第陸話
「まだ、教えては下さらないのですね。あの方の最期を」
「それだけは守らないと私の立場がなくなります」
青年は苦笑いをしたようであった。
「ところで、私はどうなるのですか」
「考えていません。おそらくしぶとく何処かで生きていることでしょう」
「きっと、そうでしょうね。そんな子ですから」
舞台の観客席の前の方、青年貴族と少女は今宵の演目の設営を見ている。
「あの方は今、どこにおられますか」
「こう言っては何ですが、身を清められているのでしょう」
そう、と少女は呟き前を見つめる。
開幕時間は夕闇が落ちる頃とは何とも気取った言い方だ。
余りの忌々しさに妙案が浮かぶまではバレエ館には近づく気は無かった。
だが、喧伝によると主役はあれだとなっている。
もう一人主演がいるようであるが、それがどうもこれではハッキリしない。
あれを手に入れるのはあくまで私である。
しかし、今はただあれを見に行きたい。
夕陽が建物の屋根を照らす頃に私は馬車をバレエ館へと走らせた。
しかし、何と言う混雑か。
あれはこれ程の人をかどわかしたという事か。
流石だ、それでこそ奪う甲斐がある。
しかし、恥を忍んで特別席を確保させていて良かった。
さて、今度はどのようにあれは私に劣情を抱かせてくれるのであろうか。
初めての演劇だからか、ほとんどの人が緊張しています。
私があの方を殺せるというとても嬉しい役の為でしょうか、緊張よりも興奮しています。
あの方は私の持ち主です、それでも私は私だとしか考えられません。
私の夢の最期をあの方は私に飾らせてくれるようです。
なんて、薄情なことでしょう。
でも、私の愛し方としては決して間違っていませんけど。
本当に嬉しい。
最期を私で塗れさせる事ができるなんて。