22.無益な争い
ハッキリ言って、余計なことをしてくれた。何故、他人の自慢話を聞かなきゃならないのか……。
そう思いながら深い溜め息を吐き、目の前でカルミと変わらないくらいの胸を張りながら自慢話を始める女魔道士。男共は優越感に浸っている様子で黙らせると言った様子はない。
「私達はエレガナル山脈に住む翼竜を倒したのよ!」
ぶっちゃけて大した話には聞こえないが、ギルドにいた冒険者の皆様方、そして、我がお姫様達は驚きの声を上げており、倒したことがどれ程凄いのか全く分からないし、理解したいとも思わない。
「ほ、本当に……翼竜を倒したの?」
エミルが戸惑いつつ聞き返す。すると、女魔道士(名前を覚える気がないので忘れた)がどうやって倒したのか身振り手振りを使って説明を始める。
何度も言うが、本当に興味がない。それに、その竜がどの位強いのかも分からず、カミュに質問をすると、「私も知らない。でも、竜族は鱗が堅くて倒すのが難しいって言われてる。だから、竜と名の付いた魔物を倒すと、偉い人に褒められるんだって」と、理解していないのに驚いていたらしい。
その自慢話にエミルは手に汗握りながら聞いており、相手にとって都合の良い鴨になっている。だが、よく見るとそれはエミルだけではなく、ギルド内にいる全員が同じ状態で、呆れてしまう。
栗山が居た世界では、自衛隊という組織があり、その組織は怪獣と戦う事が多い映画があった。翼竜というのがそういう奴であれば、それは凄いことなのだろうが、もしも、プテラノドンサイズであれば翼を開いても7~8メートルほどであり、鱗の堅さによるが、現代兵器で倒せない話ではない。しかも、『あの子』は言った。
『生き物とお金を除いて全てを許そう』
と言うことは、あり得ない武器も召喚できるという事になる。後は何かしらの本を見ながら研究し、対応を考えれば良い。だから驚く必要はない。
それに、そんな危険な奴を相手にせずとも通常の魔物を倒し、ギルドで換金すればそれなりにお金を貰える。武器が強いので苦労することはないし、相手が復活することも知っているので永久に狩りをすることができる。
だから、この女魔道士が自慢していることは、自分には無意味で滑稽である。命を賭けて戦う必要がない。
その様な事を思いながら聞いていると、女魔道士が調子に乗って栗山に指差し挑発めいたことを言う。
「貴方たちには無理な話だけどね!」
無理で結構である。興味が湧かないし、そんな事をするくらいなら、この5人に勉強を教えると言った方が大変で成功率が低い。
「そうですね……我々には難しい話です。いやぁ……貴方方は凄い冒険者だ」
これだけ言っておけば充分だろう。相手も満足するだろう。そう思い、作り笑いをして冒険者達の横を通り過ぎ、換金するため店員に話し掛ける。冒険者カードを提示するため、立ち尽くしている5人を呼ぶ。
ギルド内にいた冒険者達はもっと話を聞かせてくれと言って、ムキムキマッチョの冒険者達を囲んでせがむ。だが、肩透かしを食らった顔をする女魔道士のアスレッタとその冒険者達。前の町では冒険譚を聞かせて欲しいと全員に言われ、町の酒場を借り切って冒険譚をしたのに、栗山だけは話を聞きたいと言わずに、横を通り過ぎて換金を求めに行く。
これには彼等のプライドが傷つけられ、女魔道士のアスレッタは栗山のところへ向かい肩を掴む。
「あ、アンタ! 私達の冒険譚を聞きたくないというの!」
「え? えぇ……。そうですね……。お前等は聞きたいのか?」
興味がない栗山は5人に意見を求める。それが更に彼女等冒険者達のプライドを傷つけていることに気が付かない。何故なら、栗山には翼竜を倒したという凄さが全く分かるはずがない。
確かに、どんな話でもドラゴンという生き物は凄いのだが、それは物語での話であり、栗山が居た世界では、実際に宇宙に行くことができる世界である。
