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妬むのではなく認める事が大事

 部屋をノックするが、返事がない。仕方無しにノックを繰り返すと、突如扉が開き、勢い余って開けた人の顔を殴ってしまう。


「うぐぅ……。な、何で殴るのよ……」


 鼻頭付近に手が当たったようで、カルミは鼻を押さえるように蹲り、涙を流していた。


「あぁ、悪い。中々返事など無かったからな。つい力を入れちまった」


 別に悪びれた様子はないが、取り敢えず謝ったと言う感じで栗山は言う。それに対してイラッとしたのか、カルミは立ち上がり、鼻を押さえながら睨みつける。


「まぁ、許してくれよ。で、さっきカミュが謝罪しに来たと言っていたが……」


「来たわよ。私が悪かったって言っていたわ」


「ふ~ん。入らせてもらうぞ」


 グイッとカルミを押しのけ中に入って行くと、奥で2人が笑いながら話しており、全く悪びれている様子は感じられない。


「エミル、カミュはどのように謝ったんだ」


「え? あ、アイツなら……床に座らせて頭を床に着けるように謝らせたわ」


「お前がそうさせたんだな?」


「そ、そうよ。自分が悪いって言うんだから……当たり前でしょ?」


 成る程……。と小さく呟くと、カルミがふて腐れた顔して栗山の脇を通り過ぎ、ベッドに腰掛けた。


「じゃあ、お前等は俺に対し、同じように謝れよ。カミュがやったようにさ」


「は、はぁ? 何で私達が謝らなきゃいけないのよ!!」


「なら……死ぬか?」


 腰から銃を取り出しエミルに突きつける。


「ま、待ってよ! 謝らなきゃいけない理由を教えなさいよ!!」


「理由? 必要あるのか? 俺達の関係に……。お前、自分の立場を理解しているのか? いや、お前達は誰に買われたのか理解しているのか?」


 栗山の言葉に対し、チヒは直ぐに言われた通り床に座り頭を下げる。2人はチヒの行動がよく分からず怪訝な顔をする。

 チヒはチヒなりに何かしら思うことがあるのだろう。考えてみると、3人の中でチヒと話している機会が多かった。


「も、申し訳ありません……ご主人様……」


 頭を上げずにチヒは謝罪の言葉を言う。


「カミュはそうやって謝ったのか? チヒ」


 ギリッと歯を鳴らし、普段はそれ程表情に出すことはない栗山だが、カミュが謝っている姿が想像できてしまうため、険しい顔をする。


「は、はい……」


 カミュが謝罪したやり方は土下座という謝り方である。この世界でそれが一番誠意があるのか分からないが、相手が自分を見下ろす事で、謝られた相手は優越感を味わえる……。カミュはそれを理解しているのだろうか。

 土下座の意味を理解していないとしても、自分が悪かったという意味を示すためにやったのだろう。言われた通り……。


「で、エミル、お前はそれに対して何をしたんだ? 俺はカミュに謝れと言ったよね?」


「だ、だから何で私が謝らなきゃいけないのよ!! 相手は獣人族でしょ!」


「それが関係あるのか? 獣人族がお前等より下だという理由はなんだ? 俺からしたらお前等の方が下だろ」


「彼奴らを優遇しているからそう言えるのよ!!」


「はぁ~……。確認をするが、どのように優遇したというんだ。チヒ、教えてくれるか?」


「そ、それは……」


「なら、カルミ、お前も同じようなことを言っていたが、どのように優遇しているんだ? 教えろよ」


「……ぶ、武器を……渡した……」


「お前等にも同じ武器を渡した。違うか?」


「違う! あの子達だけ遠くを狙える武器を渡したじゃない!!」


「それは取り上げた。その後はどうした? お前等は脅えていた。カミュは泣きじゃくっていた。戦ったのはコレットだけじゃないのか?」


「そ、それは……あの子を優遇しているから……」


「どのように? 武器は同じで、身体的能力は初めからある物。俺は全員に同じ武器を渡し、条件は同じにしたはずだ。で、自分らの身が危険になったら主人を盾にした。これが謝る理由にならないのか?」


