喧嘩両成敗のはずなのに
カミュとコレットが戻り、食事を始める。誰も喋ることなく黙々と食べており、ギスギスとした空気が漂う。
原因はカミュとコレットが力を発揮したことにより5人のパワーバランスが崩れ、3人は居場所を無くしたと思っているようだ。
「さて、先程確認したんだが……この川には魚がいるようだな」
川を見ながら栗山が呟くと「魚って食べれるのか!」と、カミュが楽しそうに声を上げた。
しかし、4人は話を聞いていなさそうにしており、いい加減にして欲しい気分になる。
「お前、魚を食べたことないのか?」
「う?ん……ないなぁ?。魚って美味しいのか?」
「美味いぞ。海にいる魚はスゲーデカイ奴がいるんだ。まぁ、こっちにはマグロとかいるのか分からんが……」
世界の違いを思い出し、苦笑いをするのだが、カミュの耳に聞こえていたらしく「マグロってなんだ?」聞いてきた。
「そういう魚がいるんだよ。そいつは海を泳いでいるんだけど、泳ぐのを止めることができないんだよ」
「嘘ね。そんな生き物、聞いたことがないわ」
エミルが冷めた目で見つめながら言う。
「俺がいた場所ではいたんだよ。こっちにいるかは分からないけどね。と言うか、お前はやけに突っかかってくるな」
こちらの世界にも生理があるのか? 等と呑気に考えていると、カミュがエミルを睨み付ける。
「まぁ、仕事ができない奴は世界が狭いからね。人の言う話すら信用できないんだよ。嫌だ嫌だ、心が狭いのは」
エミルを見下す目でカミュが言う。その一言にエミルは立ち上がりカミュを睨み付けた。
「何をしてるんだよ。喧嘩するなよ」
栗山が言うと、エミルがカミュを指差しながら叫ぶ。
「アンタがコイツを優遇するから悪いんでしょ!! 全てアンタが悪いんじゃない!!」
また始まった……。栗山は深い溜め息を吐き、喋ろうとした瞬間……カミュが立ち上がってエミルの顔面を殴りつけ、エルミは後ろに転げる。
何が起きたのか理解するまでに時間が掛かり、止めるのを忘れてしまう。
「誰が優遇されたって言うんだ!! 自分は何もしないくせに……何もできない奴が粋がったことを言うな!!」
「な、なんだとぉ!!」
「ちょ、ちょっと、カミュ! 何をしてるのよ!」
「兄ちゃんは皆に武器を渡したじゃないか!! 自分達で行動を起こすか起こさないかの違いだろ! それなのに兄ちゃんの責にするんじゃない!!」
コレットがカミュを羽交い締めにして取り押さえているが、チヒとカルミは見ているだけで止めようとはしなかった。いや、止めるのを忘れていた。
エミルが立ち上がり、カミュにタックルを噛ます。コレットが羽交い締めにしているためカミュとコレットは後ろに倒れ込む。その上にエミルが乗っかり、カミュの顔目掛けて何度も顔を叩く。
すると、乾いた音が空に鳴り響き、エミルは動きを止め、音がした方に顔を向ける。
音を鳴らしたのは栗山で、手にはクラッカーが握られており、クラッカーの中身が飛び出して散乱していた。だが、クラッカーなど知らない5人は、栗山が銃を撃ったと思い、顔を青くする。
「いい加減にしろよ。カミュ、エミルに謝るんだ」
「嫌だ!」
「謝れ……」
口をへの字にして栗山を見つめる。
「エミルも謝れ」
「何で私が? 最初に殴ってきたのはコイツよ」
「だから何だよ? 喧嘩両成敗だ。俺からしたら両方が悪い。それに、下敷きになっているコレットはどうするんだよ。コレットはお前等を止めようとしただけだろ。早く退いてやれよ」
エミルは黙っており、カミュが突き倒すようにエミルを退け、直ぐに下敷きになっているコレットに謝罪した。
「ごめん、コレット……大丈夫か」
「イタタ……。何をしているのよ……あんた達は……」
「だって、アイツが……」
「アイツがじゃないでしょ……全く……」
シュンとするカミュ。エミルは納得がいかないらしく、身体を起こしてカミュを睨みつけていた。
「折角身体を洗ったのに……台無しだな」
