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信頼しても良い奴?

 町の近くに到着して、5人を起こす。

 不貞腐れた声を出す5人だが、チヒは皆に見つからないよう、ペットボトルを隠しながら持つ。

 しかし、慣れない事をすると挙動がおかしくなるのは世の常。カミュがチヒの側により「何隠してるの?」と質問する。すると、全員がチヒの方に目を向ける。


「どうしたの?」


 耳が良いコレットが反応し、カミュの側に寄りチヒは頬を引き攣らせた。後ろに隠したジュースの存在を知られる訳にはいかな……。バレたら4人に何と言われるか分からないから。


 横目でその様子を見たていた栗山。別に放って置いても「ズルイ! 私にも!!」と言われるだけだろうが、頑なにチヒが隠しているのを見て、救いの手を差し伸べる。


「遊んでる暇はないぞ。お前達は寝ていたから良いが、俺は滅茶苦茶疲れているんだ。さっさと町へ行くぞ」


 栗山の言葉に5人はピタッと動きを止める。


「でも、チヒが何か隠してる」


「さっき俺が武器を渡したからな。自分の武器は人に弄られたくないんだろ。カミュ、お前は自分の大事なものを人に弄られるのが好きなのか?」


 その言葉にカミュは首を振り、チヒの側から離れて栗山の方へ駆けていき、「私は剣が欲しいぞ!」と言う。あんなに脅えていた奴が剣を持ってどうするのだと思いながらカミュの頭に手を置き、撫でるようにして町へ歩き始めた。


「チヒ、そういう事だったら言ってよ。何か面白いものをアイツから貰ったのかと、勘違いしちゃったじゃない」


 コレットが笑いながら言い、チヒは苦笑いをしながら前を歩いている5人の後ろを歩くのだった。


 町の入り口に立っている警備兵が6人を止める。


「お前達、どこからやって来た」


 呼び止めた警備兵が、険しい顔してどこから来たのかと訪ねて来る。答えようとした栗山だが、ルルブルクの町から次の町移動した際、町の名前を聞き忘れていた。


「何処? そう言えば、あの町の名前を聞いてなかったなぁ」


「この様な夜更けに女連れで何をしていたんだ!」


 剣を手に掛け、警戒する警備兵。ここは異世界だから、盗賊などもいるのだろう。それが夜にやって来て、狼藉を働く可能性だってある。だが、普通に考えて女を連れている奴が町で悪さをするのだろうか……。


「待ってくれ、俺達は冒険者だよ。そして彼女等は俺の従者。ほら、これが冒険者カードだ」


 そう言ってカードを見せ、納得をしてもらおうとするが、疑いは晴れない。何故なら、盗賊だって元々冒険者だったりしているので冒険者カードを持っていて当たり前なのだ。


「ほ、ほら、お前達もカードを見せろよ」


 疑いが晴れないためカミュやカルミ達に見せるように言う。


「私達はセレトーニの町からやって来ました。道中、雷のような魔法を使う魔物に襲われ、命からがらここに辿り着いたのです」


 エミルが警備兵に説明すると、「分かっているなら早く答えれば良いものを……」と苛立つような声で言われ、ようやく中に入ることができたのだった。


「なんだよ、いったい……」


「仕方がないのでは? 普通に考えて、この様な遅い時間に辿り着く冒険者はいないという事よ」


 常識を考えろよと言いたげな目でエミルが見る。少しだけイラッとするが、ここは我慢するしかない。ここは異世界で、自分の常識が通用しないのだから。

 時間を確認すると、既に22時を過ぎている。車の中で寝ていたが、食事はしていない。だが、5人は黙って後を付いてくる。先ずは宿に泊まれることが先決だと考えているのだろう。

 この町が生活しやすければ、家を借りて住むのも良いだろう。幾ら冒険者だからと言っても、旅ガラスでなくても構わないはずだ。

 ギルドに掲示されている依頼をこなしつつ、生活を安定させていけば良いだけの話。5人もいるのだから1人くらい何かしら特技があるかも知れない。カミュやコレットは耳が良いと言うことだから、魔物や動物を探すのに最適で、狩りに行くときは連れて行けば良い。他の3人は何かやれることを探し、自信を付けさせてやるべきだろう。

 その様な事を歩きながら考えていると、宿屋の看板を発見し栗山は店の中に入って行く。受け付けに人がいないため、誰かいないのかと声を掛けると、奥から店員らしき若者がやって来た。


「この様な遅い時間に如何なされました?」


「宿に泊まりのですが、部屋は空いてますか? 6人なんですが……」


 店員は帳簿のようなものを見て、部屋の状況を確認していると、2人部屋と3部屋が空いているらしく、栗山は了承して代金を払う。1人頭銅貨20枚と言うことで、120枚支払う。店員は数えるのが面倒だという表情をして「大銅貨は持ってないのですか?」と質問をしてきた。