「も、申し訳ありませんでした! ご主人様……お許し……下さい……」


 歯をカチカチ鳴らし、身体は小刻みに震わせながらチヒは謝罪の言葉を述べる。

 チヒは初めから自分が悪いと言うことを理解していた。だが、人種族と獣人族という、種族間の違いから認めることができず、謝る機会を失っていた。栗山と一緒の部屋で寝たときも、お腹が空いたと言ったら食事の準備を始めてくれたし、別に黙っている必要はないのにジュースの件も皆に話していない。

 優遇されているとしたら、その時のチヒが一番優遇されている。チヒはその事を頭の片隅に置いてあり、誰を優遇するとかそういった事はないと言う栗山の言葉を身にしみていたのだった。


「わ、私は……あの武器が使いたかったけど……か、カミュが先に言うんだもん……それを言い出せずに……」


 自分が先に言えなかったことを妬んだ。それは、カミュが言うように、言った者勝ちなのだ。その後でも、自分もその武器が欲しいと言えば貰えたはずだ。それはコレットが証明している。彼女はカミュに貸してくれとお願いし、栗山から新しい物を貰った。言えばくれるのだ。


「それは俺に言う話じゃない。相手を選んで謝罪して来いよ」


「も、申し訳ありません……」


「さっさと謝ってこい」と、栗山が言う。チヒはゆっくり立ち上がり、俯きフラつきながら部屋から出て行く。部屋に残ったのは2人。栗山はカルミを睨み付け、「で、誰がどのように優遇してんの?」と問いかける。カルミは唾を飲み込み、言葉を失う。


 銃をオデコに押しつけ「早く答えてくれる? 俺はお腹が空いてんだよ……早く飯が食べたいの。で、誰がどのように優遇してるんだ? 教えてくれるか……カルミ」と、冷めた目で問うと、カルミはゆっくり床に座り込み、床に水たまりが出来上がる。


「こういった事は良くある話なんだよ。俺が住んでいた場所でも起きていた。羨ましいよな、自分に無い力を持っている奴って……俺も随分と妬んだものだ。何故、アイツばかりって……。俺の方が勉強してたじゃん……そう考えたこともあったさ。しかし、それは自分が頑張っていると思っているが、そいつのことを考えちゃいなんだ。そいつの頑張っている姿を見てはいないんだよ!」


「な、何が……」


「もう一度聞く……お前等は頑張ったのか? 他の2人よりも頑張ってやった結果が……主人を盾にして、仲間を傷つける一言や泣かせることをしたのか?」


 カルミは小さく首を振る。そして、小さい声で言う……。


「だって……今さらなんて言えば良いの……」


「簡単じゃないか……無駄に意地を張る必要はないんだ。相手を認め、相手の良いところを見習い、それは自分でもできるんだよ。カルミ、起こすのは妬みじゃなく、自分の中にある勇気を起こすんだ。アイツは凄い。自分は敵わない。それを認めるのも勇気の一つだ。けどな、お前には違う力があるかも知れないだろ? 2人にはできないかも知れないけど、お前にできる何かが……」


「そ、それが……無いから……」


 銃を下ろし、腰を下ろして同じ目線でカルミに言う。


「ギルドで聞いたよ。獣人族は身体能力は高いけど魔法を使用する事ができないらしいな。獣人族は魔力が殆ど無く、人種族や他の種族だけが唯一勝るところがって話じゃないか。なら、お前達3人がやるべき事は一つじゃ無いのか? 文字が読めないのなら俺が教えてやる。魔導書が買えないのなら、買える術を与えてやる。お前等が他の奴隷と違うところは何だ? それは奴隷のことを全く知らない俺に買われたって事じゃないかのか? 優遇されているというのなら、それはお前等5人を指すんだ」


