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スタートライン

 翌日には雨が止み、カミュが嬉しそうに外へ出る。もう二度と勉強はしたくないと言いながらも昨日は勉強していた。


「1日中降っていたからな。昨日とは全く違うな」


 昨日は真っ暗な空だったが、今日は青空が広がっている。


「ねぇ、今日は何をするの?」


 エミルが目を合わせないように質問してくる。まだぎこちなさが残っており、言葉に戸惑いが感じられる。


「今日は一昨日とは別の方へ行ってみよう。河原に行く必要はないしな」


「ふ~ん……」と返事をして、カルミの側へ行く。2人で話をしているが、チヒは独りで突っ立っている。


「どうしたんだ? 寂しそうにして」


「別に……いや、嘘を吐いても仕方がないよね。部屋で居場所が無いの」


 また始まった。女は直ぐにグループを作って、自分と合わないのなら仲間外れにする。どこの世界でも同じだという事が分かった。


 後ろから誰かが抱き着いてくる。振り返り確認すると、カミュが楽しそうに抱き着いており、空気を読んでほしい気分になる。


「兄ちゃん、早く行こうよ! あ、チヒ、チヒも頑張ろうな! 見つけたら教えてやる! 先ずは当てることが大事だぞ!」


 まだ魔物や動物を仕留めたことがないチヒ。それを気遣っているかのようにカミュは言う。


「か、カミュ……!」


「良かったな、1人じゃないらしいぞ」


 チヒは嬉しさに涙する。そんなチヒの頭に麦わら帽子を被せ、栗山等は町を後にした。


 町を出ると、直ぐ林になっている。そのため、他の町より魔物が多いらしく、討伐依頼が後を絶たないらしい。

 また、討伐が多いという事は、肉がよく取れるという事で、他の町へ売り出されていると言う。その事により、冒険者が多く住んでいる町という話だ。

 しかし、町の規模はルルブルクの町とあまり変わらないため、先住の冒険者を優遇する傾向があり、旅の冒険者が長く滞在する事はないらしい。

 本来であれば、ギルドは冒険者に対して平等に扱うらしいのだが、この町では馴れ合いが優先しているらしく、旅の冒険者を蔑ろにする傾向がある。栗山等が換金する際もかなり適当に扱われ、良い気分はしなかった。

 宿泊料金を先に払っているため、他の町に移動する訳にも行かないし、魔物が多いので稼ぐことができる。なので、期間内は稼ぐことに集中して、終わったら次の町へ行くことを考えていた。

 そのため、3人には早く戦闘に慣れてもらう必要があるのだった。


 町の外に出て、街道を少し歩いた所でカミュとコレットが音を探り始める。3人にはスナイパーライフルを渡し、使い方を説明して、3人は構えたりしてその時に備える。


「き、緊張するわね……」


 エミルが銃を構えながら呟く。カルミは「そうね」と相槌をうち、チヒはコレットにチェックしてもらっていた。


「これで良いの?」


「うん。筒の中に獲物が見えるから、それを目掛けて撃つんだけど……十字の線があるでしょ?」


「う、うん……」


「それの丁度真ん中に獲物が入ったら撃つと、狙った場所の近くに当たるわ。後は慣れね」


「わ、分かった……頑張る」


 今から緊張してどうするのだと思いながらカミュを見ていると、視線に気が付いたのか、カミュが近寄り耳元で囁く。


「不思議な道具で探すことは出来ないの?」


「何を言っているのか分からない」


 ふふん?。と、変な笑い方をして見つめてくるカミュがウザい。


「場所を移動しよう。この辺りでは居ないようだからな」


 皆は返事をして歩き始めると、冒険者らしき人達が前方から歩いてくる。その人数は6人で、女性が1人だけいる。姿からすると魔道士のようだ。男の人達はかなり厳つい身体をしている。

