24.地図のない旅
結局、全員はジャージに着替えて町の外へ出た。と言うよりも、町から出る羽目になってしまったのだ。
それは、5人が雑誌と本に釘付けとなっていたとき、ドアが激しく叩かれ、皆が「誰かドアを開けて来いよ」と言った顔をするのだが、誰も動くことはしない。
何故なら、そんな事よりも本に描かれている服の方が気になるからだ。
仕方が無く栗山がドアを開けに行くと、昨日、ギルドで勝負を挑んできて、フラッシュ・バンで気絶したムキマッチョ冒険者が怒り狂った顔をして立っていた。
「お、お前! どんな手を使ったんだ!!」
一瞬、どういう事なのか分からず戸惑ってしまうと、ムキマッチョの冒険者はいきなり栗山の胸ぐらを掴んで持ち上げ、足が地面から離れてしまう。
突然の事で対応が遅れてしまい、栗山は襟で首を絞められる状態となってしまい、もがいて何とか脱出しようと試みるが、相手の方が力が強く逃げることが出来ない。
ムキマッチョの仲間達も駆け寄り、この冒険者を止めてくれるのかと思ったのだが、「やってしまえ」「殺してしまえ」と囃し立て喜んで見ている。負け犬のくせに何を言ってやがるのだろう。
この騒ぎに気が付いたカミュ達。慌てて駆け寄りムキマッチョの冒険者に離せと言って掴み掛かるが、仲間の冒険者が5人を取り押さえる。
「や、止めろ……に、兄ちゃんを離せ……!」
力の差が激しく、床に叩き付けられる5人。しかし、相手は男の冒険者、5人は女性……。
「ど、どこを触ってやがる!」
エミルが大声で叫ぶように言う。栗山は苦しそうにしながら横目で声がする方を見ると、男がエミルの身体を弄っているのが映る。
他の者達も同じようなことをしており、コイツ等いったい何を考えているのだと思ってもがき、離れようとするのだが、力の差で離れることが出来ず、息が続かなくなる。
「いい加減……離してくれないか……!」
そう呟いた栗山の手には、バチバチと音がする物が握られており、筋肉ムキマッチョの冒険者は音がした方に目を向けたその瞬間、ムキマッチョの冒険者の目に映っていたはず景色が、突如真っ白になってしまう。そして、掴んでいた栗山の胸ぐらを離してしまい、膝から崩れ落ちるように倒れた。
5人に悪戯していた仲間の冒険者達は、時間が止まったようにその光景を眺めており、栗山は天井を見上げながら息を整え立ち上がる。そして、先ほどまでバチバチと音がする物を持っていたはずなのに、手には違う物が握られていて、その握られている物は冒険者に向けられるのだった。
「悪い、彼女等は俺の大切な物なんだ……お前等みたいな汚い手で触って良い物じゃない……」
乾いた音が数回鳴り響き、突然の騒ぎに宿屋の店員が駆けつけると、肉ムキマッチョの冒険者達が倒れて蹲っており、足から血を流していた。
そして、数人の女性が床に倒れて息を切らせて、女魔道士が壁に寄り掛かりながら立っている男に命乞いしている姿であった。
「な、何をしているんだ!!」
店員が大きな声で叫ぶように言う。
「た、助けて!! こ、殺される!」
這い蹲りながら女魔道士が店員の方へ逃げていく。
「コイツ等に襲われたんだよ。俺達は……」
命乞いされていた男は栗山であり、栗山は弁解するのだが、女魔道士は泣きながら店員に縋り付き、命乞いをするかのように助けを乞う。恐怖は植え付けたため、これ以上やる必要はないと判断し、銃を仕舞い「大丈夫か、お前達」と呼びかける。
5人は大丈夫と小さい声で言い、身体を隠すようにして部屋の中へ戻っていく。着ていた服は、冒険者に引き千切られ、肌が露わになっている状態だったからだろう。
「店員さん、俺達はこのまま店を出て行くよ。修理費はこの冒険者達に請求してくれ。俺達は全く関係ないからな」