 立ち尽くしていたエミルも膝から崩れるようにして座り込み、カルミと共に鳴き始める。


「ここまで言って理解できないのなら、お前等は終わりだよ。俺はそんな馬鹿を買ったつもりは無い。自分がどうしたら良いのか良く考えて行動しろ。俺は部屋に戻る」


 そう言って栗山はコレットとカミュのいる部屋に向かい、チヒの様子を見に行く。すると、コレットが栗山の側にやって来て頭を下げる。


「何だよ?」


「ありがとうございます……」


「耳が良いって言うのも大変だな」


「今まではそうかも知れないけど、今は幸せです……」


「あっそ。これをカルミに渡してやってくれる? それと、これで身体を拭いて、これで床を掃除するように。そんな役目ばかりで悪いな」


 コレットは首を横に振り、栗山から着替えなどを受け取って部屋を後にする。奥を見ると、カミュが正座をして床に座っており、向かい合わせでチヒが座っていた。


「終わったのか? 終わったのなら、飯の準備をしよう。いい加減腹が減っちまったし、喉が渇いたよ」


 そう言ってカミュに袋を投げ渡すと、カミュは慌てて受け取り、大事そうに胸に抱きしめる。


「そうだな、腹が減ったよ。今日はいったい何を食べさせてくれるんだ? チヒはどういったのが食べたいんだ!」


 少しぎこちないが、カミュは笑顔でチヒに話し掛けるチヒは「ありがとう……」と、カミュにしか聞こえない声で言って抱きつくのだった。



 翌朝、アラームが鳴り響く部屋で目を覚ます。


「朝か……」


 身体を起こし、アラームを止める。木の窓を開けると外は雨が降っており、その勢いはかなりの量である。


「こっちに来て初めての雨……。よく降るなぁ……本当に……」


 外は真っ黒な雲で覆い尽くされており、いつ降り止むのかすら分からない。この世界には天気予報という物がないのだから。

 昨日は面倒な事が起きて、本当に長い1日だった気がする。この様なことは勘弁願いたいものだ。等と思っていると、ドアがノックされ返事をする前に開かれる。


「兄ちゃん! 外は雨が降っているぞ! 身体を洗ってきて良いか!!」


「何でだよ……と言うか、俺が寝ていたらどうするんだよ」


「兄ちゃんの部屋でウルサい音が鳴って、止まったから起きたんだと思った」


 耳が良いというのは困りものだと言うことがよく分かる。


「あと、入る前に返事を待てよ」


「待ったよ。返事が無かったから入った」


 お前が待つというのは何秒間の話だ。0.1秒以内で返事をしろと言うことか!!


「さて、今日は何をしようかな……」


「あ、あのぉ……」


 頭を掻きながら今日の予定を考えていると、珍しくコレットが部屋にやって来る。


「も、文字を教えてくれませんか……」


「文字……か……」


 昨日、教えてやると言ったのを思い出したが、どうやって教えてあげれば良いのか悩むところである。この世界で『ひらがなドリル』なんて物を出したって意味はない。


「ひらがなドリルじゃなくて、異世界文字ドリルがあれば良いのか……」


 2人に背を向けて、異世界文字ドリルが召喚できるのか試してみると、ひらがなドリルの異世界版が現れた。


「な、何でも有りだな……」


「どうした? 兄ちゃん……」


 カミュが後ろから抱きついてくる。昨日の夜からスキンシップが前以上に激しくなっているような気がする。胸が当たっているのは気が付いているのか……それともわざとなのか……。


「あ、いや……。きょ、今日はお前達に文字を教えてやるよ。3人にも話して置いてくれないか」


「場所は何処で行いますか?」


 チヒ達が2人に謝ってから、コレットは丁寧な言葉で喋るように心がけているらしい。


「俺の部屋で行うか。先ずは朝食からだな。朝は簡単な物にするから、3人を呼んできてくれ」 


 コレットは返事して部屋から出て行き、カミュは腰に抱きついたまま離れようとはしない。それどころか、胸を押しつけるかの如く身体をわざと密着させていた。


「カミュ、いい加減に離れてくれないか? 朝飯の準備をするかさ」


「魔法のようなわざでやるんだろ? 直ぐに出来るじゃないか……」


「何の事を言っているのか分からないぞ」


「まだ誤魔化すんだ……。バイリードッグに襲われたときに出した武器……それに、起きたときに手にしていた奴……あれはどうやって説明をするの?」


「お前が気が付かない速度で袋から取りだしたんだろ」


「今はそういう事にしてあげるよ。だけど、いつかは教えてよ」


「お前はどっちが本物だ?」


 「何の事?」と、とぼけた声を出して離れる。カミュの温もりが消えたことが少し寂しく感じるが、それを言ったらコイツが調子に乗ると思い、言わずに準備を始める。

 相変わらずカミュは笑顔で眺めているだけで、手伝おうとはしないが、それはそれで良しとしておくことにした。

 4人が部屋にやって来て、皆で朝食を取りながら今日は文字の勉強をするのだと宣言すると、5人は元気よく返事をした。

 しかし、勉強が始まると、カミュが飽きたらしく直ぐに脱落したのは言うまでも無い話だった。

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