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勘違いから生まれる恐怖

 翌朝になり、チヒが目を覚ますと隣にベッドで寝ていた栗山の姿なかった。


「あれ? あいつは……」


 周りを見渡すのだが、栗山の姿はない。もしかして、今まで起きた出来事は全てが夢だったのだろうかと、少しだけ淡い期待をする。が、自分が着ている服を見て現実に引き戻される。


「夢のはずがないか……」


 奴隷契約が行われて、自分に主人ができた。実際のところ、買われた瞬間ホッとしたのは確かだ。

 あのまま教育という名の暴力を受け、食事らしい食事もさせてもらえず、場合によっては慰み者にされるかもしれないという恐怖の中で生きていくのは辛いだけである。

 暴力というものから開放され、暖かくフカフカの布団に寝ることができたと言うのは嬉しく、涙が出そうになる程だった。

 自分を購入した男は変わっている。

 自分達が聞いていた奴隷とは、人として扱われることがないと聞かされ、習ってきた事だ。だが、栗山千秋と名乗った男は真逆で、自分達を人として扱ってくれる。

 ベッドから身を起こしたところで扉が開き、チヒはそちらに顔を向ける。主人である栗山千秋が戻ってきたのかと……。


「いつまで寝てるのよ。既に皆起きて、出掛ける準備が完了してるわよ」


 扉を開けたのは同じ奴隷のカルミ。


「昨夜は自分だけ美味しい思いをしようとしていたんでしょ……」


 睨み付けるような目で見つめられる。自分はそう言ったつもりはないが、ペットボトルの件があるので言葉に戸惑いが生まれる。


「な、何が言いたいのよ」


「別に? 早く準備をしなさいよ。皆が待っているって言ってるじゃない」


 急かすようにカルミが言うが、準備と言うほどの荷物が有る訳ではない。栗山から貰った武器を腰に身につけて、チヒはカルミと共に部屋を後にした。

 外に出るとチヒを除く4人が立っており、カルミが栗山に声を掛ける。


「おはよう。悪いな、気持ちよさそうに寝ていたから起こさなかったんだ」


「そうですか。それはありがとうございます」


 素っ気ない返事をしてチヒはそっぽを向く。気を許すと、4人から仲間はずれにされるのではないかと思ったからだ。


「じゃあ、先ずはギルドに行き、昨日の倒した奴を換金してくるか」


 栗山がそう言うと、カミュが元気よく返事をして移動を始める。周りの人達は栗山等をジロジロと見ており、5人は自分達が着ている服が目立っていることに気が付く。


「あ、あの、ご主人様……」


 コレットが栗山に話し掛ける。


「ん? どうした?」


「私達の服なんですけど……」


「服がどうした? あ、下着がないよな……そう言えば……」


「そ、そうじゃなくて……いえ、そうだけど、そうじゃなくて、結構目立っているような気が……」


 何を言っているのだと思い、栗山は立ち止まる。5人がスポーツウェアを着ているのに違和感というのは無い。しかし、ここは異世界。周りの人が着ている服と比べると、確かに目立つ。だが、周りに合わせてランクを落としても意味はない。

 5人が着ているスポーツウェアとは、いわゆるジャージという物である。栗山が居た世界で彼女たちを見たのなら、何かしらスポーツをやっているのだろうと言うことで、全く見向きされるようなことは無いが、この世界では布の服とズボン。それに何でできたか分からない靴を履いているだけである。彼女等が目立ってしまうのは仕方がない話だ。


「別に構わないだろ? お前達が可愛いから皆が注目するだけだよ。そのうち見慣れちまうよ」


「か、可愛い……そ、そうじゃなくて! は、恥ずかしいと言ってるんです!」


「じゃあ、何か? 皆のような服を着たいというのか?」


 そう言われてしまうと、コレットは答えに苦しむ。自分達が着ている服は上物。着心地が良くて、汗などを直ぐに吸収してくれる。今までの物に比べて伸び縮みして、身体にフィットしてくれるものだ。それを手放してしまうというのは勿体ない気がしてしまう。

 コレットが何も答えることができなくなり、栗山は小さく溜め息を吐く。


「まぁ、服のことは追い追い考えよう。先ずは換金して、今晩泊まるところを確保、それから外で狩りを行って、生活費を稼ぐ。今日はコレットとカミュに頑張って貰わなければならないからな」


 頑張って貰わなければならない。全員が服のことで気を取られており、話を聞いていなかった。名前を出された2人は何に対して頑張らなければならないのか分からず、顔を見合わせる。


