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23.夢見る女の子達

『勝負は一瞬で決まるぜ』

『あぁ、あの竜殺しが一瞬で決めるだろう……』


 5人の側で他の冒険者達が予想を立てながら話しているのを聞いて、5人は不安になる。翼竜と言えども竜族であり、通常の冒険者では竜族に勝てないと言われているのだ。

 カミュとコレットの2人は、その場の勢いで言った事を後悔しながら栗山を見つめており、祈るように指を絡めていた。


「絶対に言うことを聞けよ」


 栗山がよく分からない物を配り、5人はそれを受け取るのだが、心中複雑で、人の心配よりも自分の心配をしたらどうなのだと5人は思っていた。


 ムキマッチョの冒険者は、女魔道士に魔法を掛けてもらっており、感覚を倍増させていた。この魔法により、身体能力だけではなく、耳や目も良くなっており、微妙な筋肉の動きなども把握できるようになっていた。


「覚悟は出来てるんだろうな」


 こちらが勝てば、栗山の連れである女達を好き放題にしてやると考えており、実際、翼竜を倒した冒険譚を聞かせると、大抵の女は股を開いて来ていた。

 しかも、栗山が連れている女はかなりの上玉。

 だから、今回、栗山等が話に乗ってこなかったのには苛立つだけではなく、女を連れて歩いている栗山から、その女を取り上げたいと言う意図もあり、勝負を挑んだのである。

 だが、栗山が連れているのは奴隷である。そのため、彼女等が上玉なのは当たり前なのだ。性格や態度と言った質が悪いだけで、それ以外の物は問題ない。そこを教育できたのなら、1人頭金貨20枚から30枚で取り引きされていた可能性だってある。

 しかし、フォルカンは命を助けて貰った恩と、銃を譲って貰った事で5人を格安で譲ったのであり、本来であれば、栗山みたいな貧乏冒険者が手に入れられる奴隷ではないのである。


 誰かがゴングのような物を鳴らし、不敵な笑みをこぼすムキマッチョの冒険者。剣を抜いて構えるのだが、余裕の態度を見せている栗山に対して襲いかかるのではなく、先ずは様子を見ることから始める。

 栗山は右手に持っている筒状の物のピンを抜き、ポイッと前に投げる。

 そして、遮光眼鏡を掛けてイヤーマフを装着する。だが観客を含めた全員が、栗山が行っている事について理解出来ず、ポカ~ンとしてみていた。

 ピンを抜いたのを見て、5人は言われた通り遮光眼鏡を掛け、イヤーマフを着ける。カミュとコレットは力一杯イヤーマフを耳に押さえ付け、勝ってくれと祈る。


 その間、僅か1秒も満たない出来事である。


 栗山が放り投げた物が突如大音響上げ、光を放つ。

 その場にいた全員が蹲り、怯え頭を抱えてしまう。勿論、ムキマッチョの冒険者は身体能力など上げてしまったおかげで気絶しており、勝負の結果、栗山の勝利となった。

 栗山は5人の側により、終わったことを教える。イヤーマフを取り外し、眼鏡を外すと周りの人達が蹲っている。イヤーマフと遮光眼鏡をしていたため、5人には何が起きたのかさっぱり分からず、目をパチクリさせており、「何が起きたの……」とカルミが呟き、「さぁね……」と言って栗山は笑う。

 栗山が投げた物はフラッシュ・バン、またはスタングレネードと言われるもので、光と音で相手を無力化にさせてしまう物である。


「でも、状況から見て、誰が勝ったのか……分かるだろ?」


 その言葉に5人は顔を見合わせ、栗山が勝ったと言う事を理解し抱き合いながら喜ぶのであった。

 ムキマッチョの冒険者が気絶しているため、女魔道士の側に寄り見下した目で言う。


「俺の勝ちだな……」


 徐々に目と耳が回復してきた女魔道士は、恐怖により竦み上がっており、後退るように後ろへ下がっていく。

 仲間のムキマッチョ冒険者達が気絶したリーダーを連れて逃げようとしており、女魔道士も四つん這いになりながら逃げようとしていた。


「まぁ……別に良いか……」


 勝ったら言う事を聞けという約束だったが、面倒なので無かったことにしても構わない。それよりも、こちらの方が優先であり、約束は守らせる必要がある。


「ルールをこちらで決めた時点で勝負は決まっていたんだよ。まぁ、どんなルールでも、負けることはないけどね」


 近寄ってきた5人に向かって言うと、カミュは「信じてたぞ!」と言って飛びつき、珍しくコレットも飛びつく。カミュ1人だったらなんとかバランスを保てたが、2人だとそれは難しく、地面に押し倒された。

 チヒは目に涙を浮かべ喜び、エミルとカルミは照れくさそうにしていた。

 何はともあれ、面倒な勝負に決着が付くと、瞬く間に噂が広がる。『女を引き連れた新人冒険者が竜殺しを秒殺した』と……。

 間違ってはいない。間違ってはいないのだが……町を歩いていると、無駄に声をかけられる。これはかなり面倒くさい話で、別に目立ちたくって勝負をした訳ではない。しかも、宿屋に戻り休んでいると、店員が自慢するかのように色々な冒険者に言っているため、部屋に押しかけて仲間にしてくれと言ってくる輩まで現れたのだ。

