は倒すことができる。それは貴女達だって見ていたでしょ?」


「だけど当たらないじゃない! 私達だけ粗悪品を使わせているんじゃないの!」


 エミルは焦るように言うのだが、カルミに至っては一度も狙撃をしたことがない。なので粗悪品もクソもないのである。


「なら、私のと交換する?」


 カミュが自分のスナイパーライフルを差し出すと、エミルは受け取るのを躊躇する。受け取ってしまった場合、言い訳ができないからである。


「まぁ、そういう事だ。自分の実力を道具の責任にすると言うことは、自分の実力が伴っていないことを露呈しているのと同じ。話にならないね。じゃあ、方針はこれで終了。先を急ごう」


 栗山が立ち上がると、エミルとカルミは縋るような目で栗山を見る。


「そんな目で見られてもどうすることもできないよ。俺は何度も救いの手を伸ばしてやったつもりだし……」


 見捨てるような言葉を言うと、2人は顔を青くして泣きそうな顔をする。


「兄ちゃん、なんであんな言い方をしたんだ?」


「本当のことだろ? 間違ったことを言ったか? それよりも、これからは魔物退治も平行して行うから、お前等も気合いを入れていくように」


 カミュは頷き、移動する準備を始める。栗山は横目でエミルとカルミを見て、小さく溜め息を吐いた。

 それから暫くの間無言で歩き続けると、カミュとコレットが動きを止める。


「チアキさん、あちらの方角に何かいます」


 本当に耳が良い。コレットの指差す方を見るが、肉眼では見ることができない。仕方なしにスコープを取り出して覗いて見ると、巨大猪と、普通の猪が草を食べているように見える。

 チヒが銃を構え、狙いを定める。しかし、カミュがそれを制止した。


「チヒ、ここはエミル達に譲っちゃ駄目かな……」


 カミュの言葉を聞いて、チヒはチラリと目を2人に向ける。エミルとカルミも銃を構え、狙撃しようとしていたが、息遣いが荒く、緊張しているのが分かる。


「あ、エミル……約束を覚えてるか?」


 栗山がエミルに言うと、こんなときに! と言った表情をしてエミルは銃を下げる。


「何よ……いったい。狙うなとでも言うの!」


 邪魔をするなと言った表情で栗山を睨み、栗山はニヤニヤして言葉を続ける。


「イヤイヤ……。チヒ、エミルに使い方や狙い方を指導してあげて」


 急に名前を呼ばれ、驚いた顔をするチヒ。しかし、皆ができるのに自分ができないはずがないと思っているエミルのプライドに触る。


「べ、別に必要ないわよ!! 馬鹿にしないでよ!」


「言うことを聞くって約束だろ? その約束を行使させてもらう」


「そ、そんなの聞く必要ない!」


「ふ~ん。なら、カルミが教わって。あ、これは命令ね」


 命令と言われ、カルミは少しホッとする。命令であれば、言うことを聞くしかないから。もし、これがお願いと言われたのであれば、今まで嫌がっていた自分の強がりが意味を成さなくなる。

 カルミは「め、命令……なら、仕方ないわね……」と、素直じゃない言葉を返す。それを見て、エミルは悔しそうな顔して栗山を睨んだ」


「まぁ、エミル様は約束も守れないほど嘘つきなんだね。それでは何もできない役立たずだ」


 馬鹿にしたように栗山が言うと、エミルは目に涙を浮かべ、俯いてしまう。それを見て深い溜め息を吐き、カミュとコレットに目をやり、2人は頷いてエミルの側による。


「エミル、これはご主人様の命令だから教えなきゃいけないんだ。だから我慢して聞いて。この武器はね……」


 コレットが持ち方から説明を始める。カミュは「大丈夫だよ、1回当てられれば自信が付くって……」と、励ます。獣人だと言うことで差別的な発言を受けていた2人だが、それに負けないくらい優しさを持っている。

 後は3人に任せ、栗山は有名なロボット漫画を召喚してSFで使われている武器はどのような物があるのか研究する。 

 まだ異世界に来て1週間程度しか経っていないが、随分濃密な時間を過ごした気がする。そして、彼女たちの性格も少しずつ分かってきた。色々あったが、何だかんだ言ってそれなりの生活が送られている。


 「パシュッパシュッ……」と、音がして目を向けると、エミルとカルミが驚いた顔をしている。それから直ぐに嬉しさを爆発さるかのように抱き合い、喜びを分かち合う。


「チアキさん、回収しに行って良いですか?」


 コレットが嬉しそうに言うので承諾するが、5人で行くように命じ、他に魔物などを見つけても手を出さずに戻ってくるようにと言う。だが……。


「でも、チアキさん1人だと、何かあったら……」


 コレットが少し心配そうに言う。心配されるだけの信頼はあるようだと思うが、こちらからすれば5人の方が心配である。


「なら、私が残ってるから、コレット達で回収して来なよ」とカミュが言う。コレットはカミュの顔を見て何か考えているが、「私がいればコレット達に何かあっても報告できるし」とカミュは付け足す。


「宜しいですか? チアキさん」


 カミュの考えはもっともであるため、その案で了解する。


「分かった。じゃあ、護衛を頼むよ。コレット、3人を頼んだよ」


 「分かりました」と言って、コレット達は林の中へ入っていくのだった。

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