 それからギルドに到着し、栗山は換金するため店員に話しかけ、倒した魔物を袋から出していた。


「ねぇ、さっきアイツが言っていた、私達に頑張って貰うって……何だったの?」


 コレットがエミル達に話し掛ける。


「あんた達2人って言っていたわね。……2人とも、獣人族でしょ……身体を売って来いって話じゃないの?」


 エミルの言葉に2人は固まる。考えてみれば、コレットとカミュの2人は獣人族で、人種に比べて体力がある。あり得ない話ではないのだ。


「さっきだって、あんたの事可愛いと言ってたじゃない? それに、珍しい上物の服を着ているのだから……」


 栗山に限ってそのような事はしないが、彼女らの世界では当たり前に行われている話で、コレットは顔を引き攣らせ、あり得ないと呟く事しか出来ず、絶望の淵に立たされている気分に襲われる。


「か、カミュ……どうしよう……」


「うぅ……。コレット……」


 2人は涙目になりながらお互いを見つめており、3人は同情の眼差しで見ていた。


「いやぁ、思った以上に高く引き取ってくれたよ。この辺では現れないやつらしいぞ、あのキマイラ。それに、スキルも……ん? 何をしてんだよ? お前達……」


 栗山が冒険者カードを観ながら戻り、5人に顔を向ける。2人が泣きべそを掻きながら抱き合っており、3人が同情するような目で2人を見ていた。

 先ほどまで普通だったのに、突如変貌するのはいい加減止めてもらいたい。状況を把握するのに時間が掛かるのと、無駄に疲れる。

 この世界に来て、何度溜め息を吐いたのだろう。そう思いながら5人に話を聞こうとするが、答えようとはせず、カミュとコレットは怯えた目で栗山を見るのであった。


「とにかく、これから町の外に出て動物や魔物を狩りに行くぞ。先ほど聞いた話だと、猪や鹿、狼等が畑を荒らすらしく、農家の人達が困っているらしい。カミュとコレットは耳が良いから、動物の音を拾ってくれないか。魔物の数も多いと聞いたし……」


 栗山が説明をするが、5人はまるで話を聞いている様子はなく、呆れた栗山は放っておくかのように歩きだした。

 それに気が付いた5人、追いかけるように後をついて行く。

 最初に宿屋へ寄り、お金を払って寝床を確保する。今度は2人一部屋では無く、3人一部屋と、2人部屋、それと、1人部屋の3部屋を借りる。

 泊まる日数は7日とし、延長する場合は新たにお金を払うと言うことになった。だが、宿屋に食堂等は無く、食事をするなら何処か別の場所に行って食事をする必要があるらしい。


「ルルブルクとあまり変わらないくらいの規模なのに、宿屋が高い理由はそれかよ……」


 店員に聞こえないよう、栗山は呟きお金を支払う。宿屋から出て、5人の側に行くと、5人は距離を取るように離れる。


「お、お前らなぁ……いい加減にしてくれないか……」


 頭痛がするかのように頭を押さえながら栗山は言うが、それでも5人は警戒を緩めないで距離を置く。


「もう良い、お前等は部屋で休んでろよ。いるだけで邪魔だ。俺1人で行ってくる!」


 そう言って栗山は5人を置いてどこかへ行ってしまい、5人はどうして良いのか分からず立ち尽くすだけだった。


 町から出て、自分のギルドカードを見る。

 カードには今まで無かった文字が書かれており、栗山はその文字を触ると、まるでタッチパネル画面のように確認ボタンが現れ、栗山は「はい」を押す。



 栗山がギルドでカードを提示した際、店員がカードの確認を行う。すると、店員が「あれ? スキルを習得しないのですか?」と言ってきた。


「へ? スキル?」


「はい、このカードを発行したときに、スキルの話をお聞きにならなかったのですか?」


「そう言われればされたような気がする」


「レベルも8となっておりますし、ポイントも貯まっております。もし、弓をお使いになっているのなら習得したら如何でしょうか。このスキルが現れると言うことは、弓を使われ、誰かに教わられたのかと思います」


 教わったことはない。だが、思い当たる節がある。


「そういう事か……。あの時のドットサイト……。ありがとう、検討してみるよ」


 まさかスキルが付くとは思っていなかったため、嬉しい気分だった。だが、5人の側に戻ると、何やら浮かない顔している3人に、今にも泣きそうな顔して抱き合っている2人が居たと言うことだった。