「細かい仕事しかしてないんですよ、この町で大きい仕事ができたら良いなって思っているんですけどね」


 本当は持っているのだが、細かい銅貨がかなり堪っているため、減らしたかったのである。財布の中に10円玉が多かった場合、早く減らして軽くしたい。それと同じである。

 大銅貨とは、銅貨100枚で1枚となる硬貨である。初めは4種類しかないと思っていたのだが、よくよく調べると、大銅貨、大銀貨、大金貨(小判ではない)があるらしい。やはり、多くのコインを持ち合わせるのは大変と言うことなのだろう。


 店員は、それなら仕方がないと言って、案内するから少し待っていてくれと言い銅貨を仕舞うため、一度裏に戻っていく。その間に5人を呼んで、状況を説明すると、誰が栗山と一緒の部屋で休むのかと言うことで話し合いが行われる。自分達は女であり、栗山は男。彼女等はこれが一番重要らしく、自分達の立場というものを完全に忘れているようだった。


「私は嫌! 皆が一緒だったら我慢するけど、2人で過ごすのは嫌! 何されるか分からない」


 傷付く一言を言いのけるエルミ。次、ションベンを漏らしても替えの服を用意してやらないと、栗山は心に誓う。


「できれば……私も遠慮したい」


 カルミが嫌そうな表情で呟く。その様な表情をする奴と一緒の部屋で寝るのはこちらも遠慮したい……が、話が進まなそうだと思い、「先ずは部屋を確認してから決めろよ」と言って、中に入るよう促し、5人はそれぞれ何かを考えながら店の中に入って行く。

 部屋に案内され、いの一番にエルミとカルミが部屋に逃げるよう入っていき扉を閉める。もう部屋から出ない! そう言いたげそうにして……。

 残されたのはカミュとコレット、チヒの3人である。


「なぁ、兄ちゃん。私ら3人の中で、一緒の部屋で寝るとしたら誰が良いんだ?」


 自分達で決めるのは難しいと思ったのか、カミュが質問してきた。


「難しいな。俺としては誰でも構わないが……」


「なら、私が一緒に寝てやろうか?」


 少し嬉しそうにカミュが言う。どうやら懐かれたようだ。しかし、カミュの言葉にコレットは表情を曇らせる。

 考えてみれば、2人は同族で、同じ村出身である。気が知れた人はカミュしか知らないコレット。できればカミュと一緒の部屋が良いのだろ。


「あ、やっぱり今日はチヒと一緒に休むことにするよ。カミュとコレットは一緒に休んでくれるか?」


 そう言った瞬間、コレットはホッとした顔をし、カミュは少しだけ残念そうにした。対照的な2人をだが、更に厄介な奴が他にもいる。それはチヒである。

 チヒは顔を真っ赤にしてあたふたしていた。それもそのはず、栗山は自分のご主人様であり、その主人からご指名を受けた。と言うことは、奉仕しろと言っているような物である。栗山がそう言った意味で選んだ訳ではないのだが、ここは栗山が住んでいた世界ではなく、異世界である。ましてや奴隷制度がある世界なのだから、チヒがそう考えるのは必然であった。


 コレットとカミュは部屋の中に入って行くと、廊下に残されたのは栗山とチヒだけである。欠伸をしてあてがわれた部屋に栗山は入っていくと、ぎこちない動きでチヒも入る。


「腹が減ったな……。チヒ、お前は大丈夫か?」


 栗山の質問に対して首を何度も縦に振り、何を慌てているのか栗山には理解できない。お腹が空いていないのならと、カセットコンロを取り出してヤカンに水を入れる。

 栗山が何をやっているのか分からないチヒは、後ろから覗き見る。


 その頃、隣の部屋で休んでいるカミュとコレット。


「カミュ、貴女、あの人を信頼し過ぎよ。今は優しいことを言っているけど、どのように変貌するか分かった物じゃないわ」


「エー。コレットは気にしすぎだよ~。兄ちゃんは私らを助けてくれたじゃん」


「それがあの人の思惑だったらどうするのって言ってるの!」


「そう言うけどさぁ……私達、奴隷になったんだよ? 諦めるしかないじゃん? それに、奴隷だからと言っても、アイツみたいに暴力を振るってこないしさ、冒険者にまでしてくれたんだぜ?」


「それは私達に危ない思いをして稼いでこいと言う意味でしょ! もう!」


「そうかなぁ……。この服だってくれたし……私が聞いていた奴隷とは全く違うんだよなぁ……」


 確かにとコレットは呟く。

 カミュが一緒の部屋で寝ても構わないと提案したとき、カミュのみを案じてしまった自分がいる。だが、アイツは一度自分を見てからチヒを選んだ。それはどういう意味なのか、自分の事を気に掛けたから? まさか……奴隷を買う奴がそんな事をするのはあり得ない。


