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生かす身体能力

 翌朝、アラームが部屋の中に鳴り響くと、栗山は眠い目を擦りながらアラームを止めて身体を起こす。もう、何日風呂に入っていないのだろう……。フォルカン邸でも風呂に入ることはできず、そのまま眠ることになった。そして、この宿屋に泊まったとしても、風呂が有る訳では無い。

 仕方が無いので赤ちゃん用のウェットティッシュを召喚し、体中を拭いて、水を使わないシャンプーで頭を洗ってその場をやり過ごしているだけだ。

 考えてみると、あの5人も風呂に入っていないはずである。

 いい加減、頭が痒くなっているかも知れないし、身体から臭いもしているかも知れない。しかもエミルに限っては、一度漏らしてしまっている。

 いくら奴隷と言えども彼女等は女性なのだ。言葉に出さなくとも気にしているはずだろう。

 近くに川があるのなら、そこで水浴びをさせてやりたいが、5人が何と言うか分からない。昨日、話をしたが、それでこちらの考えを理解してくれたのなら助かる。だが、理解してくれなければ、こちら側が対応を変えなければならない。いい加減、覚悟を決めるべきだろう。


 そのような事を考えていると、部屋のドアが叩かれ、返事もしていないのにカミュがズカズカ入ってくる。なんとなくホッとしてしまうのは何故であろう。


「起きたか? 兄ちゃん」


「おはよう。だが、ノックをするまでは良いが、返事を待ってから中に入ったらどうだ」


「待ったよ。なぁ、腹が減ったし喉が渇いたよ……兄ちゃん」


 お前の「待った」は1秒も無いのかよ……。


「他の奴らはどうした? 取り敢えず、後ろを向いていろ」


 「分かった」と言って、後ろを向くカミュ。栗山はズボンを穿き、もう良いよと答えてベッドに腰掛ける。


「3人は知らないけど、コレットはもう起きてるよ。兄ちゃんを呼びに行こうか迷っていたから私が来た。なぁ、まだ怒ってるのか?」


 少しだけ悲しそうな目をしてカミュが覗き込むように見つめる。


「怒ってないよ。カミュは皆が好きか?」


「好きだよ。兄ちゃんも好きだよ。美味しいもの食べさせてくれるし、私に暴力を振るわない。それに……助けてくれた。馬車の時から……」


 馬車とは、初めてカミュを見つけたときの話だろう。


「ふ~ん。取り敢えず、これを飲んどけよ。ほら、コレットの分もある。飯は残り3人が起きたときに食べるぞ」


 「分かった」と言って、部屋を出ようとするカミュ。扉を閉める前に立ち止まり、「兄ちゃん、本当にありがとう。愛してるよ」と言って部屋を出て行く。


「言葉の意味を理解しているのかよ……」


 朝から深い溜め息を吐き、重い腰を上げてから朝食は何にしようか考えたのだった。


 3人が起きたと言っても、腹ぺこのカミュが叩き起こして来たのだが……。3人は眠いのか、不機嫌な顔をしながらカミュとコレットの部屋にやって来る。カミュとコレットの髪は短いが、寝癖が付いていない。が、3人の髪はボサボサで、頭が痒いのかボリボリと掻いている。


「なぁ、この辺に河原は無いのか?」


「河原……ですか? 聞いてみないと分からない……です。初めてきた土地なので……」


 コレットは言葉を無理矢理丁寧にしようとしているらしく、少しばかりイントネーションがおかしくなっている。


「今日は河原を探しに行こう。先ずは飯を食べてからだけどね」


 その言葉にカミュは嬉しそうにしていたが、叩き起こされた3人は不機嫌そうに「分かりました」と言って、ベッドに腰掛け、早く飯を出せよと言った顔をする。

 何故だろう、まるでこちらが召し使いになっている気がするのは……。


 とは言っても、この5人が食事を作れるのかと言ったら作れないだろうし、材料もない。もし、作れるのなら、昼にでも作って貰おう。

 そんな事を考えながら、5人の朝食を食べさせるのだった。


 朝食が終わり、宿屋の店員に河原があるのか聞いてみると、林の方に河原があるらしく、栗山等はその河原へ向かう事にした。

 何故、自分達は河原に向かうのか……5人は考えるのだが、全く分からない。だが、主人である栗山が河原に行くというのであれば、それに従わざる得ないのである。それと、魔物が出たら嫌だな、怖いなと言う思いもあり、5人は身を寄せ合いながら栗山の後に付いていく。