そして、実際に見たことがないのでその凄さが全く理解できない。まだ、この冒険者達が成層圏まで行ったことがあると言われた方が凄さを実感することができるという物だ。
だが、更にこの冒険者達のプライドを傷つける奴がいた。
「あ~、私も別に良いかな。兄ちゃんが聞かないのであれば、私はその指示に従うだけだし」
カミュである。
「な、何なの!! ま……まぁ、獣人にはこの凄さが分からないだろうし? 別に、貴方達程度の冒険者が倒せる訳ではないだろうしね」
頬をヒクつかせながら女魔道士のアスレッタは言うが、話に付き合っている暇がない栗山は、店員に冒険者カードを渡して換金を始める。チヒにしたら初めての報酬になり、その報酬は全て自分の物となると言われているため冒険者の話なんてどうでも良かった。
初めは凄いと思い、話を聞いてみたいとは思ったのだが、栗山が冒険者カードを出してくれと言った瞬間、報酬のことを思い出し、話のことを忘れてしまったのだ。
今まで生きてきた中で初めて手にする大金。冒険者が翼竜を倒した事よりも、その報酬で何を購入しようか考えてしまう方が先行するのだ。
「ね、ねぇ……チアキ……さん」
「あん?」
「こ、この後……道具屋に……」
「別に良いけど? あ……そう言えば、魔導書って何処で売ってるんだろうな」
ふんぞり返っている女魔道士の目の前で交わされる会話。女魔道士のプライドはズタズタである。
「あ、アンタ!! 一体何なのよ!!」
再び栗山の肩を掴んだ女魔道士。今にも殴りかかってきそうな雰囲気に栗山を含めた5人はドン引きする。いったい何故この女はここまで自分達に絡んでくるのだろう。6人はそう思いながら苦笑いする。最初は冒険譚を聞いてみたいと思っていたエミルやカルミですら、逃げたい気分になっている。
「な、何が可笑しいのよ!! 何笑っているのよ!」
もはや言いがかりになっており、酔っ払いが絡んで来ているように見える。店員から冒険者カードと報酬を貰い、「じゃ、じゃあ、俺達はこれで……」と言って立ち去ろうとすると、マッチョマンの冒険者達が入り口を塞ぐように立ち並ぶ。
「あ、あの……俺達は買い物があるから……退いて頂けませんか……」
コイツ等に関わってはいけない。頭の中で警笛が鳴らされており、栗山は顔を引き攣らせる。
「お前、なんで話を聞こうとしないんだよ?」
女魔道士と話をしていたマッチョマンが栗山に指差しながら言う。
「いや~……。凄い話だとは思うんですが、俺は別に興味がないので……。そ、それに、俺は冒険者になったばかりで、新米冒険者なんです。ですから、貴方方の冒険話を聞いたらこの先、冒険者をやっていけなくなっちゃうかも知れませんから……ハハハ……」
相手を持ち上げ、気分良くなってくれれば解放してくれるのでは? 栗山はそう思ってマッチョマンに言うと、マッチョマンは「腰抜けが……」と呟く。これにブチ切れたのがカミュとコレットである。
「おい、兄ちゃんは腰抜けじゃないぞ!! 言っておくがな、兄ちゃんはお前なんかより強いんだぞ!!」
「そうよ! チアキさんはアンタなんかより凄いのよ!! 不思議な武器で一発なんだから!!」
何故ここで話をでかくするのだ! 茫然と立ち尽くす栗山に対し、マッチョマンは鼻で笑いながら言う。
「お前等のような女ばかりの冒険者集団だったら、さぞかしそいつは凄い奴なんだろうな!!」
これに対してカミュが腰に装備している銃を抜きかけるので、慌てて栗山がその手を掴んで止める。
「ば、馬鹿! こんな場所で使うな! それこそコイツ等を殺しちまうだろ!」
この台詞に筋肉ムキムキマッチョマン達は「ふざけんな!! 貴様如きに負ける訳がないだろ!!」と騒ぎ立てる。それに対し、やってしまったと言う顔をする栗山。
「どうだろう、そこまで言うのであれば、私と剣を交えて見ないか? 君が勝てば、先ほどの言葉はなかったことにできる。だが、私が勝った場合、君は私の言うことを聞く……」
