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戦闘は怖い

 アラームが鳴り栗山は目を覚ます。最初に目に入ったのは獣耳の少女だった。顔を近付けて頬を膨らませている。


「兄ちゃん、あれがウルサいぞ!」


「カミュか……ふぁ~ぁ……」


 アラームを止めて、目覚まし時計を袋の中にしまい、出していた投光器を袋に仕舞うフリして召喚を解除する。


「兄ちゃん、腹が減ったよ~」


「ん、準備をするから少し待ってろよ」


「分かった。じゃあ、待ってるから早く頼むな」


「はいよ」


 再び欠伸をしてヤカンに水を入れる。カセットコンロを新たに召喚して、鍋に水を入れてレトルトのご飯を温める。ヤカンのお湯が沸騰したら、レトルトの味噌汁をお椀に入れる。朝食はご飯と味噌汁である。


「カミュ、これを皆に配ってくれる」


「ほーい」


 本当に自分の事を主人だと思っているのだろうか。その様には全く見えない。そして、どちらが主人なのかも分からない。

 そんな事を思いながら朝食を取っていると、チラチラとカルミが見てくる。コイツも一体何がしたいのだろう。


「飯を食べ終わったら先へ進もう。トイレに行きたかったら言ってくれよ」


「兄ちゃん、兄ちゃん、トイレってなんだ?」


「はぁ? トイレを知らないのか?」


 トイレとは何ぞや? 5人は自分達が知らないだけなのかとお互いに確認をしてみるのだが、誰も知らないと言う。まさか、トイレが無いのかと、疑問に思い質問をする。


「尿――オシッコ等する場所を何て言うんだ?」


「便所」

「便所」

「便所」

「便所」

「最低」


 1人を除いて全員が便所と答えた。と言うか、カミュを除いて全員から軽蔑の眼差しで見られるというのは納得がいかない。


「俺がいた場所では、そこをトイレと言ったんだよ。行く前に便所を済ませとけよ」


「ち、ちょっと待って下さい!」


 少し慌てた様子でエミルが言う。


「ん?」


「か、紙とか……ありますか……」


 少し間が開いて、栗山はトイレットペーパーを渡す。それを受け取るエミルは驚いた顔をした。

 もう、何をしても驚かれるので慣れてきた。


「その紙が上質だから驚いてるのか?」


 コクコクと頷くエミル。他の4人も同じような目をしており、栗山は溜め息を吐いた。


「いちいち驚くなよ。世界は広い。お前達が思っている以上に世界は広いんだよ。そして、俺はその知識を持っており、そこの道具等も持っている」


「どこから仕入れたの?」とコレットが質問する。


「答える必要があるか?」


 ギロリとコレットを睨むように見ると、「いえ、ごめんなさい……」と、小さい声で謝り俯いた。


「そんなことより、早く済ませてしまえよ。俺は周りを確認してくるから」


 手洗い用の水も用意してから席を立ち、5人の側から離れる。

 自分がいたらやりにくいし、恥ずかしいだろうと思い離れたのだが、言葉に出すのは気が引けて、憎まれ口を叩くようにして離れるしか方法が浮かばない。


「あんな言い方をしなくても……」


 先ほどコレットの言葉に対して、少し冷たく当たりすぎた。あとでコレットに謝ろうと思いながら安全の確認をする。少し離れた場所にウサギのような生き物が見えるが、別に今やる必要はないし、無駄に心配をかける事はないだろう。

 そう思いながら深い溜め息を吐く。自分は一体何をやっているのか。面倒事を引き受け、馬鹿じゃないかと空を見ながら時間が過ぎるのを待つ。


 それから暫くして、5人がいる場所へ戻ると、カミュとコレットが難しい顔をしており、どうしたのかと質問をすると、変な音がすると2人が言う。


「変な音? 何を言ってんだ? お前等……」


「獣人族は耳が良いんですよ。そんな事も知らないんですか?」


 チヒがコレットの仕返しと言わんばかりに皮肉交じりに言う。


「悪かったな、常識が足りなくって。それよりも、変な音とはどんな音なんだ?」


「ドドド……って感じ」


 カミュの説明が雑すぎて言っている意味が理解できない。だが、コレットも説明が難しいと言って申し訳なさそうな顔をする。


「まぁ、説明し難い音ってあるよな。じゃあ、少し警戒しながら進んで行こう」


 栗山の言葉に5人は返事をする。まだ2日目だが、話してくれるようになったのはかなりの進歩だ。少しだけ前進した気分になり、ホッとする。


 それから暫く歩いていると、林があり、道はそこを通っている。栗山等は道があるのだから問題ないと思いながら進んで行く。これまで魔物や動物は一度も現れていない。偵察に出たときに見たウサギのような生き物だけである。ハッキリ言って、長閑である。


 5人は話をしながら歩いており、全く緊張感が無いように思える。だが、無駄に緊張しても疲れるだけだから、これはこれで良いのかも知れないが、もう少しだけ周りを警戒してくれても良いのでは無いだろうか。


 暫くしてコレットが栗山を呼び止める。


「どうした?」


「いえ……あの……」


「何か聞こえたのか?」


 「は、はい。動物? のような、生き物と言った方が良いですかね……」


 コレットは助けが欲しいのか、カミュを見る。


「グルル……って言ってるぞ」


 カミュが楽しそうに言うと、緊張感がなくなってしまうのはどうしてだろう。と言うか、本当にそれは動物なのだろうか。栗山はガンホルダーから拳銃を取り、両手で銃を握り敵に備える。映画等では、木の陰に隠れたオオカミなどが襲ってくることがある。