 そして、倒されたムキマッチョの冒険者もこの宿に泊まっているらしく、居心地が悪い。だが、栗山の思いとは裏腹に、5人は宿屋ででかい顔ができるため上機嫌である。食事をしていても珍しく全員が笑顔にしており、気持ちが悪い。


「なぁ、戦ったのは俺なんだが……」


 「ねぇ、どうやって倒したの? 私達は全く分からなかったんだけど」


 人の話を聞く気がないらしく、チヒが質問してくる。


「さぁね。俺に恐れを成して気絶したんじゃないか?」


 面白いことに誰も倒した方法が分からないのである。ただ分かることは光と大音響だけである。そして、目を開けてみると、ムキマッチの冒険者が気絶していた。

 そのため、どのように倒したかというのが分からないので色々憶測が飛び交っていた。


「教えてよ~! カミュ、アンタだって知りたいでしょ?」


 チヒがカミュに聞くと、躊躇うこともなく頷き、教えろと騒ぎ立てる。深い溜め息を吐き、栗山は周りが見た光景の通りだと言って、話を終わらせようとするのだが、それでは納得しないのが栗山の奴隷達である。


「全く……そんなに好奇心があるなら、文字を一つでも覚えてくれよ……。俺が手に持っていた物……あれが武器だったんだよ。あれは眩い光で視覚を潰し、音を鳴らすことで恐怖を与える道具だ。面白いことに、人は目で見えない物に脅える生き物なんだ。真っ暗闇で突如大きい音が鳴ったら驚くだろ? それと同じだよ。あのムキマッチョ……竜殺しだっけ? あの冒険者は女魔道士に自分の能力を上げて貰っていたのだろう。出なければあの様に気絶する訳がない。相手は初めっから真面に勝負をするつもりはなかった。いざとなったら女魔道士が俺に魔法をかけて何かするつもりだったかもな」


「あ、アンタ……そこまで予測してたの?」


 驚いた声でエミルが聞いてくる。


「予測と言うより、自分だったらどうするかって奴だよ。勝負の内容は、至って簡単。相手を無力にさせるか、参ったと言わせれば勝ち。それ以外で取り決めはない。だから、違反という訳ではない。まぁ、何をされても負けることはないけどね」


 自信満々に言う栗山に対して唖然とする5人。あの短時間でそこまで考えていたのかと、5人は思っていた。


「それに、面倒だったから早く終わらせたいという気持ちはあったし、俺にも都合が良かったからな」


 都合が良いとは一体何だったのか……聞いても答えてくれなさそうで、5人は聞くことができなかった。だが、思ったよりは馬鹿じゃないと言うことが分かったと言うことと、世間に対し無知だが、知らない道具を沢山持っている不思議な奴という位置づけとなった。


 翌朝になり、栗山はアラームを止めて身体を起こすと、朝から項垂れたい気分に襲われる。


「よう、兄ちゃん。今日は良い天気だぞ!」

「おはようございます。チアキさん」


 何故、自分の部屋にカミュとコレットがいるのだ。栗山は顔を引き攣らせながら2人を見る。


「わ、私は止めたんです……。ですが、カミュが……」


「兄ちゃん、腹が減ったよ!」


 頭を抱え、深い溜め息を吐くと「大丈夫か? 兄ちゃん……」と、カミュが心配した声を出してきた。どうせ、何を言っても無駄だと思い、2人には後ろを向いて貰い、服を着替える。


「飯は3人が起きてからだ。と言うか……朝から元気だな。お前達……」


「だろ? それが私達の取り柄だからな!!」


 嬉しそうに言うカミュ、コレットは苦笑いして、栗山の言っている意味を理解する。

 再びカミュが3人を起こし、不機嫌面で3人は栗山の部屋にやって来る。そして、食事して今日の予定を話し合う。


 「なぁ、今日は何をするんだ?」カミュが聞くと、好き放題に自分達がやりたいことを5人言い始める。カミュは食べ歩きたいと言って、コレットは勉強したいと言う。相対的な意見で2人はオデコを付け合い犬歯を出して「食べ歩き!」「勉強!」と、言い合っていた。

 チヒは雑貨屋で何か面白いものがないか観に行きたいと言い、エミルとカルミは服が欲しいと言う。

 たまには休みにしても良いかもしれないが、この町では目立ち過ぎた。そのため、何が起きるか分からないので、早めにこの町から移動した方が良いのではないかと言うのが栗山の意見なのだが……言うタイミングが無い。

 しかし、これだけは言える。


「エミルとカルミは服が欲しいと言うが、どうやって買うつもりなんだ?」


 実は、冒険者と戦った後、報酬を手に入れたチヒ達は服屋に行ったのである。初めて自分のお金で服を買える3人。嬉しそうに服を選び、購入した。そして、今日はその服を着ているのである。