 林の中を暫く歩くと、コレットとカミュが反応する。


「何かこっちに近付いてくるぞ、兄ちゃん」


「魔物か?」


「多分……そうかも……」


 2人は目を瞑り、耳をすませながら音を拾っている。


「方角は分かるか?」


「えっと……多分あっちかな? コレットはどう?」


「うん、カミュが指差す方角だと思う……」


 その方角を見ても、動物や魔物は見えず、かなり遠くの音を拾ったと言うことが分かる。双眼鏡で覗いてみると、双眼鏡でもギリギリ見えるか見えないかくらいの場所に、オオカミ型の魔物バイリードッグが数匹群れており、栗山のいる方へゆっくりだが近づいて来ていた。


 袋からスナイパーライフルを取りだし、サプレッサーを取り付ける。カミュ達が一昨日見た武器と大きさや長さが異なっている物でおり、5人はその武器に釘付けになる。


「に……兄ちゃん、それは何だ?」


「スナイパーライフルだよ。遠くにいる敵を狙い、倒す武器だ」


「み、見えない敵よ! どうやって見つけるのよ!」


「まぁ、見てろよ……」 


 そう言いながらスコープを覗き込み、狙いを定めトリガーを引く。カミュとコレットの耳がピクッと反応する。

 音が聞こえない3人は何が起きたのか分からない。しかし、耳が良い2人は、驚いた顔して栗山を見る。


「す、スゲー……。兄ちゃん、スゲーよ……」


「足音が1つ消えた……。な、なにをしたというの……」


 栗山は答えることなく、続いて次の獲物を狙撃する。2人の耳が反応し、また一つ音が消えたと呟く。

 アッという間に全て倒し、栗山達は獲物の場所へ向かうと、そこにはバイリードッグが倒れており、チヒ達は銃を構えながら近寄り生死を確認する。

 バイリードッグは既に息絶えており、5人はその威力と攻撃範囲などに驚くのだ。死骸は袋に入れられ、再び栗山等は移動を開始する。そして、カミュとコレットの耳で探知し、スコープを覗いて確認後、獲物は始末される。

 それを何度か繰り返して行くと、チヒは自分達の立場、奴隷の上下関係が出来始めてしまっていることに気が付く。主人である栗山が当てにしているのはカミュとコレットの獣人コンビで、チヒ、エミル、カルミの3人はただそれを見ているだけ。と言うことは、これから全てにおいてカミュとコレットが優遇され、自分達は現状維持となってしまうのではないだろうか……と。

 戦闘は栗山が行っているが、敵を探知しているのは2人である。正直に言ってしまえば、2人で無くとも良いのだが、2人いることで信憑性が高くなり、攻撃目標がいる場所を、ある程度絞ることができているのだ。

 このままでは自分達3人……いや、自分は獣人の2人より下であり、人種の2人と同列。ここで違いを見せなければこの序列を覆すことはできないし、2人よりも先に何か行動を起こさなければ、本当にただのお荷物になってしまう。


「ねぇ、兄ちゃん、その武器で攻撃するのって私でもできるの?」


 チヒが言うよりも先にカミュが質問する。


「できるよ。やってみるか?」


「やるー!!」


 スナイパーライフルを受け取るカミュ、栗山から使い方を習い、音がしたと思われる方へ銃口を向ける。そして、ためらいも無く引き金を引いてみせる。

 それを見ていたコレットも「あ、あの……私もやってみても……」とカミュに聞くのだが、カミュは聞く耳を持たずに次々と狙撃していく。まるで聞こえていないと言わんばかりに次々と狙撃を行い、楽しそうな表情で銃を下ろす。


「か、カミュ~……!!」


 「嫌だ! これは私が兄ちゃんに貰ったんだ。これは私の物なの!!」


「あ、貴女って人は……昔っからそういう奴だったわ!!」


 同じ村の出身であり、同い年である2人。古くから面識があり、コレットはいつもカミュのと一緒に居たのだ。しかし、今回ばかりはバラバラになると思っていたのだが、運命の神様は悪戯が大好きで、2人は離れることが無く、今も一緒に居ることができている。