 その冒険者達が栗山たちに気が付き話しかけて来た。


「君、町までどの位あるか分かるかい?」


 ムキムキ筋肉のマッチョマンが道を尋ねて来ると、後ろにいた魔道士の女性が仲間のマッチョマンに何か言っており、カミュとコレットが不機嫌な顔をする。


「町ならここから30分ほど歩いた場所にありますよ」


「そうか、ありがとう。ところで、彼女達は魔道士なのか?」


「いえ、まだ魔法の1つも使えませんし、彼女と彼女は獣人なので魔法が覚えることが出来ないらしいんですよ」


 栗山が答えると、後ろにいたマッチョマンと魔道士が笑いを堪える。何がおかしいのか分からないが、少しだけイラッとさせる奴だと思いながら会釈をして別れた。

 暫く歩いていると、カミュとコレットの様子がおかしいことに気が付く。


「どうした? 2人共……元気がないな」


「さっきの奴等……私達を見て笑ってた」


「どういう事だ?」


 カミュが言うには、獣人の冒険者はほぼ男性らしく、女が冒険者になることは滅多にないとの事。連れて歩くと言うのは、性的道具として扱われる事が多く、カミュとコレットはそういう目で見られていたらしい。


「へ?。まぁ、言わせておけよ。一昨日なんか、コレットは10匹以上の魔物を倒したんだ。まだ冒険者になって数日だぞ。それに、バイリードッグはゴブリンよりも厄介な奴らしいじゃないか。それを倒したんだから誇って良い」


「そ、そうですか……えへへ」


 少し照れくさそうにコレットは笑うと、カミュが頬を膨らませながらコレットに肘打ちをして、コレットはカミュの頭をポカポカ叩くのだった。


「しかし……何故、獣人の女性は迫害されてるんだ?」


「それは……」


 チヒが言い難そうな顔してカミュとコレットを見る。2人もそれに気が付き、苦笑いをする。


「身体的なものよ。獣人は人種よりも感度があるらしく、性的欲求が強いと言われてるの。だから、男性が欲求のはけ口にしやすいって事よ。あ、別に2人がそうって言う訳じゃないわよ。一般的にそう言われているだけよ。これって、世界の常識だと習ったけど……何で知らないの?」


 チヒが言い難そうにしているため、代わりにエミルが答えたのだが、ストレートに言い過ぎなため棘があるように聞こえ、カミュとコレットの表情は暗い。


「俺は世間に疎いんだよ。前にも言ったが、俺の常識とお前等の常識は違う。だから分からない事が多いんだよ。あと、俺のことはチアキと呼んでくれ。ご主人様と呼ばれるのはむず痒いし、柄じゃない」


 そう言って先に進んでいくと、コレットとカミュが何かの音を拾う。


「あっちの方角に何かいます」


 コレットが指差し、カミュが頷く。指を指した方角は林の中で、音は数個聞こえたらしく、複数の何かがいると言うことである。


「チヒ、あっちの方だよ。ほら、筒を覗いて確認してみなよ。向こうはこっちに気が付いてないんだからさ」


 先ほどまで落ち込んでいたはずのカミュ。気を取り直してチヒに方角を教えてあげていた。


「カミュ、これを使って確認してみろよ。見ながら教えられることがあれば、3人に教えてやりな。ほら、コレット、エミル、カルミも……」


 スコープを受け取り4人は覗いて見ると、バイリードッグが鹿を食べていたらしくエミルが「うわ~……食事中だ……」と呟く。


「今なら相手は動くことがないな。ほら、やってみろ。今が絶好機だ」


 言われてチヒは頷き、震える手でトリガーに指を置く。すると、コレットがチヒの腰に手を当て「大丈夫だよ。相手からこっちは見えないから、外したって襲ってこない」


「う、うん……」


「深呼吸して、それからやった方が良いぞ」


 スコープを覗きながらカミュが言う。


 チヒは言われたとおり深呼吸して、コレットはそのまま手を腰に添えたまま「大丈夫だよ」と呟きチヒはトリガーを引く。


 初弾で腹部に命中したが、バイリードッグはまだ動けるらしく、身体を引き摺ってその場から離れようとする。


「チヒ、もう一発噛ましてやれ!」


 「う、うん!」チヒは返事をして、今度はバイリードッグの頭に当たり、バイリードッグは動かなくなった。コレットは複数の音が聞こえたと言っていたので、栗山はその周辺を探ってみる。すると、木の陰に隠れているバイリードッグを発見し、エミルとカルミに教える。