 コレットの中で奴隷を買う奴は、人として終わっているという風に思っている部分があるが、買われたとき、栗山だったからホッとした自分がいるのも確かだと……そう思う部分もある。

 そして、初めての戦闘で報告が遅いとか、何か言われてしまうのかと思ったが、怒られることはなく、逆に助かったと言われ、「ありがとう」とお礼まで言われてしまう。

 カミュが言う通り、聞いていた奴隷生活とは全く異なっているのは確かなのである。


「コレット、私はお腹が空いた……」


「我慢しなさいよ……馬鹿。私だってお腹空いているんだから……」


「兄ちゃん達の部屋って隣だったよな?」


「そうね」


「この音ってなんだ?」


 カミュが首を傾げながら聞いてくる。チヒと一緒にいると言うことは、嫌らしいことをされているのだろうと思い、隣の音を聞かないようにしていたのだが、カミュはその様な事を考えていなかったようで、音を拾っていた。そして、カミュがおかしな事を言うので音を拾ってみると、何かを啜っているような音がする。

 あの行為にこの様な音がするがするのだろうか。まだ経験がない2人は首を傾げてしまう。だが、カミュは音の正体が気になるのか、立ち上がって壁に耳を付ける。


「こ、コレット……」


「ど、どうしたの? 何かあったの?」


「兄ちゃん達…………何か食べてるっぽいぞ……」


「はぁ?」


 間抜けな声を出してしまったコレットだが、カミュは気にする様子はなく、慌てて部屋を出て行く。一瞬、何が起きたのか理解することができなかったコレット。だが、直ぐに我に返り、カミュを止めに部屋を出て行った。


「兄ちゃん!! 卑怯だぞ!!」


 バンッ!! と、扉を開きカミュが叫ぶように言う。カミュが目にしたのは、チヒがフォークを持って何か白い容器から長細いものを口に運んでいるところで、栗山はジュースを口にしていた。


「チヒ! 1人だけ狡いぞ!! 兄ちゃん! 私だってお腹が空いてるんだ!!」


 ズカズカ入ってきて、腰に手を当て怒っているような声を出す。


 栗山とチヒが食べていたのはカップ麺。箸が使えないチヒはフォークで麺を啜っており、そのおいしさに顔を綻ばせていた。


 時間は少し遡る。

 部屋に入り、チヒにお腹が空いていないか訪ねた栗山だが、チヒは要らないと言うので独りで食事の準備を開始する。

 チヒはと言うと、自分が名指しで呼ばれたという事はそういう事だと理解している。自分が生贄になったのだと。恥ずかしい気持ちを抑え、皆のために自分が栗山を籠絡させなければと考えていた。

 だが、背中を向けてガサゴソしている栗山を見て、疑問を覚える。そして、ゆっくりと近寄り後ろから覗き見ると、白い容器の蓋を開けて、2本の棒を持って目の前に置かれている、火が出る四角い板にヤカンが置かれており、水が沸かされている。


「な、何を……やっているの……」


「何って……飯の準備だよ。お前は食べないんだろ?」


 近寄っていたことに気が付かなかったため、身体をビクッとさせてから答える。


「しょ、食事? こ、こんな場所で食べられるの?」


「場所は選ばなくとも食べることは可能だよ。本当に食べなくて良いのか?」


 栗山がチヒに改めて確認する。目の前には不思議な食べ物があり、本当に食べなくても良いのかと聞かれ、食べなくても大丈夫とは答えることができず、チヒは今に至るのである。


「お前等も食べるか?」


「良いのか兄ちゃん!!」


「腹、減ってるんだろ?」


 新しいカップ麺をだし、お湯を注ぎ蓋を閉める。箸は使えないだろうとフォークを召喚してカミュに渡す。


「中を解してから食べるんだ」


 受け取ったカミュはカップ麺の蓋を剥がし、言われたように麺を解し始める。カップ麺は美味しそうな匂いを漂わせてコレットは唾を飲み込む。


「熱いから火傷するなよ」


 栗山の言葉を聞いているのか分からないが、カミュは麺に息を吹きかけてから口にいれた。

 ズルズルと音を立て、コレットは先ほどの音を思い出す。先ほど聞こえていた音はこれだった。


「コレットも食べるだろ?」


 コレットは栗山からカップ麺を受け取り、ちょこんと座りながらカミュが食べているようにカップ麺を食べ始める。

 一口口に入れ、麺を啜る。口の中に広がるスープの味に感動し、再び麺を口に運ぶ。3人は一心不乱にカップ麺を食べ、満足そうな顔をする。


「カミュ、カルミとエミルを呼んできてくれ。アイツらも腹が減っているだろう?」


 栗山の言葉にカミュは元気に返事をして、2人を呼びに行く。コレットはカミュの言葉を思い出し、自分が言った言葉が間違っているのか疑問に思うのだった。

2017.09.27 貨幣について変更分追記

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