溜め息を吐きながら栗山が言う。さて、これからどうしたら良いのかと考えながら身体を起こし、後片付けを始める。散らかったクラッカーの中身は後で召喚解除すれば良いだけだが、他の物はそういう訳にはいかない。面倒だと思いながら袋の中に仕舞っていくと、カミュが申し訳なさそうに手伝い始める。
「カミュ、エミルに謝ったか?」
カミュは黙っており、答えようとはしない。
「じゃあ、お前等全員、飯抜きだな……」
「え?」
「な!」
「ちょ!」
「まっ!」
「嘘!」
飯抜きと言われるのは分かるが、何故、全員がと言った表情を浮かべ、カルミとチヒは顔を見合わせ、口をパクパクさせていた。
「因みに、換金したあと、お金と袋も回収させてもらう。仲直りするまで全て禁止」
「ちょ、ちょっと待てよ! 喧嘩したのはこの2人じゃん! 私達3人は関係ないじゃん!」
カルミが慌てて自分達には関係ないと言う。それに対してチヒも頷き賛同するが、コレットは項垂れ栗山の命令を受け入れていた。
「じゃあ、コレットは許してあげるけど、この4人に食事や水をあげることは禁止ね」
その言葉に再び全員が固まり、4人はゆっくりとコレットを見る。
「ちょ、ちょっと待ってよ……な、何で私だけ?」
「唯一喧嘩を止めようとしたのがコレットだったから。それに被害者だしね。さて、町に戻ろうか。あ、コレットとカミュの2人はその武器を返してくれる?」
「こ、これが無くちゃ……」
顔を引き攣らせながらコレットが嫌がる素振りを見せる。カミュは固まっており、何も喋ることができないようだった。
「これが喧嘩の原因でしょ? 平等じゃないと言うのなら、同じ武器で戦えば良いだけの話だ。違うか?」
コレットはそれ以上何も言う事ができず、スナイパーライフルを栗山に返しカミュはスナイパーライフルを抱きしめて返そうとしなかった。
何度目の溜め息か分からないが、栗山は盛大に溜め息を吐く。
「これは正直勘弁願いたかったんだが……仕方がないよな。全員目を潰れ。そして後ろを向くんだ」
言われた通りに4人は後ろを向く。目を瞑っているのかは分からないが、これは信じるしかない。
後ろを向いていないのはカミュだけで、スナイパーライフルを抱きしめて蹲って震えていた。
「カミュ、それを返すんだ」
首を横に振り嫌がるカミュ。栗山はカミュの頭に手を起き、小さい声で「ゴメンな……」と呟き、カミュは顔を上げると、抱き締めていたスナイパーライフルが無くなっていた。
「わ、私の武器……」
慌てて周りを見渡すと、カミュが持っていた武器は栗山の手元に有り、カミュは絶望に満ちた目で栗山を見つめる。
今先ほどまで抱き締めていたはずなのに、一体なぜ、どうやって奪い取ったというのだ……と、頭の中で考えるのと、唯一自分が栗山の力になれる武器だったのに……と、カミュの頭の中はグチャグチャに混乱し、大声で泣き出してしまった。
カミュが抱き締めていたスナイパーライフルの召喚を解除し、自分の手元に新しいスナイパーライフルを召喚しただけである。
栗山が「もうこっちを見ても良いよ」と言う。
4人が振り返り見たのは、カミュが大声を上げて泣き出しているのと、栗山の手元にスナイパーライフルがあると言う事だけ。
したがって、何が起きたのか把握する事ができないのだ。そして、カミュに聞いたところでいつの間にか奪い取られていたと言われるだけで、能力がバレることはない。
「町に帰るよ。ほら、カミュ……」
「お願いします! 返して下さい! 私が悪かったから……だから返して! お願い……」
栗山に縋り付くようにスナイパーライフルを返してくれとカミュは言う。だが、それは出来ないと栗山は言い、袋の中に入れるフリをしてライフルの召喚を解除した。
「お願いだから……お願い……」
「カミュ、実力を示せよ。お前が間違っていないという事を分からせりゃ言いだけだ」
だが、カミュは首を横に振り、返してくれと懇願する。
「コレット、カミュを連れて行くから手伝ってくれ。コイツは歩けない」
「は、はい……」
コレットはカミュの腕を掴んで立ち上がらせると、カミュは栗山の腕に巻き付くようにして離れなくなる。仕方なしにこれで進む事にして歩き始めると、コレットの耳がピクッと動き、林の方を見つめる。