「できるか? 2人とも……」


 少し挑発気味に言うと、エミルは「で、できるわよ!!」と言って銃を構える。構え方がおかしいためコレットは教えようとしたが、栗山が止める。


「コレット、何事も経験だ。それに良い薬になるから放っておけ」


「わ、分かり……ました」


 コレットはスコープを覗き、魔物を確認する。カミュはチヒと一緒に喜んでおり、緊張感がどこかに飛んでしまっていた。

 エミルは引き金に指を置き、震える手でトリガーを引く。だが、弾は木に当たり魔物は飛んできた方角が分かったらしく、こちらに向かって吠えていた。

 スコープで見ると魔物が近くに感じるため、エミルはスコープから目を離し後退る。


「攻撃をしている方角が分かっただけだ。こっちが見える訳じゃない」


「だ、だって……こっちを見てるじゃない……」


「だったら、見えないようにしてやりゃ良いだろ」


「ど、どうやって……」


「コレット、黙らせてやれ」


 栗山の言葉にコレットはスコープをP320に取り付け、狙いを定める。そして、口を開けた瞬間にコレットはトリガーを引く。

 吠えていたバイリードッグの口内に弾丸は吸い込まれ、コレットの狙撃能力が高いことを皆に知らしめる。


「夜な夜な練習しているかいがあったな、コレット」


 練習している事を皆にバラし、コレットは再びカミュの頭をポカポカと叩いていた。

 それを聞いたからなのか、カルミがスナイパーライフルを構えバイリードッグを探す。


「もう、居ないようね……残りは逃げたみたい」


 スコープで確認する限りでは見えないらしく、カルミは銃を降ろしてコレットの方を見る。それに気がついたコレットは首を振り「音が聞こえなくなったから……」と言う。


 チヒは仕留めることができたし、エミルは撃つまではできた。しかし、カルミはそこまでには至っていない。

 自分だけ乗り物に乗り遅れている気がして、再びスコープを覗き込み、敵の姿を探す。

 だが、見つける事が出来ずにスコープから目を離し、目の前にあった石を蹴っ飛ばし、怒りをぶつける。それを横目で栗山は見ており、深い溜め息を吐いたのだった。


 チヒとコレットが倒したバイリードッグの死骸を回収しに行き、チヒは初めて自分の倒した魔物を目にする。


「ほ、本当に私が倒したんだよね……」


「冒険者カードを見てみりゃ分かるよ。ほら、早く袋に仕舞っちまえよ。それはチヒが倒したバイリードッグだ」


 だが、死骸に触るのは気が引けるのか、緊張しながら袋を開き死骸に触れ、袋に入れようとする。自分の身長ほどあるバイリードッグ。本当に袋の中へ仕舞う事ができるのか不安になるが、袋に入れようとする動作に反応して、バイリードッグが袋の中へ吸い込まれていく。

 一連の流れを終え、ホッと息を吐いてコレットとカミュを見ると、2人は嬉しそうに笑って抱き付いてきた。

 何故、ここまで自分を助けてくれるのに、あの様な失礼な事をしてしまったのかと後悔し、チヒは再び2人に謝った。

 2人は気にしていないと言ってチヒに微笑みかけ、これからも仲良くしようと抱き合いながら言うのだった。


 栗山の中で問題は1つクリアしたのだが、気にいらないと言った表情をしているエミル。まだスタートラインに立っていないと思っているカルミの2人をどうするか考えながら移動するのだった。

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