 コレットが唯一心を許せるのがカミュであり、彼女がいることが心の支えとなっているのだ。


「落ち着けよ、コレット。ほら、これを使えよ」


 呆れた表情をしながら新しいスナイパーライフルをコレットに渡し、コレットは目を輝かせながら受け取る。


「カミュ、カミュ! 使い方を教えて!」


「え~……。面倒くさいなぁ……その穴を覗いて、これを引けば良いんだよ。簡単だろ」


 説明が大雑把で、適当である。全く教える気は無いらしく、仕方なしに栗山がコレットにレクチャーをする。


 教えて貰ったコレットは、音に集中しているのか眼を閉じて立っており、耳がピクッとして銃を構えようとするが、先にカミュが仕留める。


「か、カミュ!! 私が見つけたのよ!!」


「ヘヘ~ン。先にやった方が勝ちです~」


 昔から2人はこうだったのだろう。物凄く楽しそうにしているのだが、持っている武器が殺伐としているため愛らしさという物が感じられず、栗山は苦笑いをするしかなかった。

 カミュが倒したと思われる魔物がいる場所へ向かうと、魔物は瀕死の状態であり、止めの一撃を誰がやるかと言うことでチヒとエミル、カルミの3人が話をしようとした矢先、カミュが拳銃で魔物の頭を撃ち抜く。銃の威力を十分に理解しているので、もう、躊躇うことが無い。話し合いをするくらいなら先に殺った方が安全だというのも分かっているからである。

 だが、その事を理解していない3人が手柄を横取りされたと騒ぎ立てると、珍しくカミュが冷酷な目で3人を見つめる。


「何を言ってるの? 幾ら瀕死でも相手は生きてるんだよ? 直ぐに殺す必要があるじゃん。誰がやるとか関係ない。起き上がる前に殺す……。起き上がって主人に襲いかかったら、私らだって死ぬんだよ? 馬鹿なこと言っている暇がありゃ、自分らも働きなよ。私は大事な人を守るんだ。そんなくだらない話をしている暇がありゃ殺すわ。……なぁ、兄ちゃん。コイツも兄ちゃんの袋に仕舞ってくれよ」


 カミュの変わりように少し戸惑い、答えるを忘れそうになる。

 3人はカミュの言葉にショックを受けているようで固まって立ち竦んでいた。


「あ、い、いや……これはカミュが仕留めたんだ。カミュが持って帰ると良いよ。換金したらそのお金は自由に使って良いよ」


 そう言ってカミュに向かって魔法の袋を投げ渡す。


「こ、これって……」


「ほら、コレットも使うだろ?」


「い、良いのですか……」


「良いも悪いも……お前等は冒険者だろ? 自分で倒した奴は、自分のものだよ」


 そう言われてコレットは袋を受け取る。平等に期すため、3人にも袋を渡すが、カミュに言われた言葉が相当ショックだったらしく、動揺の色が見られた。


 死骸を袋に仕舞ってみると、カミュは声を上げて喜ぶ。


「兄ちゃん! 私は冒険者になったんだな!! 本当に冒険者になったんだよな!」


「冒険者カードを見てみろよ。倒した数が記載されるらしいぜ。そして、倒した魔物の名前も分かるらしい」


 しかし、カミュが分かるのは数字のみ。文字が読めないし書けないのだ。


「うはぁ~!! この1って奴がそうなんだな!」


「そりゃレベルだよ。その下に書いてある数字がお前が倒した数だよ」


 カードには4と記載されてあり、カミュは既に4匹仕留めたと言うことである4人もカードを取り出して自分の数字を確認してみるが、0となっており、完全にカミュに負けている。これに納得できないのがコレットである。いつも一緒に居たカミュが、自分と同じラインに立っていたはずのカミュが、自分よりも先へ進んでしまった感覚に襲われる。しかも、あの3人に向かって言った言葉は自分に向かって言われた気分にもなり、負けていられないという気持ちになった。


「じゃあ、先ほど倒した奴の場所へ行ってみるか」


 コレットよりも先に倒した奴の場所に行くと、やはりバイリードッグが倒れており、カミュは嬉しそうに袋へ入れた。


「なぁ、コレット。私達、これで貧しい暮らしから脱却することができるよな」


「意地悪なカミュなんて知らないわ」


「怒るなよ~コレット」


 「次は私がやるんだから!」と、コレットが言うのだが、カミュは「早い者勝ちだよ」と言って笑っていた。


「さて、河原はどっちだ?」


 方位磁石を召喚して、方角を確認する。町を出るときにも確認しているので、町に戻れないと言うことはない。

 栗山達は再び河原に向かって移動を開始するのだが、その度にコレットとカミュの2人が獲物を取り合い、回収していくを繰り返すのであった。

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