店員は躊躇いながら「わ、分かった……」と言って、その場から離れてどこかへと行ってしまう。栗山は部屋の中へ戻り、5人の状態を確認する。部屋の中では5人が胸を隠すようにして蹲っており、チヒは悔しそうな顔して涙を流していた。栗山は代わりの服を召喚して「着替えたら町を出よう……」と言うと、5人は頷いたのだが、言葉には出さずに召喚された服を受け取る。
栗山は部屋の外に出て着替え終わるのを待つが、部屋の前には怪我をしたままの冒険者達が蹲っていた。
「お、お前……憶えておけよ!」
脚を押さえながら冒険者が言うと、栗山は袋から槍を出すように召喚し、怪我をしていない方の脚にぶっ刺す。冒険者は大声を上げて叫び栗山は顔を近づける。
「何か言ったか? ゴキブリ野郎……。はぁ? もっとやって欲しいって? お前、マゾなのかよ」
槍を抜き、再び脚に突き刺すと、冒険者はその痛みに気絶してしまう。足に刺さっている槍を抜き、他の冒険者に目を向ける。
「や、止めてくれ……!」
足を引きずりながら逃げるように身体を引き摺る。すると、扉が開き、カミュ達が暗い表情で部屋から出てきた。
「着替え終わったようだな。じゃあ、そろそろ行こう」
5人は返事はしないが頷き宿屋の外へ出ると、町の治癒術士が慌てて宿屋の中に入って行く。多分、宿屋の店員が呼びに行ったのだろうと思われる。だが気にしたって仕方がないし、自分達が悪い訳ではない。
こうして栗山達は町を出て行ったのであった。
誰も喋ることなく歩いて行く中で、カミュとコレットの耳が何かを察知する。
「兄ちゃん……魔物だと思う」
「方角は?」
未だショックを隠せないのか、言葉にせず林の方を指差し、栗山は「なら、構わない。放っておこう」と言って歩き出す。
このままでは可哀想かも知れない……。そう思い、何かしら楽しい事を考えるのだが、あまり良い案が浮かばず、昼過ぎまで歩き続けるのだった。
休憩中、チヒがコレットに銃の使い方を習っており、チヒはチヒなりに前を向いて進もうとしているようだ。
エミルとカルミは相変わらずで、地面に座って何をする訳でもなくボケッとしていた。
「なぁ、次は何処へ行くんだ?」
カミュは栗山の隣に陣取っている。食事の準備をするさい、カミュはこのポジションを死守するという気迫を見せており、その気迫は違うところで見せて欲しいと思う。
「何処と言っても、次の町を目指すしかないだろ? そうじゃないと、ゆっくり休むことができない」
「じゃあ、またあの馬車に乗っていくのか?」
あの馬車とは車のことである。車に乗れば1日で到着するかも知れない。
「いや、今回は歩いて行く予定だよ。稼ぎながら町を目指そうと思う」
「ふ~ん。そうなんだ。でも、次の町までどの位距離があるんだ? 移動するにしても、どの位移動すればい良いか分かった方が気持ち的に楽じゃない?」
珍しく真面な話をするので、一瞬だけキョトンとしてしまう。それが少し嬉しい気分になり、カミュの頭をクシャクシャっと強めに撫でると「わわっ! なにするんだよ〜!」と言うが、嬉しそうにしていた。
しかし、地図を持っていない栗山達。町で地図が売っていれば良いなと思って探したのだが、売っておらず、店員にも確認したのだが、やはり売っていない。
地図はかなり珍しいものらしく、早々簡単には手に入らないとのこと。もし、手に入っても金貨数枚になるだろうと言われる始末。
なので、推測することすらできないし、今日に限って冒険者が通ったりしないので、人に聞くこともできない。
「地図があれば大体の距離が分かるんだけどな~……」