「全く……浮き沈みが激しすぎる。意味が分からん」


 ブツブツ文句を言いながら林の中を歩いて行くと、離れた場所に鹿がヨダレを垂らしながら栗山を見ており、栗山から距離があるためいつでも逃げられるようで、警戒しているようには見えなかった。

 もし、カミュやコレットがこの場にいたのなら、相手に気が付かれる前に見つけることができたかも知れないが、無い物ねだりをする訳にはいかない。

 栗山は木の陰に身体を隠すようにして鹿を見る。鹿は栗山の方を見ているが、逃げる気配は無く、栗山は木の陰から銃を構え、狙いを定める。

 乾いた音がして鹿は音に反応してビクッと身体を震わせた。が、直ぐ横になって倒れる。音がしたことに反応ができたが、弾速には対応をする事ができなかったようである。


 「よし!!」と、ガッツポーズをして振り返る。だが、いつもであれば5人の姿がそこにあるが、今は無い。


「何してるんだろ……俺……」


 何処か虚しい気分となりながら鹿の側により、ギルドで貰ったナイフで止めを刺し、袋に仕舞う。それから数時間、林の中で魔物や動物を狩るのだが、次第にオオカミ型の魔物が増えてくる。多分、銃の音を聞き、人がこの辺りにいることを知って集まってきているのではないだろうか。

 それに、複数の魔物が出た際、銃声が大きいと相手に気が付かれてしまい、攻撃するのに隙ができてしまう。どうにかならないかと図鑑を召喚し、対策を練ることした。

 行き着いた先はサプレッサー。威力は落ちてしまうが、音がかなり軽減され響くようなことは無くなる。

 サプレッサーを召喚してP320の銃口に装着させ、マガジンを交換する。しかし、先ほどから魔物の数が増えていることが気になり、いざという時のためにサブマシンガンを召喚して、肩に掛けて歩き出す。

 やはりオオカミ型の魔物が増えており、サプレッサーを付けた銃で仕留めていく。だが、音を消しているのに魔物が増えている事に疑問を抱く。

 あの子は一定時間、魔物が復活することはないと言っていたことを思い出すが、どう考えても倒した矢先から復活しているような気がしてならない。

 武器の性能が良すぎるのと、スキルで狙撃を手に入れたことで命中率が大幅に上がっている。そのおかげで鹿を6匹、猪を3匹、オオカミ型の魔物を40匹倒すことができたので町へ戻ることにし、街道へ向かう。


 暫く歩いていると、街道に辿り着くのだが、何やら様子がおかしいことに気が付く。


「なんだか騒がしいな……」


 カミュ達と始めてあったのも街道。まさかと思いながら騒がしい方へ向かって見ると、数台の馬車がオオカミ型の魔物に囲まれており、その数、20匹ほど。だが、林の方から魔物がワラワラと集まってきており、数がどんどん増えてきていた。


「こりゃ……ヤバイよな……」


 見ていて危険レベルが高いことが分かる。護衛に付いているのは冒険者ではなく兵士で、何人か負傷しているようだった。

 危ないと分かって放って置く訳にはいかない。栗山は両手に銃を持って射撃をしながら馬車の方へ向かう。


「お、お前は!!」


 護衛している兵士が栗山に気が付き、新手だと思い警戒する。


「俺は敵じゃ無い! 先ずは身の安全を考えてくだい! 俺が突破口を開くからその間にこの場から離脱して!! 早く!」


 両手で銃を撃ちながら魔物の群れに向かって突進していく。次々と魔物は銃の餌食になっていくが、減っているようには見えなかった。

 栗山が敵を引きつけているうちに馬車は負傷者を回収して走り出し、この場から離脱していく。それを確認した栗山は手榴弾を召喚して魔物の群れに投げ入れ、サブマシンガンをぶっ放しながら逃げ道を確保する。

 だが、次々と現れる魔物に対し、徐々に追い詰められていく。


「こうなったら!!」


 新しい手榴弾を何個か召喚して投げ入れると、栗山は目と耳を塞いで走り出す。そして、直ぐに手榴弾は破裂するのだが、眩い光と音が鳴り響き、魔物は脅えるように蹲る。栗山が投げ入れたのは音響閃光手榴弾。いわゆるフラッシュ・バンである。

 眩い光と音により相手の行動を無力化にする物であり、特に耳が良い動物や魔物には絶大な効力を示す。この場にカミュとコレットがいたら大変なことになっているだろうと思いつつ、原付きを召喚してその場から離脱したのだった。

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