 栗山からしたら、スポーツウェアで良いのではないかと思うのだが、やはり人の目が気になるらしく、町にいる間は一般的な服を着ることにしたらしい。

 そして、話を戻すのだが、エミルとカルミはお金が無い。まだ1匹も倒していないのだから当たり前である。


「そ、それは……お、お金を……貸してもらおうかなって……」


 ボソボソとエミルが言うと、カミュは「嫌だ。これは私が頑張って稼いだお金だ」と、言葉にして拒否する。隣ではコレットが頷いており、チヒも苦笑いをしていた。


 この中で一番お金を持っているのは栗山で、2番目にカミュである。昨日の冒険者救出の際、サブマシンガンで結構な数を倒したのである。

 その額は大銅貨5枚となっており、生まれて初めてこれほどの大金を手にしたのだった。


 主人である栗山。彼なら貸してくれると思っているエミルとカルミ。2人は恐る恐る栗山を見ると、栗山は5人が見たことのない本を手にしており、話を聞いていない。3人が断った時点で既に話が終了しているのだ。


「ち、ちょっと……あんた、私達の主人でしょ!」


「だから? 主人だが、何かあるのか?」


「わ、私達が恥ずかしい思いをしても良いというの!」


「別に恥ずかしいとは思っていない。そして、恥ずかしいと思うのは、カミュ等3人の服装だな……」


 「え?」と言って驚く3人。それもそのはず、栗山が住んでいた世界と、異世界の服装は異なっており、栗山からしたら異世界の服は時代遅れなのだ。そして、カミュ達の来ている服は薄い布で出来た物で、栗山が住んでいた世界ではあり得ない物なのであり、何故、その様な服に金をかけるのかすら理解できないのである。


 「俺だったら、そんな服を着るくらいだったらジャージを着ていた方が良いな。生地の質が違うし、暖かい。そして、汗も吸収してくる。また、ここらでは貧乏そうには見えない」


 生地の質から先については間違いない。安も物の生地を使用している割には銅貨30枚も支払ったのだ。そして、ランクを落として周りに合わせる。

 栗山に好かれようとしているカミュにとって、これは重大な話であり、慌てて袋からスポーツウェアを取り出して着替え始めた。


「ちょ、ちょっとカミュ! 場所を選びなさいよ!」


「何を言っているんだコレット! 兄ちゃんが恥ずかしいと言っているんだぞ! 早く着替えなきゃ駄目じゃんか!!」


 涙目になりながらカミュが言うのに対し、コレットは呆れた顔をする。だが、主人が恥ずかしいというのであれば、着替える必要があるのは確かである。折角買った服だが、コレットも着替えることにして立ち上がる。チヒはどうしようかと悩んでおり、エミルとカルミは悔しそうな顔をしていた。


「しかし……服か……。そんなに恥ずかしいのか? 俺はそこまで興味がないが……」


 ぶっちゃけて異世界の服という物がよく分からない。と言うのが栗山である。


「そりゃ……まぁ……」


 カルミがふて腐れた顔をしながら答え、栗山は手に持っていた本を5人に見せる。


「まぁ、文字は読めないだろうが、俺がいた場所では、女性はこの様な服を着ているぞ」


 それを見た5人は言葉にすることができずに雑誌に釘付けとなった。


「う、うゎ~……肌びろ~んだ……」

「き、煌びやか……」

「綺麗……」

「素敵……」

「ゴクリ……」


 5人は慌てて栗山から雑誌を奪い取り、ページを捲っていく。文字は読めないが、服が沢山描かれているのと、そこに本物のように女性が写っている事にも驚く。


「な、何なのこの書物は……」


「さぁ? 何だろうね」


「さ、さぁ? じゃないわよ! アンタが持っていたんでしょ!!」


「別にどうだって良いだろ。で、先ほどまでカミュ等が着ていた服と、そこに載っている女達だが……どっちが貧乏そうに見える?」


 言われなくても分かる。絵を見てもカミュ等が着ていた服の方がランクが下で、これを見たら確かに自分達がみすぼらしく感じてしまう。

 そして、女魔導士が着ていた服も素敵だと思っていた5人だが、それでも安っぽく感じてしまう気分になってしまうのだった。


「自分達は今、人生の岐路に立っている。俺はお前達が着ていた服に関してどうでも良いと思っているが、どうにかしてやることはできる。だが、お前達は町を歩くとき、その服が恥ずかしいと思っているのなら……そこら辺の奴と同じような服装で生活すりゃ良いんじゃないか? 俺に気を遣わずにさ」


 雑誌から目を離し、栗山を見つめる5人。この様な服を着られるのか……。この様な服は貴族の者でもそうそう着られる訳ではないし、斬新過ぎる。


「因みに……こういった本もある……」


 取り出した本のタイトルは『中世ヨーロッパ風服全書』と書かれているが、日本語である。しかし、そこに描かれているのは、貴族が着るような服がずらりと描かれており、5人は再び本を奪い取り、声を上げて見ていた。


「あ、アンタ……何者……なのよ……」


 顔を引き攣らせながらエミルが問う。


「さぁ? 何者なんだろうな……」


 興味がないと言ったような声を出しながら大きく欠伸をして、確かにいつまでもジャージでは可哀想かも知れないと思うのであった。

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