深い溜め息を吐きながら言うと、カミュが「鳥が教えてくれたら良いのになぁ」と、空を見ながら呟く。何を馬鹿なことをと思っていたら、あながち馬鹿な話ではないことに気が付いた。
「お前、本当は頭が良いんじゃないか?」
「ほへ?」
急に頭が良いと言われ、呆けた顔をするカミュ。栗山は立ち上がり、早速準備を開始する。皆は突然何かを始めたのに気が付き栗山を見つめる。
袋からドローンを取りだし、試運転を始める。先ずは操縦訓練からである。ドローンを飛ばすと、まるで動物本能からなのか、カミュが飛び上がったドローンに飛びつこうとするが、間一髪のところでカミュを交わす。カミュの手が届かない場所までドローンを飛ばし、空中待機させる。
「こ、コイツ……避けたぞ!」
当たり前だ。掴まって壊されたらたまったものではない。
一応、カメラもテストする事にして、動画スイッチを入れてみる。リモコンにカミュの顔が写り、撮影ができていることが分かる。因みに撮影された動画はSDカードに保存ができ、後で見直すことが可能である。
暫く練習をしてから着陸させると、再びカミュがドローンに飛びつき捕まえた。
「捕まえたぞ!! 兄ちゃん!」
このおバカ……。
「返しなさい。このおバカ……」
「ん……」
残念そうな顔をするカミュ。何がそんなに残念なのか教えてもらいたくなる。だが、興奮していたのはカミュだけではなかった事に、栗山は気が付いていない。
実際、尻尾が生えていたのならば、はち切れんばかりに振っていただろうこの人物。
それは、コレットである。
実は、好奇心はカミュではなくコレットの方があり、誰かが弄っている物があれば、自分も弄ってみたいと思ってしまうのだ。
カミュは動く物に反応しただけで、別に動かしてみたいとは思っておらず、遊んでいるようにしていれば、皆が楽しくなるのではないかと思っていただけ。
なので、遊びが終われば皆が再び嫌な事を思い出すのではないかと思い、残念な顔をしたのであった。だが……。
「チアキさん、それは何ですか?」
突如背中から話しかけられ、栗山は身体をビクッとさせ、振り返る。そこにはコレットが満面の笑みで立っており、「私にも出来ますか?」と、聞いてくるのだった。
「これはドローンと言って、空に飛ばす物だ」
「はい、見てたので分かります。で、それはどうやって飛ばしたんですか?」
顔は笑っているが、何かを訴えかけているように見え、栗山はたじろぐ。
「こ、これを使って飛ばすんだ……」
リモコンを見せると、コレットは一歩距離を詰めるように近寄り、リモコンに顔を寄せる。
「これで動かすんですか……。凄いですね! 私にも出来ますか?」
リモコンから目を離さず出来るのかと再び聞いてくる。出来なくはないが、あまり使わせたくないと言うのが本音である。
何故と聞かれるのであれば、無くされたら厄介だからだ。
ドローンの電池が切れた際、そのドローンは回収するのが難しい。しかし、その時は召喚を解除すればよいのだが、責任を感じて探しに行くと言われても厄介だし、見つからずに泣かれても厄介。どちらにしろ厄介なだけである。
「ど、どうかなぁ……難しいんじゃないか……なんてな……」
苦笑いしながら返答する栗山。だが、中途半端に返答した事により、事態は更に面倒になる。
「やってみなければ分からないじゃないですか! 銃だって使えるようになったのだし、練習すれば私だって使えるようになるかも知れないじゃないですか!」
グイッと顔を近づけるコレット。苦笑いをして後退る栗山。
「あ、いや、そ、そうかも……知れないけど……」
「なら、やらせてくれとも良いですよね!!」
嬉々とした表情でコレットは言う。栗山は押し負け、渋々小型ドローンを召喚してコレットに渡すのだった……。