「皆も敵に備えるんだ!」


「て、敵?」


 チヒが脅えた声を出し、慌てて銃を構える。


 暫くその場で立ち止まって様子を窺っているが、何も襲ってくる様子はない。チヒは「焦らせないでよ」と言って、銃をしまおうとする。だが、コレットが「来た!」と言って声を上げ、周りを見渡す。しかし、何も現れることなく空振りに終わったか、聞き間違えと思った瞬間、カミュが叫ぶ。


「上だ!」


 叫ぶと同時にカミュが上を向くと、木の上にオオカミのような生き物がヨダレを垂らしながらこちらを見ており、チヒは腰を抜かしてしまう。


「ちょ、チ、チヒ! 何をしてるのよ!」


 エミルが起こそうとしてオオカミのような生き物から目を離す。すると、その生き物は木から飛び降り、2人に目掛けて落下してきた。


 カルミが2人を庇うように飛び込もうとしたが、飛び降りてから動いても間に合う訳はない。だが……2回ほど乾いた音が鳴り響くと、オオカミのような生き物は頭から地面に落ちた。

 栗山が側によりその生き物に追撃をするように数発の弾丸を食らわせ、足で生き物を蹴っ飛ばして生死を確認する。5人は何が起きたのか理解できず、呆気にとられていた。


「大丈夫か、何処か怪我をしたとかないか」


 死んだことを確認してから5人に話し掛けると、5人はコクコクと頷き、腰から砕けるようにしゃがみ込んだ。安心したら腰が抜けたのだろう。


「カミュ、コレット……他に変な音はしないか?」


「う、うん……しない……」


 コレットが答え、カミュは頷く。


「5人とも怪我はないな? 本当に大丈夫なんだな?」


「だ、大丈夫……」


 エミルが4人を確認して答え、栗山は死骸を袋に仕舞った。


「無事で良かった。チヒ、油断したら駄目だろ? コレットとカミュが変な音を聞いたというのなら、警戒をするべきだ。エミル、チヒを気にするのは分かるが、敵から目を離すな。ああいう奴は、目を離したときに襲ってくるんだ」


「ごめん……」

「悪かったわ……」


「まぁ、何はともあれ、皆が無事で安心したよ。コレット、カミュ、ありがとう」


 2人の頭を撫でると、カミュは嬉しそうにしてコレットは恥ずかしそうにしていた。それを見ていたカルミは少しだけ納得できないと言った顔をするが、誰も気が付くことはなかった。


 初めての戦闘を経験した5人。歩きながらそれぞれの感想を述べていくが、5人とも強がりのような言葉を言い、栗山は笑いを堪えながら先へと進む。それから暫くして、再び2人が何かの音に気がつく。


「兄ちゃん、ちょっと嫌な感じの音が聞こえる……」

「羽ばたく音? みたいな……」


 その言葉を聞いて、3人は銃を両手に構え周りを見渡す。


「何かが羽ばたく音……か……」


 少し面倒臭そうだと思いながら銃を構えながら少しずつ前進をする。


「距離とか分からないのか?」


「そこまで分かるはずない!」


 音が聞こえている分、人よりも恐怖が先に襲ってくるのだろう。そして理解してもらえないから苛立つ……。コレットの気持ちは理解する事はできないが、怒るようなことをしてはいけない。教えてくれているだけ警戒が先にでき、先制攻撃を受けずに済むのだから。


「悪いコレット……。教えてくれてありがとう」


 お礼と謝罪を言われ、カミュに肩を叩かれると、コレットは「私も言い方が……」と言う。


「気にするな。2人の事を理解してやれない俺が悪い……」


「そ、そんな事は……」


 コレットが言いかけた時に空からライオンの様な生き物が2匹やってくる。


「まさかキマイラ!」


 ライオンのような顔して翼が有り、尻尾は大蛇。まさしくキマイラである。それが2匹も現れた。


 カミュが嫌な感じの音と言ったのは、コイツの音だということである。攻撃される前に栗山は銃を連射して先に攻撃する。


 見たことのない武器で攻撃されたキマイラ。顔に銃弾を浴びて痛みで藻掻き始める。

 しかし、もう1匹のキマイラが雄叫びのような叫び声を上げると、カミュが慌てて栗山に飛びつき押し倒す。

 すると、栗山が立っていた場所が焦げており、何か特殊な攻撃をしてきたことが分かった。

 すぐさま残りのキマイラに攻撃をしようとトリガーを引くが、弾切れだったらしく、カチッ、カチッと空撃ちをしてしまう。

 カミュを除く4人は怯えているようで、自分達が持っている武器の存在を忘れており、攻撃をすることは無く震えている。

 残りのキマイラが翼を羽ばたかせ、4人に向かってタックルを仕掛ける。4人は恐怖のあまりしゃがみ込んでしまい、キマイラの突進を避けようとはしなかった。


「間に合え!!」


 翼を羽ばたかせ突進していくキマライ。栗山はP320を手放し、違う武器を召喚する。

 キマイラはカミュと栗山の横を通り過ぎていき、背中を見せたキマイラに向かってトリガーを引くと、弾が連発してキマイラに襲いかかる。


 キマイラの突進するスピードよりも銃弾の方が早く、キマイラは4人を通り過ぎるように地面へ滑り込む。

 栗山を助けたカミュだが、キマイラの攻撃が怖かったのか、栗山に覆いかぶさり震えていた。

 大きく息を吐き、4人が無事なことに安心し、覆い被さっているカミュを抱き上げ、周りの安全を確認してからカミュを座らせる。そして、倒れている2匹のキマイラに近寄り、生死を確認すると、まだ生きているため、キマイラにマシンガンの鉛弾を浴びせ止めを刺す。

 5人は恐怖に震え、頭を抱えながら蹲って泣いており、それを見てルルブルクの町に帰ったほうが良いのかもと思うのだった。

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