「な、何かがこっちにやってくる……」
「数は分かるか?」
「正確な数は分からないけど……5?6って所だと思う……」
言い終わると、コレットは銃を手にしてカミュを守るように歩き始める。
「おい、何かがこっちに来てるらしいぞ。見せ場が来て良かったな。これで汚名返上出来るんじゃないか?」
3人に言うと、3人は慌てて銃を手にする。その手は震えており、自信が全く感じられない。
唯一コレットだけが息を整え、戦えると言ったところである。
「コレット、カミュは俺がどうにかするから、お前は俺達を守ってくれ。まぁ、5?6匹程度だったらどうにかなるだろ?」
「そ、それが……どんどん数が増えてるの……」
頬を引きつらせ、コレットが答える。その言葉を聞いて、昨日もバイリードッグが集団で現れた事を思い出す。
「ちょっとヤバイかな……」
苦笑いをしながら栗山が言うと、コレットも苦笑いをする。
「私一人じゃ……キツイというか、無理だと思う……」
弾丸の数は15発+1発?4であるが、3人が確り仕事出来ればの話である。2人が取っ組み合いをしなければ、スナイパーライフルを3人に渡し、遠くの敵を狙撃させる予定だった。
「とにかく、今はこの場から離脱するぞ。コレット、逐一報告を頼む。お前等、襲ってきた場合、慌てずに攻撃をするんだ。その武器は強い。それに、お前達ならやれる!」
腕にしがみついているカミュを引っ剥がして背負う。カミュは甘えるようにして背中に抱き付き離れようとはしない。今はこれで良いと思い、コレットを見る。
コレットは自分の役目を理解したのか、ゆっくり頷き栗山の側から離れないように歩き始める。
3人は震える足を叩き、栗山とコレットの後を追うように歩き始めた。
暫く歩いて行くと、コレットが立ち止まる。
「これ以上は無理……ここで迎え撃った方が良いわ」
できればカミュを降ろして、自分も戦った方が良いのだが、カミュが離れようとはしないため、しゃがまないと攻撃をする事ができない。
徐々に足音のような物が聞こえてくると、コレットは狙撃をする。スナイパーライフルで撃ったことにより拳銃での精度も上がっているようで、コレットが「良し!」と声を上げる。
しかし、他の3人は魔物が近寄ってくる恐怖により震えており、栗山の陰に隠れようとする。
「ちょ、ちょっとアンタ達!! あれだけ文句を言っていたくせに……逃げるの!!」
コレットが3人に向かって叫ぶが、栗山の後ろに隠れて頭を抱えしゃがみ込んでしまう。
これではどうしようもなく、コレットは徐々に後ろへ下がっていく。
「コレット! 数は分かるか!」
「わかんない! 10匹以上はいると思う!!」
これ以上は無理だと判断して、腰を下ろし機関銃を召喚し、急いで準備をして構える。
「コレット! 俺の後ろに下がるんだ!」
その言葉を聞いて直ぐに後ろへ下がり、弾があるだけ援護射撃をコレットは行う。だが、直ぐに弾切れになり、震えている3人から銃を奪い、見えない距離で撃とうとする。
「まだ撃つな! 相手を引きつけるんだ……」
「は、はい!」
「コレット……敵は前からしか来てないよな……」
栗山の質問にコレットは音を探索し、「前からだけです」と答える。
徐々に足音が聞こえ始め、姿が見え始める。
その数は20匹ほどおり、ゆっくりとバイリードッグは近付いてきていた。多分、コレットが射撃し、仲間が倒れたことにより警戒をしているのだろう。相手の足取りがゆっくり過ぎて、引き金を引きたくなる。
「ま、まだ……駄目ですか……」
「先に俺がやる。コレットは倒し漏らした奴をやってくれ……」
「わ、分かりました……」
コレットは唾を飲み込み、焦る気持ちを抑える。今、この場で戦えるのは自分一人だけ……子供の頃から一緒に居たカミュだけはどうにか守らないいけないし、主人である栗山も守らなければならない。そのプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、前を見つめ、栗山が攻撃をするのを待つのだった。