割に合わない勝負である。何故、聞かなかったことに対し、言うことを聞くという勝負になるのか分からない。
「あ、お断りします。別に、先ほどの言葉は取り消す必要ありませんし、勝負する意味が分かりませんから」
先ほどまでどうやってやり過ごそうかと考えていたが、ここまで来たらどうでも良くなってくる。そして、言葉を取り消さないと言ったら、カミュとコレットが嬉しそうにしており、お前等の責任でここまで酷くなったんではないかと思わざる得ない。
「わ、私に勝てると?」
「何故勝てると?」
どうせ避けられない戦いなら、叩きのめしてしまえば良いだろう。戦いの条件さえ、こちら側の有利にしてしまえば良いのだから……。
「な、なら……お手合わせ頂こうか……」
顔をヒクつかせながら言うマッチョなリーダー。女魔道士は先ほどから汚い言葉を吐き捨てており、正直に言って、かなり苛つく。しかも、獣人を連れて歩くような奴はろくな奴がいないと言う台詞に対してどうでも良い。別に自分がけなされても痛くも痒くもないが、仲間の悪口を言われるのは許される行為ではない。
「分かりました。じゃあ、外でやりましょうか。真剣味を出すため、武器はそれで構いませんよ」
腰につけている剣を指差すと、野次馬達は声を上げて喜ぶ。まさか新人冒険者が、翼竜を倒した冒険者と戦うなんて思ってもいないだろう。
「お前の武器は何だ?」
「俺は……剣術ができないので、適当な武器を使いますよ。勝敗は簡単です。相手を殺さないで相手を無力化にしたら勝ち、相手に参ったと言わせたら勝ちです。如何ですか? 翼竜を倒した冒険者さん」
「良かろう……その内容で良いだろう。私が勝ったら、お前は言うことを何でも聞く。万が一、お前が勝ったら……私達が何でも言うことを聞くよ」
勝ち誇った顔を見せるムキマッチョの冒険者。チラリと5人を見て嫌らしい顔をする。このムキマッチョの狙いは5人なのだろう。
外に出て、野次馬が栗山と冒険者を囲み、逃げられない状態を作る。
栗山は5人に溶接で使う遮光眼鏡と、イヤーマフを渡し、勝負が始まったら装着するように言う。5人は首を傾げながら頷くのだが、獣人用のイヤーマフなどはなく、2人には眼鏡をかけた後に、イヤーマフを耳に押さえ付けるように指示する。
「良いか、絶対に守るんだぞ!! 守らなかったら大変な事になるからな! 責任は取れないからな!!」
「わ、分かったけど……本当に勝てるの?」
先ほど、冒険者が自分達を見たことに気が付き、ムキマッチョ達が自分達を狙っていることが分かったらしく、不安そうな顔をして聞くエミル。
「大丈夫だよ。もし俺が勝ったら、エミルとカルミは俺の言うことを聞けよ」
「な、何でよ!!」
「俺の奴隷だからだよ。別に変な命令はしないから大丈夫だし、これで勝てるなら安い物だろ?」
「い、嫌らしい命令は駄目だからね……」
渋々エミルは受け入れる。奴隷という立場なのだから、仕方がないのだろう。こういう時でないと言う機会がない。5人から離れる間際にカミュが腕を掴む。
「に、兄ちゃん……」
「なんだよ?」
「だ、大丈夫……だよな?」
「はぁ? お前等が売った喧嘩だぞ……それよりも、俺はお前等2人が心配だよ」
「へ?」
「良いか、始まったら絶対に言われた通りにするんだぞ! 守れなかったら、お前等が大変無事になるんだからな!」
念を押されるカミュ。「お、おう……」と返事をして腕を放す。栗山はイヤーマフを片耳につけ、直ぐに装着できるようにし、眼鏡はオデコにかけ、右手に筒状の何かを持ってムキマッチョの前に立つ。
「覚悟はできているんだろうな……」
ムキマッチョが勝ち誇った笑みで言うと、栗山はニヤリと笑う。
「もちろん。じゃあ、始めようか……」
誰かがゴングのような物を鳴らし、ムキマッチョの冒険者と、栗山の勝負が始まりを告げたのだった。




